第14話 胡散臭い男
しばらくして泣き止んだ僕はあたりを見回してみた。
……
なんかみんな泣いてるぞ! どうしたんだ!?
さっきまで僕たちと敵対してた神父やシスターがルナの方を向いて拝んでいる。
涙を流しながら、
「おお、神よ、お許しください!」
とか言ってるし!
さっきまで神の思し召しとか言って僕たちを攻撃してきたのに! 言ってることとやってることが滅茶苦茶だぞ! 本当にどうしちゃったんだ!?
ルナの方を見るとなんだか困った顔をしている。
そりゃそうだよね。敵だった人にいきなり神とか言って崇められたらそりゃ困惑するよね。どう接したらいいかわからなくなるよね。
だって一瞬神々しく見えたけどルナは普通の女の子だし、なんなら僕たちと同じ人間でしかないのだ。……さっきのは一体何だったんだろう。
……なんかいろいろ台無しだ。
せっかく(個人的に)感動的なシーンだったのに……
なお、なんか置いてきぼりになった感のあるティアだったが、こちらは恐怖のあまり泣いていた。僕はティアを助けようとしたのにかえって泣かせてしまったようだ。そしてもう少しでティアにトラウマを刻むところだった。危なかった。反省しなくては。次からは同じことになっても冷静に動けるように……
まあ、同じ目に遭わないことが一番なんだけどね……
そんなことを考えていたら、例の神父がやってきた。
「さっきは申し訳なかった。私は信仰する神を間違えて、もう少しで取り返しがつかなくなるところだった。本当に信仰するべき神はすぐ近くにいたというのに……本当に申し訳なかった。そして、私たちを止めてくれてありがとう。感謝します」
「ええと……」
結果的に死者は出なかったし、こちらに被害はなかったので僕的にはこの件は水に流してもいいと思っている。ルナとティアはどう思っているのかを聞く必要はあるけど。
それはいいとしてだ。どうして神と言ってルナの方を見る? 間違っているぞ。大丈夫か?
それになんか不愉快だ。何故かは分からないけど。
そして彼らはルナを拝みだしている。……本当に大丈夫か?
……そうだ。よく考えれば好都合だ。ルナを本物の神ルミアスだと宣伝して「偽者を倒せ!!」と言えばこの人たちは乗ってくれるんじゃないか?
……これで神を倒せたとしても結局頭を挿げ替えるだけで、根本的な解決にはならないんじゃないか? という気もしたが、今はとにかく味方が必要だ。そのために手段を選んでいる余裕はない。それに味方を集めるにしてもこの世界だ、神を倒せというよりも偽者を倒せと言った方が集まりやすいんじゃないか?
決まりだ。ルナには悪いがここは勘違いを利用させてもらおう。……ごめんな、さっき僕を信じてくれるって言ったのに。
「大丈夫です。私は本物の神ルアシスに仕える身として当然のことをしたまでです。あなたたちはどうやら偽者に洗脳されていたようなので、それを解いただけのこと。なのであなたたちは悪くないのです」
何言ってるんだ僕。
「おお、それはつまり……」
「そうです。ここにいるルナの正体こそが本物の神ルアシスであり、あなたたちに実験を強要していたのは偽者なのです! 私は神ルアシスを騙る不届き者を討伐し本物に神の座を取り戻してもらうべく各地を旅しているのです!」
全て口から出まかせだ。言葉遣いも滅茶苦茶だし、自分で言ってて胡散臭すぎる。これで信じてもらえるわけがない。まずったな。
「おお……そういうことでございますか。どおりでルナ様……いえ、ルアシス様から神々しい“気”があふれ出ている……」
まじかよ……しかも今問答をしていた神父だけでなく周りにいるシスターや神父達もこれに同調して泣いている。
どうしよう、すごく気持ち悪い。
ふとルナの方を見た。最初は驚いていたが、すぐに冷めた目つきになって「……ルナでいいです」と言っていた。
怖い。
後で何と言われるか……僕、生き残れるかな……
そんなことを考えていると神父が再び口を開いた。
「しかし、私たちは愚かにも偽者に騙されて信じるべき相手を見誤り、ルアシス様を害してしまったのは事実。どうか、私達に罰を」
見れば周りの神父やシスターたちも同意するように祈りを捧げるポーズをしていた。
どうしたらいいんだ……
そこで場を収めてくれたのは意外にもルナだった。
「ぼくに攻撃してきた件については大丈夫です。結果的に怪我はなかったし。それより今までの実験で弄られてきた子たちに謝ってあげて。きっと痛くて辛かっただろうから」
ナイスフォローだ、ルナ!
これで僕はルナに一生頭が上がらなくなった。このでかすぎる借りはどうやって返せばいいのだろう。まるで見当がつかない。
「おお……寛大な処置、ありがとうございます! 是非、そのようにさせていただきたいと存じます!」
そして神父たちは涙を流しながら子どもたちの方へ向かった。
……うわあ。家に帰りたい。いや家は異世界だ。すぐには帰れない。でも帰りたい。
いやとにかくこの場から逃れられればいいのだ。というわけで逃げたい。
ふとルナの方を見ると、彼女は一言言った。
「彩人くん、後でお話があります」
それはとても優しい声音だった。
彼女は聖母のようなそれはとても優しい笑顔で包み込むような雰囲気で言った。
怖い。
何が怖いかって普段は優しい人が怒るとものすごく怖いのだ。どう出るかわからないから。あるいは自分が見放されたらどうしようという恐怖からきているのかもしれない。
だから怖い。
とても怖い。
超怖い。
どうしよう。逃げたい。
そんなことを考えていると神父たちが向かった先から突如大声が響いた。
「嘘だ! みんなは騙されているんだ! 俺は信じないぞ!」
僕は気になって声のした方へ向かった。
そこには子どもたちが集められていた。孤児院の子どもたちだろう。
その中にいる赤い髪を逆立てた男の子が大声で怒鳴り散らしていた。
それを周りにいる子どもや大人たちがなだめている。
「しかし私たちはこの目で見たのです。ルナ様のあふれ出る神々しい“気”を。あなたも見ればわかるはずですよ」
「そうだよ! シスターもそう言うし、前からルナ様はなんとなくすごい人だなと思ってたんだよ。まさか神様だとは思わなかったけどさ。とにかくそんなすごい人に会えるなんてラッキーじゃないか!」
大人や子どもが調子に乗って適当なことを言っている。しかし男の子はめげない。
「何を言ってるんだ! ルナが神様なわけないだろ! それにそれってあの胡散臭い男がそう言っただけだろ? なんでみんな信じてるんだよ! わけわかんねーよ!」
……正論だ。
こんなところでもまともなことを言う人がいることがわかって安心した。
……それにしても胡散臭い男ってひょっとしなくても僕のことだよね? 傷つくなあ……自業自得だけど。
男の子は止まらない。
「だいたい慈悲深い神ってなんだよ! 今まで俺たちがひどい目にあっても助けてくれなかったじゃないか! 俺は神なんて、大っ嫌いだ!」
……すげー。この世界にもそんなことを言う人がいるんだ。
まったくの同感だ。仲間にしたくなったぞ。
でも、ここでそれを言うのはまずい!
「やめなさい! 神になんてことを言うの!」
「そうだよ! ひどいよ! 神はいつでも僕たちを見守ってくださっているのに!」
「おお、神よ。この子の無礼をお許しください。罰は是非私に」
周りのみんなが男の子を止めようと、いや、弾圧しようとしている!
そう、正義は数の暴力の前には無力なのだ。
まあ、何が正義かといえばそれは多数派ということになるのだから結局は正義が勝つということか。
ものすごく気持ち悪い。今すぐ助けにいきたい。
でもこの状況を作り出したのは僕なのだ。きっとその子も許してくれないだろう。
――僕は自分がなりたくないと思っていた汚い大人になってしまったのだ。まだ未成年だけど。
吐き気がする。叫んでしまいそうだった。
だから逃げた。
教会を出て少し離れた路地裏みたいなところに出て、叫んだ。
思う存分叫んだ。
叫んで少し落ち着いたところでふと人の気配がして振り向いた。
「何してんの?」
さっきの男の子だった。
気まずい。
僕の顔は真っ青になった。
みーむ「あやと、一体何やってんの!?」
彩人「……何やってるんだろう……」
みーむ「意味不明なこと言って自爆してるようにしか見えないんだけど!? いや、ほんとに何やってんの!?」
彩人「いや、手っ取り早く味方を増やすには適当なことを言って勘違いさせた方がいいかな、って思って……」
みーむ「それにしても方法はあるでしょ! もう少し考えて行動しなさい!」
彩人「……ごめんなさい」
みーむ(まあ、ボクも似たようなことはやってるけどね)
彩人「なんか言った?」
みーむ「なんでもないよ」
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