53.コラボ:追加ミッション1
52.コラボ「追加ミッション」1
ソシャゲにおいて、イベントストーリーのクリア後に追加イベントやミッションが出されるモノがある。
難しいクエストを出すことで、中級者以上への退屈しのぎと、さらなる強化を促す役目がある。
さらに運営側で見れば、ある基準の敵を段階的に強くして出すことで、倒せるユーザーの数や、各強さレベルにおけるプレイヤー数が計れる。
くだらないイベントでも、作る側にはいろいろと事情がある。
ただし、異世界ではどうかわからない。
とりあえず、本日から追加ミッションが出されるとのことだ。
謎の手紙が、昼過ぎに木村の机の上に置かれていた。
“やっほー。
冥府の導き手だよ。
ご主人は、今日も死んだ目で死者を裁いてるよ。
それじゃあ、お待ちかね。追加ミッションの一日目をやってみよー。
この子たちの連携に対処できるかな?
『訓練室で冥府の導き手の配下と、誰も戦闘不能にならず一定時間戦う』
君たちの戦いを見てたけど戦術や連携がないよね。
弱くはしてあげてるから、工夫してこの子たちの攻撃を受けられるようにしよう。
勝ちを狙えない相手からは、負けない戦い方をしていくべきだぞ。
もしも、そういった相手に勝てると思うタイミングが来たら、罠の可能性を第一に考えよう。
全部の追加ミッションをクリアすると、ステキなプレゼントをあげちゃうぞー!”
なんだか気が抜ける内容である。
おっさんの役割を導き手が奪ってしまった。
追加ミッションは訓練室で行われるようだ。
……冥府から訓練室の装置にアクセスできることが驚きである。
キャラたちを誘って訓練室に向かおうとするが、初っぱなからアコニトが喫煙室にいない。
こういうときは食堂か農園の二択である。
食堂に行ったが見つからず、農園に行ってみると姿が見えた。
農園は二つの区域に分かれている。木村は便宜的に青果領域と花領域と呼んでいる。
青果領域の担当のゴードンで、花領域の担当がペイラーフだ。
本人たちは畑と園とそれぞれ呼ぶが、他のキャラに言わせれば農園で一括にされてしまう。
花領域には、アコニトとペイラーフの二人がいた。
この二人は仲が良いのか悪いのか木村にはよくわからない。
道徳的には真逆だ。ペイラーフが正義なら、アコニトは悪である。
両者間で日常会話はまず成立しない。アコニトの心ない発言でペイラーフがキレる場面をよく見る。
しかし、この二人は趣味や特技において近しいものがあるようで、分野によっては話題がはずむ。
例を挙げれば、医療の話だ。
ペイラーフは治癒が得意で薬にも詳しい。
その薬も、量を間違えれば毒となるわけでアコニトはそのあたりに詳しい。
この二人がタッグを組めば、人間に対する薬の効能を高めることができてしまう。
さらに趣味の花に関しても、二人は通じるところがある。
アコニトが彼女の技で土を弄ると、花の咲き方が目に見えてよくなる。
さらに室内の温度管理や、花を切ったり、適切に保存したりはペイラーフがしている
「おぉ。良い子だぁ。しっかり育つんだぞぉ」
アコニトは、彼女の好きなタバコの花の前で屈んでいた。
以前、声をかけると花がよく育つと話していたので実践している様子だ。
話すのに夢中で木村には気づいてない。
彼女は花の根元に液体を注いでいる。
木村の見間違いでなければ、手に持っているのは酒瓶ではないだろうか。
いや、まさか彼女でもさすがに酒を花にやらないだろう。
そう思っていると、酒瓶を口につけて飲み始めた。
「カァー! きくなぁ!」
きいちゃ駄目だろ、と思うが声はかけられないし、足も近寄ろうとしない。
木村は立ち去りたい。酔っ払いとかかわると碌な事がないことは経験済みである。
今日の追加ミッションは彼女なしでまずやってみようか。
そんなことを考えていると、木村の横をペイラーフが無言で通っていった。
彼女は、土の入ったプランターを抱えている。
「なにやってんの!」
ペイラーフが背後からアコニトに近づき、手に持ったプランターを彼女の頭に叩きつけた。
アコニトの首がグキと斜めに曲がった。
「なんで酒をやるのさ! 馬鹿じゃないの! ほんと馬鹿じゃないの!」
二回も言った。
木村の分も言ってもらったと勝手に思っておく。
しかし、おっさんの攻撃を日々受けてきたアコニトは首が曲がったくらいではびくともしていない。
曲がった状態のままでへらへら笑っている。
酔って痛覚が麻痺しているのかもしれないと木村は思った。
「なんだぁ、杏林。知らんのかぁ? 儂の国では酒粕を木の根にやることもあったぞぉ。それに酒は悪さをする菌を殺す。量を間違えなければ薬にもなるんだぁ」
「人にはね! 花は別でしょ!」
アコニトの話は木村も聞き覚えがある。松に日本酒の酒粕を与えるのだったか。
それに酒は百薬の長とも言われる。他の花にも実は良いのか? 素人では判断つきかねる。
「もういいよ! ほら、花はこっちで切っておくから、あなたは別の仕事に行って!」
ペイラーフが手でしっしっと、アコニトを追い払う。
タバコの花は綺麗なのだが、肝心の葉への栄養を奪うので咲いたらすぐに切らないと駄目らしい。
アコニトも斜めになったままの首で木村を振り返った。
できれば気づかれないまま退席したかったのだが、どうやらさせてもらえそうにない。
「おぉ。坊やぁ。どうしたぁ? 吸いたくなったかぁ?」
尻尾をごそごそとあさり、「ほれ」と葉巻を出してきた。
ほれ、じゃないんだが、吸う吸わないはさておきもらってはおく。
葉巻を尻尾に入れるから、尻尾が嫌がって逃げ出すんだとわかっていないんだろうか。
「アコニト。追加ミッションが出たから訓練室に行こう」
「――儂は行かんぞ」
顔つきが急にキリッとしたものになった。
訓練室と聞き、酔いが醒めたらしい。
首も斜め45度からまっすぐ上を向く。
普通の状態になっただけなのに、随分としっかりしているように見える。
アコニトは訓練室に来ない。訓練をしない。
まず、訓練室には必ずと言って良いほどおっさんがいる。
この時点で両者にとって望ましくない事態であることが明白だ。
さらに初めの頃、例の竜で何度かシミュをしたのがトラウマとなった。
あそこは死に部屋だと考えているらしい。
「儂は、絶対、行かん」
固い決意が見られる。
倫理感や道徳意識はボロボロなのに、こんなことばかり意志が固い。
「そう言わないでよ。アコニトがここで酒瓶を持ってたことはおっさんには黙っとくから」
彼女がいまだ手に持っている酒瓶はおっさんのものと思われる。
支給されたり、アイテムで手に入るものは食堂とおっさんが管理している。
食堂のものは食堂外に原則持ち出しが禁止されているので、ここで飲むものはおっさんのものだ。
「バレたときも一緒に謝るからさ」
「うつけがぁ。謝るくらいなら最初から盗らんぞぉ。よく聞け、坊やぁ。儂はなぁ――覚悟を決めて、酒を飲んでおるんだぁ」
「そんなことに覚悟されても」
しかも格好良かったのがズルい。
アコニトが格好良いのは、酒を飲んでるときと、意志を持って自爆する直前だけだ。
「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと行きなよ!」
ペイラーフに土を投げられ、けっきょくアコニトと一緒に農園を出た。
訓練室に来ると、室内がざわついた。
トレーニング中のウィルも驚いて、アコニトを見ている。
「追加ミッションが出て、訓練室で行われることになったんだ」
ウィルとゾル、それにフルゴウルもいる。
ちょうど良いので、このままやってしまおう。
訓練室を管理しているおっさんも追加ミッションが出たことを承知していた。
さっそく施設の設定をいじってくれる。
「待つんだ。戦闘メンバーは三人までだぞ」
さあ、戦おうと思ったところで三人縛りを聞かされた。
このおっさんはそういう条件を話すのが遅い。
どうして最初に言ってくれないのか。
「なんだぁ儂はいらんかったなぁ。見ておくぞぉ」
「駄目だな。女狐は強制参加のようだぞ」
「はぁぁあ? なぁぜ儂が出んとならんのだぁ?」
おそらく連携が取れない代表格だからだろう。
追加ミッションその一の趣旨が、連携や戦術を考えることだった。
文句を言いつつもアコニトが戦闘メンバーに入った。
残りの二人はゾルとウィルであり、フルゴウルは木村の横で戦闘を見ることになる。
このメンバーでの戦闘は久しぶりだ。ここにボローを入れれば、地上でのいつものメンバーである。
異様にだだっ広くなった訓練室の真ん中に三人が立った。
彼らと相対するように三つの影が生じる。
「相手は、私をタルタロスに連れて行った三体だね。あのときよりずっと弱々しいな」
横にいたフルゴウルが話してくれる。
どうやら三つの影は彼女をタルタロスに連行した魔物らしい。
どう見えているのかわからないが、手紙に書いてあるとおり弱体化されているようである。
三つの影が形をなした。
悪い魔法使いが着るような黒のローブを、頭から足下まですっぽりかぶっている。
特に特徴的なのが背中にある羽だ。蝙蝠のような黒の羽がローブを突き破って背中部分から出ている。
顔ははっきりとよく見えないが、女性のような細い顔をしているようだ。
全員がその片手に冥府の導き手と同じ松明を持っており、もう片方の手にそれぞれの武器を握っている。
ナイフに、鞭に、……あと一人が何を持っているのかいまいちはっきりしない。
「木の枝? ――を持ってるのがいない?」
「いるね」
どうやら本当に木の枝だったらしい。
細かく枝分かれし、先端に実をつけている木の枝だ。
「始めるんだ!」
おっさんが戦闘の開始を宣言した。
同時に視界の右上隅に時間が表示されている。
1:00から0:59と時間が減っていく。どうやら一分間もたせればいいようだ。
十分とかじゃなくて木村は安堵する。
異世界特有のクリア不可の課題じゃないかと一抹の不安があったが、そんなことはなさそうである。
戦っても勝てないなら、三人で逃げ回れば一分くらいはもつだろう。
「思ったよりも簡単かも」
木村の声にフルゴウルがクスッと笑った。
なんだろうと木村は彼女を見るが、彼女は答えず、指でアコニトたちを示す。
魔物の三体のうち一人が、謎の木の枝を振った。
一体も鞭を振るう姿勢だ。さすがにその距離で鞭を振っても届かないだろうと木村は思った。
「……ふぁ?」
アコニトが元の場所から消えて、三体の魔物の前に現れた。
伸びかけていた鞭がアコニトを絡め取り、残りの一体の前に移動させられ、彼女はナイフで喉を切られる。
アコニトの頭が、首の皮一枚で胴体と繋がった状態になった。
頭がぷらぷらと揺れ、皮が千切れ、ゴトッと床に落ちて転がる。
木村は、床に転がる頭だけとなった彼女と目が合った。
アコニトは首から煙を噴出しつつ倒れ、光となって消えた。
流れるような処理作業である。
美しさすら感じた。
試合終了となった。
全員が無事である必要があるので、誰か倒れた時点で終わるらしい。
三体の魔物は影のようにスッと姿を消してしまった。
仕事人とはこういうのを言うのだろうか。
「何が起きたの?」
なんとなくは木村でもわかる。
魔法の専門家の口から詳細を聞いておきたい。
こちらの方にやってきたウィルに解説を期待する。
「いやぁ、素晴らしかったですね。学長以外であのレベルの転移を使えるのは初めて見ました。僕もあの杖が欲しいです」
ウィルは良いものを見たことと、故郷を思い出したことで感慨深そうである。
その後も転移魔法の難易度や特徴について語ってくれている。
やはり最初にアコニトが瞬間移動したのは転移だったようだ。
杖と言うことは、魔物の一人が持っていた謎の枝は杖と分類されるらしい。
「あの鞭も、何か仕掛けがありそうでしたね」
「鞭に捉えられた瞬間から、狐くんの力が低下していた」
「弱体化でしたか。封印の一種とも考えられますね。ナイフの方はどうでしたか?」
「回復不可と鋭利化だろう。似たようなものを見たことがある。並大抵の鎧では防げない」
目の前に転移させられ、鞭で力を封じられ、ナイフで一撃必殺、と。
凶悪な連携だ。初見で防げる気がしない。あの導き手はなかなか性格が悪い。
ぐちぐち言っていても仕方ない。
とりあえず前向きに作戦を考えることにした。
最初は逃げる方向で考えていたが、転移があると逃げられそうにない。
我らが守護神ボローの挑発も考えたが、鞭とナイフの連携を受けるとやられる可能性が高いとフルゴウルは話す。
「防げる気がしませんね。性格の悪さを感じます。防戦しなければならない、――そう思わせるのが狙いではないでしょうか」
「攻撃は最大の防御、と言うことかな。その思考は嫌いじゃない」
要するに、攻撃に回られるとどうやっても防げない。
それなら相手から攻撃される前に、こちらから攻撃して相手のモーションを妨害していくという作戦だろう。
この方向でいくなら重要なのは手数だ。
ゾルの一撃必殺は相性が悪いので、メンバーをチェンジする。
「私が行こう。彼女たちには煮え湯を飲まされたからね。弱体化しているなら好機だ」
どうやら冥府でも一悶着起こしていたらしい。
フルゴウルの目がうっすら開かれ、攻撃的な笑みを浮かべている。
問題はアコニトである。
「儂は行かんぞ!」
彼女はもう絶対に戦わないと駄々をこねた。
気持ちはわかる。開始一秒たらずで首を刎ねられたらそりゃ嫌だろう。
木村も首だけアコニトと目が合ったときは、訓練室だとわかっていても背中に嫌な汗が流れた。
「儂は! 絶対に! 行かん!」
仕方ないので、おっさんに彼女が酒を盗んだことをチクって無理矢理連れてきてもらった。
アコニトが腫れた顔で何も言わず木村を見てくるので、彼は怖くなっている。
またしても魔物三体が現れ、アコニトたちに対峙する。
「始めるんだ!」
おっさんの声で試合が始まる。
初手は前回と変わらない。二体の魔物がそれぞれ杖と鞭を振るう。
やはりアコニトが転移させられたが、彼女には筺を持たせている。
あちらも武器を持っているのだ。こちらがあらかじめ武器を展開していてもずるいとは言うまい。
アコニトの手から放たれた筺が展開され鞭の巻き取りを防いだ。
筺が消えるとすぐにアコニトは毒煙をまき散らして、枝の魔物と距離を詰める。
書かれていたように魔物たちは連携こそできるが、動きはアコニトでも近距離戦ができるほどに弱い。
ナイフは近接戦が強そうだが、フルゴウルが魔物の手に筺を作り上げ無力化した。
ウィルもやや弱めの魔法を連発することでナイフや鞭の動きを抑えていく。
「いけそうだ」
とにかく攻撃を絶やしてはいけない。
攻撃する余裕を与えれば、刈られるのはこちらである。特にアコニト。
残り二十秒を切り、スペシャルスキルゲージが溜まった。
アコニトを選択して、彼女の深淵を引き出す。
アコニトの姿が霧に変わっていく。
フルゴウルとウィルも、アコニトを巻き込む可能性がなくなったので飽和攻撃に切り替えていった。
これで勝ちだ。
『書いたよね。“勝てる”と思ったら罠の可能性を考えなさいって』
どこからか声が聞こえた。
久々の感覚だ。頭の中に直接声響いてきた。
「キィムラァ。どうやら選択を誤ったぞ」
霧に囲まれた三体の魔物を守るようにして白の光が灯っている。
彼女たちの手に握られていた松明が、白の光をいっそう強くすれば紫の霧が消滅した。
さらにウィルとフルゴウルにも白の光は及び、白の光が二人を一瞬で燃やし尽くしてしまう。
「試合終了だぞ」
魔物たちは、何も言わずに消え去った。
訓練室にいた周囲のキャラたちも沈黙で結果を見ている。
焼かれて消えたウィルやフルゴウルはもちろん、アコニトすら戻ってこない。
「今の、何?」
「カウンタースキルだな。こちらのスペシャルスキルに反応したようだぞ」
敵の中にはトリガーを持つものがいる。
そういった奴はHPが半分以下になったり、こちらが回復スキルを使ったりと条件を満たすことで特殊な攻撃をしてくる。
この習性を利用して攻撃を制限することもできるのだが、初見ではまずできない。
先ほどの松明の光が、スペシャルスキルへのトリガー攻撃に該当するようだ。
今までの攻撃とは桁違いの攻撃が戦闘メンバーを襲った。
アコニトの霧状態ですら、一瞬で焼き尽くすほどの白光である。
「手紙に書かれていたようだな。声が聞こえたぞ。耳に痛くてもきちんと忠告は受け止めるんだ」
どうやらおっさんにも、あの声が聞こえたようである。
通じるものがあるようで、彼も導き手のチュートリアルに頷いている。
三回目でようやくミッションを達成した。
どうやら追加ミッションは一筋縄ではいかないようである。
木村たちを試すというよりは、強くさせようという意図を感じさせる。
ちなみに機嫌を悪くしたアコニトは、食堂で酒を振る舞ったらご機嫌に戻った。
「これくらい単純なら異世界生活も楽なのに」
彼はこれからの異世界巡りに不安を感じ始めていた。
強くはなっている。
それはスキルテーブルから見ても間違いない。
しかし、敵の強さがそれ以上に強いと感じられる。
いったいこの先、自分たちは何と戦わされるのかがわからない。
異世界巡りの結末は、絶対に勝てない相手と戦わされて全滅ではないだろうか?
もしかしたら、みんながこういった不安を抱えていて、酒を飲んで不安を薄めようとしているのかとも彼は思った。
追加ミッションの一日目は終わった。
木村は不安のただ中にいる。




