表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅳ章.レベル31~40
49/138

49.コラボ「生きてた頃より美しく」3

 金色の光が木村たちに近寄ってくると、他のランパスと同じように形を為し始める。


「……ああ、やっぱり」


 肘近くまで伸びる金髪に、整った顔立ち。

 着ている服はスーツのようだが、女性だと木村は知っている。男装の麗人だ。

 瞳が見えるほどに開いていないが、そこに四つの瞳があることもまた木村はすでに承知済みだ。


「フルゴウルさん」


 木村は、遠くから金色の光を見ていて、なんとなくそんな気がしていた。

 このタルタロスとかいうソースみたいな名前の地は、いわゆる悪人が落ちる地ということだ。

 さらに、ここまで鮮やかな金色の光の主が、何人もいるとは考えづらかった。


「お前と、――声からしてキィムラァくんもそこにいるようだね」


 フルゴウルはおっさんを見てから、木村の方を見て話しかけてきた。

 やはり木村は見えないようで、彼女の見ている方向は木村がいる位置からややズレている。


「見覚えのある光が見えたから来てみたが……、貴様でもあの花火を食らっては、生きていられないか。しかし、キィムラァくんもここにいたのは予想外だったよ」

「いえ。迷い込んだだけで、まだ死んでないんです」

「……どういうことかな?」

「えっと、長くて信じられない話になりますけど」

「異世界へ迷い込み、死んで地獄にまで落とされた私に信じられないものなどないよ。それに、ここでは時間はいくらでもある。違うかな?」

「時間は、あと十日を切ってますね」


 フルゴウルは疑問の声を挙げたが、木村は答えない。

 パーティーメンバーの四人目とは聞いたが、彼女はどちらかと言えば敵サイドだったはず。

 念のため、おっさんにカクレガに入れても大丈夫なのか確認を取る。


「入れても大丈夫かな?」

「もちろんだぞ。彼女はすでに仲間だからな。ちゃんと部屋も作るんだぞ」


 まったく問題なさそうだ。

 開きっぱなしだったカクレガの入口に入るよう示したが、木村が見えてないので入ってくれない。

 木村が声で誘導するが、フルゴウルは足を動かさない。


「入る前に二つ聞いておきたい」

「はい。どうぞ」

「赤の君はいるのかな?」


 フルゴウルは赤竜の逆鱗に触れてこうなった。

 あのときも赤竜は木村たちといた。今もいると彼女は考えている。

 もしもいたら、また消し飛ばされる可能性がある。彼女にとって赤竜がいるかどうかは重要なことだろう。


「いませんよ」

「それでは、あの光はどうやって出したのかな?」

「アコニトが……、覚えてますか? 煙管を吸ってた頭がおかしい狐の」

「無論、覚えている」

「彼女が、赤竜の力を一部だけ使えるようになったんです」


 なるほど、とフルゴウルは頷いた。

 頷いた後に彼女は目を開いた。四つの瞳が現れ、気のせいか場の雰囲気が重くなる。


「私はお前を何と呼ぶべきだ?」


 フルゴウルはおっさんに問いかけた。

 目を開くと、意識のスイッチが変わるようで語調が荒くなる。


「好きなように呼ぶと良いぞ」


 親指を立てて、何でも来いと言わんばかりに笑顔を見せる。

 一方のフルゴウルに笑みという文字はない。


「二人は、どういう関係だったんですか?」


 前から気になっていたので木村は尋ねた。

 おっさんの中身が、元の人物と別物というのは木村も知っている。

 他ならぬフルゴウルから聞いた。その彼女がおっさんをここまで邪険にする理由がわからない。


「古い知り合いだったが、中身は完全に別物のようだ。記憶も本当にないようだな。――ミスターと呼ばせていただこう」


 只ならぬ関係があるのは間違いないが、彼女も折り合いをつけたらしい。

 木村もこれ以上踏み込む勇気がなかった。


 ひとまずカクレガに入ることにする。




 カクレガの中でフルゴウルに詳しい事情を話した。


 迷い込むどころか、世界が混ざり合っているということを聞き唸っている様子もあった。


 内部の説明や、他のキャラへの紹介もして、作った部屋に彼女を案内する。


 すぐに戦闘へ連れて行きたい気持ちもあったが、休息も必要だろう。


 それに、木村もしなければいけないことがあった。


 お待ちかねのガチャタイムである。



 自室に入り、メニューを開く。


 召喚を押して、召喚メニューへ移動する。


 続けて通常ガチャから、限定ガチャへ移動した。


 ここで深呼吸を一つ。


 ガチャを引くにあたり、二つの宗派が存在する。


 出ろと強く祈る派と、無心となるべき派だ。

 普段の木村は前者であるが、今回はすでに戦闘メンバーが揃ったので後者でいく。

 物欲センサーは実際に存在すると木村も考えている。出ろと祈れば祈るほど出なくなるように思える。


 虹色の扉が出れば十分だ。限定キャラは出てくれなくても良い。

 この時点ですでに無心とはかけ離れているのだが、木村は気づかなかった。


「来い」


 期待と欲望を込めた声とともに“10連召喚!”をポチる。


 周囲の時は止まっているだろうが、部屋の中なので特に変化はない。


「……は?」


 木村を囲むように扉が現れる。

 現れるのはボロッボロの木の扉だ。


「待て待て。ふざけんな」


 おかしい。

 この木の扉から出るのは☆1だ。

 そして、仕様の変更によりガチャからの排出は☆3以上だけになったはずである。

 バグだろうか。お詫びがもらえたりするのか。ウキウキを返せという気持ちだ。


 九つの木の扉が出た後で、最後の扉が焦らすように現れた。

 様々な色が混じり、木村を惑わす虹色の扉である。


「――許した」


 九つの木の扉はもうどうでもよくなった。

 白扉9、金色1よりは、まだこちらの方が幾分かマシだ。

 もちろん虹色の扉が二つ以上出ることもあるのだろうが見たことはない。


 もう虹色の扉を見ることができただけで木村は大満足である。

 しばらく扉を開けず、虹色の扉を見つめる。


 心が癒やされていくのを感じる。

 何が出るかも重要なのだが、虹色が出た時点で悩みの半分は解決されたようなものだ。


 スキップを押してしまいたいが、虹色の扉だけは自分で開けたい。

 仕方なく一つずつ開けていくことにした。


 扉の一つ目に手をかける。

 ギィィと懐かしの不愉快な音が響く。


 扉から逆光が刺し、木村は目を閉じる。

 どうせ「よう。キィムラァ。また、俺の~」だ。

 木村は演出を見ることもなく、次の扉に歩を進める。


「私はフルゴウル。黄金の時代を築くものだ」


 木村は足を止めて、扉を振り返る。

 壊れかけの木の扉と似つかわしくない金色の女性が立っている。


「え、なんで?」

「なぜ、とは?」


 疑問符で返された。

 そりゃ、キャラに仕様の疑問を投げても仕方がない。


 ☆1はおっさんしか出ないものだと思っていたので、完全に不意打ちである。

 なぜフルゴウルが出てきたのだろうか。


 木村はおっさんとフルゴウルの共通点を考えた。

 一つの仮説が浮かび上がる。どちらも死んだらしきキャラだ。

 フルゴウル曰くおっさんの皮を被ったキャラは死んでおり、フルゴウル自身も死んでいる。


 この木の扉から出てくるのはゲームで死んだ存在の可能性が高い。


 おっさんは完全に外れだが、フルゴウルは戦闘メンバーでもある。

 もしかしてキャラ重ねできていたりするのだろうか。

 そうすればこれは当たりとも言える。


 とりあえず残りの八個の木の扉を開けていく。


「私はフルゴウル。黄金の時代を築くものだ」

「私はフルゴウル。黄金の時代を築くものだ」

「私はフルゴウル。黄金の時代を築くものだ」

「私はフルゴウル。黄金の時代を築くものだ」

「私はフルゴウル。黄金の時代を築くものだ」

「私はフルゴウル。黄金の時代を築くものだ」

「私はフルゴウル。黄金の時代を築くものだ」

「私はフルゴウル。黄金の時代を築くものだ」


 頭がおかしくなりそうだった。

 おっさん9連自己紹介よりはマシと考え、ただただ堪える。


 さて、念願の虹色の扉の前に立った。

 手を擦り合わせ、限定キャラを切に期待する。

 ところが手をかける直前で、扉の方から勝手に開いた。


「いつになったら開けるのかぁ? ん~?」


 出てきたのは見覚えのあるアコニトである。

 しかも好感度が反映されてないのか、不機嫌さがMAXである。

 一方の木村は開ける喜びが潰され、しかも限定キャラじゃないので気落ちする。

 もはや相手がアコニトなら怒ってもしかたがない。いろいろ諦めている。


「なんだぁ、勝手に呼びつけておいてその顔はぁ?」


 限定キャラじゃないのは残念だが、当たりと言えば当たりだ。

 アコニトはほぼ確定で戦闘メンバー。しかも☆5のためか重ねることでの能力アップも大きい。


「よろしく頼むよ、アコニト」

「……薄気味悪いのぉ。儂は帰るぞぉ」


 アコニトが扉を閉めようとするが扉は動かない。

 扉を開けっぱなしにして、逃げようとするが見えない壁に阻まれた。

 壁が徐々に木村側へ動いているようで、アコニトはとうとうこちら側に出てきてしまった。


 出てきてすぐに光へと消えてしまう。

 無事にキャラが重なったようだ。



 休憩に入ったばかりのフルゴウルには悪いが、さっそく戦闘に出てみることにした。


 アコニトのステータスを見ると、覚醒値が一つ上がっている。


 覚醒値の上昇に伴い能力値も上がっていた。

 赤竜の加護と重複しているのか、上がり幅がかなり大きく感じる。


 さらに、覚醒値が上がったことでスキルも強くなった。

 毒の時間当たりの効果が倍になったらしい。

 ダメージがさらに高まる。


 次の覚醒で毒が猛毒という別状態異常に変化するらしいので楽しみが増えた。

 やっぱりもう、ガチャチケットを全て排出してもいいんじゃないだろうか。


 なお尻尾鎧の使っていた狐火というスキルは、まだ使えないようだ。

 スキルテーブルを確認すると、かなり進んだところに配置されているのでしばらく見ることはできそうにない。




 続いてフルゴウルのステータスを見る。

 まず覚醒値だ。


「……+9?」


 他のキャラだと覚醒値は5が限界のはずだ。

 それをあっさりと上回っている。


 しかし、読みとけるのは数字だけであった。

 +9になったから、どう強くなるのかの解説が一切ない。

 他のステータスを見てみるが、ステータス値がまったく書かれてない状態だ。

 スキルの解説どころか、スキル項目すらない状態である。

 これが☆1の特性なのか。


「おぉ、見た顔がおるなぁ。がちゃで出てきたのかぁ?」


 アコニトがフルゴウルに気づいた。

 どうせクスリで飛んでるからと紹介を飛ばしていたと木村も思い出す。


「いや、彼女はガチャじゃなくて、タルタロスに落とされたらしい」

「なんだぁ、死んだのかぁ」


 それだけである。

 興味をなくしてしまったらしい。


「赤竜の力を得たと聞きましたが、私に何か思うところがありますか?」

「あぁ……? ないぞぉ」


 フルゴウルの問いにアコニトは本当にわかってない様子だった。

 どうでも良さそうに彼女は答える。


「あなたは私たちの作った機関を気に入らないと言われていましたね」

「――あぁ。ないぞぉ」


 今度はアコニトも質問を理解した様子だった。

 それでも答えは変わらない。


「誤解しとるなぁ。儂が真に怒っていたのは『機関』そのものではなく、『同胞があの機関を良し』としたことだぁ。光のは何も知らんかった。ならば良し」

「よくわかりませんね」

「うぬは人だろぉ。人が作ったものに関して、神である儂は、それが儂らを脅かすものでない限りは、ともかくいったんは受け止めるぞぉ。受け入れるか、ケチを付けてつっぱねるか、そも関与しないかはその後だぁ。あの機関はもはやない。それを作ったのがうぬだからと言って、ないものに対して何も思うところはないわぁ」


 木村にはよくわからない価値観である。

 そういえば、このアコニト神は岩石料理もいったん口にしていた気がする。


 他人にはわからない自分ルールみたいなものだろう。



 かくして、ようやく四人そろっての戦闘が始まった。

 四人そろってとは言っても、ルーフォが戦えないので実質は三人である。


「つっよ」


 笑いが出てしまう。

 これはアコニトに対する評価である。


 覚醒が一だけ上がり、能力値が上がったのは知っている。

 この変化は見ている側からはさほどわからない。


 スキル強化の毒効果二倍がおかしい。


 見るからに巨人たちの回復を凌駕している。

 ダメージが二倍どころじゃない。

 すでに巨人が倒れている。


「ひょっとして毒の効果が倍って、ダメージが倍とは違うのか……」

「違うぞ。毒の効果なら侵食速度、侵食範囲、侵食力とそれぞれの効果が倍になっていくからな。毒状態にした初期段階と相手の体積が大きいときに、より効果の高まりを感じられるぞ」


 おっさんが解説をしてくれる。

 どうやらキャラを一つ重ねるだけで、かなり強くなったようだ。さすが☆5。


 まずますガチャを引きたくなってきた。

 もう限定といわず、アコニトピックアップの時に引いても良いんじゃないか。

 覚醒が一つ上がってこの強さなら、さらに段階を重ねたときの強さは如何ばかりだろう。

 あるいはアコニトと言わず、ゾルのピックアップを狙っても良さそうだ。



「なんか、すごい……」


 こちらはフルゴウルへの評価である。

 前衛がテュッポ、中衛がアコニト、後衛がフルゴウルなのだが彼の魔法がユニークだ。

 彼の使う筺は、すでにアイテムの宝箱として何度も見ている。

 ただ、魔法として使われる姿は初めて見た。


 大きく展開すれば筺がそのままバリアになるし、小さく展開して飛ばすと弾丸になる。

 中に魔力を詰めることで筺を開いたときの効果も変えられるようだ。

 攻撃から防御までを一人でこなすことができている。


 便利そうだが使い分けが難しそうだ。

 一般的なゲームでは役割が広いキャラは強くなりにくく設定されている。

 万能な仲間キャラなどほとんどおらず、役割に特化させてパーティーを組んだ方が強い。


 ただ、彼女の場合はゲーム内で仲間になるキャラではないだろう。

 終盤のボスキャラなので、守備範囲が広いまま強くなる可能性も考えられる。


 変てこなパーティーに違いないが普通に強い。

 凶暴化するランパスの巨人を相手にしても、三人で渡りあう。

 もしもルーフォをペイラーフに替えられるなら、長期戦最強メンバーではないだろうか。


 とうとう自爆なしで、凶暴化したランパスを倒すことができてしまった。


「やっと一体」


 やっとの一体目に違いないが、今後が楽観できる一体だ。

 この様子であれば二体目も倒せるだろう。



 その後は快進撃だった。


 まず最初のミッションをクリアし、次のミッション「ランパス十体撃破」もその日の内にクリアした。

 当日にクリアできたのは理由があり、単純にランパスが弱くなったためだ。


 通常、進めば進むほど敵が強くなるはずなのだが、逆になっている。

 どうもカクレガは、タルタロスの最深部付近から浅い領域に移動しているようだ。

 ランパスの数が増えてきて一度に数体という同時戦闘は増えてきたが、ランパスはずっと弱くなった。

 奥にいた恐ろしい巨人たちはいったい何だったんだのか不思議になるくらいあっさり倒せる。


「ふと思ったんだけど、倒された巨人たちはどこに行くんだろう」


 敵を倒していると疑問が湧いてきた。

 すでにここが死後の世界だと木村は理解している。

 地上で死んだフルゴウルもいた。ランパスなるものに変わったが、いちおう意識をもって活動している。


 それなら、ここで倒された者はいったいどこへ消えるのだろうか?


「僕も気になるところですね。何かご存じないでしょうか?」

「私の目で見る限り、彼らは大地に戻っているようだ」

「大地にですか?」

「そうだ。地上では消失するか彷徨うのだが、ここでは全てが大地に吸い込まれている」


 カクレガもその大地の中を走っているのだが大丈夫なのだろうか。

 そのまま吸収されたりしないのか。


「大地に吸収された後はどこへ行くのでしょうか?」

「タルタロスの奥へと向かっているようだが、その後、どうなるかはわからない。実は私もその先が気になっていて奥へと進んでいたんだ」


 フルゴウルも気になって奥へと進んでいたらしい。

 そのため、深部にいた木村たちと出会うこともできたわけである。

 残念ながら彼女の探究記は終了し、今は木村たちとともに逆方向へ戻る形だ。


 地図も進路周辺なら埋まってきているが、さすがに奥は白いままである。

 後でテュッポに尋ねてみようと木村は思った。


「お、地図が変わった」


 ミッションが進んでも地図はいっこうに変わらなかったが、ようやく変化が見られた。

 進路を遮るよう、垂直に太めの線が引かれている。


「壁と門だね。壁と門は一部しか見えないだろうが、ブリッジで見てみると良い。大半のランパスがここに集中している。門を叩き、裁きのやり直しを求めているんだ」


 明かりがここに殺到しているわけだ。

 地獄絵図というやつだろう。



 言われたとおりブリッジで見てみると、外は非常に明るかった。

 門はランパスに照らされた範囲では上が見えない。横もどこまで広がっているのかわからない。

 ランパスが脱出しようと壁に沿って移動しているのか、左右のどこまでも色とりどりの明かりが連なっている。

 お祭りでもしているんじゃないかと思うほどである。


「キィムラァ。ミッションが追加されたぞ」


 地図中のカクレガが止まったことから、ミッションが追加されたことは予想していた。

 おっさんが背筋を伸ばし、張りのある声でミッションを告げる。


「“門前のランパスを全て撃破”だ」


 ブリッジにいた全員の表情が固まった。

 ソシャゲなら要するにステージの敵を全て撃破だが、ここでは意味合いが違う。


「あの数ともなると、面倒ではあるね。行こうか」


 フルゴウルは息を一つ吐いて席を立った。

 彼女が固まっていた理由と、木村が固まっていた理由が違っていたことに気づかされた。


「あのランパスたちは、最近まで生きていたんでしょ?」

「そうだろうね。直に諦めて門と壁から離れるだろう。そうして奥へ向かう。その後は知ってのとおりだ」


 深部まで進めるものはごく一部。

 猛者中の猛者だけが深部へと進むことができる。

 深部へ進んだ猛者も、木村たちの苦戦したティターンに踏み潰される。

 大抵の者は深部へ進む前に、殺されて大地へ還るのだそうだ。


「どうしたんだい? まだ行かないのかな?」


 フルゴウルが「大丈夫かな?」と木村に声をかける。

 木村としても大丈夫なのか、大丈夫じゃないのかわからないところだ。


 あのランパスたちは死人たちであり、生前はひどいことをしていたのだろう。

 それでも、ここでは意志があって助かろうともがいている。

 彼らを撃破することは人殺しと同じではないか。


「おそらく……ですが、僕もあなたと同じ疑問を抱いていると思います」


 ウィルがこぼした。

 その後は、言葉を選ぶようにぽつりぽつりと吐き出していく。

 彼の話すことはまさしく木村と同じ思いだった。より丁寧に語ってくれている。


「なるほど。君たちはそういうふうに考えるのか」


 フルゴウルはふむふむと頷いた。

 逆に、木村は彼女がどう思うのかが気になり始める。


「フルゴウルさんは、あの人たちを全て殺すのに抵抗がないんですか?」


 あえて“撃破”ではなく“殺す”と強い言葉を選んだ。

 住民が殺されるのを木村は異世界に来て多数見てきたが、自ら積極的に殺すとなると今回が初めてになるだろう。


「ない。私は私の目的のためなら手段を選ばない」

「目的ですか?」

「ああ。私にはやり遂げなければならないことがあるんだ」

「……『黄金の時代を築く』ことですか?」


 もしかして、と木村はガチャで聞いた言葉をかけてみる。

 フルゴウルが目を見開いた。見えていないはずなのに四つの瞳がまっすぐに木村を捉えたように感じる。


「誰から聞いた? その男か?」


 フルゴウルがおっさんを見た。

 おっさんは知らないぞと返す。実際におっさんではない。


「いえ。あなたから直接聞きました」


 しかも都合九回聞いた。

 ガチャについては説明していなかったと木村は気づく。

 扉から出てくる前はこちらと記憶が繋がってないが、出てくる時の台詞も同様らしい。

 どうも踏んではいけないところを踏んでしまったらしいので説明をする。


「私は他に何か話していたか?」

「いいえ。先ほどの言葉だけです」


 ここまで言ってようやくフルゴウルが目を閉じる。

 目を開くとスイッチが入るというか、怖くなるので勘弁して欲しいと木村は思った。


「とにかく、私は彼らを殺すことに何の抵抗もないな」


 けっきょく同じところに戻ってしまった。


「……ふむ。つまり君たちの心理的抵抗は、あの数の意識を自ら刈り取ることにあるわけだね」

「そう、なりますかね」


 違う気がする。

 だが、もしも光が一つなら抵抗は薄まるだろう。

 実際に巨人や、襲いかかってくるランパスは手にかけたのだ。何の抵抗もなかった。

 彼らが襲いかかってくればできるのだろうか。


「先にも話したとおり、彼らをここで倒しても死ぬとは限らない。大地に還り、奥へと進み、新たな生を得るかもしれない。そうするとここで彼らを殺すことは、彼らをこの地獄から救うことと考えられないかな」


 あるいはフルゴウルの言うとおりなのかもしれない。

 問題は大地の先で、ただ消滅する場合だ。

 それに逃げ惑う者を攻撃するのも憚られる。


「ウィルくん、君はできるだろう」

「できることと、実際に行うことは別のことかと思います」

「そうだね。でも、君は実際に殺せるだろう」

「……殺したいとは思いません」


 フルゴウルは頷き、ウィルも嫌そうな顔で頷いた。


 木村はウィルの意見を尊重する。

 実際に手をかけることになるのは、木村ではなくウィルたちだ。

 どうしてもやらなければならないことはあるが、これはやるべきとは思えない。


「おぉ! 相も変わらずここにおったかぁ! 葉っぱの時間だぁ。外へ行くぞぉ!」


 シリアスブレイカーがやってきた。

 哲学の時間は終わり、大人の休憩時間が始まる。

 アコニトはブリッジのモニターを見て、明るくなったと喜んでいる。


「お祭りのようだぁ。儂はこういう雰囲気が好きだぞぉ」


 まさかこの雰囲気を全て倒せと言われているとは思うまい。


「あぁ! わかったぞぉ。こいつらを全て倒せと言われて、いっちょうまえに悩んでおったのだろぉ! ん~?」


 何だこの洞察力は、と間違いなくここにいた全員が思った。

 木村は盗み聞きをしてたのだろうと疑ったが、そんな面倒なことをするタイプじゃないと否定した。

 認めたくはないが、このアコニト神は嫌な洞察力だけはある。

 使う方向を間違えているだけだ。


「おぉい、そこの金髪。こういうのは得意だろぉ。何とかしてやれぇ。共食いでもさせればいいだろぉ」


 フルゴウルも、アコニトのあまりに飛んだ発言に言葉を返すことができない様子だ。

 あるいは馬鹿に絡むと面倒だから、関わりたくないだけかもしれない。賢い。


「いいかぁ、その程度の悩みなんてもんはなぁ。外で一服しているうちにおおかたは解決するもんだぁ。ほれ、いくぞぉ」


 とにかく外で葉っぱが吸いたいらしい。

 地獄に来てもルーティンを変えないところは見習うべきだろうか。


 アコニト、フルゴウル、今回はテュッポではなくウィル、それに場違いなルーフォを連れて外に出た。

 もちろんおっさんはデフォルトで付いてくる。


 外に出て、あまりのランパスの数にルーフォが困惑している。

 困惑と言うより恐怖だ。今までも散々倒してきたがまだ慣れないらしい。

 どうかこのままの彼女でいて欲しいと木村は思う。


「すごい数ですね……」


 ウィルもランパスの明かりに圧倒されている。

 多いとは思ったが、数百ではきかないかもしれない。千はいそうだ。


「久々に明るいところで吸えるぞぉ」

「もうちょっと離れて吸って」


 困った奴だ、などと言ってアコニトが距離を取る。

 どっちが困った奴なのか教えてやりたいが、言い出すとうるさいので木村は黙った。

 それにどうせ言ったところで、すぐにぶっ飛んで意味のない議論となる。煙と喧嘩しているようなものだ。


 ウィルやアコニトに気づいたのか、近くにいたランパスが寄ってくる。

 彼らは形を為し、人や魔物といったものに変わっていく。


「運悪くタルタロスに追いやられてしまった者たちよ。私の声に耳を傾けるが良い」


 フルゴウルが前に出て、群衆に話を始めた。声だけ聴くと非常に心地の良い印象を抱く。

 木村やウィルも黙って彼女を見ている。アコニトは遠いところを見つめていた。


「私たちはタルタロスの深部からやってきた。ここから出る算段がついたのだ」


 周囲の人たちがざわめいた。

 戸惑っている者の姿も見える。

 俺も連れて行け、と声が出てきた。


「良いだろう。――ただし一人だけだ。諸君らの中でただ一人を連れて行くことにする」


 群衆の中の一人が魔法を唱えた。

 炎弾がフルゴウルに向かってまっすぐに飛んでくる。


「一つ大切なことを告げておく」


 フルゴウルが筺を作って炎弾を防ぐ。

 防ぐどころか炎弾は筺の中に入ってしまった。

 炎弾の入った筺を、彼女は術者のところへ飛ばす。


 術者に筺が当たって、蓋が開いた。

 出てきた炎が術者は燃やし尽くす。術者は悲鳴を上げ燃え尽きた。

 周囲は凍り付いたような反応だが、フルゴウルは涼しい顔をしている。


「見ていただいてわかったように、こちらの六人、誰もが貴公らより遙かに強い。私たちの席を奪おうとする気概は買うが、賢い判断とは言えないな」


 木村とルーフォが「え?」とフルゴウルを見たが、彼女は二人にかまわない。

 彼女は粛々と演説を続けていく。


「さあ、地獄から抜け出すための席は一つだ。急いで決めるが良い。もうしばらくの間だけ待つ」


 フルゴウルが演説は終わりだと一礼をした。

 礼をして彼女が木村たちのところに戻ってくる、そのほんのわずかな時間の間に争いは始まった。


 木村たちがフルゴウルに説明を求める視線を向ける。


「これで自らの手で殺す相手は減るだろう。手間も罪悪感も薄まるのではないか。それに、――彼らの争いを見れば、君たちの心理的抵抗もさらに薄まるに違いない。ここの連中は自分だけが生き残るために、他者の命など顧みない。ここはそういった者たちの巣窟だ。無論、私もね」


 彼女は目を開き、口元に笑みを浮かべていた。

 何がおもしろいのか木村にはわからない。


「見ろ。生き残るためにいろいろな戦略が生み出されている。戦乱から離れて様子を見ようとする者、徒党を組み乱戦での生き残りを図る者、強いものを見極め確実に倒せる者から潰していく者……。ここは一つの乱世だ」


 倒れたときに金の筺が出るので、いろいろな色の光が金色に変わっていく。

 色とりどりの光が、全て金色に塗りつぶされていくようだった。


「まるで黄金の世界ですね」

「美しい表現だ。調律のとれた世界だろうな」


 おそらくウィルは皮肉で言ったのだろう。

 フルゴウルはわかっているかどうかわからないが、言葉回しが気に入ったらしい。


 千はくだらないであろう黄金の光が視界を覆い尽くした。

 彼らの意識は大地に飲み込まれ、物言わぬ素材だけが筺の形で残る。


 本当にあっという間だった。

 千は五百に、五百は二百五十にと指数関数的な速さで消滅していく。

 最後に数体の強者が残り、さらに彼らの中の勝者をフルゴウルが殺してしまう。


「ミッションが達成されたぞ」


 おっさんが親指を上げて、完了を知らせてくれる。


 最近カクレガにつけたばかりのアイテム自動回収機能が役に立つだろう。

 上を通るだけで勝手にボックスにアイテムが溜まっていくのでこの数ならどうなるか楽しみだ。


「なんだ……」


 木村はほっと息を吐いた。

 思ったよりもずっと気が楽だ。


 やる前はもっと罪悪感にさいなまれると思っていたが、終わってしまえば何ともない。

 もちろん実際に手を下したのがフルゴウルだからというのもあるだろう。

 数が多すぎて消えていった者たちへの感情も曖昧な状態だ。


 顔見知りの死は、一人であっても悲しみが溢れてくる。

 もしもカクレガの誰かが死ぬことになれば、間違いなく木村は涙を流すだろう。


 しかし、知り合いでもない存在の死はたとえ千に届こうと無味乾燥だ。

 今まさに実行により証明されてしまったところだ。


 木村はふと思い出す。

 どこかの国の偉い人が、こんなことを言っていたはずだ。


 「数人の死は悲劇だが、万人の死は統計でしかない」と。

 また、「一人の殺害は犯罪者を生み、何万の殺害は英雄を生む」だっただろうか。


 木村は自らが異世界に来てから、周囲の人間やそれに近い存在が万近く、あるいはそれ以上に死んだと考えている。

 それならばこの異世界巡りは、ひょっとして自らが英雄に至る話だったりするのだろうか。


 ここまで考えて、思わず木村は笑ってしまう。


「あり得ない」


 馬鹿げている。


 もはやギャグだろう。


 アコニトが聞いたら抱腹絶倒間違い無しだ。

 ちょっと反応を見たいので、機会があれば話してみよう。


 なお、その当人は「クキキ、クキ」と漫画でしか聞いたことがない笑い声を出している。

 口の端から泡も出しているので、もう会話はままならない。


 悔しいことにこの薬中の言ったとおりになった。

 一服する間に悩みは消え去った。


 おっさんが薬中の足を引っ張ってカクレガに投げ入れる。


 木村も二人に付き添って戻った。



 カクレガは勝手に動き出す。


 地面から門を潜りぬけ、ステージは次の段階へ進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ