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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅵ章.レベル51~60
81/138

81.情報共有

 イベントストーリー開催の知らせを受け、さっそく情報共有をおこなう。


 ブリッジに集まったメインキャラに説明をしていく。

 まずは受け取った手紙を、木村は一同の前で読み上げた。


 イベント名は「ワイルドハントで連れてって」。


 概要だけ言えば、

“久々にワイルドハントがおこなわれる。

 人々は恐怖し、神々は狂喜する。人と神の織りなす物語が始まる”――らしい。


 木村は、さっぱり意味がわからない。

 “人々が恐怖する”と書かれている時点で嫌な確信だけがある。


「ああ、ワイルドハントがあるんですね」


 モルモーが「今回は誰の持ち回りだっけ」と首を捻っていた。

 どうやらタイトルにも出ている「ワイルドハント」を知っているらしい。


「私も知っているよ。神々や精霊、魑魅魍魎の行進だ。悪い子は神々に死後の世界へ連れて行かれるという話だね」


 なんだか可愛げのある話だ。

 お母さんが子供達に「悪さをする子は連れ去られちゃうぞー」と脅かしている姿が浮かんだ。


 しかし、そんな可愛げのある話ではないだろう。

 事情を知っていそうなモルモーが、フルゴウルの話を聞いて首をさらに大きく捻っていた。


「地上の人々の間ではそんな話で周知されているんですか?」

「そうだね。私ですらこの程度だ。地方によっても違うだろうが、概ねこんなものだろう」


 モルモーが口を開けて、呆れた表情を見せている。

 冥府のトップアイドルの姿なので、驚いた顔も儚げでどこか美しくドキッとする。

 その顔を見続けるためにはリラクゼーションチケットを、あと何枚払えば良いんだろうかと木村は考えてしまった。

 ちなみに、この姿になってもらうために一枚渡しているのはみんなに内緒である。


「他にはワイルドハントがあったときは、人が大量に死ぬという話もあっただろうか」

「そちらです! そっちこそ最重要です。しかも逆です! ――ワイルドハントはですねぇ。厳正なものなんです。人の世界で戦争や病気が蔓延するのを事前に察知して、我々が人々に警告をして回るというのが目的の一つにあります。たくさん死なれると困りますから」


 切実な表情でモルモーが答えた。

 木村たちが回っているだけで冥府に死者があふれかえる。

 戦争や病気の蔓延があれば、果たして冥府がどうなるかは目に見えるようだ。


 気をつけろ、と火の用心のごとく知らせる警報的な行進がワイルドハントらしい。

 良いことをしているのではないかと木村は思った。


「それは、目的をきちんと誰かに告げているのかな?」

「……告げてないですね」


 絶対に理解されてないやつである。

 逆になるのも仕方ない。誰にも何も伝わってない。

 戦争や病気が生じ、ワイルドハントがあった後は、大量の人死にが起きるという事実だけが残り、そして、伝承へなってしまう。


「フルゴウルさんが最初に言ってた、“子供を攫う”ってのは本当?」

「子供を攫ってどうするんですか」


 モルモーに真顔で返された。

 それもそうである。そもそも冥府に生者を連れて行った時点で死ぬ。

 彼女たちはいたずらに死者を増やそうとはしない。なぜなら、自分たちの仕事が増えるから。


「ただ、悪い行いをする者たちは狩りますね」

「悪い行いをする者とは?」

「戦争を引き起こしたり、病気を流行らせようとしている輩です。容赦せず殺して冥府に連れて行きます。タルタロス直行ですよ」

「……当然だろうね」


 木村とウィルがフルゴウルを見た。

 その後で、木村とウィルは互いに視線を交わす。

 フルゴウルの今の間が気になった。もしかして彼女は戦争を起こそうとしてたのではないか。

 モルモーもフルゴウルをわずかに睨んでいたように見えた。木村とフルゴウルが改めて彼女を見つめるが、すました顔で話を続けるように促している。


「じゃあ、特にワイルドハントで虐殺が起きたりすることってないの?」

「基本はないです。しかし、頭領が誰かによって、幾分かの差は生じることになります」

「頭領?」

「頭領とはリーダーのことですね。ワイルドハントは無秩序な強行軍ではなく、厳正かつ整然とした行進です。統率者がいます。誰がリーダーをするかでやや方針が変わります。私の上司も過去に頭領を務めました。その際は私も末席に参列しましたが、かなり自由奔放で気楽でしたね。最低限のルールさえ守れば良かったですから」


 上司とは冥府の導き手だろう。

 確かに、あまり厳しい人には見えなかった。

 忙しくなると無理難題を押しつけるようだが、それ以外は適当そうだ。


「今回は?」

「上司ではないです。次は誰だったか」


 モルモーは悩んでいる。

 木村はふと心あたりを尋ねてみた。


「……ツバの広い帽子をかぶった老人の見た目で、片眼を閉じてる神。あと、木の杖も持ってて、パイプで煙をたしなむ神とかっている?」


 ウィルとフルゴウルが木村を見た。

 その後で、彼らもモルモーを見つめる。

 モルモーはやや居心地が悪そうだが、すぐに頷いた。


「オーディン様?」


 木村でも知ってる名前が出た。

 名を発したのはモルモーではなく、金クワガタと戯れていたゾルである。


「はい。大神オーディンかと思われます。なぜ、かの御神を?」

「さっき外で会った。アコニトと一緒にタバコを吸ってたよ」


 ゾルが金クワガタを手から落とした。

 金クワガタは落ちる途中で羽を広げて、離れた位置に飛んでいく。


 モルモーの変化はもっとわかりやすいものだ。

 すごく困った表情をしている。上司から無理難題を押しつけられた時と似ている。


 木村も二人ほどではないが、表情を崩している。

 そこそこ名のある神どころではなかった。超メジャーな神だ。

 片田舎の迷惑神と一緒に並べて良い神では決してない。怖いもの知らずにもほどがある。


 木村はこの場にいる人にオーディンと思われる老人について話した。

 ウィルたちも彼の実力に気づかず、どこか悔しげだ。


「大神オーディンは、ワイルドハントの初代頭領です」


 モルモーが説明を再開する。

 暴走族のリーダーみたいだな、と木村は思った。

 あの老人がイカしたバイクに乗って、オラオラしてると考えるとちょっとおもしろい。


「当初のワイルドハントになりますと、別の目的も生じます。忘れ去られた本来の目的と言いかえても良いでしょう」

「それは?」

「選別です。ゾルの方が詳しいのではないでしょうか。彼女はワルキューレでしょう?」


 見られた側のゾルが、モルモーの言葉を引き受けた。


「オーディン様は、来たるべき終焉の戦に備えて、見込みのあるものをスカウトしています。私たちもスカウトで各地を回っていました」


 そういえばワルキューレはオーディンに遣わされると聞いた記憶が木村にもあった。

 そして、木村は嫌な予感が湧き上がる。


「もしかしてゲイルスコグルも来るの?」

「かの御神が頭領を務められるなら、間違いなく付き従うでしょうね」

「ちなみにスカウトってどうやるの?」

「戦って実力をみます」


 ゾルが「ふんっ」と鼻息を立てた。

 戦闘と通常時との差が一番激しいのも彼女である。

 普段は虫も殺さず、友達として遊んでいる彼女だが、戦闘はまったく容赦の欠片もない。


 ワルキューレたちは一切の容赦を持ち合わせていないと見るべきだろう。

 ゲイルスコグルもこの点では同じであった。


「……でも、ゲイルスコグルが来るにしても前回みたいな虐殺はないでしょ。もう一つの目的と反するし」

「そのとおりです。問答無用の虐殺はまずありません。ただ、大神オーディンが頭領を務めるのなら、ルールが一つ加わるでしょうね」

「そのルールって?」

「抵抗しないなら手を出すな。だが、抵抗するようなら――」


 モルモーがいったんそこで止めた。


 木村はその隙に息を飲んだ。

 聞くまでもなくわかるのだが、覚悟をしておきたい。


「――全力で殺しにかかれ」


 予想通りだった。


「もしも抵抗に見るべき点があれば、ゲイルスコグル様がスカウトにむかわれます」


 ゾルが補足を加えた。


「抵抗しないなら手は出さないの?」

「抵抗する気概もない相手に、かの御神は興味を示さないということでしょう」


 木村はほっと息をついた。

 思ったよりも救いがある話だ。


「そのルールを追加して行進すると、パルーデ教国は滅びちゃうね」

「やはりそうですよね」


 ケルピィがサラッと述べた。

 王国ならもう少し緊張感が増すだろうが、パルーデ教国に関してはさほど関心がないようだ。

 ウィルもケルピィの話に頷いてみせる。彼の方が事態を深刻に受け止めていた。


「彼らの教典を一から十まで全て知ってるわけじゃないけど、原則として“人以外を認めず”だよ。人間以外は抹殺対象とみなしてる。そのワイルドハントって人の姿をしての行進じゃあないよね。それなら彼らは徹底抗戦だよ」


 最悪だった。

 大人しくしていれば助かるが、大人しくできない。


「……とりあえず、できることはしよう。せめて彼らに何が来て、何をしていくか、どうしたほうが良いかは伝えよう」


 身を隠してくれるならそれで良し。

 身を隠さず徹底抗戦の果てに全滅しても、アドバイスはしたので心の負担が軽くなる。


 そもそもカクレガがどこに向かっているのかわからない。

 もしかしたらパルーデ教国をそのまま抜けて、どこか別のところに行く可能性だってある。


「キィムラァくん。地図が変わったよ。例のアレがあるね」

「うわ……、あれ?」


 フルゴウルの声で木村が地図を見れば、扉マークがあった。

 しかし、その扉は×印がつき、色も薄れている。


「扉は潰れているようですね」


 良いことだ。

 ただし、初回イベントはこの×状態から復活したので油断できない。

 木村がこっそりおっさんを盗み見ると、彼もその印を見て安堵しているように見えた。

 もしかして前にちらりと出ていた、“意識の裏側に消えた”知り合いではないかと疑ってしまう。


「ああ、ラベクはここにあったんですか。あそこがパルーデ教国の総本山ですよ」


 ウィルが、潰された扉マークのすぐ近くに現れた印を見て、そんなことを言った。

 彼が言ったように、都市印に「ラベク」と言葉短く記されている。


 良いことがあったら、悪いこともないといけない決まりがあるのか。

 なぜどこの主要都市も扉のすぐ近くに築く?

 滅びるためか?


 すぐに違う、と木村は頭を整理した。

 扉は龍脈とやらにあり、魔力が流れ込みやすい地という話だ。

 魔力がたくさんあるところに、魔力のある人が集まって都市になったというだけのことである。


 とにかくカクレガはラベクへ一直線に進む。



 まるで彼らの滅びの鐘を鳴らしに行くように――。


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