59.武器作成
糞狐事件から数日が経った。
ハムポチョムキキ平野での採集もあらかた終わっている。
レベルも現時点で最高段階の50に達してしまった。
やはり採集での経験値が桁違いだ。
戦闘で経験値を稼ぐのが馬鹿らしくなるほど経験値が入る。
新しい草や虫、石を見つけるだけで、戦闘の数十倍の経験値になっているのは間違いない。
しかし、レベルが上がってもさほどメリットはない。
キャラが微妙に強くなっているような気がするが、気がするだけでステータス上は変わってない。
それでは新たなコンテンツが開放されるかということもなく、スタミナみたいなものが増えていることもない。
もしかしたら、そろそろ二つ目の召喚者スキルが手に入るかもしれないが、少なくとも次の段階まではないだろう。
スキルテーブルも要求素材がエグくなってきており、なかなか進めることができてない。
ひとまずステータスアップはともかく、各メインキャラの新しいスキルが手に入るところまでは進めておきたい。
逆算すると、今回のイベント終わりまでにギリギリ手に入るかどうかというところだ。
最近の戦力アップはモルモーによるものが大きい。
彼女のおかげで、カクレガの戦力は確実に数段階は上昇したと言える。
モルモーは冥府の導き手の部下であったが、カクレガに左遷された人物である。
来たばかりのころはぎこちなかったが、すぐになじんでしまって仕事以外は自由に過ごしている。
いちおう上司からは木村たちの監視という題目でここに送られたらしい。そんなことを監視される側に伝えていいのだろうか。
彼女はキャラのマネが得意で、特殊な技以外ならほぼ同じステータスになれるらしい。
記憶を読むのも得意であり、アコニトやゾル、ボロー、フルゴウル、おっさん以外ならマネをされると木村には本物・偽物の判別が付かない。
ちなみにテュッポとルーフォのマネは、上司から禁止されているらしく、やってもらえなかった。
彼女がマネをすることで、同じキャラが二人いると便利そうと思ったことが実現できるようになった。
しかし、これはうまくいかなかった。トロフィーの効果がモルモー側のマネキャラにのらなかったのだ。
ウィルに化けても、トロフィーの効果分だけ弱くなってしまう。
魔法の複合といった難しいことはできるようになったが使うことも滅多にない。
普通にゾルやアコニトといったメインキャラを使った方が強く、コピーキャラ作戦はお蔵入りになった。
モルモーによる戦力アップは彼女自身の戦力ではなく、武具の製造ができたことだ。
今まで誰もまともなものを作れなかったが、ついにまともな武具ができるようになった。
もっとも彼女が知っている人物のマネをしているので、実際はマネをしている人物の力が大きい。
足を引きずった老人が、椅子に腰掛け工具を持っているが、その姿が様になっている。
実際、完成した装備の効果も、目に見えてキャラが強化されているのがわかる。
「……僕が作った物と何が違うんでしょうか?」
ウィルが魔法の特訓以上よりも真剣に考え込んでいた。
全てが違う、と木村は思ったのだが、あまりにも酷な話なので「なんだろうね」と合わせておくに留めた。
実際のところ、ソシャゲのアイテムなのでこの世界のものと理が違うのではないだろうか。
そのためウィルには作り上げることができない、と木村は考えている。
何はともあれ、溜まっていた加工用素材も消化できたし、戦力もアップできた。
スキルテーブルでちまちま戦力を上げていたのが馬鹿らしいほど、キャラが一気に強くなった。
試練の塔も一気に二階も上に上がることが出来てしまっている。
欠点としては装備しないと効果を発揮しないことであるが、これはしょうがない。
まさかゾルみたいにいつでもどこでもフル装備というわけにもいかないだろう。
ピッピコーン
遠くから微かに災厄を呼ぶ音が聞こえた。
空耳かと思ったが、おっさんが扉を開けて現れたので間違いなさそうだ。
「キィムラァ。手紙が来たぞ」
「うん……。はぁ」
ため息まじりで封筒を開けると、予想どおりのものだった。
イベントの告知である。
またイベントが開催されるらしい。
しかも5日後と、かなり早いペースだ。
「やはりイベントですか?」
ウィルがうんざりした表情で聞いてくる。
ここ二回のイベントでは出番がほぼなかった彼である。。
最近は、新しい魔法の開発に火が付き、強敵を相手に使ってみたいと話していた。
ボスに使わせてあげようと木村は考えている。
「えっと……、イベント名は“迷宮にて相まみえましょう”」
なんか、あれ? 普通だ。
即座に不吉なものを感じさせる題名じゃない。
それにどんな異常あるのかも明確である。迷宮ができるらしい。
「迷宮? どんなものなんでしょうか?」
ウィルの疑問にすぐには答えない。
イベント内容も簡単に書いてあるのでそちらを先に読みあげることにした。
へんぴな田舎に迷宮が突然でき、賞金稼ぎがいっぱい来た。
あなたもたまたま近くにいたので、迷宮に入ってお宝をたくさん手に入れよう、とある。
「普通だ」
「いえ、普通ではないでしょう」
ウィルからすれば普通じゃないだろう。
迷宮という言葉がすでにこの世界では異質なものだ。
しかし、木村は普通と考える。普通すぎてかえって怖い。
もっと嫌な気配をビンビンに感じさせる名前にしてくれた方が身がまえることができる。
これではまるで、どこにでもあるソシャゲの一イベントではないか。
期待すらしてしまいそうになる。
カクレガはまたもや勝手に動き始めている。
方向からすると王国のどこかで行われるようだが、ゲーム同様にへんぴなところで開催されて欲しいものだと木村は考えた。
だが、すぐに無理だろうなぁ、と諦めるのである。
ふと脇に立っているおっさんが気になった。
彼は地図を見て、カクレガの移動先を見つめている。
「どうしたの?」
「……この先に知り合いがいてな」
木村は嫌な予感がした。
このおっさんの知り合いには禄なのがいない。
今までの経験からいって竜だろう。メインストーリーでセットになって出てくる。
実はこのおっさんも竜じゃないかと木村は疑っているのだが、本人は無言だし証明することはできないので放っておく。
とりあえず、触りのない言葉を言っておく。
「会えるかもしれないね」
「無理だな。他者に干渉することがない奴だ。こちらから干渉もできない」
他者に干渉しない。こちらからも干渉できない。
引きこもりかな、と木村は考えた。
「人が嫌いなの?」
「いや、かなり好きな部類だぞ」
それもそれで嫌だな、と木村は考えた。
無関心を貫いてもらうのが一番互いに影響がない。
「賑やかなのが嫌いとか」
「賑やかなのが好きな奴だ。賑やかな集まりから、一人離れてぽつんといるぞ」
「……ぼっちかな?」
まるで自分のようだ。
教室の中で一人。体育の時間はいつだって浮いていた。
「それって、寂しくないの?」
「寂しいのが大好きなんだぞ」
意味がわからない。
聞くんじゃなかった。
「うーん。でも、知り合いなら会えるといいね」
「無理だな。異常な力を持っているんだ」
「あぁ……」
やっぱりという感想である。
赤竜みたいに周囲を吹き飛ばしたり、無竜のように全てを消し去ったりする輩か。
知っておいて損はない。いきなり巻き込まれるとタダじゃ済まない。心の準備はしておきたい。
「どんな力なの?」
おっさんは答えない。
得意の無言というわけではない。口を開きかけて閉じてを繰り返す。
言おうとしていることがまとまらない様子である。かなり珍しい反応であった。
「強いて言葉にするとだな。“不偏のもとに、普遍にして、不変を為す力”だな」
思った以上に意味がわからない。
言葉遊びがすぎる。要するにどうなんだ。
「闇の力と呼ぶ奴もいる」
木村の思っている闇とずいぶんと違う。
ますますわからなくなってしまった。
「気にする必要はないぞ。どうせ出てきたとしても会うことはないからな。互いに干渉できないんだぞ」
けっきょく最初の話に戻ってしまう。
ひとまず、竜らしきものはいるけど無視できると考えておくことにした。
―― ―― ―― ――
式典を五日後に控え、王都は混乱のさなかにあった。
混乱は二種類ある。
一つは式典の準備にかかわるもの。
こちらは良い混乱だ。
良い式典にすべく、与えられた役割をそれぞれがこなしている。
忙殺されつつも五日後には終わるので、ゴールが見えており安心して動き回れる。
もう一方の混乱は、地下水路にかかわるものである。
こちらは悪い混乱だ。
ピヨヨ宰相の部屋には、同期の三人が揃っている。
談笑する雰囲気とはほど遠いものだった。
「魔物がね。増えてるって」
ケルピィがふざけた口調で事実を告げる。
口調は砕けているが、表情はいたってまともであり、聞いている側も注意することはない。
地下水路の混乱が長引いている。長引くどころか悪化していた。
水路に魔物がいたことは、すでに調査で判明しており、専門家を送り込んで退治して終わり。――関係者はみなそう思っていた。
ところが魔物は討伐しても討伐しても次から次へと湧いて出てくるのである。
魔物が出現するのを、専門家――魔物討伐隊の隊員が見ている。
「しかも、より強力な魔物が湧いてる。それだけじゃないんだな。さらに悪い報告があがってきてるよ」
ケルピィが部下からの報告を、そのまま告げる。
告げる相手はピヨヨ宰相と王国神術省長官モッフモフルドである。
「これ以上、悪くなることがあるのか?」
「うん。地下水路の地形が変わってるそうだよ」
「……地形が変わる? 魔物が水路を破壊しているということか?」
「いや、破壊じゃないって。道が、地図と大幅に変わってるそうだ。地図にあった道がなくなり、逆に地図にない道が現れるようになってる」
報告を受けた二人が信じられないとケルピィを見るが、見られた彼もまた信じられない様子である。
彼自身が地下水路を真っ先に調査したので、何がどうなってるのか意味不明だ。
「帝国からの攻撃という可能性はないですか?」
「ない。奴らは国内の維持だけで手一杯だ。今の帝国に、他国を害する余裕はない」
帝国の東部はすでに壊滅していると報告があった。
帝都の壊滅から始まり、その東の神聖国の壊滅と続き、あの地域は非常に良くない状態だ。
人が帝国中西部に集まり、混乱が極まっていると聞く、さらに帝王の跡継ぎ問題も生じており、王国にとっては攻める機会でもある。
「パルーデ教国はどうでしょうか?」
「なるほど、彼らは魔物に通じてはいる。だが、彼らの教えからは逸れる」
尋ねたモッフモフルドもそうだと頷く。
パルーデ教国なら魔物殲滅を真っ先に行うだろう。
質問されてばかりだが、むしろピヨヨ宰相の方が尋ねたいくらいである。
「そも、神術でこのようなことが可能なのか?」
「魔物の召喚、地形の変更、どちらも時間と労力をかければ可能ではあります。しかし、どうやっても痕跡は残ります。むしろこれほどの規模ならここからでも感じ取れて然るべきです。ところが神術省で、地下水路を含む王都全体を観測しておりますが、地下にそのような反応はありません。今もです」
すなわち、魔物も地形変化も神術ではないことになる。
モッフモフルドが報告を否定しているわけではないことは、ケルピィも理解している。
モッフモフルドも地下水路をケルピィと一緒に少しだけ見ているので、その異常性を把握しているからだ。
「地下か……」
ピヨヨ宰相が意味深に呟いた。
二人もピヨヨを見る。
「数ヶ月前に密偵から報告があった。帝都が滅んだ直後で地下に姿を消した連中がいた、と。さらにその連中と同じと思わしき人物が神聖国の滅ぶ直前でも現れた、とな。当時は眉唾な報告だったが、今の地下水路で起きている現象は帝都や神聖国と似ていると私は考えている。どちらも神術の域を超えた超自然的な現象が起きているという点でな」
聞いていた二人もことの重大さを理解した。
式典どころの話ではない。
「すぐにでも王に話すつもりだ。軍も正式に動くことになるだろう」
モッフモフルドも頷く。
彼も同席して、王に神術省としての意見を献上することになる。
「ケルピィは引き続き地下水路の様子を見てくれ」
ケルピィは頷いた。
彼も重大さを理解しているが、二人よりも悲観的ではない。
地下に消えた人間がいるのなら、ピヨヨ宰相が言う「超自然的な現象」ではないということだ。
人為的なものという可能性が強まる。人為的なものであれば止めることもできうる。
「討伐隊で使っている出入り口以外は硬く封鎖し、兵を置くことになるだろう」
「無意味だよ。そこはこちらで調べた。もう、封鎖されてる。僕たちで使ってるところ以外はどうやっても開かなかった。神術省でも調査してみて欲しい」
「わかりました」
「それより、人為的なものということであれば、不審な人物を見張るよう情報省に依頼すべきだ。こちらはさらに地下水路で情報の痕跡を調べておくよ」
三人の会話は終了した。
ピヨヨとモッフモフルドは部屋から出たその足で王のもとへ行く。
ケルピィも彼らに背を向けて地下水路へと向かった。
その足はわずかに急いでいる。
ピヨヨとモッフモフルドに報告していない案件があった。
彼の部下の一人が、地下水路から戻ってきていない。
着実に強くなった魔物を相手に、仲間を逃がし水路に残ったという。
今朝のことだ。まだ、水路に新たな変化がないことを祈り、ケルピィは走る。
彼の祈りは届かない。
ケルピィが向かっている地下水路では、すでに新たな変化が起きていた。
「ズキュン、バキューン、イェー! もーイッパーツ! バァーン!」
細身の男が両手に持った銃から火を噴き上がらせている。
銃だけでなく、口からも効果音を出して周囲の魔物を撃ち落としていた。
男の耳は頭の上から生えており、兎のように長くまっすぐ上に伸びている。
口と銃も軽快だが、動きもまた軽快だ。魔物の動きを軽々と避けて、銃で反撃を加えている。
「見せてやるぜ! ファッ○ン害虫ども! これがラピッドファイアならぬ、ラビットファイアだぁ! ウッサウサにしてやるぜぇ! ウササササ! ウサササササ!」
正面から襲い来る多量の魔物を、それ以上の弾丸で討ち滅ぼしていく。
口から出る安い効果音と、銃から出る爆音が対照的だった。
「お宝ぜんっぶ一人占めだぁ! ウッサイエェ!」
細身の男は景気づけのごとく、道の先に向けて弾を撃ち放つ。
暗い道の先にいた、視認することのできない魔物の一匹が体を貫かれて倒れた。
「おいらが一番! みんなが二番……ん? あぁ? ウッサァア!」
兎人が道の先にあったものを見て声を荒げた。
彼は、自身が一番乗りではないことを理解してしまった。
人が壁に背をもたれかけ、座り込んでいる。ケルピィの部下である。
「オーマイゴッド! おぉーーい、ウッサー神! どうしておいらが一番じゃないんですかぁ!」
神は答えない。
そもそも男はそんな神を信じていない。
「だれ……、だ」
ケルピィの部下は、まだ生きていた。
魔物から仲間を逃がし、魔物を倒すことはできずとも、手負いにさせ逃がすことまでは成功した。
しかし、彼自身も負傷して動くこともできず、道ばたに座り込んでいる状態だ。
「ヘイ、そこの兄さん! あんたどうしてここにいる!」
兎の耳に、赤い目をした男が叫んでいる。
負傷した男に尋ねるというよりは、自分の気持ちをただ口にしているだけにも聞こえる。
「内部を調査し――」
「調査! 良いね! 調査してどうすんの?!」
「魔物を倒し――」
「そりゃそうだ! 魔物は倒すよな! 倒した後は? おいらが聞きたいのはそこよ!」
「外に被害が出ないよう――」
「よっしゃ! ハッピーな答えだ! おいらたちは友人どころか兄弟になることだってできるぜ! 生きるんだ、ヒーロー! お宝はおいらがもらってやるからな!」
兎人は負傷した男の肩を強く叩き、そのまま道の奥に消えていった。
楽しげな笑い声と、けたたましい銃声が男の頭に響く。
残響の中で男は意識を失った。
異世界に迷いこんだ兎人は、地下水路を人知れず進む。
まだ見ぬ宝との出会いを信じて――。




