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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
51/111

#51 突入

「それで、天名さんが出かける前、夏音はどこにいたの?」

「えっと……私の部屋のベッドにいたと思う。でも、さすがに火事になったら一階に逃げてるはず……だと思うの。ただ――」

「――『ヒナ』のリストバンド、か?」


 さっきも天名さんが口にしていた名前。ヒナって……一体誰なんだろう。


「うん、それが私の机の上に置きっぱなしになってるの」

「……なるほど。じゃあヒナには悪いけど、とにかく一階を優先的に探そう」

「わかった……けど、それってヒナさんの大事な物なんでしょ? 本当にいいの?」

「いいんだ。物より命の方が大事だ」

「……そっか、そうだよね」


 そう言いながらも、棟哉と天名さんの表情に、一瞬だけ影が差した気がした。

 ――でも今は、夏音を助け出すことが最優先だ。


「よし、行くぞ!」

「「うん!」」


 棟哉を先頭に、野次馬でごった返す中を押し分けながら玄関前まで進む。


「あっつ……煙もすごい……」

「でも夏音の方が、もっと苦しいはずだ」

「うん……待ってて、なっちゃん」


 周囲から「やめろ!」とか「入るな!」という声が飛んでくるが、耳には届いていなかった。


「よし、みんな準備はいいか?」

「いつでもいい!」

「私も!」


 一歩踏み出しただけで、全身を焼くような熱気が襲い、額から汗が噴き出す。

 玄関は鉄とコンクリートを多く使っているため近づけたが――


「……鍵が、入らない……!?」


 天名さんが慌てて鍵穴に差し込もうとするも、首を振って僕らを見た。


「なんでだよ! クソ……じゃあ俺が――」

「いや、無理にやっても多分ダメだと思う」

「なんでだ! じゃあヤエが開けられるってのか!?」


 棟哉が苛立った声を上げたが、すぐに息を整えた。


「……悪い。焦っちゃいけないのは俺じゃない。いちばん心配してるのはお前なんだし」

「いや、それは天名さんでしょ……。多分、熱で金属が歪んで鍵穴が塞がってるんだ。別の場所から無理やり入るしかない」

「わかった! じゃあ私、向こう側見てくる!」

「あっ、ちょっと!」


 天名さんが右手側へ駆け出す。

 それを見た棟哉もすぐさま――


「じゃあ俺は左を見てくる! ヤエは玄関周辺を探してくれ!」

「わかった、任せた!」


 棟哉は頷くと、炎の煙に消えるように左手へ走っていった。


「待ってて、夏音……」


 僕は玄関周辺を必死に探していると、天名さんの声が響いた。


『おーい! 入れそうな場所、見つけたよー!』


「見つかった……! 僕も急がないと!」


 右手へ駆け出すと、角を曲がった先にもう棟哉の姿があった。


「よし、ヤエも来たな」

「で、これなんだけど……」


 天名さんが指差した先には、炎が激しく揺らめく一角。

 その奥の壁には、ひび割れが走っていた。


「……確かに壊せそうだけど、あんな場所に入れる?」

「任せろ。こういう時のために鍛えてきたんだ!」


 棟哉は駆け出し、勢いよく体当たりする――が。


「ぐっ……! 熱っ……!」

「大丈夫!?」

「無茶しないでよ!」


 ひびは広がったが、まだ突破には至らない。


「大丈夫だ……ヒオ! 背中を押してくれ!」

「わかった!」


 天名さんが背中に手を添え――


「いくよ……はいっ!」

「……ッ!」


 勢いが合わさり、棟哉の蹴りが壁を貫いた。


「「おおっ!」」


 穴が開き、中へ入れるようになった。


「よし……なんとか入れるな」

「ありがとう! 行こう、夏音を探すんだ!」


 二人は頷き、棟哉を先頭に炎の中へ踏み込む。


――――――――――――――――――――――――――


「どこ!? 返事してよ、夏音!」


 三人で一階を手分けして探すが、どこにも姿が見えない。


「棟哉! そっちは!?」

「いない! 陽織は!?」

「私もダメ……!! 『たすけてあげなくちゃッ』!!」


 一階を探し尽くしても見つからない。

 となれば――


「……やっぱり二階、か」

「私もそう思う。『寝てて』って言ったのを律儀に守ってるのかも……」

「かもな。けど――」


 棟哉が言いかけて、言葉を詰まらせた。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない……じゃあこうしよう」


 僕は引き続き一階を探し、見つけたら外に助けを求める。

 棟哉は二階を探索しつつ、机の上のリストバンドも回収。

 階段が崩れそうだから、天名さんは外で野次馬と協力して、棟哉の飛び降りを受け止める――


 そう、役割分担を冷静に話した。

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