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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
47/111

#47 迷惑なんて思わない

「……これでよしっと」

「うん……ありがとう。ごめんね、来たばかりなのに、こんなことになっちゃって」


 あの後、私はヒオちゃんに抱きかかえられ、そのまま彼女の部屋のベッドに横たえられていた。


「だから気にしなくていいってば。体調不良人は大人しく寝てなされ! ――ちょっと飲み物取ってくるね」


 彼女は本当に気にしていないように見えた。

 それでも私の胸には、申し訳なさがじわりと広がる。


「……あたし、最近あちこちで看病されてばっかりだな」


 思えば、あの夢に起因しているような頭痛や倦怠感が、以前よりも頻繁に出るようになってきている。

 これじゃ、周りに迷惑をかけるだけだ。


「優斗にも何度か泊めてもらってるけど……ほとんど毎日、体調崩してる。きっと……迷惑してるよね」


 体が重いせいか、頭の中にはネガティブな言葉しか浮かばない。


「……やっぱり今日はもう帰ろう。これ以上、誰にも迷惑かけたくないし――」


 家に帰り着けるかどうかは分からない。

 でも、誰かの負担になるよりはましだ。


 そう呟きながら、ゆっくりと上体を起こし、足を床に下ろした瞬間――

 カチャリ、とドアノブが回り、ヒオちゃんが姿を現した。

 その表情は、少しだけ悲しそうで――きっと、今の独り言を聞かれてしまった。


 ……やばい、怒られる?!


「あ、えっと、今のは――わふっ!?」


 彼女は手にしていた飲み物をテーブルに置くと、まっすぐこちらへ歩み寄ってきた。

 慌てて言い訳をしようとした私の頭を、両腕がふわりと包み込む。


「あの、ヒオちゃ――」

「なっちゃん」


 静かだけど確かな強さを含んだ声が、私の言葉を止めた。


「あのね、今は体調のせいで、そんなふうに考えちゃってるだけかもしれない。でも、少なくとも私は――迷惑だなんて、絶対に思わないよ」


 抱き寄せた腕は緩めず、そのまま優しい声で続ける。

 私は恐る恐る顔を上げ、その言葉が本心かどうかを確かめる。


「なっちゃんは大事な親友だもん。……私も、ヤエも、水津木も、迷惑なんて、絶対に思わない」


 その笑顔は、まるで子供を安心させるようで――胸の奥が、じんわりと温かくなった。


「……そっか。ごめん――ううん、ありがとう、ヒオちゃん」


 私も笑みを返すと、彼女は少し頬を染め、照れ隠しのようにぎゅっと抱きしめてくる。


「ん〜〜! やっぱりなっちゃん可愛いなぁ! しーちゃんといい勝負だよ!」

「ちょ、ヒオちゃん! ろ、肋骨! 痛い痛い!」

「えっ!? 痛い!? ……あんまり無いから仕方ないでしょ!?」


 私の失言に激昂はするもの、思いっ切り抱き寄せたのは気にしたのか腕の力を緩めてくれた。

 腕の力を緩めてくれたが、胸の話はちょっと引っかかる。


……着太りするタイプなのかな、私。


「ごめん、デリカシー無かった……」

「もう、気をつけてよね! ……じゃあ映画でも見よっか。このまま抱きしめ続けたらヤエに悪いしね〜」

「なんで優斗!? さっき親友だって言ったでしょ!」


 ヒオちゃんは一瞬きょとんとした後、ニヤリと笑って部屋を出ていく。


「え、何その顔? ちょっとヒオちゃん!?」


 ――――――――――――――――――――――――――


「ふぁ……おはよう、愛しの妹よ」

「おはよ、兄さん……いつ帰ってきたの」


 棟哉が起きたのは昼近く。

 リビングでは詩乃がソファーでテレビを見ている。

 彼が夜更かしするのは珍しくないが、朝の顔合わせがここまで遅いのは久しぶりだ。


「詩乃、寝起きか? 寝ぐせついてるぞ」

「ッ!」


 頬を赤らめ、慌てて髪を手ぐしで整える詩乃。


「そ、そうだけど……」

「昨日もだけど珍しいな、もしかして何か悩みでもあるのか?」


 その問いに、詩乃はソファーから立ち上がり、珍しく声を荒げた。


「昨日! 兄さんが! いきなり! 火事の現場に! 行くって! 飛び出したからでしょ!」

「お、おう……それは悪かったって……お兄ちゃん、妹にそんな至近距離で息荒くされたら勘違いしちゃう」

「はぁ……で、なんで急に飛び出して、そのまま帰らなかったの?」


 棟哉は少し考え、ゆっくり口を開く。


「……嫌な予感がして。……帰らなかったのは、父さんがうるさいだろ?」

「……まさか壁を登って窓から入ったの?」


 言い当てられた棟哉は、手のひらの豆を見せながら得意げに笑う。


「そう。何度か落ちたけど、中学で柔道やってて助かった。受け身ってすごいな」

「もおぉ……! 危ないことやめてよ! 大ケガしても知らないからね!? 父さんがイヤなら、私がこっそり入れてあげるから」

「悪かったって……あれ、もしかして詩乃、こんな時間まで起きてたのって――俺の心配してたから?! うぉおお! お兄ちゃんが悪かったよぉぉ!」


 勢いよく抱きつこうとする兄を、詩乃はするりとかわす。

 耳は真っ赤だった。


「……もう、しないならいい。兄さんもテレビ見よう」


 ソファーに座り直したそのとき、棟哉のスマホに通知が入る。


「ごめん、ちょっと……って物宮先生? 課題は全部出してるはず――」

「小テストの再試じゃないの? この間ヤバいって言ってたじゃん」


 不思議に思いながら画面を開くと――


『今お前たちって解散してるか? 八重桜と連絡が取れない』

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