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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅲ章.レベル21~30
46/138

46.メインストーリー 3

 いよいよ明日から初コラボイベントだ。


 すでに日は暮れかけている。

 今日はもう、軽く運動し、後は寝るだけの状態である。


 しかし、奇妙な点がいくつかあった。


「通知ってまだ来てない?」

「来ていないぞ」


 木村がおっさんに問いかける。

 コラボイベントが開催決定、というアナウンスは来た。

 何らかのアニメとコラボし、明日からイベント開催するという内容は木村も確認した。


 ただ、その後の連絡がまだ来ていない。

 とあるアニメが何なのかがわからないし、どう開催されるのかも不明だ。

 いつもならイベントに合わせてカクレガが勝手に移動し始めるのに、今回は移動の兆しを見せない。


 コラボ先から中止を通達されたのだろうか。

 それなら納得できる。


 このカゲルギ=テイルズなるソシャゲは、暗めのストーリーが多い。

 イベントストーリーや討滅クエストでヒトが死にすぎると思っていたが、メインシナリオではもっと死んでいる可能性が高い。

 ゲイルスコグルみたいなのが、メインシナリオで出てくる時点でお察しだ。

 こんなソシャゲとコラボしても評判を落とすだけだろう。


 中止でも木村はかまわない。むしろ中止にしてくれた方が良い。

 無駄な人死にが減ってみんなハッピーだ。


 お詫びに何か配ってくれれば御の字である。



 夜になり、訓練室で日課の運動をしているとウィルがやってきた。

 彼は昼に訓練を行う派なので、この時間にここへ来ることは珍しい。


「異常事態です」


 どうやら何かが起きたらしい。

 木村は嫌な予感しかしなかった。


 すぐにウィルについていく。

 地図部屋ではなく、ブリッジに呼ばれた。

 すでにおっさんとペイラーフ、それにゾルが金クワガタと一緒に来ている。


「外を見てください」


 木村はモニターを見た。

 日は既に沈み、外は真っ暗である。

 暗闇の中にぽつりぽつりと、朧気な光が点在していた。

 今夜は月も出ていないようで、朧気な光でもよく目立っている。

 狐火と似ているが、こちらは色の種類にレパートリーがある。赤、白、青と様々だ。


「あの光は?」

「精霊の一種です」

「ああ、精霊ね」


 木村も何度か見たことがある。

 光だけの魔物だ。ときどき魔法を撃ってくる個体もいる。

 魔法は撃ってくるが別に強いということはない。おどろかし程度だ。


「神気も多いので精霊はいてもおかしくはありません」


 精霊が何かはよくわかっていないらしい。

 魔力が多いところによく存在し、各地でも見られ、それぞれ別称があるとかないとか。


「ん? 精霊以外に何かあるってこと?」


 木村は外の映像を見て、精霊がパッと目についたので答えた。

 だが、「精霊はいてもおかしくない」とウィルは言う。そうなると精霊以外でおかしな点があるということになる。


「まずは精霊ですね。神気量が異常なんです」

「それはわからないな」


 木村は神気とやらをまったく感じない。

 多い少ないといわれてもさっぱりだ。


「異常というとどれくらいなんだ?」

「光の一つ一つが、僕たちよりも遙かに多いです。尻尾鎧で言えば三日目とほぼ同じくらいでしょうか」

「めちゃくちゃ多いじゃないか」


 ウィルたちがどれくらいかはわからないが、尻尾鎧の三日目でなんとなく強さがわかる。

 だいたいウィルたちの三倍と考えて良いだろう。原住民たちをタックルで殺せるようになったレベルだ。


「精霊は神気を多く持つものですが、この量でこの数となると説明がもはやできません」


 光の数は見たところ十体は間違いなくいる。

 視線を変えればもっといるのだろう。


「まずは、って言ってたから別の問題もあるってことだよな」

「はい。さらに別の問題があります」

「地図がおかしいぞ」


 おっさんがウィルの言葉を引継ぎ、地図を示した。

 ブリッジ用の簡易地図なので、地図部屋のものより精度が低い。

 それでも敵の大まかな位置や現在地はわかる。


「真っ白だ」


 デモナス地域という文字もない。

 地域を区分する境界線も見えなくなっている。

 カクレガを示す赤いポインタだけが地図の上にあった。


「周囲をよく見ると、デモナス地域とは地形が違っているんです」

「現在地は不明だ。さらに、カクレガが移動を始めたぞ」


 それはつまり――、


「イベントが始まったんだ」


 通知こそ来ていないが、イベントの前兆が起きている。

 カクレガが移動することはあったが、場所自体が変わるというパターンは初めてだ。

 ここがどこなのかがまったくわからない。


「こっちもおかしいことがあるんだ! 園の植物がみんな萎れてる!」

「ギーくんたちも元気がありません。怯えているのか、力がないのか、動かないんです」


 ペイラーフとゾルも報告してきた。

 ギーくんというのはカブト虫だ。飼っている虫たちも調子が悪いらしい。

 抱えていた金クワガタのゴーちゃんは元気そうなので、最高レアともなれば別格なのだろう。

 カブト虫だけならともかく、ペイラーフの植物が萎れているというのは気になる。彼女の管理は素人目から見ても十全だ。


 何かが起きているのは間違いない。


 カクレガが移動を始めたことから、コラボイベントだと推測はつく。



 ピッピコーン!



 答えを告げるように通知が来た。

 いつもどおり周囲は固まり、おっさんが手紙を渡してくる。


 木村は不安になってきた。通知にではない。

 このタイミングの通知なら、コラボイベントのことしかありえない。


 不安にさせたのはおっさんの顔だ。

 いつも場違いなほどの笑顔で渡してくるのに、今回は真剣な表情である。


「“コラボイベント「生きてた頃より美しく」開催”」


 また、暗い題名を、と木村は思った。

 題名からすでに死んでいることがわかってしまう。


 内容を仲間達にもわかるよう上から読んでいく。


“アニメ「Beautiful Wraith」(死生DO株式会社)とのコラボが、

 明日より開催されることをお知らせいたします。


 イベントに先立ち、本日からルーフォがカクレガにやってきます。



 イベントでは、ルーフォを中心にしてストーリーが進みます。


 彼女と一緒に冥府を駆け抜け、ソウルエッセンスを回収しましょう。


 ソウルエッセンスを集めることで、本イベントだけの特別アイテムをゲットできます。”



 その下には限定ガチャの話がごちゃごちゃと書かれている。

 こちらは軽く流すだけにとどめた。


「あにめ?」

「びゅーてぃふる・れーす?」

「しせーどぅー?」

「そうるえっせんす?」


 聞いていたキャラたちの反応はわかりきったものだ。

 一から十まで全てが理解できていない。

 説明するのも面倒である。


 説明しようにも“Beautiful Wraith”なんてアニメを木村は知らない。


 かなりマニアックなアニメだと思われる。

 いつ放映されたのかも、制作会社がどこかすらもわからない。


 ただ死生DO株式会社はさすがに木村でも知っている。大手企業だ。

 化粧品だけでなく、葬儀業界と手広く名を馳せており、CMだって見たことがある。


 ……それくらいしかわからなかった。

 進学予定だったので、大学研究はともかく企業研究はしていない。

 仮にしていたとしても、そんな大手を研究することはなかっただろう。


 大手企業が、若い人向けに作ったアニメだったのだろうか。

 Wraithは幽霊のレイスのことに違いない。


 それに場所に関しては気になる単語が出てきた。

 冥府を駆け抜けようという文字だ。


「ここってもしかして冥府なのかも」

「メーフ、ですか? 聞いたことがありませんよ。どういうところなのでしょうか?」

「死後の世界だぞ」


 おっさんのチュートリアルが始まった。

 正確には、死んでからの処遇を決める場所というのが正しいらしい。


「しかし、俺の知っている冥府とは別物だぞ。いろいろと混ざってしまっているな」


 混ざっているとおっさんは言った。

 カゲルギ=テイルズでも似たような世界観はあるようだ。

 もっと言えば、全員が似たような話をしたが、全員の話す冥府が別物の世界である。


 ゾルの話す冥府は、戦士の魂の集い場所で、戦と饗宴が行われているらしい。

 ペイラーフの語る冥府は、花に満ちており、苦しみのない安らかで穏やかな時を過ごす場所だとか。

 それぞれのキャラというか人種ごとに、それぞれの死後の世界があるようである。

 要するに、生者は死後の世界がわからないということだ。


「死後の世界ですか。僕はそういったものはないと思っていました」

「そうなのか?」

「死んだ後に神気は放出され、また別の生として廻るものだと」

「ああ、輪廻ってやつかな」

「それですね。教授も『流転輪回』といった術がある仰っていました。具体的には教えてもらえませんでしたが、あまり好みではないと話されていました」


 さて、変な術の話に逸れてしまったが、重要なことはそこではない。

 問題は死後の世界に迷い込んでしまっているということだ。


「外に出ても大丈夫なのでしょうか」

「生者が足を踏み入れて良い世界じゃないぞ」


 そりゃそうだ。

 全員が頷いて賛同を示す。

 生きたまま死後の世界に来てしまっている、と思われる。

 死後の世界とはいったい……。


 そうは言っても、外に出られなければどうしようもない。

 出歩くなりしてみた方が良さそうだ。


「まずは女狐で試してみるべきだぞ」


 当然のように実験台として名前が出てくるのはどうなのか。

 アコニト本人も死に慣れてきているので、なんとも思わないかも知れない。


「他にも気になることがあります。本日から誰か来るという話がありましたね」

「書いてあったな。ルーフォってキャラが来るらしい」


 どこから来るのかはわからない。

 本日らしいが、すでに夜だ。

 場所も不明と来ている。


「とりあえず今日は解散にしようか」

「待つんだ。何か来ているぞ」


 おっさんが話を止めた。

 ウィルも扉の方を見ている。


「失礼いたします」


 扉の外から声がした。

 女性の声だが、聞いたことがない。

 カクレガの中で知らない女性の声などないはずである。


 全員が扉を見つめる。


 おっさんが木村の前に立つ。

 ゾルも戦闘態勢に入った。手に金クワガタをかまえる。

 ウィルがペイラーフを引っ張って扉から距離を取る。


 扉が開くことはない。

 その存在は扉を透過して入ってきた。


 女性の姿だ。

 全身が青白く、体は透けて背後の扉が見えている。

 髪が異常に長く、地面に達しているが、引きずることもなく地面に入り込んでしまっている。


 入ってきた女性は、こちらを見て驚いた様子である。

 もちろん木村たちだって驚いている。


「……えっと?」

「失礼いたしました。レイノーパートナー社から派遣されたルーフォです。よろしくお願いいたします」


 女性は礼儀正しく、見本となるような礼を一同に披露した。


 場所は冥府に移り、イベントキャラも現れた。



 コラボイベントの舞台が急激に整い始めている。

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