#41 ゴシップニュース…?
……き、気まずい……!
優斗がシャツを着て戻ってきてから、もう十分以上。
私たちは隣同士に座ったまま、一言も喋らない。
――ヒオちゃん、やっぱりちょっと恨む!
どうするのこの空気!?
「気にしてない」って言おうにも、さっきの優斗の姿が頭に浮かぶし、
「気にしてる」って言ったら言ったで、これはこれでややこしい。
どうしよう、どうしよう――。
「あ、あの――」
「は、はいぃ!?」
突然、真面目な顔の優斗に話しかけられ、思わず食い気味で裏返った返事をしてしまう。
優斗は一瞬驚いたように固まったが、すぐに口元を緩めて小さく吹き出した。
「……ぷっ、どうしたのその反応。僕にそんなことできる度胸あると思う?」
「えっと……無い」
「ぐっ……いや、そうだけど! 即答は酷くない!?」
優斗は笑いながらも軽くダメージを受けたようで、むすっとした顔をする。
それでも、ちゃんと話を続けてくれた。
「にしても、さっきは本当にごめん。家に帰ったタイミングで電話してるのは聞こえてたんだけど……お風呂出る時にはすっかり忘れててさ」
「……ふふっ、なにそれ。覚えといてよ。今回はヒオちゃん一人だったから何とかなったけ――」
私もつられて少しずつ笑えてきた、そのときだった。
――ピコン。
ピコピコピコピコ……。
「な、何の音!?」
スマホから響く連続通知音に驚いて声を上げる。
一方の優斗は、顔を引きつらせ両手で頭を抱え、「やっちゃった……」と掠れ声を漏らした。
「……どうしたの?」
「夏音、覚えてる? 前に僕がクラスの半分くらいが入ってるフリタイのグループに招待したこと」
あー……そういえばあった。
先生も何故か入ってるやつだよね。
私はそういうの苦手だから入らなかったけど……もしかして棟哉やヒオちゃんも……?
「……まさか」
嫌な予感が一瞬で確信に変わった。
優斗が慌ててスマホを操作し、グループを開くと――そこには地獄が広がっていた。
画面最上段には『ひおり』の名前と、全員宛てメンション付きの書き込み。
『【速報】篠原夏音(17)と八重桜優斗(17)。一線を超える』
「「ちょっと待てーーー!?」」
二人同時に叫び、優斗が必死にタイムラインを流して最新書き込みを探す……が。
「……ダメだ、全然追いつける気がしない……」
「盛り上がりすぎでしょ!?」
『いつかやると思ってました』
『篠原さんお幸せに』
『ついに夏音ちゃんに手を出したかヤエ!』
『俺は目瞑っとくけど程々にな』
……知ってる口調の人、混ざってない?
何とか最新までたどり着いたと思えば、またすぐに流されていく。
「ゆ、優斗! 早く誤解を解かないと!」
「そ、そうだね! えっと……えっと……」
動揺しすぎているのか、優斗の指はぶるぶる震え、打ち込まれた文字は――
『よっとおおちういてみんなごかいだから』
『ヨットとお家が浮いて皆5階!?』
『お前が落ち着け』
『大惨事じゃねえか』
『手濡れてる?』
『手汗やばそう』
……あーもう、完全にオモチャにされてる。
「こ、こいつら……!」
「集中砲火がすごい……あ、そうだ!」
私はふとボイスメッセージ機能を思い出し、優斗を押しのけてボタンをタップ。
「みんな、ちょっと落ち着いて!!」
できるだけ大きな声で叫んで送信。
「み、耳が……」
「あ、ごめん! でもほら、勢い止まった!」
優斗の耳を犠牲に、十数秒だけチャットは静まり返った。
――が、また少しずつ書き込みが再開。
『なっちゃん、声でかすぎ! でもごめんなさいでした』
その一文に、私はすぐさまボタンを押して返す。
「ヒオちゃん……冗談が過ぎたよ……」
『耳が死んだ』
『陽織ちゃん何してくれてんだ』
『急に音楽聞こえなくなったんだけど』
『俺も耳が死んだ』
……被害者は優斗だけじゃなかったけど、どうやら騒ぎは収まったらしい。




