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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
33/111

#33 誰かに傍にいて欲しい

「まぁ薬ならあるけど……アレルギーとかあるかもしれないから、箱をちゃんと見てね?」

「うん。でも、あたし大体の頭痛薬は飲んだことあるし大丈夫だと思うよ」


 ……大体を飲んだことある!?

 夏音って偏頭痛持ちだったのか……?


 心配を抱えつつ戸棚を開け、薬入れを――って、


「ゲッ! もう全部無いや……」

「このタイミングで!?そっかぁ……」

「私、買ってきましょうか? お粥も買おうと思ってましたし」

「ナイスだよ詩乃ちゃん! お金渡すからお願いしてもいいかな?」

「い、いいです……前にそう言ってブラックカード渡してきたじゃないですか」


 その言葉に、夏音が驚きと呆れを半々にした顔を向ける。


「ゆ、優斗……それはちょっと……」

「ですです……信用してくださるのは嬉しいんですけど、流石にこれは……」

「だって棟哉の妹なんだし、悪いことなんてしないし……もししたら棟哉にこっぴどく怒られるでしょ?」

「そ、それは……とにかく! 夏音先輩が心配ですし、私の奢りでいいです! じゃあ行ってきます!」


 言い終わるや否や、詩乃ちゃんは勢いよく玄関を飛び出していった。


「あ、ちょっと……別に僕は気にしないのになぁ」

「優斗、少なくとも渡された側は気が気じゃないよ……」


 そんな軽いやり取りを交わす間に、もう彼女の足音は遠ざかり、この部屋には僕と夏音だけが残された。


「……ねえ、優斗」

「ん、どうしたの?」


 ソファーに腰をかけ直してしばらく後、ふと気づくと私は優斗の服の裾をぎゅっと掴んでいた。


「……やっぱり、頭痛い?」

「うん」


 嘘じゃない。

けど、それだけじゃない。

 胸の鼓動が落ち着かず、ただ――彼にそばにいてほしかった。


「少しだけ……傍にいてもらっていい? こうしてると落ち着くから」


 か細い声でそうお願いすると、優斗は少しどもりながらも頷いた。


「う、うん……いいよ」


 彼は照れたように顔を赤らめ、私の隣に腰を下ろし、そっと寄り添ってくれる。


「こんなので夏音が良くなってくれるなら、僕はいくらでも近くにいるよ」


 その笑顔に、胸の奥が温かくなる。

……あぁ、やっぱり――


「――、だなぁ……」

「……? なんか言った?」

「ん、あたし何か言ってた?」


 頭痛のせいで、さっきまでの思考も言葉も霞んでしまう。


「……そっか。それより辛そうだね……もし良かったら膝でも貸そうか?」


 心配そうな顔をしながらも、優斗は少し悪戯っぽく笑って自分の膝をぽんぽんと叩く。


「やだ」

「あはは……男の膝じゃやっぱ嫌だよね、ごめん変なこと言っちゃって」

「あ、いや、そういう意味じゃなくて……」


 今また寝たら、あの夢を見てしまうかもしれない。

 でも――彼に嫌われるのは、もっと嫌だ。


 ―――ぽすり。


「……ん? え、ちょっと夏音!?」

「静かにして……頭に響くから」

「あ、ごめん……」


 今は何も考えず、この温もりに身を委ねたい。

 きっと、護ってくれるから。


 ――――――――――――――――――――――――――


 ……で、僕はどうすればいいんだ!?


 いつもの冗談半分で膝枕を提案しただけなのに、今こうして本当に夏音が膝の上で眠っている。


 元気が無さそうだったし少しでも元気づけようといつものノリでふざけたら、予想以上に嫌がられた上にホントにするなんて一切思ってなかったし、顔赤くてなんか息も荒いし何これ誘ってんの!?


 あぁダメだダメだ! 一旦落ち着かないと……。


「あー……落ち着け……いや無理でしょこれ」


 思わず項垂れるが、視界に入る寝顔と甘い香りがさらに心臓を煽ってくる。


 夕陽に照らされた夏音は、おとぎ話のヒロインみたいだった。

 その姿に、不意に愛おしさが込み上げる。


「あ、頭撫でるくらいなら……いい、よね?」


 自分に言い聞かせて手を伸ばす……が、髪まであと10cmのところで引っ込めた。


「……やめとこう」


 親友として、それ以上は踏み越えられない。

 膝枕させてもらえてるだけで、もう十分だ。


「けど、こんな姿棟哉に見られでもしたら……あ」

「あ」


 顔を上げると、廊下からこちらを覗いている棟哉とバッチリ目が合った。

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