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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
88/111

#88 ケンカ?

「夏音、その……」


 優斗が、少しおそるおそるといった様子で声をかけてくる。


「…………」


 分かってる。分かってるけど――。


「(……優斗、隠し事するんだ)もん」


「ん? ごめん、もう一回――」


 優斗は悪くない。

そう思いたいのに、口から出た言葉は素直じゃなかった。


「だって、優斗が隠し事するんだもん!」


 あんな相談、優しい優斗が私にできるわけがない。

 でも、頼ってもらえなかった寂しさと、自分が頼られる存在になれなかった情けなさが、胸に引っかかってしまう。


 また、視線を逸らしてしまった。


 ――――――――――――――――――――――――――


「隠し事って……やっぱり……」


 棟哉に視線を向けると、彼は冷や汗をかきながら目をそらした。


「……悪い。俺以外にも相談してるもんだと思って、ついゲロっちまった……」


 ふぅ、と一息ついて、僕は夏音の正面へ歩み寄る。

 少し腰をかがめ、彼女の視線を逃がさないように見つめた。


「相談しなかったのは……ごめん。夏音が僕の腕をずっと気にしてたから……このことを知ったら、もっと心配させちゃうと思ったんだ」


 最後まで言い切ると、不意に罪悪感が込み上げてきて、僕の方から視線を逸らしてしまった。


「……優斗」

「な、何でしょう? 夏音さん……」

「今度、お仕置きだから」

「はい……」


「……ん、ならいい。あたしもごめんね?」

「いや……今回は僕が全面的に悪いし……」


 夏音が少し笑みを浮かべてくれた。それだけで肩の力が抜ける。

 さっきの妙な様子も、これで納得だ。


「まぁとにかく、お前らが仲直りしてくれて良かったぜ」

「ですです。お二人がケンカするなんて私もびっくりでしたし……」

「そうねぇ。私達も気が気じゃなかったよ~」


 三人の安堵した声を聞いて、夏音もほっと息を吐いた――その吐息が、至近距離にいた僕の頬をかすめる。


「……ッ!?」


 思わずバッと立ち上がる僕。

夏音は、なぜ僕が動揺しているのか分からない様子で首をかしげていた。


「……?」

「そ、それで、“僕のトラウマをどう克服しようかの会”って、具体的に何をするの?」


 誤魔化すように言葉をつなげ、夏音の隣に腰を下ろす。


「うーん……スマン、なんにも考えてねぇ。ぶっちゃけノリで決めた会だな」

「に、兄さん……」

「まぁ私達も勢いで来たしね……」


 苦笑しながら、僕はリュックを開ける。


「あ、そうだ。タダで泊めてもらうのもアレだから、あの時の食材持ってきたよ」

「おー助かります! じゃあ冷蔵庫に入れますね」

「じゃあ僕も――」


 立ち上がろうとすると、棟哉がぴしゃりと言った。


「お前は座ってろ。夏音ちゃんもだ!」

「えへへ……バレたか」

「飲み物も出しますので、お三方はごゆっくりどうぞ。兄さん、行くよ」

「しーちゃんありがと~」


 水津木兄妹が冷蔵庫へ向かい、残されたのは僕と夏音、そして天名。


 ……仲直りしたとはいえ、まだ少し気まずい空気。


「「…………」」


 沈黙を破ったのは夏音だった。


「あ、あの! ヒオちゃん、片付けの後は何してたの!?」

「ん? あの後? あー、助っ人試合のミーティング行かされた後のこと?」

「そうそう! あたし先に帰っちゃったから……」

「へ~、天名はやっぱすごいなぁ」


 天名は色んな部活に引っ張りだこだ。


「まぁ、それほどでも……あるか! それより今日使えそうな買い物に行ってたんだ~」


 ちょうどその時、詩乃ちゃんがお盆にお茶を乗せて戻ってきた。


「お待たせしました! こっちはもう少しで終わるので、ゆっくりしてて下さいね」


 コップを置き終えると、水色の座布団に腰を下ろす。


「あれ? 棟哉は?」

「あぁ、入れる場所は指示したので任せてきました。兄さん、お盆ひっくり返しそうですし」

「あ~……棟哉くんならやりそう」


 心の中で「確かに」と頷いてしまう。


「あ、そういえばヒオちゃん、結局何買ってきたの?」

「あぁ、それはね……」


 天名がリュックを引き寄せ、中を探る。


「お、あったあった」


 ことり、とテーブルに置かれたのは――ライターだった。

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