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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
90/111

#90 そんな顔して欲しくない

 僕たちは棟哉の部屋を借り、ふらつく身体を夏音に支えられながらベッドに腰を下ろした。


「……ごめん、夏音」


 またもや口癖みたいに謝ってしまうと、夏音は軽くため息をつき、真っ直ぐこちらを見る。


「だから、もういいってば。優斗は私を助けてくれたんだよ。それで、その怪我……深い心の傷まで負って」


 そこで少し俯き、絞り出すような声で続けた。


「本当に謝らなきゃいけないのは、私のほう。私のせいで……こんなことになって。本当に、ごめんなさい」


 深く頭を下げる夏音の姿は、見ているだけで胸が痛くなる。


「そんな……夏音は悪くないよ。元を辿れば、あの火をつけた誰かのせいなんだから」

「でも、私が寝ちゃってて気づけなかったから……」


 僕と夏音の「私が悪い」合戦は、しばらく続いた。

 その最中、不意に視界が揺れる。


「ぐっ……」

「ちょっと、大丈夫?」


 夏音がすぐ横に寄り、心配そうに覗き込む。


「うん、ちょっとクラっとしただけ。大丈夫」


 たぶん、まだ体が完全には回復していないのだろう。


「……そっか、よかった」


 そう言って夏音は深呼吸し、落ち着いた声で提案してくる。


「少し、ゆっくり話そっか」

「……うん」


 その後は他愛のない話で笑い合い、空気も少しずつ和らいでいった。


「夏音、さっきはありがとう。ふらつく僕を支えてくれて」


 そう口にすると、夏音は一瞬驚き、それから安心したように微笑む。


「ううん。……本当にびっくりしたんだから! 気を付けてよね?」

「気を付けられるかどうか……は分からない。でも、どうにか克服しないと」


 その言葉に、夏音の表情も少し曇る。


「そうだね……頑張って、大丈夫にならないと」


 それでも彼女は、場を重くしすぎないように明るい声色を保ってくれていた。


「ははは、そうだね。棟哉たちにもこれ以上心配かけないようにしないと」


 その時、居間から大きな声が響く。


『おーい、飯出来たぞー!』


「あ、もうそんな時間か」

「結局ほとんどいつも通り喋ってただけだね」

「そうだね。……よいしょ」


 僕が自力で立ち上がると、夏音も支えるように並んで立つ。


「あ、体は大丈夫?」

「うん、大丈夫。ありがとう、夏音」


 感謝を込めて微笑むと、夏音の頬がふっと赤くなった気がした。


「……ッ! こ、これ以上待たせたら悪いから、行くよ!」


 そう言って、夏音は足早に部屋を出ていく。


「え、待ってよ夏音! 早いなぁ……」


 ――――――――――――――――――――――――――


「おかえり、夏音ちゃん。その様子だと……ヤエは大丈夫そうだな」

「うん! ちょっと休んだら元気になったよ!」

「それでヤエ先輩は……?」


 詩乃ちゃんの言葉の後、少し疲れた顔をした優斗が現れた。


「僕は大丈夫。それで……カレーか! 水津木家のカレー、久しぶりだなぁ」

「そうだろ! 腕によりをかけたからな!」


 棟哉くんは胸を張り、カレーを皿に盛り付けている。

 具材は大きめで、いかにも“男の料理”といった見た目だ。


「……主に私たちが作ったけどね。アンタは食材切っただけでしょ」

「仕方ないだろ。詩乃が譲らなかったんだから」

「兄さんがやると勝手に辛口入れそうだからだよ!」


 辛口……!? 私、甘口でもちょっと辛く感じるのに……助かった……。


「あ~……夏音、辛いの苦手だもんね。詩乃ちゃんナイス!」

「いえ、お気になさらず。正直、甘口だけだと兄さんが文句言いそうなので……ちょっと中辛も混ぜました」

「え゙」


 思わず変な声が出て固まる私の肩に、ヒオちゃんが手を置いた。


「なっちゃん、そう来ると思って牛乳買ってきたよ!」


 彼女は誇らしげに牛乳を掲げる。


「お~ありがとうヒオちゃん!」

「ほら、早く食べようよ! 僕、お腹ぺこぺこ」


 優斗が席に着き、楽しそうにお腹をさする。


「もう、優斗ってやっぱり燃費悪いよね」

「ま、確かに俺も腹減ったわ」

「じゃあ私、並べますね」


 こうして、にぎやかな夕食の時間が始まった。

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