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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
38/111

#38 非現実的な光景

 棟哉が言っていた「嫌な予感」。

 ……一応、僕も頭の片隅に置いておいたほうがいいかもしれない。


 そう思いつつ肩を落とし、大きくため息をつく。


 ――夏音には悪いことをしたな。

 勝手に怒ってしまったのは完全に僕の落ち度だ。後でちゃんと謝ろう。


 そう決意して立ち上がった瞬間、ふらつきと同時に急な眠気とだるさが全身を襲ってきた。


 ……今日の疲れが一気にきたのか?

 足が重くて、立っているのすらしんどい。


 僕は再びソファーに腰を下ろし、そのまま横になる。


「ごめん……夏音……」


 言葉が口からこぼれたあと、視界が暗くなり、意識はぷつりと途切れた。


 ――――――――――――――――――――――――――


「さっきは言いすぎちゃったかな……」


 お風呂に入りながら、私は少し反省する。

 上がったら、ちゃんと優斗に謝ろう。


 シャワーで今日一日の汗と疲れを流しながら思い返す。

 いろいろあったけど、結局また泊まることになっちゃったな。


 ……あ、そういえば、着替えは今日の分しか持ってきてなかった。

 明日の分がない。

 後で優斗にお願いして、一緒に家まで行こうかな。

 仲直りも兼ねて。


 髪のケアも済ませた私は、お風呂場を後にした。


 ――――――――――――――――――――――――――


「あれ、優斗寝ちゃった……?」


 寝巻き姿でリビングに戻ると、ソファーに横になって静かに眠っている優斗がいた。


「おーい、ゆうとくーん? やえざくら ゆうとくーん?」


 頬を軽くぺちぺち叩きながら声をかけても、まったく反応がない。


 ……疲れてるだろうし、このまま寝かせておこう。


 脱いであった優斗のシャツをそっと掛けると、私は玄関へ向かった。

 時刻はもうすぐ21時。

 外出するには少し遅い時間だが、家まではそう遠くない。


 玄関のドアを少し開け、隙間から自宅の方向を覗く。


 ――そこに広がっていたのは、灰色の煙と、赤く染まった空。


「……え?」


 一瞬、現実感が追いつかない。


「火事……だよね」


 まさか、あの夢は――!?


 考えるより先に、私は外へ飛び出していた。


 ――――――――――――――――――――――――――


『どこ……!? 返事してよ!』


 暗闇の中、僕は必死に誰かを探していた。

 なぜそんなに必死なのか、自分でもわからない。


『……や! そっちは!?』

『見当た……い! ひ……ちゃんは!?』

『私もダメ……!! た……て……な……ちゃ……っ!』


 棟哉の声、天名さんの声……そして――夏音がいない!?


 息が詰まり、軽くむせる。


「ケホ……な、なんで……?」


 ――――――――――――――――――――――――――


「……ッ!!」


 咳と同時に、僕は飛び起きた。


「な、何だったんだ……今の夢」


 胸の奥に引っかかる感覚と、やけに渇いた喉の痛み。

 水でも飲もう……。


 体を起こしたとき、ふと違和感に気づく。


「夏音が……いない?」


 お風呂上がりの香りはする。

 でも、家の中は妙に静かだ。

 人の気配がない。


 スマホを確認しても連絡はなし。

 棟哉からのフリタイも来ていない。


 ……念のため玄関を確認しよう。


 恐る恐る覗くと――


「……マジか」


 夏音の靴がない。


 コンビニに行っただけかもしれないが、置き手紙も連絡もないのは夏音らしくない。


 そのとき、遠くから消防車のサイレンが聞こえた。


「火事……? まさか……」


 サンダルを突っかけて外に出る。


「……って、近い……! あの方向って……」


 煙の上がる方角は、夏音の家のある方だった。


「まさか一人で!?」


 走っては間に合わない。

 僕は庭に向かい、自転車を引っ張り出した。


 ――――――――――――――――――――――――――


「はぁ……はぁ……ここ……私の家の前……!?」


 夜空を赤く染める炎を目印にたどり着いた場所は、自分の家の近く。


 燃えていたのは、家の向かいにある、空き家だったはずの一軒家だった。


「なんで……空き家が……」「誰かの悪戯?」


 到着していた消防隊が消火活動を進める中、頭の中で疑問が渦巻く。


 ガス漏れ……ではないだろう。

 誰かへの当てつけ?

 一体、誰に?


 ――あの夢を思い出す。

 視界の悪い中、地に伏していた自分を。


 まさか、あれって……私?


 ぞくりと背中に冷たい感覚が走った瞬間、背後に気配を感じて振り返った。


「あ――」

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