#64 片付け
「ごめーん、優斗、お待たせ!」
勢いよくドアを開けて入った私の後ろから、見覚えのある二人が続いてくる。
「あ、夏音お帰り……って、棟哉と天名!? 棟哉はともかく、天名は助っ人に行ってたんじゃ?」
驚いた様子の優斗に、二人は軽く手を振りながら、天名が先に口を開く。
「やっほー! 助っ人は無事に勝利! 打ち上げはなっちゃんに報告したくて抜け出しちゃったんだ~。そうそう、明日退院なんだって?」
「あはは……うん、腕の怪我も問題ないって言われたし、長かった病院生活ともお別れだよ」
優斗は少し嬉しそうに軽くガッツポーズをしてみせた。
その瞬間、後ろにいた棟哉の表情がふっと曇る。
「……その、腕の跡は……」
「あー……うん、火傷の跡は残るらしい」
優斗の返事を聞くなり、棟哉は苦しそうな顔をして視線を落とす。
あの火事のことがまだ引っかかっているんだろう。
「そうか……優斗、本当にすま――」
「なんかその痕、命を救った証みたいでかっこいいじゃん!」
棟哉の言葉を遮るように、天名が明るい声で割り込んだ。
「あはは……そう言われると、少し気が楽になるかな」
不意の言葉に優斗も笑い、私もほっとする。
「……ああ、俺も似合ってると思うぞ、優斗」
棟哉もため息をひとつつき、先程より柔らかな表情でそう付け加える。
「ありがとう、棟哉」
空気が少し落ち着いたところで、私は両手をパンと叩いた。
「ほら、もう日も傾いてきてるし、片付けちゃおう!」
「そうだね、ある程度まとめてはあるけど、手伝ってくれると助かるよ」
「よし、じゃあサクッと終わらせるか!」
棟哉もいつもの調子を取り戻し、元気よく言い放った。
「あ、下着とかは僕がやるからね!?」
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「ふぅ……これで荷物は全部まとまったね。本当に助かったよ、みんな」
久しぶりに動いたせいか、額から汗が伝う。
タオルで拭いながら礼を言うと、夏音が笑って首を振った。
「夏音は特にありがとう。バッグがなかったら明日困ってたよ」
「ううん、気にしないで」
その笑顔につられて、僕もなんだか顔が熱くなる。
「(なぁ、あいつら……なんか距離近くなってないか?)」
「(私も思った。あの状態で戻ったら……暴動起きそう)」
棟哉と天名が視界の端でひそひそと話しているが、内容までは聞こえない。
「そういえばなっちゃん、ヤエがいない間、後ろの席を寂しそうに眺めてたよね」
「ちょ、ちょっと! そんなこと言わないでよ!? っていうか、私そんなだったの!?」
顔を赤くする夏音に、棟哉が腕を組んでニヤリとする。
「おう、ほぼ毎日な。羨ましいぜ」
「棟哉くんだって、ヤエがいないと調子狂うって小声で言ってたじゃん」
「ちょ、夏音ちゃん!?」
棟哉は慌てて否定しながらも、どこか嬉しそうだ。
「にしても、ヤエが戻ってくれば夏音ちゃんの無双も一旦ストップだな」
「あ、確かに! なっちゃん最強カードの時代は終わりかぁ」
「えへへ……でも優斗、体育できるの……?」
僕らのクラスは男女仲がよく、体育のチーム分けはドラフト形式。
僕は運動が苦手でいつも最後まで余ってしまう。
そこで、委員の棟哉や天名が夏音を選んだときだけ、僕を“おまけ”として指名してくれる。
強い夏音に対して、僕でバランスを取るわけだ。
「とりあえずは塗り薬で様子見かな。……僕としては見学でいいんだけど」
夏音はどんな競技でも活躍するから、出場率が高い。
おかげで僕も、かなりの頻度でコートに立たされる。
そんな僕がいないとなれば……もうデメリット無しの最強チームだろうな。
「この間のサッカーなんて凄かったよな。男子顔負けの突破力で――」




