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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
82/111

#82 親友の失言

「あー美味かった! ごちそーさん」


 棟哉は満足そうに手を合わせ、口元を綻ばせた。


「はいはい、お粗末さまでした。お口に合ったならよかったです」

「私も少し頂きましたが、本当に美味しかったですよ」

「しーちゃんありがとー! 久しぶりに人に作ったから、ちょっと不安だったんだよね~」


 2人の感想に、陽織は胸を撫で下ろして小さく息をついた。


「このレベル作れるのに不安になるって、逆に嫌味だぜ?」


 棟哉は笑いながら箸を置くと、少しだけ目を細める。


「……あーあ、俺ももっと料理できるようになりてぇな」

「先輩もある程度作れるじゃないですか。和食限定ですけど」

「まぁな。でも簡単なやつだけだ。基本は作るより、人の手伝いばっかだったし」


 そう言って少し考え込み――ぽん、と手を打つ。


「……お、そうだ。今日は優斗がうち来るし、練習がてら俺も料理やってみっかな」

「え、兄さ――」

「ん? ヤエ水津木んち行くの?」


 詩乃の制止は間に合わず、会話はあっという間に広がっていく。

 彼女は心の中で「やばい」と察しつつも、流れを止められなかった。


「あぁ、あいつ今火が使えないだろ? だから少しずつ慣らすために、うちで料理振る舞おうかと――」


 その言葉を聞いた瞬間、陽織は手にしていた弁当箱をカランと落とし、目を見開いた。

 次の瞬間、我に返ると声を荒げる。


「……な、何それ!? 私そんなの聞いてないんだけど!」


 その反応を見た詩乃は頭を抱え、棟哉はきょとんとした顔をした。


「あれ……そうだったか?」

「兄さん……不用心すぎます。ヤエ先輩が兄さんだけに話した可能性とか考えなかったんですか」

「す、すまん……」


 陽織は俯き、ぶつぶつと独り言をこぼし始める。


「まさか……あの事件のせいで……? じゃあ私の、せい……?」

「それは違う! お前のせいなんかじゃない。あれは……事件だ。ああするしかなかったんだ」

「そうです! 私だって全部は知らないですが、ヒオ先輩は結果的に兄さんを助けたんですよ。ヤエ先輩と夏音先輩だって、ヒオ先輩が救急車を呼ばなければどうなっていたか……」


 陽織は顔を上げ、目には涙が光っていた。


 ――――――――――――――――――――――――――


「いやぁ、お腹いっぱい! 本当にありがとう、夏音」

「もう……そんな量で満足なの?」

「うん!」


 子供のように笑う優斗に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 頼まれたとはいえ、ここまで喜んでくれると私まで嬉しくなる。


 ……棟哉くんなら、この展開を予想してたかも。

まぁ今は感謝しておこう。

少しだけ、ね。


「そういえば、あの3人はどこ行ったんだろ」

「屋上じゃないかな。水津木兄妹、どっちも地学部だし」


 優斗はお弁当を包み直し、バッグにしまった。


「あ、それくらい私やるのに……。でも屋上って、勝手に行けるの?」

「いや、ご馳走になったんだし、そこまでしてもらうのも悪いよ。それに屋上は……顧問があの担任だから、まぁね」

「あー……なるほど」


 そんなやりとりをしているうちに、予鈴が鳴る。


「あ、そろそろ行かなきゃ。じゃあ後でね~」


 私は体操服を手に取り、優斗に手を振った。


「うん、またね」


 五限目は体育。

今回は男女別で、六限目は特別授業のため席替え。

 次に優斗と顔を合わせられるのは放課後になる。


「やほ~、篠原ちゃんは今から?」

「あ、うん!」


 さっきのクラスメイトに声をかけられ、足を止める。


「八重桜くん、せっかく戻ってきたのに男女別なんて残念だねぇ」

「べ、別に……」

「じゃ、私はお手洗い行ってから更衣室向かうね~」


 そう言って彼女は小走りで去っていった。


「もう……」


 と小さく呟きつつ、更衣室へ向かう。


 ――間に合いそう。

 急いで着替えて体育館に行かないと。


 ネクタイを外し、ワイシャツのボタンに手をかけた、そのとき――


「なっちゃん! ちょっと来て!」


 バンッと扉が開き、ヒオちゃんが息を切らして立っていた。


「え!? ヒオちゃん!? ちょ、今あたし前が――」

「いいから! 一回だけ来て!」


 強引に手を引かれ、更衣室の外へ連れ出される。

 幸いワイシャツの下にシャツを着ているから下着は見えない。

 でも半脱ぎはやっぱり恥ずかしい。


 もう片方の手でボタンを留めながら、私はヒオちゃんに引かれて廊下へ出た。

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