第16話 ルナ教
教会は燃えていた。
「う、うそだろ……」
そう声を漏らしたのは僕だったかカイトだったか。たぶん両方だろう。
今すぐ駆けつけるか? 駆けつけてそれでどうにかなるのか?
いや、今は迷っている場合じゃない!
そう思って駆けつけようとするが、周りにいる大人たちに腕をつかまれてしまった。
「は、放せ! 中には子どもたちがまだ!」
「落ち着くんだ! 君も死にたいのか!?」
「僕のことはいいんだ! でも子どもたちが……!」
く、ここで力任せに振り切って怪我でもさせたら後味が悪いし、どうしたらいいんだ!
そうだ、火を消さなきゃ!
「ごめん!」
そう言って僕は手から水をぶっ放すが、焼け石に水だ。
周りを見ると、水や風の能力を使ってどうにか消火しようとしている大人が何人かいる。恐らく消防士みたいな人たちなのだろう。その人たちでどうにもならないのなら素人の僕ではどうすることもできないのだろう。
それでも諦めきれずに水を出し続けていると、中からルナが出てきた。
服は焼け焦げてぼろぼろになっている。火傷や擦り傷はたくさんあるが、重傷は負っていないらしい。ほっとすると同時に、なぜか僕の心はざわついていた。
「ルナ! 無事だったか! みんなは!?」
無事なわけはないのだが、こう聞かずにはいられなかった。
「ぼくは大丈夫。それよりみんなだけど、ほとんどの人達は救出した。だけど……」
「だけど?」
ルナは一拍置いてから続ける。
「ティアがどこにもいないんだ。気配を探ってみたけどどこにも痕跡が見当たらない。状況的に、勝手にどこかに逃げたとも思えない。たぶん、誰かに連れ去られたんだ」
嫌な予感がする。ルナは誰かと言っているけど、その誰かとはおそらく……
「それでも必死に探し回っていたけど、燃えた柱が倒れてきて……クオン神父……さっき君とも話していた神父がぼくをかばって、下敷きに……」
「……」
僕は彼とは少し話しただけでどんな人かはよく知らなかったが、やはり面識のある人が死ぬのはつらい。僕でさえそうなのだから、彼をよく知っていたであろうルナの悲しみは、僕には想像することもできない。あるいは、自分の行動を悔やんでいるのかもしれなかった。
気づけばルナは泣いていた。僕に抱き着いて泣いていた。
ルナの行動に僕が困惑していると、どこからか不気味な声が聞こえてきた。
『私への信仰を忘れ、偽者を信仰する愚か者共よ、私は今から罰を与える。自らの罪を悔いて死んでいくがいい!』
この声は聞くまでもなく神ルアシスだ。どんな奴か今までわからなかったが、癇に障る野郎ということはわかった。
ルアシスの言葉は続く。
『だが私は慈悲深い。お前たちに猶予をやろう。ティアは私が預かった。彼女は私の計画に必要な駒だ。ただ、この駒はまだ完成していない。生贄を得て初めて有用な駒となるのだ。お前たちは生贄になってもらう。そのために罪を悔い改めるための猶予を与えるのだ。神の慈悲に感謝するがいい!』
ふ、ふざけるなああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!
上から目線で勝手なことばかり言いやがって!!
しかも力を振りかざして勝手なことばかり押し通して、自分は安全なところから高見の見物を決め込んでやがる!
くそ! この野郎!! いつか絶対に報いを受けさせてやる!!!
でも今はティアと村のことだ。ルナのためにも、そして僕のためにも絶対に守らなければならない。
そして着実に味方を増やして万全な態勢で挑む必要がある。でないと神を殺すことはかなわないからだ。……神に目を付けられた時点ですでに手遅れな気もするけど。
いや、大丈夫だと思うしかない。たとえ無理だとしても諦めるわけにはいかないんだ。
僕は拳を握りしめ、決意を新たにした。
……そういえばふと思い出したけど、ルアシスは最初に『ちっ、爆発しろ』とか言ってたような? まあ気のせいだろう。これは自分を信じない人達に苛ついて村を爆発させるとか、そういう意味に違いない。まさか僕とルナがくっついていたのが羨ましかったわけではないだろう。敵もさすがにそこまで小物とは思いたくない。もしそうならそいつと戦わなきゃいけないこっちも同レベルの小物ということになるじゃないか。やってられない。
僕はひとしきり叫んだら少し落ち着いたので、とりあえず教会で生き残っている人達と合流して今後の作戦を話し合うことにした。
僕は叫びながら何かを言ってたような気がするが、無我夢中だったこともあり覚えていない。神に対する宣戦布告的なことを言ったような気がするが、覚えていない。……大事なことじゃん。なんで忘れるんだよ。駄目じゃん。
それで僕は例の宿の食堂で、教会の人達と話し合うことになった。さっき生き残りと言ったが、ルナが頑張ってくれたおかげで死者はさっきの神父一人だった。本当にルナはすごい。それでも重苦しい雰囲気であることには違いないのだが。
いつまでも黙ってばかりもいられないので、僕は率先して口を開くことにした。
「神父のことは残念だった。助けられなくて申し訳なく思う」
「いえ、ルナ様をはじめみんなを守ることができてクオンも幸せだったと思います。あの人は人々を救うことを至上の喜びと言っていたものですから」
シスターがフォローしてくれる。
「そう言っていただけるとありがたいですけど……」
しかしそう考えるとますます惜しい人を亡くしたものだと思う。
「そうです、あなたが気に病むことはないのです。罰なら是非、他者を頼るばかりで皆様のお役に立てなかったこの私に」
おい、今発言したシスター! せっかく真面目な話をしてるのに空気を壊すんじゃない!
いかんいかん。話が逸れた。でも気になるのでやんわり注意しよう。
「あの……今そういう話をしているわけじゃないんで。罰を受け入れるというのなら行動で示してくれませんか。みんなの役に立てるように」
「は……そ、そうでした! ありがとうございます!!」
う……このシスター、喜んでやがる! なんでこんな人が聖職者なんだ? こんな人だからか?
いかんいかん、話が逸れた!
「それで僕は今後のことを話し合いたいのですけれど……その前に一つ謝罪したいことがありまして……実はそこにいるルナは神様ではありません。普通の女の子です。騙すような真似をして申し訳ありません」
その話を聞いてルナとみーむ、カイトが白い目でこちらを見てくる。その目はなんで今更そんな話をした? と訴えている。
し、仕方ないだろ……嘘をつき続けるのも気分が悪いし、これから協力してくれる人にはなるべく誠意を見せたかったんだ。手遅れな気もするけど。
あれ? なんかルナが一瞬嬉しそうな顔をしたぞ? 気のせいかな? 今ここで嬉しそうにする理由がわからないし、気のせいだろう。
「いいのよ。分かっていたから。ルナがみんなのために一生懸命頑張ってくれる、普通の女の子ってことは」
年配のシスターがそう答えてくれるが……
「そ、そうなんですか? じゃあ、なんで……?」
「私は今回のことで大事なことを学びました。人は信じたい者を信じると。人は弱い生き物です。簡単なことで死んでしまう。だから何かを信じるということは人の心を安定させるためには大事なことであると」
ふむふむ。
「そして神は天ではなく、一人一人の心の中にいます。だけど、何か尊い、自分が崇めるに値する存在と出会った時、それを崇めるというというのも自然なことだと思うのです。それはその対象を大切に思い、守りたいと思うということですから」
……なるほど一理あるな。みーむも『そうなのか』と呟いているし、ルナも納得したような表情をしている。シスターたちの中には泣いている者もいた。涙もろいな。
「私達にとってそれがルナ様だったという事です」
……なんでだよ!!!!!
せっかくなんか、それっぽい話をしていたのにいろいろ台無しだ!!
いや、ルナは以前から教会の人達を善意で助けているみたいだし、今の話の流れからすると自然なのか?
いやでも違うだろ。うまく説明できないけどなんか違う。
こいつらはもうルアシス教じゃない、ルナ教だ!
利害は一致してるので協力するしかないが、もはや別の意味で狂信者だ。できれば近寄りたくない。
見ればみーむとカイトが白い目でこっちを見て、ルナの目が死んでいる。
僕は絶句するしかなかった。
こうしてこの日、ルアシス教から分離独立する形でルナ教が誕生したのだった。
みーむ「神ルナ様、どうか我らをお救いください!」
彩人「……茶化してる?」
みーむ「いやあ、だっておかしいんだもん。彩人が事態をややこしくしちゃってさ!」
彩人「それはすまなかったと思ってるけど……やめない?」
みーむ「どうしてさ?」
彩人「いや、だって、ルナが……」
ルナ「呼んだ?」
彩人とみーむ「「で、出たあーーーーー!」」
ルナ「ぼくのいないところで、随分楽しい話をしていたみたいだね? ぼくも混ぜてくれないかな?」
彩人「そ、それはその……」
みーむ「目の笑っていない笑顔、やめて……」
ルナ「お二人には、お仕置きが必要だと思うの」
彩人「いや、今のはみーむが一人で話してただけで……」
みーむ「え、でも元はいえばあやとが……」
ルナ「誰が言い訳しろと言った? 歯あ食いしばれ!!!!!」
みーむ「え? 殴るの? 歯を食いしばる意味――ぐぶえ!」
彩人「ちょ、ちょっとたん――ぶぎゃあ!」
彩人とみーむ「「……」」
ルナ「うん、二人とも息してないね」
ルナ「悪は滅びた」
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