第11話 平和な村
僕の前に一人の少女が立っていた。白いワンピースを身に纏い、綺麗な銀色の長い髪を揺らした彼女は、顔はよく見えないが儚い美しさがあるのが感じられた。
少女はこっちに気が付くと、とても嬉しそうに駆けてきて、僕に抱きついてきた。
そして僕の耳元で囁く。
「やっと会えたね。――――。ずっと一緒だよ。もう離さない。絶対に。だからね、――――」
……いやお前誰だよ。あとお前が言っている人は誰なんだよ。人違いじゃん。どうするんだよ。
とか考えていたら目が覚めた。夢だったのはいいけど、あの見知らぬ少女は誰だったんだろう。妙に気になる。
まあ夢だからね。自分の願望が出てきてしまったのかもしれない。……願望なのか?
まあいいや。どうせ夢だし、すぐ忘れる。
……忘れた。
それよりそろそろ朝食ができているはずなので、着替えて食堂に向かった。するとルナはもう起きていて、見知らぬ女の子となにやら話していた。見たところルナと同じの年代で短い茶髪の、素朴な感じの少女だ。そういえばルナはここの宿で働いていたこともあると言っていたので、その時できた知り合いかもしれない。
とりあえず挨拶する。
「おはよう、ルナ」
「あ、彩人くん、おはよう」
「それで、ええと、その子は……」
「私は宿の看板娘、みんな大好きリーザちゃんだよ! よろしくね!」
ルナと一緒に話していた女の子が元気よく答えてくれた。大人しそうに見えるのに意外だ。人は見かけによらないという典型かもしれない。
「それで? お二人さんはどのように仲を深めていったの? まさかまだ手もつないでないなんてことないよね? こんなに仲がいいもんね? どうなの?」
「ちょ、ちょっと! ほんとになんにもないんだってば!」
ルナが顔を赤くして抗議している。そりゃそうだろう。
「僕はルナと一緒にダンジョンからこの村まで移動しただけだけど……」
「え? まさか本当に何もないの?」
「何を想像しているのか知らないけど、君が想像しているようなことはないと思う」
「こんな可愛い子を助けておいて何もないの? 信じられない!」
リーザはルナからいろいろ聞いていたようだ。
「と、言いつつ実は~?」
……うざい。僕はこの子が苦手かもしれない。ルナはよく仲良くできるよね。同年代の女の子が貴重だからかな。
僕は朝食を食べた後、ルナとみーむと一緒に孤児院を見に行くことになった。病気の子どもの様子を見に行くためだ。僕もついていきたいと言ったらルナは二つ返事で了承してくれた。僕が行って何ができるというわけではないけれど、教会が運営しているのでやはり気になったのだ。純粋にここの孤児院の様子がどうなっているのか気になったというのもある。
孤児院の雰囲気は僕が以前いた村のものと似ていた。子どもたちの表情も明るい。話を聞けば、ルナが村で子どもたちのためにいろいろ尽くしているらしいから、そのおかげだろう。本人は否定していたが、照れ隠しなのが見え見えだった。
……あれ? そういえばルクシアはなぜ貴族の娘なのに村の孤児院の手伝いをしていたのだろう? 僕には貴族社会のことはよくわからないけどどうにも不自然な気がする。少し気になるが……まあいいや、一旦それは置いておこう。
病気の子、ティアという八歳くらいの女の子、はまだ具合が悪く治療院にいるとのことだが、ルナ曰くずいぶん良くなってきたようだ。
それ以外の子どもたちはみんな孤児院にいて元気にしていた。
みーむは相変わらずぶりっ子して愛嬌を振りまいていた。当然、大人気である。
神父やシスターたちは真面目な仕事ぶりで、子どもたちにも笑顔で接している。
まさに平和的で、理想的な光景だ。それだけになにやら嫌な予感がする。
……僕の思考回路はおかしいのだろうか?
これは、前にいた村のトラウマを引きずっているだけなのか?
『やっぱり君もそう思うかい? ボクも嫌な“気”の流れは感じられるんだよね』
みーむもか。僕には“気”というものはわからないけど、みーむの言っていることはなんとなくわかる。
『“気”については後々詳しく教えるつもりだけど、君もなんとなく感じてはいるようだからすぐに覚えると思うよ』
どうやら村にいる間の修行メニューが増えてしまったようだ。
でもそんなことより。
『村をそれとなく観察して様子を探った方がよさそうだね。神にそうと気づかれないように』
そう、僕は二度とあの時の悲劇を繰り返してはいけないのだ。僕はこの世界がどうなろうと知ったことではないが、ルナが大事にしているらしいこの村で惨劇が起きれば、僕は自分を許せそうになかった。すでに僕は過去の過ちから自分を許していないが、せめてこれ以上は、ということである。僕はいつの間にかルナに情が移っていたらしい。まいったね。
このことをルナに話すのは気が引けたが、やはり必要だろうということで結局話した。その結果ルナは持ち前の技能を生かして情報収集をしてくれることになった。ドジなので少し心配だが、ルナは意外と優秀であることはわかっていたし、これ以上の頼れる味方もいなかったので任せることにした。
でも、その前にルナは治療院にいるティアの様子を見に行くと言っていたので、僕もついていくことにした。と、いうわけで僕とルナは治療院にいったのだが……
「ルナお姉ちゃん!」
治療院についてすぐ、女の子がルナに抱き着いてきた。ルナも突然のことに困惑している。
「ティア、病気はもういいの?」
「うん! お姉ちゃんが持ってきた薬のおかげで元気になったんだ! 本当にありがとう!」
「い、いえ……でもたぶんまだ完全に良くなったわけじゃないし、もうしばらくベッドの上で大人しくしていた方がいいと思うよ」
「うん、わかった!」
満面の笑みで素直に返事するティア。どこかが悪いようには見えない。
「それにしてもすごいな。これはルナだけじゃなくて急いで薬を調合してくれた調合師や治療院の人達にも感謝だね」
見るとルナは治療院の人たちにも感謝されていた。人望が厚いな。
それでふとティアの方を見ると一瞬表情に影が差したような気がするがすぐに笑顔に戻った。なぜだろう、妙に気になる。
「あれ、お姉ちゃんと一緒にいるお兄ちゃんは誰?」
……ティアよ、今気づいたのか。しょうがないけど地味に傷つく。
「この人は彩人っていってね、ぼくがピンチになった時助けてくれたの。薬を届けることができたのはこの人のおかげなんだよ」
「そうなんだ! ありがとう!」
ティアにお礼を言われた。なんかむず痒い気持ちになる。こっちとしては、
「ど、どういたしまして」
と言うのが精一杯だ。
そこでまたティアの表情に影が差したような気がした。みーむも同じことを思ったらしい。どうにも気になったのでティアに尋ねてみることにする。ルナに習って少しかがんでティアに目線の高さを合わせてみた。
「どうしたの? 何か気になることがあるの?」
「ええと……」
ティアは口ごもってしまった。言いにくいことみたいだし当たり前か。どうしたものかと考えていると代わりにルナが聞いてくれた。
「ひょっとしてここでは言えないこと? 場所を変えようか?」
ティアは少し考える素振りを見せた後、小さくうなずいた。そして視線を僕とルナの間往復している。なんとなく察した僕は聞いてみる。
「ええと、ルナと二人きりがいい?」
ティアは少し考えた後、
「……三人一緒の方がいいと思う」
と言ったので僕も話を聞くことになった。
ルナはティアの様子を見て深刻なことだと悟ったのだろう。ティアに必要なことだからと説明しティアが一時的に治療院を出る許可をもらい、昨日僕とルナが話した食堂の一席を借りて遮音フィールドを張った上でティアの話を聞いた。
ちなみにティアはみーむを見て「かわいー!!」と言って撫でまわしていた。みーむはなすがままにされていて、くすぐったそうにしていた。何か助けを求める視線をこっちに向けていたような気がするが、気のせいだろう。
で、ティアから話を聞こうとすると案の定なかなか話したがらないので、しばらく雑談していた。主にティアからルナがいない間のこと、治療院の人から聞いた話などをしていた。
そしてしばらく話した後、ティアはついに本題に入った。
「あのね、これは誰にも言うなって言われているんだけど……私たちは孤児院で体をいじくられているの」
「え?」
そう反応したのはルナだ。
「毎日夜になるとね、変な水の入った筒に入って寝るの。そうするとちょっと体が痛くてね、自分が自分じゃなくなるようになるの。それが当たり前だと思ったんだけど、私が病気になった時に筒に入らなくて変だなって思って。そしたら昨日、みんなが寝たころに知らない女の人が私の部屋に来て、そのことをルナと一緒にいる男の人に話せって……」
……どうやらここでも人体実験をやっているらしい。
ルナは絶句していた。
僕とみーむは薄々こうなるのではないかと思っていたので驚きは少なかった。
あまりに予想通りだったので逆に驚いたくらいだ。
どうやらのんびりしている時間はないらしい。
避けては通れないこととはいえ、これから巻き込まれる厄介ごとを思い、僕は溜息をついた。
彩人「そういえば、みーむは最初会った時『みー』としか言わなかったけど、今は人前で普通にしゃべってるよね? なんで?」
みーむ「いや、最初は猫のふりをしてた方が可愛がってもらえるかなって思ってたんだけど、よく考えたらしゃべった方が注目あびて、可愛がられるんじゃね? と思って」
彩人「そんな理由!? ぶりっこがひどいよ! もうしゃべらないで!」
みーむ「みー」
彩人「……」
彩人「……やっぱりしゃべって」
みーむ「わかった」
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