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月白

第四章 


優しい夢を見ていた。


私は夕暮れ時のサバンナをツキシロとゆっくり歩いていた。

夕食前のひと時を一緒に過ごすのは私たちのお気に入りの日課だった。


夜の帳がおりる前の、昼の名残の暖かさを残した大地と夜の冷たさを孕んだ大気が混じりあって生む風が、爽やかな草木の匂いを運んでくる。


先を歩く私が振り返ってツキシロ!と呼ぶと白いからだを夕陽に染めた小象が小走りで追いかけてくる。

その瞳はどこまでも澄んだ空の色だ。


ああ、良かった。


ツキシロは生きている。

私はツキシロを守りきれたんだ。

達成感と嬉しさで心が満たされる。そしてその幸せな思いのまま目が覚めた。


目が覚めると白い髪と空色の目をした青年が穏やかな顔をして私をのぞき込んでいた。


それは間違いようもなくツキシロだった。

姿かたちは小象のツキシロとは全く違うのに、同じ魂の波動を感じる。


ああ、やっぱり。ツキシロは生きていた。

嬉しくなって微笑みながら名前を呼ぶと、青年の目元がわずかにほころんだ。

前世でもよくそうしていたように、首に抱きつくと久しぶりだなと前世の名前を呼ばれる。


「生きていたの?」

「お前が命を懸けて守ってくれたおかげでな。私はあのあと七十年生きた。」


「じゃあ、ちゃんと寿命を全うしたんだね。」

「ああ、お前の居ないあの世界は退屈だったが、お前を犠牲にして守られた命を大切にしなければ顔向けができないからな。まあ、またすぐに会えるのは分かっていたから、たいして寂しくもなかった。」


こうして会えることを分かっていた口ぶりに、疑問が一気に湧いてくる。


「ツキシロは私が転生することが分かってたの?ツキシロも転生したの?」

「お前をこの世界に転生させたのは私だ。あの象はあの世界での私の分身だ。私は長い時をいくつかの世界を渡り歩きながら生きている。お前が私を庇って死んだとき、私はお前の命を惜しんだ。だが、あの世界の私はあの世界の理に従わなければいけない。お前を生き返らせることはできなかった。しかし死んで魂となった後はあの世界の理に縛られることはない。だから私はお前の魂をこの世界に生まれ変わらせることにしたのだ。ささやかな魔力と前世の記憶と共に。」


「この世界って何なの?前の世界と何か関連しているの?」


「お前がいつか嬉しそうに私に話したことがあったろう。多次元の世界について。あの世界の一つだ。互いの世界からは見えない。だが確かに存在している。」そういわれてピンときた。


ハーバード大学のリサ・ランドール博士が二〇〇六年に一般読者向けに書いた『Warped Passages』という本を読んで、興奮してツキシロに話をしたことがある。


あの頃の私は、なぜかツキシロが私の言うことを理解しているような気がして、ツキシロを相手に一方的におしゃべりをするのが好きだった。


「この世界では魔法が使えるのはなぜ?魔法って何?」


「この世界を構成する物質にはあの世界にはなかった物質が含まれている。魔素とでも呼べばよいか。それが魔力の源だ。これを多く身に宿している存在は魔力を有することになる。最近は魔素を体内にとどめられる生き物は減ってきているが。ペガサスやユニコーン、グリフィンや竜はいまだに強い魔力を有している。お前が前の世界で大人になってもペガサスやドラゴンに憧れていると言っていたから、この世界に転生させてみた。気に入ったか?」


「もちろん!ツキシロはこの世界のヒトなの?」


「私はもともとこの世界に竜として生まれた。このヒトの姿は私の本来の姿ではない。先日会った時の姿が私の本来の姿だ。」

「原始の竜!だから姿をみたときあんなに懐かしい気持ちになったのね。」


「数十年ぶりに見たお前は、相変わらず自分以外の誰かの命を救おうと必死で、私も懐かしい気持ちになった。変わらないな。」そういってツキシロは優しく笑った。


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