表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
季節の夢にみせられて  作者: ほたちまる
105/111

#105 インターホン

「ただいまー!」


 玄関に足を踏み入れた瞬間、少しだけ体から力が抜けた。

 ヒオちゃんと並んで靴を脱ぎ、「変なことがなくてよかったね」と言い合う。

 けれど胸の奥に残るあのざわつきは、まだ消えてくれない。


 背中にまとわりついていた視線。

 気のせいだと思いたいのに、頭のどこかで「そうじゃない」と囁く声がある。

 しかも、さっき無意識に優斗の名前が浮かんだことを思い出し、妙な気恥ずかしさまで加わって落ち着かない。


「ちょっと怖かったけど、なっちゃんと一緒だったから大丈夫だったかも~!」


 ヒオちゃんがそう言って笑いかけてくる。

 その笑顔は、無邪気で、でもどこか何かを探るような光を宿していた。


「そうだね。あたしもヒオちゃんがいてくれて心強かったよ。ありがと」


 そう返しながら、つい窓の外に目をやる。

 街灯に照らされる静かな道――誰の姿もない。

 けれども、皮膚の奥にひりつくような違和感は、まだ完全には消えなかった。


「なっちゃん、まだ気になる?」

「……ううん。多分気のせいだと思うけど、なんとなく」


 曖昧に答えると、ヒオちゃんは「そうだね、気にしすぎるのもよくないよ」と肩を軽く叩いてくれた。

 その仕草は明るくて、いつも通りの彼女らしいのに――ほんの一瞬だけ、彼女の視線が玄関の方へ鋭く走った気がした。


 夕飯の話をしていた、そのとき――インターホンが鳴った。


「え……?」


 この時間に鳴ることなんて滅多にない。

 私とヒオちゃんは顔を見合わせ、立ちすくむ。


「誰だろう……」

「ちょっと待って、私が見る」


 ヒオちゃんに下がるよう促し、慎重にモニターを確認する。

 そこには――誰も映っていなかった。


 ……え?

 いたずらにしてはタイミングが良すぎる……よね。


 心臓が強く脈打つ。

 玄関に手を伸ばしかけたとき、ヒオちゃんが「待って!」と鋭い声で制した。


「なっちゃん、開けない方がいい」

「……うん」


 結局、二度目の呼び出しはなく、玄関を施錠しカーテンを閉めても、不安は消えなかった。


――――――――――――――――――――――――――


 夏音たちの家へ向かう道を、一定の距離を保ちながら進む。

 背中に感じていたあの刺すような視線が、徐々に薄れていくのが分かった。


「なぁ、ヤエ。……そろそろいいんじゃないか?」


 棟哉の声に意識を向ける。

 確かに、さっきまでの圧迫感はなくなっていた。


「うーん……戻ってもいいのかな……?」

「まぁ、気のせいだったんだろ。ほら、あいつらも無事に家に入ったし」


 棟哉の指先、街灯の下で夏音と天名が家に入っていく姿が見えた。

 それを確認し、わずかに肩の力が抜ける。


 ……やっぱり気のせ――


「……よう、八重桜」


 突然、背後から声がして心臓が跳ねた。

 振り返ると岡崎が立っていた。


「岡崎!? なんでこんな所に……」

「お前がコソコソ歩いてんの見たからだよ。何してんだ?」


 唐突な登場に拍子抜けする反面、心臓の高鳴りはすぐには収まらない。


「いや……なんでもないよ」

「なんでもないって顔じゃねぇな」


 岡崎が探るような視線を向ける横で、棟哉は無言で夏音たちの家の方を見やっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ