#08 ただいま
受話器を戻した瞬間、私はその場にへたり込んでしまった。
……優斗は私を助けてくれた。
そして、そのせいで怪我をさせてしまった。
危険が起こることはわかっていたのに、いざという時、身体は動かず、何もできなかった。
「……私って、弱いなぁ……」
思わず口から漏れた言葉。
それでも、ピザ屋が来るより先に優斗が帰ってくると信じて、私は彼の家で待つことにした。
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「……僕って、弱いな……」
ふと、そんな言葉が口をついて出た。
誰が見ても落ち込んでいるのが分かるだろう。
「俺は八重桜にしてはよくやった方だと思ったけどな。……まあ、こんな展開は予想してなかったが」
「予想してなかったって、先生、あんなこと言ってたじゃないですか！」
呆れ気味にため息をつく僕。
話は体育館での出来事にさかのぼる――。
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「……ッ!? どうして鍵が……」
驚きながらドアを開けると、そこには見慣れた担任の姿があった。
「先生!? どうして……」
「話は後だ、八重桜。篠原が危ないんだろ？ 後で俺も向かう。お前は先に行って助けてやれ」
まるで全てを見通しているかのような物宮先生。
いや、この状況でここに来た時点で、それも当然かもしれない。
「ありがとうございます。後で話は聞かせてもらいます！」
「ちょっと待て、その前に簡単な時間稼ぎの方法を教えてやる」
先生は力を使わず相手を無力化するコツを教えてくれた。
そして最後に笑って言う。
「保健室で続きを話してやる。頑張ってこい！」
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「僕が保健室送りになるの、予想してましたよね？」
「ああ、もちろん」
サラッと言いやがった……。
本当に教師なのかこの人は。
「ただ、ここまでの怪我をさせるつもりはなかった。すまなかった」
先生は深く頭を下げる。
その声はいつもの軽さのない、真剣なものだった。
「……僕は大丈夫です。先生の目的は岡崎を止めることだったんですよね？」
「簡単に言えばそうだが、警察や校長に突き出すつもりはない」
「そんな……！ このままじゃ夏音が安心して学校に――」
「分かってる。ただ、俺は誰一人欠けることなく卒業させたい」
この学校は三年間クラス替えがない。
誰かが抜ければ、空気は間違いなく変わる。
「だから、お前と篠原、それに岡崎を話し合わせたい。頼めるか？」
「……僕は正直、彼を到底許す気にはなれません……ですが――」
僕真っ直ぐ先生を見て、声を貼って言った。
「僕は先生の目標、いいと思います！」
「そうか……ありがとう」
その時、スマホに同時通知。
グループチャットだ。
『ヤエがどこかの男子に馬乗りになってアーッって叫んでたってマジ？www』
「……」
「……」
先生が一言。
『マジだぞ。』
「！？！？」
その後、フリタイ（クラスチャット）はその話題で大炎上。
弁解しようと必死で打ち込むが、誤字にまで突っ込まれる始末。
そこへ警備員さんが現れ、下校を促す。
痛む左腕をかばいながら荷物をまとめ、帰路についた。
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「優斗……遅いなぁ」
玄関で待つ私。
せっかくのピザも冷めちゃうよ……。
ガラス越しに人影――体操着の配色は間違いない。
「――帰ってきた！」
玄関を開けた優斗は、一瞬驚いた顔をしてから笑顔を見せた。
「夏音……ただいま」
「うん、おかえり！」
腕には包帯がぐるぐる巻き。
思っていたより痛々しい。
「もう半袖は着れないかもな……でも包帯姿、カッコよくない？」
「……いや、それは無いよ」
そう笑い合いながら、彼は封筒を差し出す。
中には5000札が一枚。
「ピザ代」
「えっ!? こんなに!?」
本当は色々あったはずだ。
でも、彼はいつものように話を濁したまま、私たちはピザを囲んだ。
