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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
34/111

#34 無条件の安心感

「よ、よう……邪魔したよな? 俺、ちょっと散歩でも行ってくるわ!」

「ま、待ってってば! 違うから! ……いつから見てたの?」

「えっとな、『いや無理でしょこれ』あたりからかな」


 ……ほとんど最初からじゃないか。

 しかも冒頭を聞いてないとなれば、そりゃ勘違いもするか。


「って、お前……顔真っ赤じゃねぇか。まさか熱か?」

「ち、違……もう、ほっといてよ!」


 棟哉はニヤリと笑うと、俺の耳元に顔を寄せてくる。

 夏音のことになると、この人は必ずこうだ……正直、ちょっと恥ずかしい。


「(やっぱお前、夏音ちゃんに好かれてんじゃねぇの? 前にも言ったけどさ、絶対優良物件だぜ?)」

「(だからその話はもういいって! ……夏音は体調悪い時に誰かに甘えたくなっただけだよ。両親も家にいないし、俺だってそういう時ある)」

「(ふーん……お前がそう言うなら引っ込めるけど、俺はやっぱそうだと思うけどなぁ)」


 ジト目でこちらを見てきた棟哉だったが、ふと何かを思い出したように目を開く――


「そうそう、夏音ちゃんのために――」

『ただいまです~』


 リビングに少し高めの声が響く。詩乃ちゃんが帰ってきたらしい。


「おかえり、詩乃ちゃん。お買い物ありがとう」

「なんだよ詩乃、俺が気の利く男だってとこを――」

「はいはい、兄さんはいつも気が利くよ。……って、何その顔?」


 詩乃ちゃんの手にはレンジで温められるお粥と頭痛薬、さらに味変用のご飯のお供がぎっしり入っていた。

 だが棟哉がその袋を見て、やたらと驚いた表情をしている。


「……もしかして、棟哉」

「あぁ。俺も同じお粥とお供一式を買ってきた。ほら、玄関横に置いてあるだろ?」


 指差す先を見ると、確かにそっくりな袋が鎮座している。

 詩乃ちゃんは苦笑しつつ額に手を当てた。


 ありがたいけど、これじゃ材料が余りまくるな……。


「じゃあ、今日はみんなでお粥パーティーにしよう! 夏音だけお粥じゃ寂しいしさ」


 俺の提案に、二人は同時にこちらを振り返り、顔を輝かせた。


「お、それはいい! 詩乃、早速準備だ!」

「うん、そうだね! 絶対楽しいよ!」


 さっきまでの空気が嘘のように二人のテンションは跳ね上がり、テキパキと動き出す。

 その手際に、思わずぼーっと見とれてしまった。


「……あ、僕も――」


「ヤエはそこでストップ」「ヤエ先輩も動かないで」


 膝で眠る夏音をそっと起こそうとした瞬間、二人から即ストップが入る。

 ……確かに、頭痛で休んでる子の頭を動かすのは無粋だ。


「……そうだね。じゃあお願いするよ」


 俺が微笑むと、棟哉は小さくガッツポーズ、詩乃ちゃんは頷き、準備に戻った。


『兄さん!? 一度にそんなにレンジ入れないで!』

『え? だって効率いいじゃん』

『温度ムラになるの! 一個ずつ!』


 そんなやり取りを耳にしながら、俺は夏音の寝顔を覗き込む。


「くぅ……くぅ……あ、りがと……」

「あはは……寝言かな。どういたしまして」


 その柔らかな寝顔を見ているうちに、こっちまで眠気が――


 ――――――――――――――――――――――――――


 私はまた、不思議な夢を見た。

 いつもと似ているけれど、少し違う。


 体は動かず、視界も霞んでいる。

けれど太ももの辺りを誰かの腕が支えていて、上下に揺れている感覚がある。


 ……背負われてる?


 普通なら暴れようとするのかもしれない。

でも、金縛りのように動けず……いや、動こうとも思わなかった。

 むしろ、安心してこの背中に体を預けたくなった。


 何も考えず、このまま運ばれていたい――そんな気持ち。


 かろうじて動く唇で「ありがとう」と呟くと、「どういたしまして」という声が耳に届いた気がした。

 そのまま意識は、静かに遠のいていく。


 ――――――――――――――――――――――――――


「(兄さん兄さん、アレ見て)」

「ん? ……あぁ、そういうことか」


 棟哉は、眠る優斗と夏音を交互に見て、ゆっくり頷いた。


「二人とも、すごく安心した顔してる」

「あぁ……なんでこうも信頼し合ってんだろうな」

「そういえばそうだね……兄さん、ヤエ先輩に友達として見られるまですっごい時間かかったのに」


 詩乃がさらっと棟哉を煽る。

これがこの兄妹の平常運転だ。


「うるせぇ。ま、今の明るいヤエになったのは俺のおかげだ」

「うん、遊んでても楽しいし、友達も増えたみたいで良かった」


 そんな会話の後、二人の視線は自然と夏音へ。


「……なぁ、詩乃。この寝顔、反則じゃないか?」

「あー……うん。でも兄さん、異性の寝顔をじっと見るのはアウトだよ」


 そう言いながら、詩乃も優斗の寝顔をしっかり見つめていた。


「そうは言ってもさ……見とれるなって方が無理だろ。白雪姫って言われても信じるぞ」

「わかる。私も信じる」


 夕陽に照らされ、ほんの少し髪が頬にかかるその姿は、本当に物語から抜け出したみたいだった。


「はぁ~あ、ヤエさんよぉそこ変わってくれよぉ……」

「兄さん、その言い方ガチっぽいからやめて」

「いや、ガチなんだが……」


 そんなやり取りをしていると――


「ん……あれ、私……」


「(……起こしちゃったな)」

「(だね、ちょっと悪いことしたかも)」

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