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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
86/111

#86 特別授業

「おーい優斗くん! もう少ししたら始まるよ」

「ん……あぁ、もうそんな時間?」


 声をかけられて、ぼんやりしていた意識が現実に引き戻される。

 気づけば体育館の準備はすっかり終わり、生徒たちはもうそれぞれの席に座っていた。

 僕は“や行”の出席番号なので、夏音や天名、棟哉とはかなり離れた席だ。

 三人の姿は、ここからでは見えない。


 ――でも、やっぱりさっきの夏音の様子が頭から離れない。

 ただ忙しかっただけ、そう思いたい。そうに決まってる。


 そんなふうに自分を落ち着かせようとしていた時、体育館の明かりが一段落とされ、壇上に注目が集まった。


「生徒の皆さん、お待たせいたしました。本日この特別授業に来ていただいたのは、この方――です!」


 拍手が起こったその瞬間、突き上げるような頭痛とめまいが襲ってきた。

 痛みの表情は浮かばず、代わりに――抗いがたい眠気。


「このままじゃ……意識が……」


 視界が揺らぎ、瞼が重くなる。

 落ちる直前、壇上の人物と一瞬だけ視線が交わった……気がした。


 ――――――――――――――――――――――――――


「本日この特別授業に来ていただいたのは、この方、脳科学者の――先生です!」

「はい、よろしくお願いします」


 ……あれ、今なんだか一瞬クラっとしたような。

 名前を聞き逃してしまった。疲れが溜まってるのかな、なんだか眠気もあるし。


 目を擦っていると、隣に座っていたヒオちゃんが、席を交換した男子越しに小声で話しかけてきた。


「わかる、こういう暗い空間って眠くなっちゃうよね」

「あはは……やっぱそれで眠くなってるのかな」


 ……でも、この感じは単なる眠気とはちょっと違う気がする。


 それでも先生の話は続き、内容を追いかけようと必死になる。

 だけど、どうにも頭に入ってこない。

 役立ちそうな話をしている雰囲気はあるのに、言葉がすり抜けていく。


 そんな中、不意に耳に引っかかる言葉があった。


「……ところで皆さん、“予知夢”というものは聞いたことがありますか?」


 唐突に始まったオカルトめいた話に、生徒たちの間で小さなどよめきが起こる。


「聞いたことはあるけど、本当にあるの?」

「科学的根拠なんてないでしょ」

「あったら面白いけどなぁ」


 そんな声が周囲から聞こえてきた。


「ねぇ、なっちゃんは予知夢とか信じる?」

「え、その……あ、あたしは――」


 私が言葉を詰まらせると、壇上の先生が手を上げて皆を制した。


「そうですよね、私も最初はそうでした。ですが、先ほど説明した理屈を踏まえれば、不可能ではないと思えてくるはずです」


 その一言で、生徒たちは一斉に静かになった。


 ……そんな説明、私聞き取れてなかったんだけど。


「(……ごめん、私ぜんっぜんわかんない)」

「(あはは……あたしも……)」


 小声でヒオちゃんと顔を見合わせ、少しだけ安心する。


「(でも、あたしは……予知夢、あると思う)」

「(…………あたしも、そう思うよ)」


 ――――――――――――――――――――――――――


「ほら~優斗くん起きて~、そろそろ終わるよ!」

「ふわっ!?」

「「「ぶっふぅ!!」」」


 突然肩を叩かれて飛び起きた僕は、変な声を出してしまい、周囲から笑いが起きた。


「(お前なんだよ“ふわ”って!)」

「(びっくりしてもそんな声出ないだろ!)」

「(……僕が悪かったけど、そこまで言わなくてもいいだろ!)」


 苦笑しながら壇上を見れば、先生の姿はもうなく、教頭が退場の指示を出している。

 僕たちのクラスから先に教室へ戻るらしい。


 席を立つと、前方から棟哉が小走りでやってきた。


「おぉヤエお疲れ! 俺、片付けあるから今日は先帰って準備しとけよ! じゃ!」

「あ、なら僕も……ってちょっと!」


 返事もろくに聞かずに、彼は走り去っていった。

 ……結局、夏音の姿は見えないまま。

 少しだけ寂しい気持ちで教室に戻ると、黒板に「帰りのホームルームは無し」と貼り紙がされていた。


「……相変わらずというか、なんというか」


 一人で帰るのも気が進まない。

 夏音の様子も気になる。

 机に肘をつき、荷物をまとめながら待っていると、クラスメイトが夏音と天名の荷物を手に取った。


「あれ、ヤエまだいたの? ……夏音ちゃんを?」

「うん、せっかくだし待ってたんだけど」


 その子は少し困ったように目を逸らす。


「実はね、棟哉くんが夏音ちゃんに体育委員の仕事お願いしたみたいで」

「はぁ!? あいつ何やってんだ……」

「一応言っとくけど、押し付けたわけじゃないらしいから。まぁ女子に頼むのはどうかと思うけどね」


 ……僕がやれればよかったけど、この怪我じゃ。

 いや、卑下してもしょうがないか。


「教えてくれてありがとう。じゃあ僕も帰るよ。後で棟哉に言っとく」

「あはは……じゃあまた明日ね」


 手を振り、僕はリュックを背負った。

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