表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
4/111

#04 楽しい昼休み

「ごちそうさま。……まあ、それはあくまでカードゲームの話だし、全部に対して強欲ってわけじゃないかもでしょ? 真剣勝負だからって、一番強いデッキを使っただけかもしれないし」


 夏音の言葉に「まあ、それもそうか」とは思った。

 それでも――あの夢のことを考えると、やっぱり嫌な予感が消えない。


「それはそうだけど……でも、なんか胸騒ぎがするんだよ」


 僕が眉を寄せてそう言うと、夏音はふっと何かを思いついたような顔をした。


「じゃあさ、優斗もこっそり付いて来ればいいんじゃない?」

「ぅえ?」


 箸を持った手が止まる。


「見つからないように後をつけて、もしあたしがピンチになったら助けに来てよ!」


 まるで名案みたいに言うけれど……。

 うーん、それは流石に岡崎に悪い気がするな。


 もし本当に夏音が告白されるとして、今呼びに来ないってことは、たぶん放課後だろう。

 ……だったら、帰りに校門の前で待っていればいいか。


「いや、それはやめとくよ。見つかったらどうなるかわからないし」


 軽く笑ってそう返すと、夏音はほんの一瞬だけ不安そうな顔を見せた。


「うーん……そっか。まあ、勇気出して告白してくれてるのに盗み聞きはよくないよね」

「まあね。それに僕がいたって、別に力になるわけでもないし」


 軽い自虐を混ぜると――


「それもそうね。優斗って運動神経ゴミだもんねぇ」


 にっと笑いながら、わざとらしいほど煽ってくる。


「改めて言われると腹立つな!」


 ……事実だから言い返せないのが余計に悔しい。

 ヤケ気味に残りの弁当をかき込む。


「あはは、ごめんごめん。でもありがとう、もし岡崎くんに告白されるとしたら気を付けてみるね」

「……うん、気を付けて」


 ……やっぱり、少し変だ。

 普段は明るい彼女が、今日は時々暗い影を落とす。

 笑っているけど、どこか無理をしているように見える。


 なんとも言えない悪寒が胸を締め付ける。

 今日で何かを失ってしまいそうな――そんなモヤモヤが残る。


 ――――――――――――――――――――――――――


 朝から感じていた落ち着かなさは、優斗と話すうちに少しずつ薄れていった。

 それに、今日告白してくるかもしれない岡崎くんについての情報も得られた。


 ……夢で何度も見たあの場面が、現実に近づいている。


 ただ、夢の先は見えなかった。

 岡崎くんがポケットに手を入れた、その瞬間からの記憶が一切ない。

 あの後、私はどうなるのか。

 彼は何を取り出そうとしていたのか。


 ……わからない。

 出来る事があるとするなら……。


「心の準備、だよねぇ……」


 ため息まじりの言葉が漏れたとき――


「ん? ごめん、考え事してて聞いてなかった。それでどうしたの?」

「あ、いや、なんでもない! 告白されたときに変に慌てないようにしないとって思っただけ」

「そっか。間違えても慌ててOKとかしないでよ?」

「わ、わかってるってば!」


 優斗が悪戯っぽく笑うので、つい睨み返してしまう。


「ごめんごめん……あ、昼休みももう10分くらいだね」


 時計を確認する優斗につられ、私も視線を向ける。

 確かに、教室には昼食を終えたクラスメイトが戻ってきていた。


 ――――――――――――――――――――――――――


「確かにね。次は担任の授業だし、どうせ自習でしょ」

「あはは……たしかに」


 うちのクラスの担任は基本的に黒板を使って授業をしない。

 基本的にプリントを配ってそれをやっとけ~って感じだ。

 しかしそれは不思議とわかりやすいし、すんなり頭に入ってくる。


「あの先生、あれで評価高いよね」

「生徒からの人気もそこそこあるし、授業が楽だからじゃない?」

「……あたしにはちょっと難しいけど」


 優斗がスマホを取り出し、フリタイ(フリータイムズ)を起動する。

 最近流行りのSNSアプリで、チャットや通話が無料でできる。


『プリント終わり次第ここに集合。ちょっと真剣な話がある』


 送られたメッセージは、クラス全員ではなく仲の良いメンバーだけがいるグループ宛だ。


『お、ヤエから話とか珍しいじゃん』

『俺らで良かったら協力するぜ』


 昼休み終わり間際なのに、すぐに8割以上が返信してくれる。

 本当に心強い。


『おっなになに、面白そうなことしてんじゃん。先生もまぜてよ』


 ……先生?


「はぁ……誰が招待したんだよ……!」


 思わず漏らした独り言に、夏音が首を傾げる。


「……大丈夫?」

「あ、ああ……いや、大丈夫じゃないかも」

「相当ショックなニュースだね……ドンマイ」


 彼女に手を振って「平気だよ」と示すが、夏音はまだ怪訝な顔のままだ。


 そこへ、再び通知が鳴る。


『あー別に成績減らすとかしないから安心しろ。俺はテストの点数だけで成績つけるから』


 普段は冴えないくせに、こういう時だけ変にノリがいい。


『先生テキトーすぎwww』

『じゃあプリント終わったら皆で叫ぼうぜ』

『頼 む か ら や め ろ』


 そんなやり取りをしていると、担任がスマホを片手に教室へ入ってきた。


「よーし、授業始めるぞー」


 教卓にプリントを置き、一番前の席の生徒が慣れた手つきで配り始める。


「号令はなしでいいぞー。じゃ、これやっといてな」


 そう言い残して、担任はまた教室を出て行った。


「せめて中にはいろよ……」

「まぁまぁ、この方が楽じゃん?」

「それもそうか……よし、さっさと終わらせて駄弁ろうか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ