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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
18/111

#18 事件の予感

「そうだね……じゃあ僕は、先に部屋を軽く片付けておこうかな」

「おっけー! じゃああたしはパパっと行ってきちゃうね」


 そう言って、私は自分の家の方へ軽く駆け出した。


「夏音、気をつけてね!」

「わかってるって! また後でねー!」


 軽く手を振り合い、私たちは一度そこで別れた。


 ――――――――――――――――――――――――――


 ……夏音と別れ、自宅に入った僕は、玄関のドアの覗き穴から外をそっと伺っていた。


「こうしていれば、きっと『奴』は……」


 数分後、予想通りの人物が姿を現す。

 全身黒ずくめ、がっしりした体格の男――あいつだ。僕らの後をつけてきていたに違いない。


 ……狙いは夏音か!?


 僕は音を立てないようにゆっくりとドアを開け、男に気づかれぬようこっそりと後を追った。


 ――――――――――――――――――――――――――


 男を尾行していくと、気づけば夏音の家の近くまで来ていた。

 夏音が家の中に消えると、男はしばらく周囲を見回し、何かを見つけたように動きを止める。


 その視線の先――見覚えのある苗字、「天名」の表札。


 まさか……最初から狙いは夏音じゃなく、天名さん!?

 彼女と天名さんは長い付き合いだと言っていたし、家が近くてもおかしくない……。


 男は何やら紙にメモを取ると、足早にその場を去った。


 僕は近くの電柱に身を隠し、顎に手を当てて考える。

 ……このことは誰かに伝えるべきだろうか。

 だが、夏音や伊織さんに話せば、かえって危険に巻き込んでしまうかもしれない……。

 そうだ、あの人なら――


「ねぇ、こんなところで何やってんの?」

「ッ!?」


 聞き慣れた声に、思わず体を震わせて振り向く。

 そこには、着替えを詰めたバッグを肩にかけた夏音が立っていた。


「そんなに驚かなくてもいいじゃん……で、何してたの?」

「あ、あはは……実はさ、思ったより片付けることがなくて。だから夏音を迎えに来たんだよ」

「へぇ……そうなんだ?」


 ……完全に怪しまれてる。


「そ、それより! ここで立ち話してても疲れるだけだし、さっさと僕の家に行こうか」

「……うん、それもそうだね!」


 ……この件は、明日の『あのタイミング』でみんなに相談しよう。


 ――――――――――――――――――――――――――


 そんなこんなで、優斗の家までの10分ほどの道のり。

 さっきまでの彼の張り詰めた空気は消え、他愛ない会話で時間が過ぎていく。


「もう着いたか……なんだかあっという間だったね」

「だよね、話が楽しいと時間なんて吹き飛んじゃうよ!」


 ……さっきの帰り道も、こうやって話せればよかったのに。


「……あの、何か怒ってる?」

「怒ってないって!」


 優斗は少し寂しげに「何かしちゃったかな……」と呟いた。


 ――ふふん、これであたしの気持ちもわかるでしょ。


 そうして、私たちは家の中へ入った。


 ――――――――――――――――――――――――――


「じゃあ僕はお風呂に入ってくるね」

「うん、その間にあたしはゲーム探しとく」


 呆れたような顔をした彼がリビングを出ていく。

 さて……あのゲームはどこだろう。


 テレビ台の下を探していると――『ピンポーン』と玄関のチャイムが鳴った。


『ごめーん! 宅配便かもだから玄関出てくれるー!?』

「おっけー!」


 優斗は限定品やレア物を通販で揃えるタイプだ。

 だから宅配便は日常茶飯事らしい。


 ……そりゃ体力もつかないよね。

 まぁ、彼らしいけど。


 そんなことを考えながら玄関へ――


「はーい、どちらさ……ま……」

「よっ! なんか大変そうだから様子見に――」


 知っている顔がそこにあり、思わず固まる。


「なあああぁぁ!?」「ひあああぁぁ!?」


「な、なんで水津木(みづき)くんが……?」

「それは俺のセリフ!」


 水津木 棟哉(とおや)――優斗の親友だ。

 そんな彼が独り言のように呟く。


「なるほど……じゃあ本当に連れ込んだわけか……あのヤエが夏音ちゃんを……」

「兄さん、その辺にしてあげなよ」


 声の方を見ると、棟哉くんの後ろから小柄な少女が顔を出した。


「あれっ!? 妹ちゃんいたんだ!?」

「あぁ、言ってなかったっけ? ほら詩乃(しの)、自己紹介」


 詩乃と呼ばれた少女が、じっと私を見る。

 背丈は140cmくらい、中学生にも見える。


 ……ちっちゃくてかわいい。


「水津木 詩乃です。よろしくお願いします、先輩」


 ……せんぱい!?


 私が驚いた顔をしていたのか、詩乃ちゃんは少しむっとする。


「私、高校1年なんですけど」

「あ、もちろんわかってたよ!? ほら、その制服あたしと同じだし!」

「ほんとですかぁ……?」


 細い目でじっと見られる。


「まぁまぁ、玄関で立ち話もなんだし上がらせてくれよ。ヤエだって俺なら大丈夫だろ」

「……そ、そうだね! 上がって!」


 そう笑いかけた詩乃ちゃんは、プイッとそっぽを向いた。

 どうやら第一印象は最悪らしい。


 ――――――――――――――――――――――――――


「私は篠原 夏音。先輩らしくないかもだけど、よろしくね」

「……よろしくです、篠原先輩」


 後輩に先輩と呼ばれるのは初めてで、少し照れくさい。


「あはは……なんかむずがゆいな」

「じゃあ、夏音先輩で」

「うん、それなら大丈夫! ありがとね」


「よし、自己紹介も終わったし、何かやろうぜ! パーティゲームとかない?」


 棟哉くんは遠慮なくテレビ台を物色する。


「兄さん、マオパあるよ!」

「お、ほんとだ。詩乃、これやってみたかったんだよ」


 ……この兄妹、ペースが速い。


 ――――――――――――――――――――――――――


「詩乃ちゃん! 後ろ!」

「ッ!? ありがとうございます、夏音先輩!」

「何ィ!? 避けただと……やるなぁ」


 気づけば、詩乃ちゃんとはすっかりチームを組む仲になっていた。


「ふぅ……危なかった。詩乃ちゃんナイス!」

「夏音先輩も、いい動きでした」


 握手を交わし、笑い合う。


「くそ……あとちょっとだったのに。もう一回だ!」

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