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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅵ章.レベル51~60
77/138

77.竜人

 討滅クエストの竜だったものが人となった。


 人化するのは別に良い。

 木村はいろんなメディアで人化を見慣れている。

 なんなら電車や城の擬人化も見ているから、たとえカクレガが人になっても軽く驚くだけだ。


 問題は仲間キャラが人化を見た場合だ。

 端的に述べると、ウィルは絶句しているし、フルゴウルは眼を開いて手に筺を出している。


 さらに問題を付け加えるなら、人化した竜人がカクレガまで付いてきたことである。

 王都においておくと口からの熱線で建物を壊そうとするのでカクレガまで連れてきてしまった。


「コロス」


 カクレガまで連れてきたが、やはり攻撃性は解除できない。

 ウィルやフルゴウルと地図部屋で一戦を交えた後、竜人を訓練室に連れてきた。


 竜人は木村とおっさんには手を出さない。

 カクレガも攻撃対象とみなさないようである。

 おっさんも、竜人が木村とカクレガに攻撃しないためか何もしない。


 竜人の攻撃対象となるのは、仲間キャラと異世界の住人や建造物だ。

 これらを見ると、竜人は「コロス」、「コワス」などと片言のように発して攻撃に移る。


 問題はこれだけではない。

 竜人は木村とずっと手を握っている。

 今のところ痛くはないが、逆の手でカクレガの扉を壊したのを木村は見ている。


 一度、手を離したのだが歪みがひどくなったため、竜人の方から木村の手を掴んできた。

 それ以降はずっと手を離す気配がない。離すと歪みが再発すると学習している。


 広い訓練室におっさんと木村、それと竜人の三人。

 竜人とおっさんは、特に気のきいた話をしてくれるわけでもない。

 ときどきメニューを開いて時間を確認するが、時の流れがずいぶんと遅く感じる。


 王都はどうなっているだろうか、と木村は物思いにふける。

 まだ夜明けすら迎えていないのだが、ボロボロの状態であることは間違いない。


 壊滅とまではいかない。

 王城にまでは被害が及んでいない。

 帝都のときのように隅から隅までくまなく抹殺ではない。

 目の前の竜人の出現でワンアウト、アコニトの自爆でツーアウト、帰りの竜人による熱線でスリーアウト。


 さらに歪竜のブレスもくらっていた。

 歪みブレスによる後遺症はおそらく残る。


「やっぱりダメかも……」


 それでも歪みだけならアコニトの無効化と、木村の抵抗で抑えられる。


 ただ、今回は迷宮の時にあった、歪みの中心とやらがないかもしれない。

 そうすると一つ一つ歪みを消さないといけないわけで、いったいどれだけの時間と手間がかかるか計り知れない。

 現に、目の前の竜人の歪みを消すだけでも一時間以上がかかっている。


「あれ、もしかして……。この竜人の歪みを消したら王都の歪みも消えるかな?」


 この竜人自体が歪みの中心ではないか。

 そうなるとこの竜人の歪みを消せば、迷宮と同じように歪みが消滅するかもしれない。


「違うぞ。王都の歪みは独立しているぞ」


 ダメだった。

 これは歪みを消すどころの状況ではない。


 現実から逃避するように、木村は竜人のステータスを見る。

 ステータスが見られるので、システム的には仲間キャラなのだろうか。

 ただし、仲間キャラを殺していく仲間キャラなので、純粋な仲間とカウントして良いのか迷う。


 しかもステータスの大半が文字化けしており読めたものではない。

 この文字化けは歪みによるものなのか、想定されてないキャラが仲間になったバグによるものなのかも判断が付かない。

 とりあえず☆2ということだけはわかる。


 竜人もおっさんもまともに口を聞かないので、考えばかりが回っていく。

 そもそもこの竜人が討滅クエストの竜なら、木村たちの明確な敵であり、木村にとっては憎い存在であるとも言える。

 帝都の壊滅、獣人の郷の虐殺、デモナス地域……あれはゲイルスコグルだ。

 冥府のエリュシオンの強襲の例もある。


 とにかく前の二つだけでも仲間とは認めがたい。

 これは木村だけでなく、ウィルやフルゴウルでも同様だろう。


「晩酌の時間だぁ!」


 訓練室の扉が開いたと思ったら、うるさいアコニトが入ってきた。

 待機モードに入っていた竜人も活動を始める。逆に木村の思考は止まってしまった。


 竜人は得意の熱線をアコニトに向かって吐くが、さすがに二度目のためかアコニトがサッと避けた。

 発射の予兆がわかりやすいので、避けやすいと言えば避けやすい。

 この熱線は竜人が顔を動かすことで追尾もできる。


 アコニトらしいといえばアコニトらしいのだが、彼女はおっさんを盾に使った。

 竜人と自らの射線上におっさんが来るようにする。

 しかし、おっさんがうまく躱した。


 さすがアコニトというべきか、おっさんの盾が無理だとわかると今度は木村を盾に使った。

 竜人は熱線攻撃を止めると思ったが、一度モーションに入ると止められないらしい。


「……ちょ!」

「ふん」


 おっさんが竜人の頭と顎にそれぞれ手をかけ、口を塞ぐように押さえつけた。

 口からの熱線放出は止まった。


「ムグ! ムグムグムグ!」


 しかし、まだ竜人の喉からは熱線が出続けているようだ。

 発射口である口が力で閉じられ、熱線は竜人の口の中で暴走しているらしい。


 頬を膨らませ、顔中が膨らみ、やがて限界に達し頭が弾けた。

 首から出る熱線が、訓練室の天井を焼き、徐々に弱まって消える。


 竜人の胴体も光となって消えた。


「キィムラァ。既に討滅クエストの報酬は入手している。報酬は手に入らないぞ」


 おっさんがシステム的に告げて、木村は竜人から解放された。



 しばらく訓練室で待機していたが、竜人は復活しない。

 目の前では食堂から酒をもらってきたアコニトがぐびぐび飲んでいる。

 最近は酒も出してもらえなくなっていたが、木村が許可を出したので、リン・リーも出さざるを得なかったらしい。

 おっさんが酔ったアコニトを見て、露骨に嫌な顔をしているが彼女はおかまいなしだ。


 ウィルやフルゴウル、それにケルピィも来ていた。

 アコニトは酒を飲むためだが、もちろんウィルたちは事情が異なる。


「――というわけなんだ」


 彼らがアコニトの自爆で消滅してから、先ほどまでに起きた出来事を木村は説明した。


「なぜ竜が人の姿になるんですか?」


 それは木村に言われてもしょうがない。

 ジャパニーズ・ソシャゲの悪しき文化だと思われるが、正しいかは不明だ。

 ウィルも言っても仕方ないと気づいたようである。


「死んでしまったのでしょうか?」

「討滅クエストだからね。朝に復活するかも」


 復活するとしてどの姿で復活するかも疑問だ。

 竜の姿なのか、竜人の姿なのか。もちろん復活しないにこしたことはない。


「私としては、水の女の方が気になるね」


 木村としても気になっている。

 彼女はどこかに消え去ってしまったが、また会いに来るような口ぶりだった。


「心あたりはあるかな?」

「まったくない」


 本当にない。

 だが、強いて言えば――


「そこの酔っぱらいが、『誰かに狙われているぞ』って話してたけど、その人の気がする」


 アコニトは赤ら顔でツマミを食べている。

 もごもごとスルメのような謎物体をいつまでも噛み続けており地味にうざい。


「ずっと見ている、とも話していたのだろう。イベントにも関与している可能性があるとすれば、それはもはや神の領域だ」


 力だけで見れば確かに神とも呼べる。


「ん? 呼んだかぁ?」


 酔っ払いが木村たちを見てきた。


「呼んでないよ。飲んでてどうぞ」

「うむ」


 またしても、もごもごと何かを口にして酒を飲む。

 神というのは碌な奴がいないなとアコニトを見て木村は思った。


「そんな女神は放っておけぇ。『気になって直接会いに来ました』とかぁ、尻の青い少女かよぉ。見える位置でうまく操って二流。操っている感覚さえ相手に感じさせないで一流だぁ。直接、伝えにくるとか神として三流以下だぞぉ」


 アコニトが下卑た笑いを見せている。

 ちゃっかり話は聞いていたらしい。しかも、水女を馬鹿にしている。

 そういえば、アコニトも水の女が良くないとか言っていた。笑い顔が好きじゃないだったか。


「王都はまだ被害の確認段階だね」


 ケルピィが告げた。

 時刻は深夜だ。竜が消えても、明かりはほぼなく全容が掴めないだろう。

 早くても明日の昼までは、被害把握だけで時間が過ぎるに違いない。


「復旧は手伝います」

「……それなんだけどね」


 ケルピィは少し間を置いてから話をした。

 要約すれば、もう王都には入ってくれるな、ということだった。


 木村たちが出向けば被害が大きくなるばかりである。

 国の上層部の話し合いで決まったようだ。


 ケルピィがお目付役らしい。

 この機械玉はノリノリで水の館の攻略を手伝っていたが、そこのところはどうなんだろうかと木村は考えた。

 おそらく王城に帰っていないところを見るに、彼もまた追放されたようなものではないか。


「メッセさんと話をされてるんですよね」

「うん。どうしてこんな事になったのか説明を求められてるみたい」


 可哀相に、と木村は思った。

 彼女はこの件に関してはほぼ何も知らないだろう。


「いちおう言ってあげてください。カクレガに来ても良いですよ、と。王城にいても辛いでしょうから」

「伝えておくよ。今はあそこにいるべきじゃないだろうからねぇ」


 間違いなく針のむしろだ。

 説明なら木村たちがするべきである。

 もしも竜人が復活するなら、手を繋いで登城しよう。


「とにかくすみません。水の館なら大丈夫だと思ってたんですが、あんなことになってしまって」

「僕も甘かった。歪みのように水も消せるかと思ったんだけど、うまくいかないね……」


 どこか声が弱々しい。

 本人も反省しているようだ。


「とりあえず朝までは待機かな。また、竜が出るかもしれないし、水の館もどうなるかわからない」


 こうして夜が過ぎていく。



 朝になり、水の館は元に戻り、討滅クエストⅡのボスを巻き込んで倒す。

 ここは前日と同様で安心できた。


 前日と違うこともある。

 朝の6時ぴったしに竜人が復活した。

 普通の仲間キャラと違い、イベントの日時更新時に復活するらしい。


 訓練室の隅付近で歪んだ状態になっており、動けないのでしばらくこのまま放置することにする。


 王都にも入ることが出来ず、メッセも王城に居づらくなりカクレガにやってきた。

 水の女がかたどっていたシエイとやらは、戻ってきていない。

 選択を間違えたのがダメだったようだ。


 遠くから王都を見るが、一角が消滅している。


 今まで引き起こした惨事の中では、可愛い方であると木村は安堵した。

 無論、被害のただ中にいる人々が木村の安堵を知れば、激怒は間違いないが彼を責めることもできない。

 彼は王都に入ってこないし、そもそも引き起こしたのは運営と水の女だ。あと竜。


 進まない王都の復旧を木村は遠目に見つつ、デイリーを消化していく。

 そのメッセージがやってきたのは、デイリーを終え、地図部屋に入った直後のことだった。


 イベントのお知らせではない。

 新キャラでもなく、どちらかと言えば恒常ガチャの更新についてだ。



 アコニトのピックアップガチャのお知らせである。

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