表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
63/111

#63 ヒナ

「……よ、今日も来たぜ」


 棟哉は小さく挨拶し、墓前に花を手向けた。


「悪いな……お前が残してくれた形見、少し焦がしちまった」


 そう呟き、手の中の焦げ跡がついたリストバンドを見つめる。


「俺は……あの火事で、何も出来なかった」


 声が震える。リストバンドを握る指先に力が入る。


「俺よりも体を動かすのが苦手なヤツが女の子を助けてんのに、そんとき俺はコレだけ見付けて逃げ出して……」


 堪えていた感情がにじみ出る。

拳を握りしめたまま、その場にしゃがみ込む。


「俺は……あの二人を見殺しにしかけたんだ!」


 脳裏に焼き付く映像――燃える家、瓦礫をどかす優斗、その奥に夏音。

そして自分は、ただリストバンドを拾い、背を向けた。


「今回は……みんな助かったからいい。でも……また、自分のせいで大事な奴らを失いかけた」


 額に拳を押し当て、嗚咽混じりに叫ぶ。


「なあ……俺は、どうすればよかったんだ……」


 指先から力が抜け、立ち上がる気力すら湧かない。


「……どう、償えば……」


 ――――――――――――――――――――――――――


「……水津木?」


 墓前でうずくまる棟哉を見つけ、陽織は思わず声をかけた。


「何やってるの、こんなところで?」


 その声に反応した棟哉の声は、ひどく掠れていた。


「……陽織か」

「……どうしたの?」


 普段とはまるで違う気配に、ただ事ではないと直感する。


「何もねぇよ。……そろそろ帰るところだった、っとと」


 立ち上がろうとした棟哉の体はふらつき、見ているだけで危うい。


「ちょ、待って! その状態で一人は無理でしょ。肩、貸すから」

「いや……お前も用があったんじゃ――」

「こんなの見たら放っとけるわけないっての。歩くよ。……話なら、あとでいくらでも聞いてあげるから」

「……悪い、頼む」


 軽くやり取りし、棟哉は陽織の肩を借りて歩き出す。


「ねぇ、まだ気にしてるの?」

「……何を」

「ヒナちゃんのことと、この間の火事」


 図星を突かれ、棟哉は視線を逸らす。


「……言いたくないならいいけどさ。ヒナちゃんも、ヤエも、なっちゃんも……あんたが悪いなんて思ってないはずだよ」

「だけど俺は! 見てることしか出来なかった! あいつらが死にかけてたのに!」

「あんなに足から血を流してたのに、無事帰れるわけないでしょ」


 棟哉は、今も走れない足へとゆっくり視線を落とす。


「……思わない」

「でしょ? もしあんたが中に入って、二次災害で全員助からなかったら……私もヒナちゃんも悲しむよ。……あ、なっちゃーん!」


 ――――――――――――――――――――――――――


「ん? あれ、ヒオちゃん!? 助っ人はどうしたの?」


 大きめのバッグを手に病院へ向かっていた私は、ヒオちゃんと出くわした。

 その隣には棟哉くんもいて、少し驚く。


「棟哉くんも偶然だね。……体調悪そうだけど、大丈夫?」

「あぁ、もう平気だ。陽織、ありがとな」

「……そう? ならいいけど」


 ヒオちゃんは腑に落ちない表情をしつつ、今度は私の持っているバッグに目を向けた。


「って、それ何? まさかヤエの病室にお泊まり?」

「おいおい、マジか!? まあ、あんなことがあったし不思議じゃねえけど」


 ふたりして大げさにいじってくる。


「ち、違うって! これ、中身空っぽだから! 明日、優斗が退院するから荷物運ぶ用なの!」


 ……必要ないのに、なんでこんなに顔が熱くなるんだろう。


「なーんだ。でもヤエ、もう復活か! これは報告だな!」

「だねだね! なっちゃんも、来週から楽しくなるね!」

「うん!」


 気がつけば、優斗を待たせていることも忘れ、しばらくその場で話し込んでしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ