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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
44/111

#44 自分の心配

 「……うぅ……頭……痛い……」


 重たいまぶたをゆっくりと開けると、部屋の中はすでに薄暗くなっていた。

私はソファーに横たわっていて、額にはひんやりと冷たいタオル。

視線を横に動かすと、優斗が両腕を枕のようにして伏せながら眠っている。


「優斗……ずっと看病してくれてたの?」


 起こすつもりはなかった。

ただ、自分の状況を確かめるように小さく呟く。

 私が眠っている間も、こうして傍でタオルを替えてくれていたのだろう。

おかげで熱はすっかり下がり、頭痛以外はずいぶん楽になっていた。


 今日は迷惑ばかりかけてしまったのに……やっぱり、優斗は優しい。

 そんなことを考えながら彼の寝顔を見つめていると、ふと胸の奥に違和感が走る。


 ……呼吸が、荒い。


「優斗?」


 そっと声をかけ、少し強引に彼の顔をこちらに向けさせる。――その瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 優斗の顔は苦しげに歪み、浅い息を繰り返していた。


「……私のせいだ……」


 ――――――――――――――――――――――――――


 ……暗闇の中、誰かの叫び声が響く。

 以前に見た「夢」と同じだと、すぐにわかった。


「……っ……!」


 けれど今回は周囲の声はほとんど届かず、自分の体も動かない。


「もう、ダメか……」


 誰かに謝るように呟き、僕は膝から崩れ落ちた。

 視界を覆う闇の中、ぼんやりとした意識がさらに薄れていく――そのとき、微かな光が見えた。


 それは小さいけれど、決して見失ってはいけない光だと本能が告げていた。

 必死に動かない腕を伸ばす。指先が光に触れた瞬間、意識はぷつりと途切れ、深い眠りに沈んでいった。


 ――――――――――――――――――――――――――


 朝。

 窓の外では小鳥がチュンチュンと鳴き、爽やかな空気が漂っている。


 ……気がつけば、僕はベッドで眠っていた。

最後の記憶は、体調の悪そうな夏音を看病していたところで途切れている。

 それに――ここは僕の部屋じゃない。

一階の部屋だ。どうして……。


 そこまで考えて、嫌な汗がにじむ。


 ……まさか!


 慌てて上半身を起こし、ベッドに視線を向ける。


「ん……ゆーと……だいじょーぶ……? すぅ……」

「ああ……なんだ……」


 そこにいたのは、僕の隣で気持ちよさそうに眠る夏音。

 ――昨日の夢や火事の光景が重なり、彼女がどこかへ消えてしまうような不安が一瞬よぎる。


 けれど――


「……うぅ……なんかすごい体調悪い……」


 立ってもいないのに視界が揺れ、吐き気が込み上げる。熱もあるようだ。


……夏音の風邪、もらっちゃったかもしれない。


 そう思いながら隣を見る。


「って……なんで夏音が僕の隣に!?」


 頭が働かない。

いや、働かせられない。

混乱して首を振っていると、夏音が半分眠そうな目でこちらを見つめ、目が合ってしまった。


「あ……おはよう」

「……っ、ご、ごめん……トイレ……」

「ゆ、優斗!?」


 首を振りすぎて、吐き気が限界を突破してしまった。


 ――――――――――――――――――――――――――


「……ほんっとにごめん、夏音!」

「ううん、気にしないで、優斗」


 私はキッチンに立ち、優斗はソファーにぐったりもたれかかっている。

 さっきトイレまで付き添って背中をさすったことを、彼はどうやら気にしているらしい。


「夏音、体調はどう?」

「えっ、あたし!? 全然平気。むしろ軽いくらい。でもそれより優斗は!? あたしの心配より自分でしょ!」


 正直、さっきの顔面蒼白の姿なんて二度と見たくない。

半分は私のせいでもあるけど……。


「あはは……そうだね。明日は学校だし、吐かないくらいには治さないと」


 こういうときだけ妙にブレない。


「……で、何作ってるの?」

「昨日のお粥が残ってたからね。お粥パーティー第2弾!」


 冗談めかして笑うと、優斗は少し視線を泳がせ――


「う、うん……ありがとう、夏音」


 熱のせいか、頬を赤くしながら申し訳なさそうに見上げてくる。


 ……なんでこんなときにドキっとするんだろ。


「そ、そう。困ったときはお互い様! ……はい、できたよ」


 鍋からよそったのは、タマゴのお粥。


「おお、タマゴだ! 棟哉のを参考に?」

「ううん。ダシはわかんなかったから……これにお醬油かけて食べてね」


 期待とは違ったはずなのに、優斗は何も言わず嬉しそうに醬油をかけ始めた。


「優斗、かける前に“いただきます”くらい言いなさい」

「ご、ごめん! いただきます!」

「はい、よくできました。……あたしも、いただきます」

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