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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅳ章.レベル31~40
54/138

54.コラボ:追加ミッション2

 追加ミッションの二日目が始まった。


 ……始まったはずなのだが、なかなか手紙が来ない。

 訓練室に行ったり、食堂で配膳の手伝いをしたり、農園でお茶を飲んで一日を過ごす。


 手紙が来たのは夜になってからだった。

 ご飯を食べて、部屋に戻ったら机の上に置かれていた。



“こんばんは。


 冥府の導き手だよ。


 今日はご主人と一緒に裁定をしてるよ。

 過労で一人倒れちゃったんだ。


 今日の追加ミッションはこれ。


『戦力の確認』


 敵を知り、己を知れば――の己の部分だね。



 ご主人がどうしてあんな目をしてるのかわかったよ。


 裁いても裁いても光る列。”



 どうやら冥府の導き手は、裁定に駆り出されたようだ。

 昨日まで見られた余裕がなくなりつつあった。

 最後に状況と心境が書かれている。


 国語の教科書でこんな俳句を読んだ気がした。

 五・七・五に縛られない自由律俳句だったか何かだ。


 国語の先生が俳句好きだったらしく、この句について説明してくれていた。

 自由律の部分に目が行くが、実はこの句には前書きがあるとのこと。

 これを読むことで作者の意図が読めるとか何とか。

 もしや冥府の導き手も同じ心境なのだろうか。


 とにかくミッションが始まったようで、視界の右端に項目が現れる。


 これはいったいどうやってるんだろうか。

 もしもここに戦闘コマンドを置き、見るだけで発動できるようになれば便利だ。

 今のコマンド方式はめんどうすぎる。コマンドを選んで次の画面、コマンドを選んでキャラ選択、コマンドから敵を選択……。

 コマンドが最初から視界の隅に出ており、視線だけで選ぶことができれば、もっと戦闘が有利に進められるのではないかと木村は考えた。


 考えただけなので何にもならない。

 明日にでもおっさんに相談してみることにする。



 さて、本日のミッションは戦力確認である。

 右に浮かぶ項目はキャラ、アイテム、結晶、トロフィーの四つ。

 戦闘よりはずっと楽だろうが、各項目でノルマの数字があり地味に面倒だ。



 まずはキャラ項目から開始する。


 ステータスの確認だけなので、あっという間だと思ったが地味に難しい。

 昼なら訓練室に行けば良いのだが、今は夜であり自室に戻っているキャラが多い。


 地図部屋は空だった。

 ブリッジも戦闘外なので誰もいない。


 食堂に行ってようやくキャラをみつけた。

 おっさんとテュッポ、それにゴードンというカクレガ中年組が酒を呑み交わしていた。

 昼間から悪びれもせず呑んでいるアコニトと違い、昼間のテンションとは違って静かに呑んでいるところが雰囲気を感じさせる。

 あそこに混ざりに行く勇気が木村にはない。


 ちょうど厨房担当のリン・リーが、彼らにツマミを出して礼を言われていた。

 リン・リーも昼間とは違い、ゆっくりと厨房内で作業していた。

 まるで自らの城に異常がないか確認する兵のようだ。

 こちらも怖くて近寄りがたい。


 ゴードンとリン・リーはどちらも☆3だ。

 スキルテーブルもほぼ進めていないので戦闘には貢献しない。

 代わりにカクレガ専用スキルが卓越しているため、いなくてはならない存在となっている。


 また、再び仲間になったテュッポは、☆2から一つ下がって☆1となっていた。

 性能としては☆2の時と変わらないが、あの強すぎるスペシャルスキルは発動できないらしい。

 もう一度見てみたかったので残念ではあるが、戻ってきてくれたことは素直に嬉しい。



 食堂を離れ、彷徨っているとかすかに歌声が聞こえてくるのでそちらに移動する。


 作ったばかりの音楽室ことカラオケ部屋である。


 ゆっくり開けると、絶賛歌唱中のルーフォがいた。

 他にはスメラとプーシャンもいる。……いるのだが眠っている。

 聞いた話だとルーフォの歌を聴いていると、とてつもなく眠くなるらしい。


 ルーフォは戦闘に出なくても良くなったので、アイテムや素材の帳簿を付けてくれている。

 資金や資源の計算もまたできるので、今後は事務の分野で役にたってくれそうだ。


 さらに製作室でボローに手を挙げて挨拶し、喫煙室を素通りして鑑賞室に着いた。

 ゾルとテイがクワガタやカブト虫と遊んでいる。テイは遊んでもらっているように見える。



 キャラ十体の確認を終えたので、次にアイテムを見ていく。

 こちらは簡単だ。素材や収集品も含むので、鑑賞室を回っていけば良い。


 ポッポス区域で集めた採集素材だけで部屋の半分以上が埋まっている。

 次に採集を本格的にやるなら、部屋の拡張か、別の置き場を作る必要がでてくるだろう。



 アイテムの確認はあっという間に終わり、続いて結晶だが、これは意識しただけで終わった。

 結晶を一つも持っていない。唯一、ゾルだけが結晶の恩恵を受けている。


 鑑賞部屋の真ん中にある無機質な装置は、未だに働くことがない。

 おっさんが無理難題を突きつけられたとぼやいていたが、解決する見込みはなさそうだ。

 このまま合成ができないと、素材ばかりが溜まっていってしまうので困る。

 それにキャラの強化もできないわけでもったいない。



 最後にトロフィーである。


 木村は鑑賞室を出て、自室に向かう。

 途中で四足歩行をしている奇獣を見かけたので、慌てて身を隠した。

 奇獣は雄叫びを上げながら、逆方向へと走り去っていく。

 あっちは食堂だ。匂いにつられたのだろう。


 オアシスと同様に水飲み場には獰猛な獣がいる。

 おそらくあの奇獣は狩られることになる。獣狩りの夜だ。


 さらに進むと訓練室に人影があった。

 ウィルが何か魔法の練習をしているようである。

 そういえば製作室にはいなかった。ようやく物作りの才がないことに気づいたようだ。


 哀れに思いつつも木村は自室にたどり着いた。

 おっさんにすら入れない、謎仕様のトロフィールームへ入る。


 トロフィーの数は目に見えて増えていた。

 前回はトロフィーのない棚があったが、今はどの棚も一つは置かれるようになった。

 冥府巡りで得られたものが大きいということだろう。


 ぱっと見で金トロフィーが二つも増えている。

 ちょうど左右反対側なので、最初と最後を金トロフィーになるよう見ていくことにした。



 最初の金トロフィーはイベントの棚だ。

 テュッポと、その肩から出ている多くの蛇が竜をにらみつけている。

 にらみつけられているのは冥竜だった。よく見ると蛇の頭の一つに木村たちも小さく見える。


 題名:“怪物たちの王”

 説明:“あなたはテュッポの真の姿を見た。其の前に立ちはだかるは黄金ただ一人のみ。”

 効果:“テュッポ☆1を仲間にすることができる”


 ……テュッポが仲間になったのは、トロフィーの効果によるものだったらしい。

 テュッポは、この場面でテュポーンと名乗っていた。どっかの世界でいうところの真名開放みたいなものなのか。


 ギリシャ神話はさほど詳しくないが、この黄金が誰を指しているのかくらいは木村でもわかる。

 最高神ゼウスのことだろう。真の姿のテュポーンをどうやって倒したのか想像できない。


 ハデス神がいるくらいだ。ゼウス神がいないわけはないだろう……。

 せめて敵として出てこないことを願うだけだ。



 次の棚には、追加ミッションの仕掛け人のトロフィーがあった。

 すなわち冥府の導き手である。


 銅のトロフィーで、彼女が石を穴に投げ入れるところである。

 顔文字のような抜けた顔であった。


 題名:“ヘカテーの魔法”

 説明:“あなたはヘカテーの魔法を見た。地上の魔法と彼女の魔法を同じものと考えるべきではない”

 効果:“ヘカテーの魔法を見たキャラの魔法能力が上昇する”


 絵面はひどいが、効果はありがたい。

 フルゴウルやウィルも彼女の魔法を見ていた。どうやら強くなっているらしい。

 ずっと冥府の導き手と呼んでいたが、ヘカテーというのが正しい名前だったようである。


 ヘカテーという名は聞いたことがあるが、どんな神なのかいまいち思い出せない。

 冥府にいて魔法を使う神というそのまんまな情報しかわからない。


 次もヘカテー関連のトロフィーなので何かがわかるかもしれない。


 銀のトロフィーだ。

 ヘカテーが松明を持って、腕を上げている。

 顔もにこやかでまったく緊張感がない。この人の像はこんなのばっかだな。


 題名:“ヘカテーの加護”

 説明:“あなたはヘカテーの加護を得た。夜道に彼女の灯りあらんことを――”

 効果:“ヘカテーの加護を持つキャラは敵の攻撃対象にならない”


 加護を与える存在の顔はいい加減なのに、効果がすごいずるい気がする。

 実質、これは無敵ではないのか。攻撃とかやりたい放題だ。


 ヘカテーの加護はルーフォが持っている。

 デイリーのサバイバルなら、立っているだけでクリアできるんじゃないか。

 そもそも戦闘に出られないようになっているので、悲しいことに効果を発揮しない能力ということか。

 どうしてもクリアできないときは、ルーフォに頼み込んでみることにしよう。



 ヘカテーのトロフィーから離れ、同じ棚の銅トロフィーを見ていく。


 暗い印象の男が椅子に座っている。

 ただ座っているだけなのに圧力を感じさせる。

 木村も彼に見つかった時のことを思い出して、顔が引き攣った。


 題名:“ハデスからの逃亡”

 説明:“あなたはハデスから逃げ切った。死から逃げ切れる者はいない。きっと疲れていたんだろう。”

 効果:“確定即死が5%の確率で致命傷に置き換わる”


 これは、どうなんだ……。

 まず、確定即死がどんなものかわからない。

 確実な死が、ミリ単位で生きている状態になるということだろうか。

 しかも確率が5%と低いし、生き残ったとしても何かができるとは思えない。外れ効果とみるべきだ。



 採集の棚にもトロフィーがついに現れた。

 四つの角が生えたクワガタが飛ぶ姿の銅トロフィーである。

 間違えようもなくゾルと一緒にいるクワガタだった。


 題名:“最高レア:生物”

 説明:“あなたは初めて最高レア生物を手に入れた。甘いものが好物らしいぞ”

 効果:“生物ペット(昆虫系)の能力が上がる”


 ……あれ?

 このトロフィーは前からあったのか。見逃していたようだ。

 説明文はすでに知っている情報だ。テイが甘いものを餌に背中に乗せてもらっている。

 効果がちょっと恐ろしい。昆虫系のペットはまだいるのか……。むやみやたらに増えてもらっても困る。



 他にもチョロチョロと増えていた銅トロフィーを見ていく。

 そして、ついに最後の金トロフィーにたどり着いた。

 予想どおりのトロフィーとなっている。


 討滅戦の銅トロフィー、銀トロフィーに並ぶように金トロフィーが置かれている。

 四枚の翼を生やした冥竜が、都市を破壊している場面が抜き取られていた。

 ようやく討滅クエストの呪縛から解放された気がする。


 題名:“キミかボクか”

 説明:“あなたは冥竜を倒した。…………『マタ アオウネ』”

 効果:“冥府のキャラの能力が大幅にアップする”


 説明文のこれは「また、会おうね」か。

 嫌な印象しか与えない文章だ。なんなんだあの竜は。

 しぶとすぎるだろう。もう永久に出てこないで欲しい。出てくるたびに悲しみが増える。


 説明で持って行かれたが効果は強い。

 普通の能力アップでもそこそこ強くなることは確認済みである。

 それが大幅アップときた、強くなることが約束されている。さすが金トロフィー。


 しかし疑問がある。この効果は誰にかかるのだろうか。

 テュッポはかかるだろう。フルゴウルはカゲルギ=テイルズのキャラだがどうだろう。

 ルーフォも当然かかるのだろうが、彼女の能力が上がっても帳簿がより正確かつ迅速に仕上がるだけである。



 最後の最後で、後ろ髪を引かれる思いにさせられ本日の追加ミッションを終えた。


 誰とも話すことがない静かな夜であった。

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