第13話 人間であること
そこは薄暗い部屋だった。
液体で満たした筒が並んでいる。いかにも怪しい研究をしているという感じの場所だ。
そして僕たちは戦闘していた。
ああ、やはりこうなったかと僕は思った。
僕たちはティアの案内で秘密の入り口を入った後、複雑な通路を進んでいった結果この部屋にたどり着いた。そして最初は人がいなかったのでティアの案内で部屋を探索していたら人が来てしまい、咄嗟に物陰に身を隠した。しかしあっけなく発見され、戦闘が始まったというわけである。
それにしてもこっちは守るものが多すぎる。ティアはもちろん、孤児院の子供たちも守らなくてはならないのだ。しかもティア以外の子供達は説得もまだできていないのだ。そんな時間もない。控えめに言って無理ゲーである。
救いがあるとすれば、相手方もここの設備を壊さないようにするためか、あまり派手な攻撃をしてこないことか。
あたり一帯を巻き込んで爆破ということはせず、僕やルナをピンポイントで狙ってくるのだ。僕とルナが離れた位置にいるのもあるだろうが、それ以上にここにある筒を破壊しないように気を遣っているようにみえる。
僕には水系の攻撃をするシスターが、ルナには炎系の攻撃をするシスターがそれぞれ相手をしてくる。別にその気になればこの辺一帯吹き飛ばすことは可能だが、そうすると守らなくてはならない子どもたちが死んでしまう可能性が高い。それに、こんなことを言ってる場合じゃないのだろうができれば目の前のシスターも殺したくない。なぜなら……
「おや、何をやっているのですか。いけませんねえ。神の計画は絶対に実行しなくてはなりませんのに」
そんなことを考えていたら偉そうな神父の登場である。
「はあ、申し訳ございません」
シスターたちが器用にも戦闘を続けながら神父に頭を下げている。どういう関係なのか。
いずれにしろ彼らが神に操られているのは明白である。下手に殺せない。
ちなみにみーむは僕から離れてひたすらティアを守っている。戦闘は最小限にして逃げているが苦しそうだ。
てかこれ状況的に詰んでるよね。どうしよう。
そう思っていたらみーむが不意打ちを受けて倒れてしまった。
「みーむ!!」
僕はみーむに駆け寄った。傷がひどい。このままだと……みーむって死ぬのか?わからないけどこのままじゃまずい気がする。だって今もみーむから死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬって思念が伝わってくる。僕は強引にみーむと合体した。
脇腹が痛む……なんだか血がにじんできたようだ。でも動けないほどじゃない。それにみーむをほっといた方が大変なことになる。みーむもそれがわかっているから、申し訳なさそうな顔をしつつも僕と合体したようだ。
しかしみーむと合流するのに精一杯でティアとは引き離されてしまった。く、みーむだけに任せてしまったのが失敗だったか……
『傷つくなあ……まあボクが不甲斐なかったのは事実だし、状況的に仕方なかったと思うよ』
みーむはそう言ってる。ごめんなさい。
そこでちらっとティアを見るとシスターと言い争っていた。
「なにやってるの! さあ戻りますよ」
「嫌だ! 戻りたくない! 私は人間のままでいたい!」
「何言ってるの? あなたは人間でしょう?」
「嫌だ! こんなことをしてたらいずれみんな壊れちゃう! そうなる前に放して! みんなを放してよ! 私たちはあんな風になりたくない!」
「彼らは天へ召されたのよ? 神のもとへ旅立つことができて幸せだったのよ? 神の役に立つことこそが至上の喜びであり生きる意味なのだから」
「嫌だ! 私は自分のために生きたい! みんなが壊れるところを見たくない! 人間として生きることの何が悪いの?」
「それが人間でしょう?」
「人間じゃない! 人間は神の道具じゃない! 放して!」
「ぐずぐずしないで行きなさい! あなた死にますよ?」
「私は大丈夫なの! だから放して!」
聞くに堪えない問答だ。ルナも悔しそうな顔をしている。僕も自分の無力さに歯ぎしりした。
「さあ、行くよ!」
「嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!!」
ティアが複数人のシスターに取り押さえられて連れて行かれそうになっている。
僕はなぜか昔のことを思い出していた。そんな場合じゃないというのに。
僕が小学生だったある日のこと、僕はみんなに取り押さえられていた。
『謝りなさい!』
『嫌だ! 嫌だ!』
僕は悪くない!
僕はふとしたことがきっかけで同い年の男の子にしつこく馬鹿にされ、とっさにつかみかかったら周りの同級生たちに取り押さえられてしまったのだ。それで僕が逃れようと足を振り回していたらなぜか靴が脱げてしまい、靴が飛んでいって先生の頭に当たってしまったのだ。それで別の先生に謝れと言われてしまったのだ。
確かに手を出してしまったのはいけなかっただろう。今考えれば僕にも落ち度があったことはわかる。でもそうなってしまったのはそこにいる子たちが挑発してきたのが原因なのだ。なのに先生は話を聞こうとしない。僕に謝らせることですべてを終わらせようとしている。
結局僕は謝らされた。誰も話を聞いてくれなかった。誰も助けてくれなかった。僕は怒りと悔しさで泣いた。
その日からしばらく僕は学校に行けなくなった。
僕は大人を信用できなくなった。
――僕は子どもを馬鹿にする大人が嫌いだ。子どもだからといって自分に従わせようとする大人は嫌いだ。自分の立場を利用し、他人に対してマウントを取ろうとする大人が、大嫌いだ!!
僕の意識が現実に復帰して再びティアの方を見た時、僕は怒りのあまり、頭が沸騰しそうになった。
というか、した。
「ティアを、放せ!!!!!」
僕は叫んでいた。自分のどこからそんな大声が出ているのかと思うほどの音量で、叫んでいた。最初自分の声だとわからなかったくらいだ。
あまりの衝撃に床は震え、部屋のところどころに置かれていたガラスの筒は割れ、棚は倒れ、落ちてきた瓶は割れ、ほとんどの人は床に倒れ、とにかく今の一瞬ですごい有様になっていた。
なんでこんなことになってしまったのだろうか。
叫んだという、今の自分の行動が原因なのは明白だが、訳が分からない。
後になって思い返してみれば、激情のあまり出した大声が衝撃となって空気に伝わって、風の能力が空気を震わす能力と拡大解釈されてあたり一帯の空気に伝わり、ガラスを割り、人を倒れさせたのだということなのだろう。さらに言えば土を操る能力で大地を震わせ、ちょっとした地震を起こしてしまった。これらのことを無意識のうちにやってしまったらしい。……自分で言ってて訳がわからない。
とにかく状況は動いた。
立っている人はまだいるが残り少なくなっている。
先程現れた偉そうな神父はまだ立っていたがだいぶふらついている。
だから今のうちに畳みかけることにした。
僕は神父につかみかかり、壁にたたきつける。
「おい、お前! どういうつもりだ!!」
「くっ! 全ては神の思し召しのままに!」
「ここでも神か! ふざけるな!!」
神父は苦しそうに呻きながらも神とかほざきやがる。
そして苦し紛れに反撃してこようとするので威圧して黙らせる。
この時僕は風の能力を応用して神父の顔の周りの空気を薄くし、胸の周りの空気圧を高くして相手にプレッシャーを与えるということを無意識のうちにやっていたようだ。
神父は血を吐いた。瞳は迷っているように見えるが、何かを話す気配はない。元々別に何か話すことを期待していたわけではないのでここで始末することにする。生かしておいても害になるだけだ。
そして僕が神父にとどめを刺すため、手に光を集めていると――
『待って、キミはそれでいいの?』
みーむの声が聞こえてきた。ここで邪魔をしないでほしい。気が散る。
『キミが本当にそれしかないと思うのならボクは止めない。でも前の時も今も、キミは悲しそうな顔をしていた。あの時止められなかったボクがそれを言う資格はないかもしれない。でもあえて言うよ。キミは本当に、それでいいの?』
僕はそれを聞いて迷っていた。……迷っている? この僕が?
みーむの言う前の時というのはおそらく以前いたあの村が壊滅してしまった時のことをいうのだろう。そう、あの時、僕は、人を、殺した。
今更何を迷うことがあるのだろう?
「で、でも僕は……」
僕は少し考えた後、神父に手をかけようとする。みーむが悲しそうにしているのが伝わってくる。
ごめんな、邪魔なものは排除してでも進むと僕は決めたんだ。
そんなことを思いながら僕が前に一歩踏み出そうとしていると――
突然後ろから誰かが抱き着いてきた。
一瞬敵か!? と思ったが、すぐに違うことがわかった。
敵意などは一切なく、ふわりと包み込むような感覚があったからだ。
なぜだろう、こうしていると安心できるような気がする。
いや、そんな場合じゃないだろう! ここは敵地の真っただ中なんだ!!
「放せ! 僕はあの神父を始末するんだ!!」
そうだ、人に気をゆるしちゃいけないんだ!どうせ僕がひどい目にあっても助けてはくれないんだ!!
「確かにその方がいいのかもしれません。でもあなたは悲しそうな目をしています。そんな状態で殺してしまっても後悔するだけです。私はあなたに悲しい顔をしてほしくない。だから止めます。私のわがままをお許しください」
そう、僕を後ろから抱き着いてきた誰かは言った。
誰だ。声はルナだ。この背中から伝わってくるぬくもりもルナだと伝えている。だが本当にルナなのか? 人格が変わってるぞ!
「で、でも僕はもう……」
「あなたは過去につらいことがたくさんあったのですね。おそらく私にはその苦しみを理解することはできないでしょう。でも、その苦しみを分かちあうことはできると思っています。どうか私にその苦しみを分かちあわせてください。私は私を助けてくれたあなたを信じています。あなたも、今じゃなくていいです。いつか私を信じてくれると、私は嬉しいです」
なぜだろう。ルナから神々しいパワーが出ているような気がする。
僕はルナの方を見た。慈母のような笑みを浮かべている。……女神はここにいた。
固まっていた僕の心が急速に解きほぐされていくのがわかった。
僕は泣いた。僕には味方がいる。そのことが嬉しかった。だから、泣いた。
ただひたすら、泣いた。
みーむ「や~い、甘えんぼ、泣き虫!」
彩人「うるさい!」
みーむ「それはそうと前回の後書きの続きなんだけどさ」
彩人「あの話続くの!? もうよくない!?」
みーむ「作者はいつも『お読みいただきありがとうございます。明日も更新しますのでお読みいただけると嬉しいです。』しか言ってないよね?」
彩人「そんなことないよ! ほかにも言ったことが……あれ、なんかあったっけ?」
みーむ「第1話から第3話までは多少違うけど、第4話以降は同じだよね? ほら、今回も言うよ(画面の下の方を指さす)」
|彩人「だからやめて!」
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お読みいただきありがとうございます。
明日も更新しますのでお読みいただけると嬉しいです。




