95.キャラエピソード:アコニト 後編
黒竜とリコリスの戦いは始まったが、あまりにも動きが速すぎて木村の目では到底追えない。
リコリスが境内中に炎の刃を出しているが、黒竜はその炎の刃を避けている。
さらに接近戦になるが、リコリスの体から出る刃を黒竜が避け、さらに黒竜の攻撃をリコリスも自らを炎と化して回避していた。
動きは速いが、音は速さに反比例するかのように静かである。
「今さらなんだけど、あのリコリスさんは何者なの?」
木村は隣でぼんやりと戦いを見ていたアコニトに尋ねる。
彼女は「あぁ?」と嫌そうな顔をしたが、しぶしぶといった様子で口を開いた。
「儂らの後見神だぁ」
「後見神?」
初めて聞いた単語だ。
後見人みたいなものだろうか。
アコニトが本殿の近くにいた記憶アコニトと他二人の獣人を示す。
「儂とトリキルティス、ウィステリア――三大影神の見届け役だぁ。大昔には日陰神リコリスとも呼ばれておったなぁ。双極神の後継たる儂らを育てる役を担っておったんだぁ」
神の情報量が多すぎて木村は辟易した。
要はアコニト達の育て役ということだろう。
「しかしなぁ。儂もこの時の記憶はあるが、あの時、敵の正体がわからんかったのはこういうことかぁ?」
「はいー。私の力と合わさっていたのでー、当時のあなたでは見えないと思いますねー」
確かに後ろで縮こまっている記憶のアコニトはまだ弱さを感じる。
今のアコニトのふてぶてしさがまだ見られない。
「強いと思っておったが……、やはり強いぞぉ」
アコニトはどこか誇らしげにリコリスの戦い振りを見ていた。
掛け値無しにリコリスは強い。黒竜もゾルやテュッポにしている加減が一切見られない。
「斬り捨てろ。鉄色箭」
地面から馬鹿みたいに生えていた炎の炎刃が一斉に動き出し、黒竜を斬りつけていく。
黒竜も大半は避けていたが、本体との同時攻撃で回避も難しくなっている。
「舞い上がれ。鍾馗水仙」
炎刃がオレンジ色に発光し、火の粉を周囲にばらまいていく。
どちらも黒竜を追い込んでいく。
「焔、技術、毒がそれぞれの影神に引き継がれたんだぁ」
「……毒?」
焔と技術は木村でもわかる。
武器も躯も炎になっているし、技術はその手に持った刀の戦闘スタイルで明らかだ。
「炎に毒を混ぜているぞ。あの火の粉も毒だな。黒にも効いている。良い毒だぞ」
「儂もリコリスの毒を参考にしておったからなぁ」
おっさんも素直に褒めている。
アコニトの毒はリコリスから受け継いだものもあるようだ。
「……えっ。じゃあ、あのリコリスさんはアコニトの力も使えるの?」
「原型になったというだけだぁ。毒に関しては、儂はリコリスを超えておったわぁ。トリキルティスとウィステリアもそれぞれの技術ならすでに上だぁ」
毒に関しては、だ。
聞いた感じだと他三人も各分野ではリコリスを超えていそうだ。
それでもリコリスは半端だが、三人分の力を持っているということだ。
炎か毒か技のどれかで攻められるので、広範囲の敵をカバーできる性能と言える。
中途半端なら器用貧乏だが、どの技も完成度が高く見える。本人もめちゃくちゃ強い。もしも実装されれば☆6並の性能じゃないか。
「凄まじいですね」
ウィルが呼吸を整えている。
どうやら二人の戦いに呼吸も忘れて没頭していたらしい。
「無意識制限の解放とはあの領域に至るのですか……。神気と領域、さらには自らの躯すら解放し、焔と成る」
「黒は『参考になる』と言ったが、、いきなりアレを真似をするんじゃないぞ。煤になってしまうからな。まずは自己意識の領域を広げるところからだぞ」
おっさんがウィルに釘を刺した。
かなり危ない技のようだ。地道な訓練が必要そうである。
「術統一が彼女の炎刃ですか。焔と毒、それに刃と別々の神聖術が混ざって、一つの新たな神聖術となっています。どうやってあそこまで見事に複合しているでしょうか?」
おっさんは何も答えない。
どうやらこれに関しては教える気がないらしい。
黒竜も無意識制限の解放ができないと意味がないとか言っていたので、まだ早いということだろう。
素人の木村としては、三つの術を混ぜることがそこまで難しいものなのかが疑問だ。
「すごいだろぉ」
アコニトも鼻高々だ。
後見神が褒められて喜んでいる。
「だがなぁ。……もっとも引き継がれるべき力が、引き継がれんかったんだぁ」
喜んでいたのもつかの間、すぐにアコニトは意気消沈してしまった。
大丈夫だろうか。ハッパも吸ってないのに、気分の上下が激しすぎて木村は不安になってくる。
『――黒葬』
黒竜の必殺技がついに発動された。
一面の炎刃が一点に集められてしまう。
『――追弔』
さらに黒竜が集めた魔法を握りつぶした。
黒竜が手の平を開けば、芥とされた魔法の残滓がサラサラと崩れ落ちる。
オーディンのグングニルに対してはもう一段階あったが、今回は二段階で終わってしまった。
さすがのリコリスもグングニルのレベルにはたどり着かなかったようだ。
それでもカクレガの現最強メンバーでは第一段階すら必要とされないので、第二段階まで必殺技を出させたリコリスの強さが窺えるというものだ。
魔法を全て消し去られ、さらには第二段階の攻撃で全身をズタボロにされリコリスも唖然としている。
彼女は自らの手を見て、表情をさらに崩していった。
しかし、すぐに意識を戻した。
「――ん? 属性付与が不発? 発動後に崩れたぞ」
おっさんも疑問の声をあげてリコリスを見ている。
リコリスは炎刃を再展開したが、すぐさま炎が消えてしまう。
木村は黒竜に魔力も吸い取られたと考えたのだが、どうにも様子がおかしい。
「馬鹿三! 今すぐここから逃げな!」
リコリスが記憶の中のアコニト達に叫ぶ。
鳥っぽいのと、牛っぽいのは逃げたが、アコニトは逃げようとしない。
「狐! 言うことを聞け!」
「儂も――、儂も戦うぞぉ!」
「邪魔だ! わっちがわっちであるうちに疾く失せろ! ああ、もう駄目だ。来ちまう」
アコニトが逃げるのを躊躇っていると、リコリスが膝から崩れ落ちた。
「リコリス!」
アコニトが必死の形相で叫んだ。
彼女がここまで誰かを心配した顔を見たのは木村も初めてである。
「行け、アコニト。良い子だから……」
「儂は良い子じゃないんだぁ!」
「そうだなぁ」
木村の隣から弱々しい声が聞こえてきた。
アコニトにしては珍しい声で、木村もなぜか悲しくなってくる。
「壊れていく。崩れていく。わっちが消えてなくなっていく。わっちの世界が崩れていく」
リコリスが顔面を両手で押さえて嘆き始めた。
見るからに様子がおかしい。片手で顔を押さえつつ、もう片方の手が宙を彷徨う。
手の彷徨っていた空間がボロボロと崩れ落ちた。まるでその空間自体が真っ暗闇の黒となり何も見えなくなってしまう。
「消失――非該当。蝕――非該当。影――非該当。おい、気をつけるんだ。俺がまったく知らない情報構成が展開されているぞ」
『吾にもまるで読み解けない術式だ。楽しくなってきた』
おっさんは焦っているが、黒竜はわくわく感が声から滲み出ていた。
心なしか昆虫の表情が嗤っているようにも見える。
「何あれ?」
「わかりません。見たことのない神聖術です」
リコリスが黒竜に向かって境内を這いずる。
彼女の動いた場所が黒に塗りつぶされていく。これはまるで――
「あ! これってもしかして、あの黒いマークの奴?」
木村は思い出した。
アルフェン平原でカクレガを襲った黒マーク。
あれも今と同じように周囲を黒にして、木村たちを襲った。
「違うぞ。あの黒マークは蝕魔法による構成体だ。これは不明だ。とにかく離れておくんだぞ」
「たいへんですー」
女神も木村と一緒に後退する。
黒竜は依然としておかしくなったリコリスと戦うが、攻撃がまるで通じていない。
黒竜とリコリスの間に真っ黒な空間が入り、黒竜の攻撃を防いでいる。
防ぐと同時に触れたところから黒竜の躯が崩れ落ちた。
「儂らは陰の力と呼んでおったぞぉ。実際に目の当たりにしたのは、この時が最初で最後だぁ」
「陰の力?」
「あぁ。形ある全てを遮る陰だとなぁ」
黒竜が距離を取って構えた。
また得意技を放つようだ。
『――黒葬』
黒竜が呟く。
景色が急激に一点に集まるが、リコリスは吸い寄せられない。
まるでオーディンの放った槍のように暗闇の中にぽつりと浮いている。
彼女が通り過ぎた黒の空間も色が近くてわかりづらいが、おそらくその場に残り続けていた。
『――追弔』
リコリスが黒竜に近寄ってきたところで、黒竜は第二段階の攻撃を放った。
爪でリコリスを掴む。
『なに?』
爪で掴んだ瞬間に、その爪がボロボロと崩れ落ちた。
黒竜も技を途中で止めて、距離を取る。
「あぁ、だめだぁ……。また、失敗した。いつもこうだ。わっちはどうしてこうなるんだ……」
リコリスは追撃に移らない。
その場で嘆き、地面に転がっている。
「極めて相性が悪いぞ」
『そのようだ』
おっさんの指摘に黒竜も頷く。
リコリスに触られ崩れ落ちていた黒竜の皮膚や爪がすぐさま再生していく。
木村はそんなこともできるんだ程度に見たが、ウィルがその光景が異様だと言わんばかりに目を見開いていた。
『アレと相性が良いものがいるとも思えない』
「いるにはいるが、ここにはいないぞ」
黒竜とおっさんはわかった様子で話している。
どうにも分が悪そうだ。
「どういうことなの?」
「陰の力だぁ」
「呼び方は勝手だが、やっていることだけ抜き取れば情報の破壊だぞ」
「情報の破壊?」
なんだかパソコンのデータについての言葉のようだった。
もっと暗い能力名を木村は考えていたが、思ったよりも現実的な単語で意外だった。
「そうだぞ。万物を構成する情報を破壊しているな。力が大きすぎて使い手の体や精神領域まで破壊してしまっている。常に自身へ属性付与をかけていなければ、自我を保つこともできない術式構成だぞ。もはや『崩壊』と呼べるものだな」
「陰の力だぞぉ」
崩壊とおっさんは呼んだ。
アコニトも話を聞いていたようだが、陰の力で通すらしい。
「それで、どうしよう?」
崩壊なるすごい力がリコリスにあることは木村もわかった。黒竜ですら近づけなかった。
しかし、これをどうにかしないと夢から出られない。
「どうにもする必要はないぞ。近づいてきたら逃げるだけだな」
『力を制御できていない。自らも崩壊している。精神、体ともに崩れ落ち、もはや戦闘にならない。直に消滅する』
おっさんは淡々と、黒竜はやや不満げに状況を説明する。
リコリスはその場で嘆き、もはや木村たちを敵と捉えることすらできない状態だ。
彼女の体も部分的に崩壊していき、周囲の空間もところどころ崩壊し、その範囲が広がっていく。
「大丈夫なの? 範囲が広がってるけど」
「ここに届くまでに消滅するぞ」
どうやら何とかなるらしい。
「よかったですねー」
天使もほのぼのと安堵の言葉を漏らしている。
みなが落ち着いてきた中で、一人だけ落ち着かないやつがいた。
「僕が! 僕がっ!」
竜人である。
今まで黙っていたのにいきなり叫びだした。
オーディンにルーンを刻まれてから様子がおかしかったがついに頂点に達した。
そもそも刻まれる前からおかしかったので、静かになったぶんだけマシだったのに元に戻ってしまった。
竜人が一人でリコリスに走って行く。以前も見た光景だ。
途中で彼の体は崩壊させられたが、体を庇うこともなくリコリスを襲った。
「どうしたんだろう?」
「……どうしたんでしょうね?」
ウィルに問いかけたが、ウィルも当然わからない。
ときどき気が狂うのはアコニトの専売特許だと思っていたが、二人に増えてしまった様子だ。
「僕が! ぼ――」
竜人はリコリスに手をかけて揺らした。
一瞬だけ彼女は竜人を見たが、次の瞬間には竜人を崩壊させてしまう。
「今、のは、誰か? アコ、ニ、逃げたか――」
リコリスの意識が一瞬だけ戻った。
何か声のするモノを崩壊させたことで、意識を取り戻したらしい。
それもやはり一瞬で、リコリスはまた周囲を崩壊し始める。
どうやらこれが最後の崩壊になると木村も感じた。
「あやつ……。――おい、坊やぁ」
アコニトが木村に話しかけてきた。
先ほどまでの悲しげな声や様子がない。
「なに?」
「数日ほど前に、新しいスキルとやらを儂に試したなぁ。跳躍だったかぁ」
「……ジャンプのこと?」
レベルが61になり、召喚者スキルが使えるようになった。
すでに名前も効果も知っていたが、試しにアコニトで効果を実験してみた。
ジャンプと言うよりはワープだ。移動途中が無敵なのは嬉しいし、移動にラグがほぼないのも良い。
しかし、喫煙室の端から端まで移動させるだけで、アコニトは吐いて部屋の一角をゲロ塗れにした。
クスリをやってないときに試しても、似たようなものである。
反動が大きすぎて戦闘では使えない。
「そうだぁ。あれで儂をリコリスのところに飛ばせぇ」
「えっ?」
「聞こえんかったか?」
「いや、聞こえたけど……。どうして?」
クスリで頭がイカレている様子はない。
今まで見た中でも一、二を争うほど真面目な表情だ。
ここまで真面目な表情をされると、かえってふざけている可能性も捨てきれなくなる。
「どうして? ほっとけば消えるらしいよ」
「消えたら駄目だぁ」
「なんで? 記憶から出られるでしょ」
「うつけがぁ。儂がまだ婆の問いに答えてないだろぉ」
木村も思い出した。
この記憶がただの記憶でないと気づいたきっかけの問いだ。
「――わかった」
「飛ばしてもいいけどどうなっても知らないよ」と確認する必要はない。
どうせ死ぬことは確定している。本人も了承済みで言っているし、今まで死ななかったことのほうが珍しい。
「やれぇ」
木村はコマンドを開く。
自爆の下に新しく追加されたジャンプを選ぶ。
目を瞑っていても押せる位置にあった自爆ボタンが、ジャンプボタンで下にずれたのは厄介だ。
ジャンプを選択すると、移動対象キャラの選択に移る。
移動の対象キャラが白く光るので、隣のアコニトを選んだ。
次に移動先で、リコリスの近くを意識して、そこで決定した。
一瞬で隣のアコニトが消え、意識した移動先に彼女が現れた。
彼女は頭を揺らせて、オエェと吐いたがすぐに顔を上げる。
「おぉい、婆」
「ぁぁ」
リコリスがアコニトに手を振るった。
アコニトは片腕で防御するが、その腕は防御した側から崩れ落ちてしまう。
「耄碌しすぎだぞぉ。クソ婆ァ。儂だぁ、アコニトだぁ」
「あこ、ニト……」
名前を呼びつつもリコリスは腕をさらに振るってアコニトのもう片方の腕を壊した。
痛みを感じているはずだがアコニトに大きな変化は見られない。
「儂が理想の神になれたか、と尋ねたな」
アコニトの声にリコリスの手がわずかに止まった。
動き出した右手を、左手が止めて両手が崩壊していく。
彼女の中の理性がまだ見られた。
「儂はなったぞぉ。儂の掲げた――理想の神になぁ」
アコニトは堂々とリコリスに答えた。
理想以上に悪い方にシフトした邪神になった気もする。
尻尾にすら逃げられている有り様である。
「……そう、かい」
「そうだぁ」
「少し、疲れたねぇ」
「歳も考えず、激しい運動をするからだぁ。ぽっくりいくぞぉ」
「ちぃと、休むことにするよ」
アコニトが頷くと、リコリスは目を瞑った。
崩壊は止まったが、彼女はその場で倒れて動かなくなってしまう。
「リコリスッ!」
記憶の中のアコニトが走り寄ってきた。
現実のアコニトに毒の息で攻撃をするが、毒に耐性があるのでもちろん効かない。
そもそも自分の毒なので効くはずがないのである。
しかし、両腕を崩壊させられ、体のあちことも崩されていたアコニトは限界だったらしい。
彼女はその場で倒れて光に消えてしまう。
記憶の中のアコニトが泣きながらリコリスの名前を呼び続け、景色は暗転していった。
「感動しましたー。辛い過去を乗り越えたことでー、アコニトさんはさらに成長できたでしょうねー」
朗らかな笑顔で女神が話す。
感動と言ったが、言葉から女神の心が動いていると木村は感じなかった。
「よかったー、記憶の封鎖が解けましたよー。お別れですねー。それでは木村くん、また会いましょうー。私はいつでもあなたを受け入れますからねー。だって、私はお姉ちゃんですからー」
うふふーと笑うが、どこか気持ち悪さが残る。
「お別れの前に一つ質問があるんですけど」
「なんでしょうー」
「キャラ、全員の過去に介入してるんですか?」
リコリスと黒竜が戦っている時に、この女神は「私の力が合わさっていたので当時のアコニトでは見えない」とか言っていた。
そもそもこの女神が介入していなければ、リコリスは崩壊を使うこともなかったのではないか。
いや、立場が黒竜に変わっただけで、本当の過去はもっと別の魔物か神が襲っていた可能性もある。
「もちろんですよー。木村くん以外の過去は全て私のものですからねー。みんなが強くなるためでしたら私はどこの誰のどんな過去にでも手をかけますー」
さらりと口にした。
悪気や躊躇いが一切ないのが神らしいと言えば神らしい。
木村は自らの感じた気持ち悪さが、このあたりからくるものだとわかりややスッキリした。
「そうでしたか。わかりました。スクルドさんからもあなたたちの言動を受け入れるようにと聞いています」
「はいー。良い妹を持てて私も幸せですー」
聞きいれるだけだ。
聞き入れはするが、それを全面的に肯定して実行するかは別の話である。
もしも聞いていなかったら、あれこれと文句を言っていただろうが、女神はこういう存在だとわかっていれば諦めもつく。
勝手にやってろと思うだけだ。こちらも勝手にやればいい。
「もう時間でしょうか。またどこかで会いましょう」
「はいー。どうかお元気でー」
社交辞令である。もう会いたくない類いの女神だ。
しゃべり方ものほほんというよりは、ねっとりへばりつくヘドロのような印象に変わってきた。
女神の方にも同じ気配を感じる。
本当は木村たちに元気にして欲しくないんじゃないか。
女神の姿が遠ざかっていく。
暗闇が遠ざかり、徐々に明るさが戻ってきた。
景色は訓練室に戻った。
そこにビー玉を覗き込んでいたアコニトの姿はない。
アコニトの過去を見て三日が経った。
アコニトはスキルが増えていた。
煙が刃状になって相手を斬るというリコリスの使っていたような技だ。
スキル名も「紫狐の剃刀」となんだかそれっぽいスキル名だった。
ただし本人はこれを使う気配がないし、無理矢理使わせたが物理系の戦闘が苦手なのであまり上手に使えない。
ソシャゲ内なら使えるスキルかもしれないが、そもそもトロフィー効果無しのアコニトを使うユーザーがいるのかすらわからない。
やはりアコニトにとって肝心なのはトロフィーなのだ。
銀色のトロフィーが増えていた。
アコニトとリコリスが向かい合っている姿だ。
もしもあのとき、リコリスを見殺しにしていたら銅トロフィーだったのかもしれない。
題名:“アコニトの返答”
説明:“あなたはリコリスの問いに対するアコニトの答えを聞いた。”
効果:“アコニトが『崩壊の因子』を得る”
危険はありそうだが、かなり重要な効果だと木村は考えている。
現状では、ステータスで説明を見ても何もわからない。
本人も特に変化した気はしないらしい。
スキルを得てもアコニトは特に変わらない。
酒を飲んで、飯を食らい、ハッパを吸い、息をするように他者に迷惑をかける。
変わらない奴がいる一方で、変わった奴がいる。
「わっちがやるっ! わっちがやるぞ!」
竜人である。
リコリスに崩壊させられたのが悪かったのだろうか……。
一人称の「僕」がどこかへ消え去り、「わっち」に変わってしまった。
喋る言葉はさほど増えていないが、明確に行動するようになった。
前みたいにキャラを殺したり、物を破壊することもない。
黒竜の訓練にちゃっかりと参加している。
気になってステータスやトロフィーを見たが、何も変化していない。
とりあえず置物からランクアップしたのは木村としても喜ばしいことだ。
さらに二日後である。
木村は訓練の様子を見に来ていた。
本当に見るだけで特にできることもない。
彼らの訓練の風景を見つつ、未来に思いを馳せる。
そろそろ嫌な知らせが来るころだ。
カクレガの移動方向が変わったことからも、イベントが開催されることが予想できる。
移動先はすでに予想が付いている。黒竜が戻る予定だった場所らしい。
地図で見ると扉があり、カクレガの進む方角と一致する。
帝国の第二の都もその地にあった。
ドライゲン――飛龍の都とも呼ばれているらしい。
ピッピコーン!
訓練室に嫌な音が鳴り響いた。
全員が動きを止めて、音のする方を見る。
おっさんが木村へ近寄ってきた。
手にはいつもの封筒を持ち、にこやかに無言で封筒を差し出してくる。
木村は封筒を受け取り、封筒から手紙を取り出した。
穏やかな訓練の日々は終わり、その成果を発揮する時が到来したことを予感する。
「“イベント『私のカツラを知らないか?』開催予定!”」
木村はタイトルを読んだが、内容が頭に入ってこなかった。
理解しようとしたが、うまく考えがまとまらない。
顔を上げたところにウィルがいた。
「本当にそう書かれているんですか?」
「“イベント『私のカツラを知らないか?』開催予定!”」
木村はもう一度文章を読み上げる。
凄惨、はたまた不吉なタイトルを予想していただけに、この題名は受け入れがたいものがある。
いや、内容を考えると凄惨でもあり不吉でもあるのかもしれない。
このカゲルギ=テイルズの一貫したテーマである「犠牲」も明らかだ。
「“イベント『私のカツラを――」
「もういいです。わかりましたから」
もちろん誰もわかってはいない。
木村、ウィル、黒竜はおろかおっさんですらわからない。
当然だ。
次のアイデアが出ないので、筆者がストゼロを飲みつつ頭に閃いた文字列をそのままタイトルにしただけなのだから。
もしも次回の更新時にイベントのタイトルが変わっていても、そっと見逃して欲しい。
それと筆者はカツラをしていない。なぜこの単語が出てきたかは不明だ。
筆者のアイデアはもう枯れ果てている。
年一単位で更新する人種がすでに半年以上も週一以上の更新をしている。偉業である。
文字数はすでに60万字を超え、話数は90を超えた。物語が進んでない? それは言っちゃいけない。
とにかく筆者のアイデアは尽きた。
なろうのアラル海とはまさに筆者そのものである。これは褒めすぎか。
せいぜい地面のへこみにできた水たまりだろう。翌日には干上がってしまうところが潔い。
ぶっちゃけルーンをテーマに一作書いた方が楽しそうだと思い始めてる。
Ⅵ章で資料とかを数冊買って読んだけど、投資の割に一瞬で書き終わったのでもったいないお化けがでてきた。
話が大きく逸れてしまった。
飲みながら書いてるので、どうかご理解をいただきたい。
はっきりしていることはただ一つだけ。
一週間後から次のイベントが開催される、この一点である。




