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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅶ章.レベル61~70
93/138

93.ログインボーナス

 ログインボーナス期間も十日目となり最終日を迎えた。


 最終日にもらえたのは“過去の宝玉”というキラキラした小さな玉だ。

 ぶっちゃけビー玉だが、これがいったい何なのかがわからない。


「宝玉を通して仲間を見つめるんだ。仲間の過去の記憶が見られるぞ」

「ああ、そういうのなんだ」


 最近はソシャゲ要素が薄れていたが、久々に息を吹き返した。

 キャラストーリーとかキャラエピソードと呼ばれるものだと木村は理解した。

 通常であれば、キャラクターエピソードは信頼度を上げたときに開始されることのほうが多い。

 しかし、カゲルギ=テイルズの場合は信頼度アップで、実用性に欠ける謎のアイテムを得られるだけである。


 どうやらアイテムを通してキャラクターエピソードを導入したらしい。

 木村もキャラクターエピソードは好きだった。ガチャの足しになる。シナリオをスキップするだけで石がもらえるのだ。

 すなわち木村が好きなのは石がもらえる機能であって、キャラのエピソードではない。


「この玉は何回でも使えるの?」

「一回だけだぞ。使える奴と使えない奴がいるから注意するんだ」


 どうやらこのビー玉は消耗品らしい。

 使えるか否かは、メタ的にエピソードが実装されているキャラしか使えないということだろう。


「使うことで、仲間に秘められた力が解放されるようだぞ」

「おおっ」


 とても貴重なビー玉だ。

 信頼度マックスで指輪を渡すことにより、能力上限の解放ができるものもあるがその類いだ。

 おそらく今の課金ショップはこのビー玉が並んでいるな、と木村は推測した。


 戦力に関係するならメインメンバーが優先だろう。

 それでいてカゲルギ=テイルズ世界のキャラに限定されるので選択肢が一気に狭まる。


 アコニトかゾル、あるいはボローだ。

 木村としてはボローのエピソードが気になるのだが、戦力面で言えば今でも☆3として十分に満足している。

 やはり攻撃面を伸ばしたい。そうなるとアコニトかゾルに絞られる。


 ゾルのエピソードは専用武器の話か、ワルキューレの話だろう。

 ワイルドハントのこともあったので興味が惹かれる。


 アコニトのキャラエピソードは期待できない。

 薬中がぶっ飛んでるだけだと考えられる。もしくはそう思わせてからの感動話もあり得る。

 しかし、木村はアコニトで感動する話が想像できないし期待していない。

 戦力が増強されるだけで満足だ。


「……ゾルにするか」


 アコニトはかなり強化されている。

 しかし、安定性にかける。ワイルドハントの戦闘は意識がほぼほぼなかった。


 ゾルなら安定して戦ってくれる。

 それに攻撃力の増強を図りたいと思っていたところだ。

 戦力面でもエピソード面でも嬉しい。ゾルに使用しようと木村は決めた。


 場所もちょうど訓練室で、ゾルがすぐ近くにいることもある。

 訓練の小休止に声をかけてみよう。


「ほげええええ!」


 訓練室に奇声をあげて四足歩行の獣がやってきた。

 もちろんアコニトである。尻尾には当然のように逃げられており、ブリッジをしたまま訓練室に突撃してきた。


 訓練中のメンバーはアコニトを一瞥して、すぐに訓練に戻った。

 いつものようにおっさんがあっという間に制圧する。


 おっさんも筋トレ中だったので、室外ではなく部屋の片隅に投げ捨てられた。

 きっと訓練後にどこか人目の付かないところへと廃棄される。

 同情か哀れみか木村はアコニトのそばに寄った。


「……寝てる」


 気絶しているかと思ったが、いびきをかいて寝ていた。

 だいぶ頑丈になっている。できればこの頑丈さは戦闘時に発揮して見せて欲しかった。


「く……、れ」


 ぼそりと寝言を漏らした。

 なんだろうと木村はアコニトに顔を近づける。


「くたばれ。……リコリス」


 物騒な台詞が漏れている。

 リコリスなら木村もアニメで知った。彼岸花のことらしい。

 アコニトの国の神は花の名前と最近知ったのだが、リコリスは聞き覚えがない。


 光と影で三柱ずつの計六柱。

 アコニト、ケリド、ツキトジ、トリキルティス、ウィステリア。

 それと本人の前で絶対に名前を言ってはいけない残りの一柱で六柱だったはずだ。

 その変な一柱もクリサンなんちゃらと長ったらしい名前だった。

 それならリコリスとは誰なのだろうか?


「トリキル。やれ、殺すんだぁ……。は、もうやられたのか? おぉい、ウィステリア。きさ……、逃げたのかぁ? 儂を置いて……ま、待て。来るな。儂は悪くない。悪いのはうぃすてりあぁあああ」


 悪夢のようである。汗がアコニトの顔中から流れている。

 木村も彼女がどんな夢を見ているのか気になってきた。


「いかんぞぉ。その焔はいかん。や、わぁ、ぎゃぁああああぁぁ」


 アコニトの手が宙を彷徨っている。

 火の粉を払うように手を振るが、効果は見られない。

 燃え尽きてしまったようで、手はぽとりと体の脇に落ちて反応がなくなった。


「……死んだ?」


 本当に反応がない。

 寝息すら聞こえてこなくなってしまう。

 木村は怖くなってアコニトを揺らすが、目を覚まさない。

 目を覚ましてもクスリでおかしくなっているので、話はできないだろう。


「どうされたんですか?」


 ウィルがやってきた。


「アコニトが死んじゃった」


 怪訝な顔つきで木村を見ている。

 そして、彼はアコニトを見るが消えていない。


「生きていますよ」

「夢の中で殺されたみたい」

「あぁ、なるほど。現実でも夢でも殺されてるんですね」


 だいたい自業自得であるが、言葉にすればなかなかひどい状態だ。

 ちゃんと生き返ってピンピンしているのでさほど問題ない。

 ほっとけばいいな、と木村も我に返った。


「訓練はどう?」

「いまいちですね。抑えることはできてきたのですが、これでいったい何ができるのかイメージができません」

「何かする必要があるの? 強大な魔力からの防御壁くらいだと思ってたんだけど」

「抑制できるようになりわかったのですが、防御壁は副次的なものではないかと思います」


 ウィルが右手を伸ばす。

 手の平からから炎が湧き出た。

 右手から左手に炎のアーチができあがる。


「すごい。大道芸みたい」

「そうなんですよね。手品止まりなんです。体内に炎の流れがあることはわかるのですが、それでどうするかと言われるとどうすることもなく……」


 ウィルが炎の爪をニョキッと伸ばしてみせるが、役にたちそうもない。

 接近戦を主にするなら便利そうだが、彼は中遠距離メインだ。


「これくらいなら武器に属性付与をした方がまだ良いでしょう」

「それは……、そうかも」


 前に武具の属性付与を見せてもらったが、武器に炎が宿り、格好良かった。

 あちらのほうが取り回しが効きそうである。体が燃えても不便なだけだろう。


『この短期間で自己属性付与を修得する奴はそういない――が、まだ甘い』


 特訓をさせた黒竜がやってきた。

 手をウィルに向けており、向けられたウィルも緊張した面持ちである。

 木村も、今まさに気当てとやらをされていると考えた。


 修得スピードに関してはトロフィー効果も関係があると木村は気づいたのだが、特に言う必要もないなと口にしなかった。


「自らへの属性付与は、近接戦闘をされる方が使えば強力な武器になりそうですが、僕のようなものが使うのはやはり神気への防御壁としてでしょうか?」


 気当てをされつつも喋る余裕はできるようになったらしい。

 ウィルは先ほどの疑問を黒竜にぶつけた。


『否。二つある。一つは無意識制限の解除。もう一つは術統一』

「無意識制限の解除に、術統一ですか」

『術統一はまだ知る必要がない。制限の解除すらできないのなら、まったく意味のない話だ。加えて、他の技術も必要になる』


 黒竜はけっこう良く喋る。

 喋るとは言っても戦闘マニアらしく、この界隈の話に限るがちゃんと答えてくれる。

 ただし、木村が聞いてもまったく返答しない。戦士と認めた以外の者とはそもそも会話が成立しない。


「無意識制限の解除ですか。自身の神気への感知機能を厚くし、神聖術への神気投入量を解除するといったところでしょうか」

『理解が速いな。半分は理解している。修得も速いことを望む』


 ウィルは言葉を聞いただけでわかってしまったようだ。

 ただ顔色は良いものではない。木村の聞いた限りではそこまで難しそうな話ではない。


「簡単そうに聞こえたけど。その属性付与状態で魔法を使うってだけじゃないの?」

「いえ。実は維持するだけでけっこうきついんです、これ。炎を体の内に留めておこうというのが今やっていることでして、僕の普段使う神聖術は炎を外に放つものです。自らの内側に炎を留めながら、外側に炎を出すという状態がよくわかりません」


 矛盾した話になるということだろうか。

 だが、木村はその矛盾した状態を見たのであった。


「さっき体の外に炎を出してなかった? 手から手に炎が出してたやつ」

「あれは体の認識がわずかに広がっただけですね。外に出しているという感覚はないんです」


 なんだか漫画で見たことのあるような話だ。

 ウィルの呈した疑問あるいは矛盾への解答を、木村はすでに得ている気がした。


「それなら自らの意識を外に思いっきり広げて、世界を自らの体として認識すればいいんじゃない? 魔力の限界と認識の限界、この無意識の二つの制限を解除することが無意識制限の解除ってことじゃないのかな」

『正しい』


 黒竜が確かに木村を見て言った。

 これを会話と言っていいのかは微妙なところだが、黒竜の意識は初めて木村に向いていた。


「神気と認識という二つの無意識制限の解除ですか」

『励め』


 黒竜はウィルと、心なしか木村も見て告げた気がした。

 ウィルが頷いた後で木村を見る。


「そういえば、どうされたんです?」

「えっ、何が?」

「アコニトさんの死亡を見るのが目的ではないでしょう。僕の訓練を見に来た様子でもなかったですし」

「……あ、ああ!」


 木村はウィルに問われて、自らがここにいるそもそもの理由を思い出した。

 キャラクターエピソードのビー玉が原初の目的だった。


「ログインボーナスでこれをもらったんだ。ゾルに使おうと思って待ってたんだ」

「ガラス玉? いえ、なんでしょうか? 神気が混ぜられています」

『記憶閲覧が練られている。対象の記憶を覗くことができるな』


 黒竜がチラリとビー玉を見て解説を加えた。

 見ただけでわかるのかと木村は驚くが、黒竜は興味をすでになくしたようだ。


「過去が見えるのですか。あまり気持ちの良いものでは、あっ」

「きれいな玉じゃあああ、キンキラキラララァ! 欲しいぞぉ! 儂がもらってもよいのかあああ! ありがとおお! もう儂のじゃあああ!」


 キチ○イがキ○ガイ状態で目を覚ましてしまったようだ。

 木村の玉からビー玉を奪い取り、ウヘヘヘとやばい笑いを浮かべている。

 ウィルが木村を庇って後退する。慣れた動きであった。後は、おっさんに任せれば良い。


「光がパラパラ広がって、虹がテラテラ瞬いて、視界がピッカピカだぁ!」


 アコニトが瞳孔の開いた眼でビー玉越しに天井を見ている。

 ビー玉を透過する光を見てハイになっていた。


 そして、彼女は手を降ろし、ビー玉越しに木村たちを見た。


 キチ○イがビー玉越しに木村を覗くとき、木村もキ○ガイをビー玉越しに覗くことになる。

 ニーチェの言葉っぽく書いたが、要するに“過去の宝玉”が発動条件を満たした。


 木村の瞳にはビー玉の向こう側に映ったアコニトが見えた。

 距離で考えると、彼女の瞳しか見えないはずなのになぜか全身が映し出されている。


 アコニトの像が朧気になってきて、周囲の景色も曖昧になってくる。

 ぐにゃぐにゃと歪んだ景色が、また像を結び始めた。


 空には太陽があった。

 雲はなく快晴。蝉の声すら聞こえてくる。

 日射しや暑さは感じない。ただ、木村は日本の夏を思い出した。



 彼は今、炎天下の中に立ち尽くしている。

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