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7.討滅クエスト

 木村は討滅クエストを知っている。

 討伐、討滅、チャレンジなどと名は変われど、様々なソシャゲでよく見かけた。

 文中に書いてあるとおりで、強めのボス格モンスターと戦ってみようというイベントである。


「お、討滅クエストが今日からなのか。キィムラァ、力を試すチャンスだぞ」


 おっさんは拳をグッと握り、全力で取りかかろうぜとアピールしてくる。

 だが、謁見の間の誰もおっさんの話についていけていない。

 かろうじて木村が追いすがっている程度だ。


 とてつもなく嫌な予感がしたのは、木村の成長と言って良いだろう。

 今までの流れでいけば、場所と時間は推定できる。

 念のため彼は聞かざるをえなかった。


「討滅クエストはどこでおこなわれるの?」

「ここだ」


 木村の嫌な予感のまず一つ目が的中した。

 まだチャンスはある。時間がずれていれば良い。


「……いつの話?」

「もう始まっているようだぞ」


 木村は目を細めて天を仰ぎ見た。

 もう遅かった。本当にどうしようもない。

 小さな地響きとともに、見上げた天井から埃が落ちてくる。


 時間と場所は予想どおりであった。

 残る問題は規模だ。最初のイベントである。

 そこまで強いのは出さないだろう、木村はそう考えた。


 異変をしかと知らせた第一報は扉の音である。

 慌てた様子で兵士が謁見の間に駆け込んできた。


 通常ならあまりの非常識に怒鳴られるだけでは済まないところだが、誰も何も言わない。

 木村以外の全員が異変に感づいていたからだ。


 彼らのすぐ近くで膨大な魔力反応が生じたことに。


「申し上げます! 帝都中心部に竜が現れました!」


 謁見は一瞬でお開きとなった。




 地響きと廊下の外からの慌てふためく声が交錯する。


「きひひ、やぁっと解放されたわぁ」


 竜出現のどさくさに紛れておっさんと木村はアコニトの拘束を解除した。

 解除というよりは、木村に頼まれたおっさんが拘束具を紙のように千切っただけである。

 アコニトも顔を引きつらせていたので、かなりすごい芸当だということだけは木村でも理解できた。


「よし、行くぞ。討滅クエストの開始だ!」

「……うん」

「あぁあぁー、めんどくさいぞぉ」


 おっさんの声に木村と、さほど乗り気でないアコニトも続いた。




 城は帝都のいっとう高いところに築かれており、帝都の様子が隅々まで一望できる。

 小さく見える帝都の中心に、大きく見える赤い竜が四方八方に火を吐いていた。


 比喩ではなく地獄絵図だった。

 元の帝都がどんなものか木村は詳しく知らない。

 それでも今のこの状況の悲惨さは彼にもはっきりと理解できた。


「すごい。本当に竜だ」


 映画やゲームでしか見たことのない巨大生物が建造物をおもちゃのように破壊している。

 ところどころで魔法の光が煌めくが、竜に効いているとは思えない。


「おい、キィムラァ。あれは竜じゃないぞ。火を吐く大きめの蜥蜴だ」

「いやいや、それを竜と呼ぶんじゃないの」

「うん? キィムラァは本物の竜を見たことがないんだな。――しかし、そうか。火を吐くだけの竜がいても悪くはないか」


 木村は竜が何かの議論をここでする気はない。

 とりあえず、あの火を吐く生物の近くに行ってみることになった。


 わかってはいたが、木村たちが竜の近くに来るころには、帝都の市街地はすでに半壊のありさまだった。

 騎士団やその他の武力部隊が出たが、時間稼ぎになっているのかどうかも怪しい。


「よし。それじゃあ、さっそく挑んでみるとするか。行け、女狐」

「無理だぁ! 無理だろぉ! ふざけておるのか! 貴様が行けよぉ、中年!」

「俺にできるのはチュートリアルだけだ。戦闘はお前に任せる。大丈夫だ。倒せなくても挑戦報酬は手に入るからな。たとえ敗れても、挑んでみることこそ大切だぞ」

「訳のわからん報酬や安い達成感なんてどうでもよかろうがぁ! 儂は命の話をしておるんだぁ! ただ一つの大切なモノの話をなぁ!」


 異世界の命の軽さに慣れてきつつあった木村も、さすがにアコニトに「あの竜へ突撃しろ」とは言えなかった。

 彼女は貴重な戦力である。ここで失うわけにはいかない。


「離れたところから毒でワンチャンいけたりしないの?」

「本来の儂ならできるぞぉ。あれが数体いようとも余裕だぁ。だが、今は無理だぁ。命がいくつあっても足らんわぁ」


 アコニトの力が本来の実力から大きく欠けていることは木村も理解している。

 あの竜に反撃されたら本当に死んでしまうだろう。


「命の心配なら無用だぞ。討滅クエストは倒されても復活するからな」

「そうなの?」

「ああ、まずは気軽に挑んでみるんだぞ」


 アコニトがこいつらは何を言ってるんだと、木村とおっさんを見る。

 木村もアコニトの視線に気づき、自らの浅はかさに気づいた。


「でも、やっぱりあんな竜に一人で挑ませるの良くないと思う」

「そうだそうだぁ! さすが坊やだぁ。後で儂のとっておきを吸わせてやるぞ」

「遠慮しとく」


 アコニトはご機嫌な様子で煙管を取り出し口につける。

 挑む必要がなくなり安堵の一服だ。


「ちなみに挑まない場合、あの竜はどうなるの?」

「……そのうち消えるんじゃないか」


 おっさんにもはっきりとはわかってないようだ。

 それでも下手につついて被害を被るよりは、時間が解決してくれるのを待った方が良いだろう。


「そうか。やめておくか。まあ、キィムラァがやめると言うなら、お前さんの意志を尊重しよう」

「うん。悪いけどそうして」

「ガチャチケットも手に入る、お得なイベントなんだがな」

「……アコニト、やっぱり頼むよ」


 アコニトの口から煙管が落ちた。

 彼女は何かを言おうとしたが、決定が覆らないことをなぜか悟った。

 その悟りは召喚された側に刻み込まれた強制プログラムとも言える悪質なものなのだが、アコニトが理解することはできない。


 どう戦いを拒否するかではなく、どう戦うかに頭が切り替わっていくのを彼女は感じた。

 距離を取り、遠距離から毒を浴びせ持久戦に持ち込むしかない。


 アコニトが地を走る。

 近接戦闘は得意ではないが、種族の特性か素早さはそれなりである。

 風上から毒の煙を吐き出して、赤い竜にありったけの毒煙を浴びせた。アコニトは上手くいったとニタァと笑う。


“毒無効”


 木村には赤竜の上に浮かぶ無慈悲な三文字が見えた。

 しかも赤竜は、毒を無効化するのに攻撃されたとは認識するらしい。


 攻撃された方向――すなわちアコニトを向き、竜は口を開いた。

 竜の口が赤く光り始め、次の瞬間には容赦のない炎の波動がアコニトと周囲の街を焼いた。


「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……………っ……ぃ」


 火と絶叫が収まり、炭化して細く黒くなったアコニトがぽとりと倒れる。

 淡い光となってアコニトは消えた。


 アコニトが消えると、赤い竜も消え去った。

 戦闘メンバーがいなくなったことを見て自動的にイベントが終了したのだ。


「おっ、挑戦報酬が手に入ったな。開けてみるんだぞ」


 木村の前に小さな宝箱が現れる。

 開けてみると中には強化素材やガチャチケット、お金と様々なものが入っていた。


「すごい! 大量だ!」


 ガチャチケットは何よりも嬉しい。

 さすがにアコニトの強化も素材が辛くなっていたので、新しい前衛キャラが欲しいところだった。

 アコニトの毒は長期戦向けだ。毒で倒れるまでの時間を稼げる奴がいれば、戦力はさらに上昇を望める。

 ただし毒無効の相手は除く。


「ぎゃあああああああああ! ふぁあああああああぁあああ!」


 叫び声とともにアコニトが復活した。

 息を激しく吸ったり吐いたりしながら自身の体を確かめている。

 復活するとは聞いていたが、本当に焦げ痕一つもない状態でアコニトは立っていた。

 ただ、火を浴びて死んだという経験だけはあるらしい。


「な、なな、なんだぁ。大した火ではなかったぞぉ。我が同胞の焔のがよほど熱いわ」


 声は気丈だが、煙管を持つ手は激しく震えている。


 ごめん、と木村はアコニトに謝った。

 さすがにあの黒焦げの状態を見たときは冷や汗をかいた。

 その冷や汗もガチャチケットを見てすぐに収まったのだが、そこは言わないでおく。


「なめるなよ坊や。儂にかかればあの程度の炎など余裕だぁ」


 強がりであることは明白だ。

 しかし、木村は首をひねらざるをえない。

 アコニトはまだまだ成長の半ばだが、素材を優先的に投入している☆5である。

 相性の問題もあるのだろうが、その彼女をあそこまで一方的に倒すというのは、あまりにも強すぎるのではないか。

 難易度の調整をミスっていると木村は疑う。


「あの蜥蜴めが、図に乗りおってからに。次は儂の毒で跡形もなく溶かしてやる」


 あの竜が毒無効というのをアコニトは知らない。

 次があってもアコニトでは勝てない。


「その意気だ。討滅クエストの第二回目がまもなく始まるようだぞ」

「え?」

「は?」


 木村とアコニトがおっさんを見る。


「言ってなかったか。討滅クエストは一日に三回まで挑戦できるんだ。――お、始まったな」


 帝都の一番高い場所。

 城の上に大きな影が舞い降りる。

 今度は赤ではなく青い竜だ。青竜は城を容赦なく踏み潰した。


「心配するんじゃない。二回目と三回目も、一回目と同様に報酬が手に入るぞ。三回全て挑んだ場合は10連召喚チケットが初回報酬としてもらえるようだ」


 木村は確かに心配しているが、不安な点は報酬ではなかった。


 帝都である。


 彼の心配への回答は二行で済む。


 後の歴史書の年表に今日のことが書かれているので引用する。


“帝国歴二七九年 アクラートの月 第五の日


 ナギカケ帝国 帝都ガラハティーン 堕つ”


 帝都の陥落と、帝国の崩壊はすぐさまイコールで結びつけられるわけではない。


 ただ、着実に帝国の歴史は終幕へと向かっている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本物の竜の話はゾッとするので楽しいです (ぐるぐる目) [一言] デイリーの討滅クエストx3が死ぬほど大変でログインが億劫になるタイプのソシャゲだ……
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