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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅵ章.レベル51~60
76/138

76.討滅クエスト 復刻

 歪水竜の強襲に王都は沸き立った。


 もちろん良い沸き立ちではない。

 より実態にあう言い方をするなら混迷だ。


 しかも、時間帯が夜である。

 月が出ているとは言え、地球の都市と違ってずっと暗い。

 その中で、何か大きなものが明らかに人や住居を狙って暴れているわけである。

 普通に出てきたら諦めでうんざりしてしまうだろう。


 訳のわからない水女に主人公の自覚がどうだこうだ言われて、歪んだ水の竜が「はい、ドーン!」からの王都破壊。

 あまりにも吹っ飛んだ現状に木村は思わず笑いが出てきてしまう。

 もうどうにでもなぁれという気分だった。


 ただ、間接的とは言え、引き起こしてしまった責任もごくわずかだが感じている。

 正直に言って、政治家同様に責任を取って主人公の職に辞意を表明したいところであるが、間違いなく辞めさせてくれそうにない。


 それなら、せめて被害をできるだけ抑えるために行動するしかない。

 あの竜を止められるかどうかはともかく、止めるために行動したという事実が大切だ――このような消極的な気持ちで木村は動き始めた。


「大丈夫ですか!」


 ウィルやフルゴウルがカクレガからやってきた。

 ブリッジで状況を見守っていたので、行動がいつにもまして早い。


 ウィル、フルゴウル、ゾル、ボローの四人だ。

 このまま歪水竜と戦うことにする。


 おっさんが制止をかけないところを見るに、水の館の攻略は終わってしまったようだ。

 シームレスに、いつもの討滅クエストに切り替わってしまった様子である。


“戦う”

“逃げる”

“様子を見る”


 討滅クエストが始まったと思った途端に選択肢が出てくる。

 とりあえず“戦う”を選択する。


「戦うんだな。がんばるんだぞ」

「……え、それだけ?」


 本当にそれだけのようだ。

 選択する意味がない。


 とりあえず楽しそうに王都を破壊してまわる歪水竜に立ち向かう。


 今回は余裕がなかったためか、ウィルやフルゴウルから戦力分析を聞いてない。

 歪水竜は攻撃力と防御力は異常だが、動きはそこまで速くない。

 歪みをうまく扱いきれてないようにも見える。


 ときどき体が捻れて倒れてもいた。

 上で戦ったときよりも不安定さが増している。

 反則級の歪みブレスもテュッポに撃ったきりで、それ以降は撃ってこない。

 水を吐いたり、体を捻らせての突進と非常にシンプルな攻撃ばかりを連発する。

 もしかすると歪みのブレスを放つと反動で体があのような形になるのかもしれない、と木村は考えた。


 こちらに戦えるキャラがいるときは優先して攻撃してくるのも前回どおりだ。

 ボローが引きつけて、ウィルたちが攻撃していく。


 間違いなくゾルは相性が悪い。

 テュッポとも同様だが、物理攻撃はダメージが通っている気配がない。

 瓦礫から住人を守る役目になりつつある。


 フルゴウルの筺も微妙だ。

 歪水竜の体の一部を切り取って筺に詰めるとかしているが、歪水竜の体の水は増殖するように増えるので、時間稼ぎにしかならない。

 爆発をさせてもダメージが通っている気配はやはりない。


 ウィルも炎が効きづらいとみるや、雷や氷に切り替えていく。

 この二つは歪水竜の動きを遅らせているが、果たしてダメージがあるのかわからない。


 ボローも体を水に絡め取られ、壁役の任務を半端にしか果たせていない。

 そもそも単体攻撃を防ぐのがボローの特徴なので、範囲攻撃になると効果が薄れる。


「勝てる?」

「無理だな。攻撃が通っていないぞ」


 隣のおっさんに声をかけると即答された。

 どうやら木村の勘違いではなく、やはりダメージがなかったようだ。


 特殊なボスと言えば、ゲームっぽくて聞こえは良いが実際にいると困る。

 攻撃が通らない上に、街を楽しそうに壊していくボスとか出すなと開発陣にもの申したい。


 あの水女は主人公の自覚を持てとか言っていたが、この状況で何を自覚しろというのか。

 認識だかが己の中から湧き出てくるものとも言っていた気がするが、湧き出てくるものはしょうもないことばかりだ。


 街を守る大切さ?

 人の命のかけがえのなさ?

 逆張りで、圧倒的な力に対して諦めることの重要性?


 こんなときアコニトなら、何と言うだろうか?


「――そうだ。アコニトがいた」


 あの竜の強さの正体が、仮に歪みにあるとすれば歪みを短時間無効化できるアコニトは対抗策になる。

 問題は……。


「戦闘中だけどパーティーメンバーの変更ってできる?」

「時間はかかるが変更可能だぞ。誰と誰を変更させるんだ?」


 可能のようだ。

 誰とアコニトを変えるべきだろうか。

 現状で一番戦力になってないのはボローだ。

 範囲攻撃を引き寄せてはいるが、周囲に被害を引き起こし、他の仲間も守れているとは言えない。


「ボ……」


 木村はボローと言いかけた口を閉じた。

 交代させるのは良い。問題は交代させた後だ。


 この時間帯のアコニトがまともな状態か?


 ノーだ。

 酔い潰れているか、ラリってるの二者択一だろう。


 正常に戦える状態ではない。

 スペシャルスキルのぶっぱは……、ダメだ。

 闇化の効果は切っているので、アコニトの霧化は彼女のラリッた意識のまま周囲の住民を襲いかねない。


 そうなるとやることは一つだ。

 ボローは盾にならないとしても引きつけ役としては使える。


「ゾルとアコニトを交代で」

「わかったぞ。カクレガが来るまで待つんだぞ」


 交代ができるまでに、聞いておくべきことがある。


「ケルピィさん。王都の中で人が少ないところはどこですか? そこで決戦を仕掛けます」

「この時間帯だと南東のベルチック地区だけど、決戦って何をする気かなぁ?」

「花火をあの竜にぶち込みます」


 目には目を、歯に歯を、クソ()にはクソ(アコニト)を。

 ああいった軟体の相手の処理方法は相場が決まっている。

 内側からバラバラにするに限る。


 竜に近づきすぎると水の体に飲み込まれるのは、ボローですでに見ている。

 アコニトを飲み込ませて、その状態で自爆させる。


 ある程度、周囲に被害が出るのは仕方ない。

 最低限、場所くらいは弁える。そのために人が少ない場所を選ぶ。


 人がいなければアコニトの霧化も使えるかもしれないが、スペシャルスキルは彼女の意識によるところが大きい。

 頭が吹っ飛んでいたら、使ってはいけないだろう。人を溶かしていく。


「メッセちゃん。聞こえてる」

『聞こえています。隊長がいて、どうしてこんなことになっているのですか?』

「説明は後。周囲の兵たちに伝令して」

『――失礼しました。どうぞ』

「“今から竜を引きつけて移動する。ルートはペルルン地区のカンター通りを東に抜けて、ソイヤー大通りに入り、南に進みベルチック地区を目指す。そこで大規模な戦闘を行う。住民の誘導はこの道から避けるように。それと竜には手を出すな”。これを該当地区から優先的に伝令で」

『了解しました』


 メッセもケルピィの様子から軽口は言わなかった。

 すぐに行動に移ったらしい。


“戦う”

“逃げる”

“様子を見る”


 また出てきた。

 今度は“逃げる”を選択する。


「逃げるんだな。うまく逃げるんだぞ」

「キィムラァくん。戦闘コマンドで、あの子たちの行動が指示できるんだよね。僕の言うとおりに竜を誘導してみて」

「はい」


 どうやらブリッジの知識を吸収しているらしい。

 ケルピィから言われたように、ゾルやボロー、それにウィルの行動を選択する。

 まるで戦闘コマンドのチュートリアルを受けている気分だ。


 おっさんが木村を見ているが、そんな恨めしそうな眼で見られても木村は困るだけだ。

 本来は、彼こそがこの使い方を実地で説明するべきだった。


「ウィルの火魔法でボローを救出。ゾルでボローを抱えて移動。フルゴウルの筺でゾルたちを囲み、歪水竜の攻撃をカバーする。攻撃の合間だね。移動しよう」


 ケルピィの指示は的確だ。

 余裕がないためか、敬称は付けてない。

 すでに相手の行動パターンも頭に入っているようだ。

 ケルピィの描くとおりに、歪水竜は王都を破壊しつつも目的地へ移動していく。


 木村が戦闘コマンドをここまで使ったのは初めてであった。

 彼はほぼほぼケルピィに言われたとおりのことしかできていないが、まるでボス戦をしているようで楽しんでいる。

 もちろん楽しんでいるのは彼一人であり、他の人間はパーティーや住民も含めて必死に行動しており楽しむ余裕なんてまったくない。



 竜を引き連れて大きく移動していく。

 最初の頃に聞こえていた住民たちの声もすでに聞こえなくなってきた。


「くるね」


 竜がまたしても溜めを作った。

 テュッポを瞬殺した歪みブレスがくるようだ。

 ちょろちょろ移動するこちらをまとめて倒してしまおうという算段だろう。

 敵ながら嫌な攻撃である。仮に避けたとしても、王都が巻き込まれてボロボロになるのだから。


「コマンド準備。ボローは挑発。フルゴウルの筺でボローだけを囲む。相手の発射のタイミングに合わせて、ウィルの風魔法も合わせて上空に筺を飛ばす」


 木村もなるほどと頷いた。

 歪みの方向を上空に向けるようである。

 相手の溜めが長いのはありがたい。木村もさっそくコマンドで準備にかかる。


「やっちゃって」


 待機していたコマンドを一斉に開放していく。

 ボローが歪水竜を挑発し、フルゴウルがボローを筺で包む。

 ゾルが筺を抱きかかえて空に投げ、ウィルの生じさせた風が筺を上空に上げていく。


「……ちょっと早かったかも」


 筺がようやく落ちかかるころになって、歪水竜の歪みブレスがボローを襲った。

 木村はボローがいつもこんな目にあっているのが不憫でならない。

 アコニトには稀にしか抱かない思いに溢れてしまう。


 歪みブレスがボローを倒し、その勢いを保ったまま下に――木村たちへと襲いかかる。

 王都の背の高い建物を一部巻き込んだ後で、ようやくブレスは止まった。

 木村たちもこれには安堵の息がこぼれた。


「キィムラァ。女狐との交代ができるようになったぞ」

「わかった。すぐに変えて」


 ゾルの前に、カクレガの入口が現れた。


「ゾル。アコニトと交代で!」


 彼女は頷きを一つ返して、カクレガの入口に消える。

 そして、アコニトが…………出てこない。


「あれ? アコニトは?」

「ちょっと待つんだぞ」


 おっさんがこめかみのあたりをピクピクさせてカクレガに入っていく。

 どうせアコニトはダメダメの状態だと木村は思っていたが予想は当たっていた。


「いや、待てよ」


 意識がまともだから、戦いたくなくて出てこないという線もある。

 どちらにしても結果は同じだ。おっさんが迎えに行った時点で、まともな状態で出てくることはなくなった。


 歪水竜は歪みブレスを撃った後のクールダウンなのか、動きを止めている。

 そして、やはりブレスを撃つたびに歪みが増すらしい。

 歪水竜の体中がひどく歪んでいた。


「……あ、出てきた」


 アコニトが入口から出てきた。

 四足歩行モードだ。獣みは増すが、動きが良くなる。

 酔ってはいないだろう。酔っているときも四足歩行モードになるがふらつくことが多い。

 あれはラリっているときの四足歩行モードと木村は判断した。


「良かった」


 意識があると、敵へ突っ込ませて自爆の流れはさすがに悪いことをした気分になる。

 クスリでラリっているなら、ラジコンよりも罪悪感が薄れる。消耗がない。


「歪水竜に突撃させて――」


 コマンドで指示するとアコニトの移動方向が変わり、まだ動きを見せない歪水竜に走っていく。

 近くにいったところで歪水竜が活動を再開させた。

 ボローと同様にアコニトが歪水竜の水に絡め取られてしまった。


「よし。――自爆だ」


 慣れた動作である。

 これだけはもうコマンドを見なくてもできるようになった。

 最後のキャラ選択だけ、しっかりとアコニトを意識する。


“戦う”

“逃げる”

“様子を見る”


 戦闘中でも本当に関係なく出てくる。

 アコニトが薄く発光する光景がスーパースローになっていた。

 “様子を見る”を選択する。


「女狐の雄姿を目に焼き付けるんだ」


 先ほどまでアコニトを追いかけていたおっさんが一瞬で隣に戻ってきた。


 アコニトが発していた光は一度収束し、――お馴染みの赤紫色の光が王都を明るく照らした。


 おっさんが木村の前に立って、光を遮る。

 光がおっさんの横を通り過ぎていくのを木村は見ていた。


 アコニトの頭はラリっていたが、爆発は大きい。

 このアコニト花火の威力は、彼女の感情に依存することがわかっている。

 通常の状態だと基本的に弱い。ときどき決意を込めて爆発すると強いことがある。

 問題はラリっているときだ。威力がかなり大きくぶれる。ほぼ自爆のときもあれば、今回のように周囲を跡形なく消し飛ばすこともあるのだ。


 要するに王都の一角が消し飛んだ。

 三日月の頼りない明かりだが、周囲の建物がなくなったことはわかる。

 ウィルたちも同様だ。弱めの自爆ならまだしも強くなると生き残ることはできない。


「うっそ……」


 木村はおっさんがどいた後の景色を見て思わず声を出した。

 歪水竜がまだ生きている。


「歪みの障壁で身を守っていたぞ」

「ああ、あれで」


 木村は納得した。

 歪んだ王都の結晶ボスが使っていた歪み障壁だ。


 歪水竜はさらに歪みが増していた。

 もはや歪みが大きくなりすぎて、竜の形を保つことが出来ていない。

 スライムのような雨滴型でもなく、グニャグニャと素人が作った3Dエフェクトのようにデタラメに形が変わっている。

 まともに動くこともままならない様子だ。


「あぁぁ……、坊やぁ。なんだ、これはぁ…………」


 予想外の声に木村は声を失った。

 歪み続ける水の前に、アコニトが倒れている。

 体中がボロボロで、起き上がることもできそうにない。


「……えぇ、どうして?」


 ついにアコニトが自爆でも死ななくなった。

 しぶとすぎる。四足歩行モードだと、本当にゴキブリみたいに生き残れるのだろうか。


「確定即死を回避する効果のトロフィーがあったか?」

「……あった」


 おっさんからの指摘に、木村は記憶を漁り、解答にたどり着いた。

 冥府の王から逃げた際のトロフィーだったはずだ。


 低確率で確定即死が致命傷に置き換わるとかだ。

 初めて見たが、これがこの効果らしい。


 確率こそ低いが普通に良い効果だ。

 もう一回自爆できる。


 アコニトが歪んだ水を見て、さらに木村を見つめた。

 何か口にするかと思ったが、どうやらまともに口を開く余力もないらしい。


「素晴らしい手際です。これでこそ見込んだ甲斐があるというもの」

「また出た」


 水の姿をした女性が木村のすぐ横に現れた。

 最初の時と違い、やや機嫌の良さがうかがえる。


「さあ、木村くん。選択なさい。正しい選択を――」


“自爆だ!”

“スペシャルスキル発動!”

“様子を見る”


 木村はうんざりした気分になった。

 水の女が出てこず、選択肢も出なければ自爆させていただろう。

 こんなにあからさまに選択を強いてくると嫌気がさす。

 “様子を見る”を選択した。


「様子を見る必要はありません。さあ、正しい――」

「坊やぁ。タバコを、取ってくれぇ」


 水の女の声を遮ってアコニトが声をかけてきた。

 見るからに瀕死であり、尻尾に手を伸ばす力もないようだ。

 木村はもらって吸わなかったタバコを彼女の口にさした。


「手ぇ、かせぇ」

「あ、うん」


 木村はアコニトの手を取って、その手を彼女の口元――タバコに近づける。

 どうやってか、タバコが赤く光って火が付いた。

 数秒経って煙が出てくる。


 アコニトが咳き込みながら煙を吐いた。

 水の女もその様子を見ているが、何も言う様子はない。


「坊やぁ。儂の、経験論だがなぁ。そこの水形は良くないぞぉ」

「どうして?」

「なぜそのように思われるのですか?」

「うぬは、ずっと嗤っとるだろぉ。儂は、その顔が好かん」


 木村は水の女を見る。

 顔はある。しかし、水のため表情は見えない。

 声の調子からも、木村は笑っているようには見えない。


「戯れ言を。獣の讒言に耳を貸すべきではありません。木村くんは正しい選択をなさい」


 おっさんもこれにはうんうんと頷いている。

 前半に頷いているのか、後半に頷いているのか、あるいは両方なのか。


“自爆だ!”

“スペシャルスキル発動!”

“毒煙で歪みを攻撃!”


 またしても選択肢。

 しかも今回は“様子を見る”がない。殺意マシマシだ。


「確認だけど――、選択肢は出てるけど、これに縛られる必要はないんだよね?」


 木村はおっさんに尋ねた。

 おっさんも「そうだぞ」と肯定する。


「木村くん。どうして選択を拒むのですか? やることは明白でしょう。先ほどまでも君は、その歪みを倒すために戦っていたはずです」

「いや、まあ、そうなんですが選択肢で突きつけられるとなぜか嫌になるんです。そもそもあなたはこちらの味方なんですか?」

「当然です。私はずっと君を見守っていますよ。通常であれば、地上に降臨できませんが、今回はこのような特殊な環境のため会うことがかないました」

「……そうですか」


 木村はなんとなくわかった。

 アコニトが言っていた「坊やは狙われている」の犯人はおそらくこの女だ。

 違うかもしれない。だが、そうであって欲しいと感じた。木村としてもこの女に味方という印象はない。


「わかりました。――アコニト。歪みにむかって煙を吐いて」


 アコニトに指示をする。

 彼女はわかりやすく嫌そうな顔を返した。

 逆に、水の女は表情が見えないまでも緊張が解けたように感じた。


 そして、木村は腕まくりして手を広げて、歪みに向けてみせる。

 アコニトに早くと、木村は顔で示した。


「……木村くん?」

「――わかったぞぉ」


 アコニトはわかってくれたようだ。

 タバコに口を付けて、息を吸い、ただの煙を歪みに吐いた。


 ダメージを伴わないタバコの煙だが、攻撃とみなされたらしい。

 グニャグニャと歪んでいた水が、ようやくしっかりとした形を示した。


 人間の姿に近いがまだ見たことのない顔だ。

 頭に二本の角が生えている。


 木村はその竜人の手を掴んだ。


 アコニトで歪みを解除し、木村で歪みの再発生を抑える。

 王都の歪みを消した方法と同じだ。もしも竜人が暴れてもおっさんが止めてくれるだろう。


 竜人が目を開く。

 木村はその瞳孔にびくりと怯えた。

 マンガで見るような、縦長の結晶のような瞳だった。

 さらに白目部分が、赤く溶岩のごとく流れを見せている。


「――マタ、アエタネ」


 竜人が喋った。

 男女の判別が付かない。

 そもそも竜に雄と雌があるのか。

 

 竜人は無表情のまま口を大きく開いた。

 喉が赤く光り始め、喉の奥から赤黒い光りが徐々に上がってきている。


 やがて赤の光が満ち、木村の横を赤い奔流が通り抜けた。

 レーザーとビームの違いが木村にはわからない。単純に熱線と考えた。


 竜人は頭を動かして、赤の熱線の方向を変えていく。

 光りが消えると、竜人が口を閉じた。


 木村が熱線の撃たれた方向を見る。

 水の女が熱線にやられたようで、頭が消え去り、体も大半が消し去られていた。

 ついでにアコニトも熱線にやられたようで、淡い光となって死んだ。


「やれやれ、困った子たち。――今宵はここまでにしましょう。癇癪を起こした子とは話ができません。運命の糸はすでに絡みついています。また、会いましょう。木村くん。自覚は早めになさい。手遅れになりますよ」


 水の女はぱしゃりと水となって地面に散った。

 ただの水のようで、地面をぬらすだけだ。


 こうして水の女は何処かへ消え去った。



「ボク、カエラナイ」


 ーー竜人という大問題を残して。

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