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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
41/111

#41 ゴシップニュース…?

 ……き、気まずい……!


 優斗がシャツを着て戻ってきてから、もう十分以上。

 私たちは隣同士に座ったまま、一言も喋らない。


 ――ヒオちゃん、やっぱりちょっと恨む!

 どうするのこの空気!?


 「気にしてない」って言おうにも、さっきの優斗の姿が頭に浮かぶし、

 「気にしてる」って言ったら言ったで、これはこれでややこしい。


 どうしよう、どうしよう――。


「あ、あの――」

「は、はいぃ!?」


 突然、真面目な顔の優斗に話しかけられ、思わず食い気味で裏返った返事をしてしまう。


 優斗は一瞬驚いたように固まったが、すぐに口元を緩めて小さく吹き出した。


「……ぷっ、どうしたのその反応。僕にそんなことできる度胸あると思う?」

「えっと……無い」

「ぐっ……いや、そうだけど! 即答は酷くない!?」


 優斗は笑いながらも軽くダメージを受けたようで、むすっとした顔をする。

 それでも、ちゃんと話を続けてくれた。


「にしても、さっきは本当にごめん。家に帰ったタイミングで電話してるのは聞こえてたんだけど……お風呂出る時にはすっかり忘れててさ」

「……ふふっ、なにそれ。覚えといてよ。今回はヒオちゃん一人だったから何とかなったけ――」


 私もつられて少しずつ笑えてきた、そのときだった。


 ――ピコン。

 ピコピコピコピコ……。


「な、何の音!?」


 スマホから響く連続通知音に驚いて声を上げる。

 一方の優斗は、顔を引きつらせ両手で頭を抱え、「やっちゃった……」と掠れ声を漏らした。


「……どうしたの?」

「夏音、覚えてる? 前に僕がクラスの半分くらいが入ってるフリタイのグループに招待したこと」


 あー……そういえばあった。

 先生も何故か入ってるやつだよね。

 私はそういうの苦手だから入らなかったけど……もしかして棟哉やヒオちゃんも……?


「……まさか」


 嫌な予感が一瞬で確信に変わった。

 優斗が慌ててスマホを操作し、グループを開くと――そこには地獄が広がっていた。


 画面最上段には『ひおり』の名前と、全員宛てメンション付きの書き込み。


『【速報】篠原夏音(17)と八重桜優斗(17)。一線を超える』


「「ちょっと待てーーー!?」」


 二人同時に叫び、優斗が必死にタイムラインを流して最新書き込みを探す……が。


「……ダメだ、全然追いつける気がしない……」

「盛り上がりすぎでしょ!?」


『いつかやると思ってました』

『篠原さんお幸せに』

『ついに夏音ちゃんに手を出したかヤエ!』

『俺は目瞑っとくけど程々にな』


 ……知ってる口調の人、混ざってない?


 何とか最新までたどり着いたと思えば、またすぐに流されていく。


「ゆ、優斗! 早く誤解を解かないと!」

「そ、そうだね! えっと……えっと……」


 動揺しすぎているのか、優斗の指はぶるぶる震え、打ち込まれた文字は――


『よっとおおちういてみんなごかいだから』


『ヨットとお家が浮いて皆5階!?』

『お前が落ち着け』

『大惨事じゃねえか』

『手濡れてる?』

『手汗やばそう』


 ……あーもう、完全にオモチャにされてる。


「こ、こいつら……!」

「集中砲火がすごい……あ、そうだ!」


 私はふとボイスメッセージ機能を思い出し、優斗を押しのけてボタンをタップ。


「みんな、ちょっと落ち着いて!!」


 できるだけ大きな声で叫んで送信。


「み、耳が……」

「あ、ごめん! でもほら、勢い止まった!」


 優斗の耳を犠牲に、十数秒だけチャットは静まり返った。


 ――が、また少しずつ書き込みが再開。


『なっちゃん、声でかすぎ! でもごめんなさいでした』


 その一文に、私はすぐさまボタンを押して返す。


「ヒオちゃん……冗談が過ぎたよ……」


『耳が死んだ』

『陽織ちゃん何してくれてんだ』

『急に音楽聞こえなくなったんだけど』

『俺も耳が死んだ』


 ……被害者は優斗だけじゃなかったけど、どうやら騒ぎは収まったらしい。

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