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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅵ章.レベル51~60
85/138

85.イベント「ワイルドハントで連れてって」3

 木村はブリッジで頭を抱えている。


 今後のことを彼の足りない頭で必死に考えていた。

 最近では珍しく一人で悩む。


 まず、ワルキューレ進行の被害にあったナドバは滅んでいない。

 それどころか損害は極めて小さいと言って良い。

 人的被害がそこそこあった程度だろう。


 都市が滅びはしないとは、事前に木村も考えていた。

 ワイルドハントは進行であり、侵攻ではない。……ないはずだ。

 実際、彼らは都市をきちんと避けて通っていた。進行ルートを邪魔しない限りは手を出してもいない。

 進行ルートの邪魔も、ワルキューレたちの脅威により、塞がろうとする意志を大幅にそぐものとなっている。

 そのため、人的被害は木村が想像しているよりも確実に少なかった。

 間違いなく百名も死んでいないだろう。


 ただし、ナドバでの比較的少ない人的被害の中にサナの娘であり、カリーフの姉もいたことだ。

 名はラビアだったらしい。彼女の召喚したであろう被召喚者も進行に巻き込まれた。

 戦場に残された遺品は何もない。塵も残さず消し飛ばされた。


 ロゥ曰く、長姉ラビアの召喚した男はかなり強かったようだ。

 ロゥも手合わせをしたが勝負にならず、それでいて優しさも持ち合わせていたとか。

 教えに洗脳されていても、あの場面で兵を退かせ、自らが盾になり兵を逃がそうとする姿勢は木村も見習うべきものがあったと感じる。


 惜しい存在をなくした。

 ロゥは彼女たちが亡くなったことを、どうやって妹のカリーフに伝えるかで頭を抱えていた。


 木村も彼女たちが亡くなったことは痛手だ。

 彼女たちが生きていれば、一緒に連れていって他の都市の説得をしてもらい、被害も減らせただろう。


 ……ないものねだりをしてもしょうがない。

 今はただ、未来のことを考える。


 次のミッション――ワルキューレとツーショットを撮る、だ。


「無理だろ」


 無理だ。


 木村の発言も思考も無理しか出てこない。

 ワルキューレ同士のツーショットならチャンスはあるが、おっさんに尋ねると片方はカクレガのキャラか木村自身である必要があるとのこと。


「……無理だろ」


 遠近法での距離を利用してのツーショットもありか尋ねたが、現実で隣り合ってのツーショットである必要がある。


「…………無理」


 まず、カクレガがワイルドハントに近寄れない。

 すなわち、ワルキューレの群れまで徒歩で行くことになる。モン○ンかよ、と。


「アコニトを特攻させるかなぁ」


 木村は彼女ならできる気がした。

 むしろ彼女以外の何者に、このミッションが成し遂げられようか。

 しかし、彼女は最初に出会ったとき、いきなり槍で串刺しにされて光にされたのである。


「やっぱ無理かなぁ」


 無理かもしれない。


 木村が暗いブリッジの中で悶々と考えごとをしていると、部屋に光が差した。


「できました!」


 声はヘルンのものだが、姿はおっさんだ。

 おっさんの後ろからヘルンが現れて、手に持ったものを木村に見せつける。


「なぜ明かりを付けないんです? 夜行性でしたか?」

「いや、考えごとをしてたから」


 そうなんですね、とさほどヘルンは興味なさそうである。

 彼女は素早い動作で木村に寄ってきて、机の上に手に持っていた写真を手際よく広げてみせる。


「よく撮れているでしょう」


 急造した現像室で、彼女が撮影したワルキューレの進行を写真にしてくれた。

 パソコンとプリンターで簡単に印刷できればいいのに。


「……すごいね」


 木村はざっと見て正直な感想を告げた。

 写真では迫力が伝わらないのでは? と思っていたが腕前でカバーできるようだ。


 まず、ワルキューレが迫り来る光景。

 横並びした見た目の似通ったワルキューレと、手前に小さくボケている人間。

 人間達から対抗しようとした意志が消え去り、一目散に逃げようとしているのがボケていてもわかる。

 何から逃げようとしているのかも明らかだ。


 そして、場所が変わりワルキューレの放った魔法が逃げ遅れた兵士達を襲う瞬間だ。

 兵士達の先頭で、彼らを逃がそうとワルキューレの前に立ったカリーフの姉とツレの逞しい男もアップで写されている。


 その後の十数枚はあまりにも生々しい。

 日本であれば、間違いなく規制がかかっているだろう。

 人間が彼女たちの起こした現象により消し飛ばされる姿がありのままに写っていた。

 見慣れてきた木村でも、あの光景のすさまじさが思い出され、冷たい汗が背中に流れるのを感じる。


 最後はワルキューレが過ぎ去る姿と、過ぎ去った後の兵士達の姿だ。

 兵士達は腰を抜かして倒れており、魔法によって均された地を見て怯えきっている。


 さらにワルキューレの通行前後の光景が、ほぼ同じ角度、同じアップで写されており、彼女たちが通るとどうなるかが比較でわかる。

 人も防壁も全てがなくなり、更地ができている。何も知らない人が見たら、前後が逆に思えるだろう。


「これを見せれば、抵抗する気持ちも減ると思う」

「でしょう!」


 ヘルンはとても嬉しそうである。無邪気な笑顔だ。

 画の内容が悲惨なものなのに、そんな嬉しそうな笑顔をされると木村としては違和感を覚えざるをえない。

 木村としてはまだ最初のミッションをクリアしたばかりなので、彼女に対する苛つきもあった。


「次は、ワルキューレを間近で撮ることになりそう。ツーショットが必要だから」

「がんばってください! 望遠レンズでバンバン撮ります!」


 お前はこないのか、と木村は思った。

 彼は、もしもツーショットを撮ることになったら、絶対ヘルン(こいつ)も巻き添えにしようと誓った。

 しかし、ツーショットを撮る策がない。無策では近寄りたくもない。


「近寄れないんだよなぁ」

「許可証とかないんですか?」

「許可証?」

「はい」


 ヘルンが言うには、記者をしていると記者用の入国許可証(ビザ)が発行されるらしい。

 実際に彼女が持っている報道関係者用の入国許可証を見せてくれた。


 名前や所属は当然として、入国される側の印も押されており、よほどの犯罪をしでかさない限りは自由な行動が認められるらしい。

 もちろん彼女が持つ入国許可証はカゲルギ=テイルズのものであり、ここでは絶対に通用しない。

 もしもラベクでカクレガに入れていなかったら、拷問の末に死んでいただろう。


「許可証ではなくても、何か彼女たちと縁のある物、あるいは人がないんですか? あれば交渉の余地がありますよ」


 自信満々に言うが、誰が交渉するのか。

 ヘルンは間違いなく自分を計算に入れていない。無理矢理連れて行こう。


 ひとまず木村は考える。

 そもそもモノがなければ意味のない話だ。


 ゾルは縁があるのだが、そのままあちら側に連れて行かれそうだ。

 いちおう関係者なので、最初の挨拶にはいた方がスムーズになるかもしれない。


 モルモーもあちらと縁があるのだが、彼女は絶対にワルキューレとは会いたくないと拒否している。

 これに関しては上司からの承認があるようで、木村も無理強いができない。

 なぜそんなにワルキューレを嫌っているのかを尋ねたが、彼女たちに追い回された過去があるらしい。

 それは可哀相に、としか木村も言えなかった。


 他に縁があるものを考える。

 以前、ゲイルスコグルと会ったが本当に会っただけだ。

 その際にアコニトが刺されたので、縁と言えば彼女もあることにはなるが、許可証の類いではない。

 きっと次は全方位を囲まれ斬ったり刺されたりする。


 そうなると彼女たちと縁がありそうなモノは特にない。


「ワルキューレ以外でもいいんですよ。他にもいろいろいましたから」

「いや、ワルキューレ以外だと、もっとな……あるかも」


 否定する直前で思い出した。

 ワルキューレ以外だと顔見知りなんていない。

 ただ、ワルキューレ関係のワルキューレではない神との縁があった。


「本当ですか?」

「うん。小言集だけど」


 彼女たちのさらに上の者――オーディンから直々にもらった冊子だ。

 「外に出るときは持っておけ」と言われたが、今は自室のベッドの枕元に置かれている。

 内容は老人の小言集であり、つまらないものだ。あのとき木村は、自身の行いを注意されたので、外に出るときにも箴言を忘れるなという意味だと考えていた。


 今思うと、あの冊子は許可証以外に考えられない。

 ワイルドハントに巻き込まれるのを防ぐための魔除けではだろうか。

 それなら「外に出るときに持っておけ」ときれいに繋がる。いろいろと捻くれた受け取り方をしてしまっていたようである。


「どう考えても許可証じゃないですか! 行きましょう! 準備してきます!」


 ヘルンは部屋から出て行った。

 仕事になるとノリノリになるな、このリス、と木村は思う。

 彼もガチャではノリノリなので人のことを言えないのだが、自分のことは見えないものである。


 とりあえずヘルンが望遠レンズを持っていても、巻き込んで連れていこうと木村は思う。


 ゾルにも声をかけるため、採集素材部屋に向かった。



 夜になっても行進は続くと考えていたのだが、別にそんなことはない。


 ワイルドハントの目的が主に人間達への警告なので、夜は人間側から見えないので行進を止めるらしい。

 いろいろと人間側に配慮した内容だが、そういう配慮が余計に混迷を生じさせると気づいて欲しい。


「行きましょう! 大丈夫です! このカメラは夜でも撮影できる優れものですから!」


 ヘルンはカメラをとても大切にしている。

 最初に私の命も同然と言っていたが、これは冗談でも比喩でもなかった。

 前回もカクレガを出る直前に言われた。

 「もしもあたしが死んだら、カメラを誰かに渡してください。私の意志は全てこの中にあります」と。


 悔しいが、あのときのヘルンは格好良かった。

 スマホが普及した日本では、全国民が撮影者になりえる環境があった。

 その中でわざわざカメラマンに何の価値があるのか、と馬鹿にしていた木村だったが意識を改めさせられた。


「よし。ここから撮ります。それではお気を付けて。良い画をお願いしますね」


 改めさせられた意識がまた元に戻りつつある。

 安全圏内に位置を決め、ヘルンはやはり一緒に行かないつもりらしい。


「おっさん、ゾル。彼女を連れてきて」

「わかったぞ」、「はい」

「え?」


 おっさんは当然として、一緒に外に出てきたゾルがすぐに動く。


「待ってください! あたしはここで! ここで撮れますから!」

「近い方が臨場感が出ますよ。近距離からツーショットをお願いします」

「い、いや!」

「カメラは丁重に扱ってあげて」

「いやーーーー!」


 おっさんとゾルに悲鳴を上げても無駄だ。

 この二人はオンとオフの差が激しい。仕事モードになった二人に抵抗は無意味である。


 今回は少人数構成である。

 キャラとしてはゾルとヘルンだけだ。

 それに木村とおっさんを合わせてのわずか四名でワルキューレの群れに近寄る。


 暗がりの夜道を、松明とぼんやりした月の明かりを頼りに進んでいく。

 叫んでいたヘルンもワルキューレの群れが近くなり、完全に黙ってしまっていた。


 さすがの木村も久々に緊張している。

 命の危機は何度か感じているのだが、これほどの恐怖は久々だ。

 たいていはおっさんかカクレガが守ってくれているのだが、それらを上回りうる脅威が迫っている。


 異世界でいろいろと危険なところを回っているが、木村自身が死を感じたのはかなり少ない。

 キャラはおもしろいくらい簡単に死んでいくが、自分はなんだかんだで安全圏内にいると慣れきってしまっている。


 その例外として最初の犬の魔物、第一回目の討滅クエストは安全が担保されているとわからず、死を感じた。

 さらに無竜との遭遇、ダ・グマガ渓谷、冥府の裁定場、歪み男の急襲と強さの次元が違う相手も死の恐怖があった。

 これくらいだろう。実際にはもっとあったかもしれないが、木村は死の接近に気づかなかった。


 今回の場面は、死の予感シリーズに新たに追加されるだろう。

 おっさんもワルキューレに近づくとヘルンから手を離し、真剣な状態に移っている。

 ゾルは相変わらずヘルンを抱えている。ヘルンは恐怖により固まった状態で動きを完全停止させてしまった。

 ゾルの背中にくっついた金クワガタは角をカチカチと鳴らす。


 もちろん木村も怖い。

 オーディンからもらった小言集を手に持った状態で歩いている。


 ワルキューレに近づいていくと、彼女たちも木村たちに気づき、ゆっくりと起き上がって歩み始める。

 木村たちの歩みは遅くなる一方で、ワルキューレは数が増え、近づく速さが上がっている。

 一体一体が木村の倍くらいの身長がある。横幅も同じだ。

 それらが無言でじわじわと距離を詰める。


 ついに木村たちの歩みは止まった。

 同時に、ワルキューレも一定の距離を保って木村たちを取り囲む。


 木村たちは――完全に包囲された。


 木村は口を開けてかたまる。

 「写真を撮らせてくれませんか」と言うつもりだったが、怖くて声が出ない。


 ゾルは以前と同じように膝をつき頭を垂れて敬意を表している。

 木村とヘルンは真似ようにも体が動かない。

 おっさんも無言だ。


「我らが主の箴言を持つものよ。いかなる御用ですか?」


 壁となったワルキューレらの隙間から、人型の女性が前に出てきた。

 彼女のことは木村も覚えている。名前は出てこないがオーディンの隣にいた女性だ。

 人型ではあるが、カクレガのモニター越しに木村たちを見つめてきたので、けっして安心はできない。

 全身が墨のような黒の鎧で包まれており、表情を読み取ることはできない。

 声は綺麗だった。透き通った声で木村は質問を吟味できていない。


「もし。いかなる御用か、と訊いています」

「キィムラァ。質問をされているぞ」


 おっさんに肩を揺らされ木村もようやく質問されたと気づいた。

 しどろもどろになりつつも答える。


「え、えっとですね。あの、写真をですね、一緒にカメラで撮ってくれないでしょうか」


 日本語がややおかしくなりつつもいちおう言うことはできた。

 木村は冊子に挟んでおいた、サンプルの写真を取り出す。


 女性が寄ってきて、写真を手に取った。

 写真の内容は虐殺の直前である。


 ワルキューレに焦点を当てて、彼女たちの突き進む姿が鮮明に写っていた。

 彼女たちが魔法を発動する瞬間も、木村がうなるくらいのドンピシャタイミングで写っている。


 女性が無言でパラパラと写真を見ている。

 ときどき頭を上げて、ちらりと木村を見つめている気がする。

 木村はまるでレポートを目の前で採点される大学生か新卒の心境であった。


「これは誰が?」

「彼女――ヘルンが撮りました」


 木村はすぐさまヘルンを差し渡した。

 彼女は目を大きく開いて木村を見返す。身動きはしない。


「ほぉう。あなたが――」


 女性は言葉に溜めを作って、ヘルンのまわりをぐるっと回って見渡した。

 完全に置物と化してしまったヘルンを品定めするようであった。


 女性は、壁となっているワルキューレの一体に近づき、写真を見せる。

 小声で何かを話しているようだが、声が小さい上に、言語がうまく聞き取れない。

 さらに別の個体に近づき、同じように話をする。


 その後、ヘルンの前に立った。

 そして彼女の片手は、彼女の腰にぶら下がる剣におかれた。


「あなた。これはいったいどういうことですか?」


 女性がヘルンに質問をしたが、彼女は完全に固まってしまっている。

 もはや彼女は死に場所をここと定めたらしい。

 代わりに木村が応じた。


「な、何か問題があったでしょうか?」


 問題なら大ありだろう。

 勝手に撮ってはいけなかったかもしれない。

 人間にだって肖像権がある。今回は完全に盗撮にあたるものだ。

 ましてや神なら撮影の許可に加えて、御供物が必要だった可能性がある。


「由々しき問題と言えます」


 やはりダメだった。

 代償はヘルンの命一つで足りるだろうか。

 ロゥの召喚主も差し出したら許されるだろうか、と木村は真剣に考えた。


「――私の写真がありません。どうして私を撮らなかったのです? まったく……、これはいけませんよ。早く撮りなさい。あなたの責務でしょう」


 どうなんです、と女性はヘルンに詰め寄った。


 木村が思っていた回答と違う。

 ヘルンは先ほどの木村と同様で、言葉が頭にまったく入ってきていないことがすぐにわかった。


 木村は、すぐに動く。

 ヘルンの肩を揺らし、彼女の気を取り戻させる。


「ヘルンさん。撮影の許可が出ました。撮影を始めましょう。……ヘルンさん、ヘルンさーん、おーい。大丈夫ですか。ヘルンさーーーん!」


 何度か声をかけると、彼女はビクリと反応し動き始めた。

 動き始めると動作は異常に速い。とにかく機敏だ。このあたりがリスのようである。



 まさかのワルキューレ達との撮影会が始まった。


 ヘルンは完全に仕事モードに入っている。

 角度やポーズを変えたり、変えさせたりして写真を撮り始めた。

 死に物狂いである。間違いなく次はない。変な写真を撮れば次こそ殺される覚悟が見えた。


「光量が足りませんね。夜ですから仕方ないと言えばないのですが……」

「なぜ妥協するのです。いったい何のための力でしょうか。ゲイルスコグル。光を」


 槍をもった顔なじみの一体が「ヒリィ」と、その手の槍を掲げる。

 空から光が射した。月は光に霞んで見えなくなった。もはや晴天の昼と遜色がない。

 こんなことをするための力なのだろうかと木村は頭を悩ませる。


「あ、良くなりましたが……ちょっと反射が効き過ぎてます。光量を落とせませんか?」


 ゲイルスコグルが首を横に振った。

 これで最低光量らしい。夜を真昼に変えて、これで最低ってどういうことだと木村は唸る。


「黒のレフ板があれば良いのですが」

「レフ板とはなんですか?」

「えっと、地面からの光の反射が強すぎて色が白くなりすぎてしまってます。それを抑えるために必要なんです」

「要は、反射が抑えられればいいのですね。ゴンドゥル。土を黒に」


 杖を持ったワルキューレが、「ゼンラァース」と杖で地面を突く。

 土がボコボコと波打ち、色が黒に変色していく。

 地面からの照り返しが減った。


「おっ、良いですねぇ~。でも、今度は暗すぎるのか。キィムラァ、レフ板とかあります?」


 ねぇよ、と木村は思った。

 持ったこともない。レフ板はカクレガに常備されてない。


「ないですね」

「はぁ」


 ヘルンがため息をつく。

 使えない奴と言われているかのようだ。

 木村のこめかみがピクピクとひくつく。おっさんのアコニトに対する気持ちがわずかにわかった気がした。


「レフ板とは板ですか?」

「光の反射を調節する板ですね。銀は少しきつすぎるので白っぽければ良いんですが……」

「私のものではダメですね。グン。盾を」


 盾持ちのワルキューレがやってきて、大盾で光を調節する。

 すごいね、ワルキューレ。なんでもあるよ。


「ちょっと表情が硬いかもしれません」


 兜を着けてりゃ表情は要らないだろ。

 喉まで出かかった言葉を木村は必死に飲み込んだ。


「ふむ。これでどうです?」

「――はい。あぁー、いいゾーこれ。素晴らしい一枚になりました」

「責務を果たしましたね」


 両者満足そうである。

 その後は、ワルキューレ達の撮影会になった。

 完全に女子会のノリなので木村はついていけない。

 おっさんと一緒に近くの地面に腰を落ち着ける。ドッと疲れた。


「こっちに顔をお願いしまーす! ゾルさん、もっと反射を強めて!」


 ゾルが盾で光の調整をしている。

 今はグンと呼ばれた盾持ちの撮影真っ最中だ。

 見た目は騎人だが、心は乙女なのか映りはとても気にしていた。


「楽しんでおるな」


 老人ことオーディンが木村の隣にやってきた。

 ワルキューレたちどころか、今回のワイルドハントの首班である。


 トップの女性が老人に気づいたが、老人が気にするなと手を振り撮影は再開される。

 老人もあの中に入り込むことはできないらしい。

 完全に乙女空間だ。


「スクルドも楽しんでおるようだな」


 老人がぽつりと漏らした。

 トップの人型の女性がスクルドだったのだろう。

 名前がたくさん出てきたので木村は覚えきれていなかった。


「どうしてスクルドさんだけ人の姿をしてるんですか?」


 木村も気になっていたことを漏らした。

 別に聞く必要もないのだが、安堵のためか口から勝手に漏れてしまった。


「スクルドはワルキューレだけでなく、運命の女神の一柱も務めておる。未来を司っておるぞ。最近は頭を悩ませていたようだからな。息抜きになったようだ」

「ああ、そうなんですね」


 よくわからないが、戦乙女だけでなく運命の女神でもあったようだ。

 もはや何の集まりなのか意味がわからない。


「これだけのメンツが揃ってワイルドハントが必要なんですか?」


 木村はついでにもう一つの質問もしてみた。

 オーディンがワイルドハントのヘッドをしているときは、選別もすると聞いた。

 選別の理由が来たるべき戦いだかに備えるためだったはずだ。

 これ以上の力がいるのだろうか。


「必要だ。勝利のためには戦力が足りん」

「勝利? 誰と戦うんです? 負ける姿が想像できませんよ」


 比喩抜きで想像できない。

 オーディンの力は見ていないが、おそらく冥府の導き手や完全体テュッポくらいの力はあるだろう。


「戦うべきは神々の死と滅亡の運命だ。神々の終末に生き残ることこそ、我々が腕に抱かんとする勝利に他ならん」

「神様もいろいろ大変なんですね」


 スケールが違いすぎる。

 普段目にする田舎の迷惑神とは規模も心構えも違う。

 アコニトがラリってるときに、老人達は必死に奔走しているらしい。

 神としての格がまるで異なる。


 とりあえず敵対する意志はないようだ。

 老人に勧められて、アルコールらしき飲みものを口にする。

 最終的には、おっさんも一緒に腰を落ち着けて飲み、他愛ない話を楽しんだ。


 女子撮影会も終わりが見え、ワルキューレとのツーショットも撮れた。

 それどころかワルキューレの背に乗せられての撮影もしてもらえた。

 途中で他の神々もやってきて撮影会が再開される。


 最後はワイルドハントの全員で集合写真も撮った。

 木村は最前列の真ん中付近で、おっさんと老人に挟まれた形での写真である。



 写真の引き渡しは明日の夜ということで、今夜は解散になった。

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