#92 女子会
お風呂から上がった私達は、バスタオルで髪を拭きながら廊下を歩いていく。
湯上がりのポカポカした雰囲気がなんだか心地良い。
「んぅ~、やっぱりお風呂って気持ちいいね~」
「ですね! 今日のお風呂、いつもより温度がちょうど良くてついつい長風呂しちゃいましたね……」
詩乃ちゃんは髪を乾かしながら頷き、ヒオちゃんは少しぼんやりとした顔で口を開く。
「……私も気持ちよかったけど、眠くなっちゃった……」
「そろそろ寝る準備かな?」
私がそう言うと、詩乃ちゃんは首を振り、少し笑った。
「せっかくなのでもう少しお話したいです。女子会とか憧れてたんです!」
「賛成! 寝るまでの時間に、みんなでゆっくり話そうよ!」
私も賛成し、ヒオちゃんも少し目を開けて頷いた。
彼女たちはそのまま詩乃ちゃんの部屋に移動し、布団を敷いて寝る準備をしながら雑談を始めた。
お風呂上がりのリラックスした状態で、みんなは寝る準備をしながらも、お互いの近況や日々の出来事について話し始めた。
温かい布団にくるまりながら、ゆったりとした雰囲気で女子会が始まる。
「……それで、今日のヤエ先輩の様子、どうでした?」
ふと詩乃ちゃんが、私に優しく問いかけた。
けど私は一瞬考え込み、少し困った表情で答えてしまう。
「うーん……まだ完全に体調が戻ってないみたい。でも、優斗はすぐ『大丈夫』って言うんだよね。心配させたくないんだろうけど、たぶん無理してるんだと思う」
「ヤエ先輩、あんまり無理しないでほしいですよね……。仕方ないとは言え、火事のことが原因で色々と抱え込んでるのかもですね」
詩乃ちゃんがそう言うと、ヒオちゃんも静かに頷いた。
「うんうん、水津木も……ああ見えてヤエのこと、すごく心配してるよ。お風呂でちょっと話してたけど、やっぱりみんなで助け合うのが大事だよ。夏音ちゃん一人で抱え込まないでね」
「ありがとう。確かに、考えすぎてもしょうがないよね。みんながいるんだから、少しずつ良くなっていけるって信じるしかないかな」
「そうですよ! あまり深く考えすぎると、余計に辛くなります。だから今日は少しリラックスしましょうよ!」
詩乃ちゃんが元気づけるように声をかけた。
「それよりさ、こういう時こそ……恋バナしない?」
ヒオちゃんが急にニンマリと笑いながら提案した。
彼女の言葉に詩乃ちゃんは少し驚いたが、すぐに瞳をキラキラさせて期待に満ちたような表情をしていた。
「恋バナかぁ……いいねですね! そういう話とかしてみたかったです!」
「じゃあまず……なっちゃんとヤエのこと、最近どうなの?」
ヒオちゃんが少し意地悪そうに尋ねると、夏音は一瞬顔を赤らめた。
「ぅえっ!? あ、あたしたち……いつも言ってるけどそういうのじゃないよ! 優斗はただの親友だし……」
「でも、ヤエ先輩とはすごく仲良いですよね? 親友だとしても、すごく信頼してる感じがしますし……私たちから見ても特別だなって思います」
詩乃ちゃんの言葉に、私は困ったように笑いながら答える。
「……そうかなぁ? まぁ、確かに優斗とはすっごい仲良いし、信頼してるけど……それだけだよ。まだ、その……そういう気持ちになるかは、分からないかな……」
私ははっきりしないものの、どこか照れ隠しのような仕草を取ってしまう。
ヒオちゃんと詩乃ちゃんはお互いに目を合わせ、意味深な笑みを浮かべる。
「ふふっ、でも何かある気がするなぁ。これからの展開に期待しちゃうかも!」
ヒオちゃんが茶化すように言うと、夏音はさらに顔を赤くして笑いながら枕に顔をうずめた。
「うぅ~~~……じゃあ、次は……棟哉くんとヒオちゃんはどうなの?」
私が逆に話題を振ると、ヒオちゃんは一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに照れ笑いを浮かべた。
「えっ!? 私!? いやいや、あんなヤツとなんて全然そんなことないよ! さっきなんて覗こうとしてたんだよ!?」
ヒオちゃんは慌てて否定したが、少し頬が赤くなっているのを私と詩乃ちゃんは見逃さなかった。
「でも、兄さん、ヒオ先輩のことすごく大事にしてますよね。いつも気にかけてるし……幼馴染だし、意外と二人とも仲良いんじゃないですか?」
詩乃ちゃんが指摘すると、ヒオちゃんは困ったように笑いながら答えた。
「まぁ……確かに仲は良いけど、それは幼馴染だからだよ!」
それを聞いた私が軽くからかうように軽く笑うと、ヒオちゃんはさらに顔を赤くして枕を抱きしめた。
「もう! やめてよ! あんなのとそんな風に考えたことないし……」
ヒオちゃんは恥ずかしそうに顔を隠したが、夏音と詩乃ちゃんはその様子を楽しんでいた。
「じゃ、じゃあ……詩乃ちゃんはどうなの?」
今度は天名が詩乃ちゃんに話を振ると、詩乃ちゃんは少し顔を赤らめながら視線をそらした。
「私ですか? うーん……そういうのは、私も今まであんまり考えたことなかったかもです……」
詩乃ちゃんは少し戸惑った表情を浮かべたが、その顔にはどこか照れくささも感じられた。
「でも、詩乃ちゃんってすごく真面目だし、いつか誰かに真剣に恋しそうだよね」
ヒオちゃんがそう言うと、詩乃ちゃんは少し恥ずかしそうに笑った。
「えぇ!? そう……なんでしょうか?」
「絶対そうだよ! 詩乃ちゃんかわいいし、いろんな事に一生懸命だし、家事もできるし……絶対いいお嫁さんになるよ!」
「そうだねぇ……水津木が許可するならしーちゃん私が貰っちゃおうかな……」
「もう! やめて下さい!、今はみんなのことが大事だから、もう少しこのままでいいです!」
詩乃ちゃんの穏やかな言葉に、私とヒオちゃんも頷いた。
こうして、恋バナに花を咲かせながら、女子会は深夜まで続いた。




