#94 みんなで朝ごはん
「おはよ……」
「ふぁ……おはようございます」
「おう、もう朝飯は出来てるぞ」
次々と部屋から人が出てきて、気づけば食卓の準備が整っていた。
こんがり焼き色のついたパン、ふわふわのオムレツ、色鮮やかなサラダが並び、コーヒーの香りが部屋に広がっている。
私と優斗も棟哉くんの手伝いをしながら皿を並べ、自然と全員で朝食を囲む流れになった。
「いただきまーす!」
箸やフォークを手に取り、一斉に食べ始める。
この家でみんなと食べる朝食は、初めてなのに不思議と心が落ち着いた。
まだ慣れない空間なのに、同じテーブルを囲む安心感や、静かな一体感が心に染み込んでくる。
パンを一口かじり、コーヒーを口に――
「……にがい」
「あはは……はい、お砂糖と牛乳どうぞ」
優斗が差し出すカップに思わず「ありがとう」と小さく笑みを返す。
テーブルの上では、昨夜の女子会やゲームの話題で盛り上がり、笑い声が絶えない。
「あ、私もそれ欲しい!」
「ん、ちょっと待ってね……」
「私もお願いします」
ヒオちゃんも詩乃ちゃんも、すっかり目が覚めたようで楽しそうにしている。
その様子につられ、私の表情も自然とほころんだ。
やがて朝食はあっという間に終わり、みんなで食器を片付けたとき、時計を見て私は少し驚く。
「あ、もうこんな時間……そろそろ帰らなきゃね、ヒオちゃん」
「うん、だねー。でもなんか名残惜しいな、なっちゃん」
ヒオちゃんの声に、私も同じ気持ちでうなずく。
楽しい時間は本当に早く過ぎてしまう――そんな思いが胸に残った。
「じゃあ、荷物まとめるね」
部屋に戻り、支度を整えると、優斗と詩乃ちゃん、棟哉くんが玄関まで見送りに来てくれた。
靴を履きながら、私は優斗の方を見て言う。
「また来るね。今度はもっとゆっくりできるといいな」
「うん、いつでもおいで」
「おい、それ俺の台詞だろ? ま、俺も大歓迎だ」
見送られるのは慣れていないせいか、少し不思議な気分だ。
「またお話しましょうね!」
「うん! しーちゃんもまたね!」
三人に手を振りながらヒオちゃんと並んで歩き出す。
背後で玄関の扉が静かに閉じる音がした。
「ねえ、なっちゃん、またここで集まりたいね」
「うん、そうだね」
階段を降りながら、彼女の言葉に素直に頷く。
この温かな時間が、これからも続いてほしい――そう心から願った。
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見送りが終わると、詩乃ちゃんは「私、友達と出かけますね」と言い残し、自室へと戻って支度を始めた。
その後ろ姿を見送り、リビングに戻ろうとした瞬間、不意に肩を掴まれる。
振り返ると、真剣な表情の棟哉が立っていた。
「……優斗、覚悟はできてるか?」
「か、覚悟? ……何のこと?」
優斗が怪訝そうに眉を寄せると、棟哉は一瞬だけ口元を緩め、真っ直ぐに告げた。
「お前、何しにここへ来たと思ってるんだ……特訓だ」
その言葉に優斗は動きを止め、視線を落とす。
「……でも、まだ自信がないし……正直、怖い」
弱気な声に、棟哉はうなずき、落ち着いた口調で提案した。
「じゃあ今日は、映像から始めよう。いきなり炎を間近で見る必要はない。少しずつ慣れていけばいい」
その気遣いに優斗の表情がわずかに和らぐ。
小さく「わかった」と返し、二人はリビングの座布団に腰を下ろした。
棟哉がテレビを操作すると、画面には揺れる焚き火と、ぱちぱちと燃える音が広がっていった。




