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季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
17/111

#17 重い足取りと緊張

「ふぅ、お腹いっぱいだし、そろそろ帰ろっか」

「あたし帰ってゲームしたい!」


 遅めのランチを終えた僕らは、特に寄りたい場所もなくブラブラしていた。

 時刻は15:00。帰るにはちょうどいい。


「そういえば前、ヒロインが敵に捕まるとこで時間切れだったよね」

「うん! あれの続きが気になって仕方ないんだよ!」

「あの時の夏音、めちゃくちゃ悔しそうだったな。あの後、結構熱いイベント来るから楽しみにしてて」

「よし! 尚更燃えてきた!」


 夏音は両手を握って胸の前で力を込めるポーズ。

 ……あ、そういえば先生に連絡してなかった。


 僕はスマホの電源を入れ、画面を見て固まる。


「……どうしたの? 急に止まって」


 フリタイのアイコンに「99+」の通知。嫌な予感しかしない。

 開くと――やっぱり。


「物宮先生、夏音がウチに泊まるってバラしやがった……!」

「え”」


 変な声を出した夏音が、すぐさま焦った顔になる。


「ど、どうしよう!?」

「……じゃあこうしよう」

「優斗……すっごい悪い顔してる」


 おっと、作戦が良すぎて顔に出てしまったか。


「僕が階段で盛大に転んだことにする」

「うん……優斗ならありえそうだね」

「……無視するよ? で、腕を怪我した僕が、家が一番近い夏音を呼んで身の回りを手伝ってもらう。これで男子は納得するはず」

「うーん……階段のくだり以外は嘘じゃないけど……」


 微妙な顔をしてるな……岡崎の件も隠せるのに。


「男子はこれでOK。女子のほうは夏音、頼んだ」

「えぇ、あたし!? ……わかった、頑張ってみるよ」


 肩を落とす夏音に「頼んだ!」と軽く叩いてから、僕は先生への連絡に集中する。


 グループも個人チャットもメッセージだらけ。

『おい貴様ツラ貸せやゴルァ』

『どこまで進んだか詳しく』

『俺さりげな~く篠原狙ってたのにぃぃ!』


 大体この3パターンだ。

 夜にまとめて返そう。


『お疲れ様です。明日9時以降に僕の家にお願いします』

『わかった。9時ぴったりに行く』


 やっぱり早めに連絡して正解だ。

 この人、本気で日付変わった直後に来かねない。


『それと……あのグループの連中、なんとかしてくれないか? クラス中で話題になってる』

『あー、さっき夏音と作戦立てました。任せてください』

『……マジで頼む』


 スマホを閉じ、ため息をひとつ。


「夏音……来週、頑張ろうな」

「うん……そだね」


 重い足取りで、僕たちはショッピングモールを後にした。


 ――――――――――――――――――――――――――


 お店を出ると、空はすっかり茜色に染まっていた。

 制服姿の学生たちがぽつぽつと歩いていて、夕方の空気が一日の終わりを告げているのがわかる。


「今日は楽しかったね! また一緒に行こうよ」

「あたしも! アイスもすっごく美味しかったし!」

「夏音は食べ物のことばっかりだなぁ」


 優斗はケラケラと笑う。

 ……う、やっぱりちょっとからかわれるのは恥ずかしい。今度から気をつけよう。


「う、うるさいなぁ」

「あはは、ごめんごめん……そういえばさ、着替え持ってきたらどう?」

「あ、そうだね。流石に優斗の家に女の子用の服は無いだろうし……」


 昨日は体操着でなんとかしたけど、二日連続は流石に避けたい。

 しかも、優斗に洗濯まで頼むなんて……考えたくない。


「ごめん、ちょっと遠回りになるけど寄らせてもらってもいいかな?」

「いいよいいよ。流石に僕の服を貸すのは……ね」


 ――優斗の服を借りる。


 普段、隣にいる時にふっと漂ってくる柔軟剤と石鹸の香り……。

 あれをずっと近くで嗅げるってこと……?

 いやいや、なに考えてるの私ッ!


「どうしたの? 今日はやけにテンション高いね?」


 考えを振り払おうと首をぶんぶん振っていたら、優斗が覗き込んできた。

 距離が近い。

 その瞬間、優斗特有の爽やかな香りが鼻先をくすぐる。


 ……だめだ、意識したせいで心臓が速くなってる。


「な、ななんでもないよ!? さ、早く行こうよ!」


 思わず真っ赤な顔のまま進行方向を指差す。


「んん? まぁいいや。それじゃ――あれ?」


 優斗は急にショッピングモールの方を振り返り、首を傾げた。

 私はそんなの構わず、とにかく歩を進める。


「早く行こうってば! 置いてっちゃうよ!」

「……うん、そうだね。(気のせいだといいけど……)」


 ――――――――――――――――――――――――――


「とりあえず優斗の家に着いたね……どうする? 一緒に行く?」


 結局優斗はここまでたまに後ろを気にしていてあまり話が弾まなかった。

 興味ありそうな話題を振ってもどこか上の空、という感じだ。


 ……何かあたししちゃったのかなぁ。

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