45.サブイベ「失せ物探し」4
尻尾鎧の対策会議が始まった。
わかっていたことだが、前向きな意見は出てこない。
木村も意見を出してないので文句は言えない。
「この催しは五日間行われるんですよね」
「ああ。あと一日ある」
ウィルが事実の確認をした。
対策云々の話の前に、前提を再認識するようだ。
「今日が四日目。つまり、もう一段階強くなるということですね」
「……そうなる」
尻尾鎧はすでに四人分の力を手に入れている。
サブイベは五日間の開催、不具合がなければ明日が最後なのは間違いない。
また誰かが魔力とモノを失い、さらにあの尻尾鎧が力を得ることになる。
「明日は、たぶんボローかな」
強化した順で力を奪われるとすれば、次はボローだろう。
尻尾鎧の防御力がアップして、挑発を覚える可能性がある。
逃げる敵を無理矢理引きつけることも可能になり、さらにあの自爆だ。
金トロフィー効果はないため威力は弱まるが、狐火からの数量増加による自爆で圧殺ができる。
「……あ」
「気づいたか? 暴走は今日が最後になるかもしれないぞ」
ゾルが何かに気づいたような声を上げる。
おっさんも何か意味深に呟いた。
「どういうこと?」
おっさんは答えない。
チュートリアルの範囲外らしい。
代わりにゾルがおずおずと口を開いた。
「私の鎧は欠点があるんです」
鎧の欠点なら木村も知っている。
沈黙と狂気のバッドステータスが付き、継続ダメージを負う。
ただし、代わりに他の状態異常を無効化し、HPを失うほど力が上がっていくという恩恵も受ける。
「沈黙以外のバッドステータスはあの尻尾も受けています」
「うん。狂気は入ってるし、HPも失ってるよね。回復で克服してるけど」
「その通りなんです。克服しようと思えばできるんです。尻尾は沈黙を克服していますし、私も狂気なら克服できます。精神力でなんとかなりますから」
そういえばそうだ。
ゾルは今の尻尾鎧みたいに暴走することはほぼない。
フルアーマー中もチームワークを見せて、理知的に戦っている。
薬中の馬鹿狐も見習って欲しいくらいだ。尻尾の精神力のなさは本体譲りらしい。
「でも、それと尻尾の暴走に何の関係があるの?」
尻尾は今でこそ魔力の充電中か何かで動きが鈍っているが、すぐにまた暴れ出すだろう。
狂気に支配され、住民たちを嬉々として殺しに回る。
「尻尾は一日目や二日目を見た限りでは暴力的ではありませんでした。今は、狂気によって暴力衝動が出ていると思います」
たしかにそうだ、と木村も頷いた。
最初の二日間でも、アコニトやペイラーフの力は持っていたはずなので、こちらに攻撃をできただろう。
逃げるだけに専念していたのを木村も覚えている。
「つまり狂気がなくなればなんとかなるってことか……、でもどうやって?」
「そこでボローさんに繋がります。明日は、ボローさんから何かが失われるんですよね。何が失われると思いますか?」
まだ確定ではないが、ボローと推測はされる。
ひとまずボローと仮定して考えてみる。
ボローから失われるものを木村は想像した。
候補は多くない。専用武器も除外されるだろう。
間違いなく魔力は持って行かれる。それと別の何かだ。
外殻という名のフレームや、手抜きの口や目が持って行かれるとは考えづらい。
……他に取られるモノの候補がない。
極めてシンプルなボディだ。
ボディ以外を考えてみる。
ペイラーフは物理的なものでなく、声という目には見えないものを失った。
見えはしないけれども、彼女を特徴づけるものだった。
そうするとボローから失われる、彼を特徴づけるものは――。
「ああ、そうか」
木村もようやく思い至った。
ゾルやおっさんの推測に、かなり遅れたが相づちを打つ。
「止まるかもしれないね」
ただし、推測が当たって、尻尾鎧の動きが止まるとしても明日だ。
本日、四日目はどうしようもない。
最終日に望みを託し、尻尾鎧の後を追いかけることにした。
そして五日目になり、予想どおりボローが失われる対象となった。
ボローは整備室の片隅でうなだれている。完全に機能停止だ。
そのままにもしておけないので、木村たちは彼をブリッジの椅子に座らせた。
彼から失われたモノはおそらく予想どおりだ。
彼の一番の特徴である。
木村は見た目や性能だけでは、彼を採用しなかっただろう。
アコニトすら気遣える思いやり、戦闘で強敵相手に一歩も引かない勇気、力をひけらかさない態度。
良い点は数多いが、つまるところ、彼の特徴づけるモノは一言でまとめられる。
――心だ。
ボローが失った心は尻尾に受け継がれただろう。
彼の心が、狂気に支配されるとは思えない。ゾルのお墨付きだ。
ゲイルスコグルを相手に、ゾルから仲間という言葉を引き出すほどの存在である。
ブリッジの簡易地図で尻尾鎧の動きに注視する。
力を増し、動きが一瞬だけ速まったが、その後は徐々に動きが鈍りだし、最終的に止まった。
目視できる距離まで近づいたが、尻尾鎧は動くこともなく突っ立っている。
楽しげにはしゃぐ姿が見えず、地面をじっと見ていて怖い。
「止まりましたが、どうしますか?」
「予定どおり迎えに行こう」
木村は、ウィル、ゾル、ペイラーフらと一緒にカクレガから出る。もちろんおっさんもだ。
少し遠くから歩いて向かうが、鎧は木村たちに反応を示さない。
普通に話すことのできる距離までやってきた。
「カクレガに帰らない?」
鎧が木村たちを見る。
目の部分から、もこもこと毛が出ているのでシュールだ。
「わたし……、とんでもないことをしちゃった」
声に元気がない。
ペイラーフの声で、普通の音量になると別人に聞こえる。
「やっちゃったものはどうしようもないよ。死んだ人たちは戻ってこない」
事実である。
木村も通った道なのでわからなくもない
ただ、彼女……、彼女だろうか? 尻尾の場合は自ら手を下している。
「わたしがやったんだ」
「そうだぁ! うぬがやったんだぞぉ!」
いつの間にかアコニトが出てきていた。
絶対こじれるから連れてこないようしてたのに、ちゃっかり出てきている。
必要なときに使い物にならず、要らないときに出てくるキャラってなーんだ? 答えはアコニトである。
「うぬが殺した! 楽しかったかぁ? 逃げ惑う相手の背中を刺すのはぁ?」
木村を除く全員が非難の目でアコニトを見る。
おっさんが足を踏み出したところで、木村が彼を止めた。
この流れは過去に木村も体験したので、しばらく彼女のやり方を見ることにした。
「どうして足を止めたぁ? 最後までやり通せぇ。ほぅれ、まだ残っとるぞぉ。昨日のように武器を創り、笑いながら斬り倒せよぉ!」
遠くにちらりと見える原住民をアコニトは指で示す。
彼女は尻尾鎧のすぐ側に近づき、お得意のぐるぐるムーブをかましている。
「わたしは、あなたと違う」
「そうだなぁ、儂ならポンコツの心が混ざったくらいじゃ手を止めんぞぉ。うぬは――覚悟が甘いんじゃないかぁ。狂気だのと言うが、要は本心だろぉ。昨日までのあの姿がうぬのありのままだぁ。さらけ出せよぉ! 混ざった心など不純! まやかしだぁ! 真の姿を見つめなおせぇ。やることは明白だろぉ! 全力で楽しみぬけぇ!」
ノリノリだ。
見ていてとっても楽しそう。
ただし、周囲の雰囲気は過去最悪である。
もしも木村が止めてなかったら、おっさんが彼女を粉々にしている。
間違いなくアコニトパウダーだ。
「後のことなど案ずるなぁ。『お前が悪い』という奴などここにはおらん。みぃんな優しく受け入れてくれるだろうよぉ。最終的には儂の責任だぁ。儂が責められることになる。だからなぁ、うぬは好きにせい」
「……え?」
「うぬは儂の尻尾だろぉ。責は儂にあると言っておるんだぁ。存分にやれぇ。中途半端に手を止められた方が儂としても恥だぁ。さ、力を振るえぇ。己が望むままになぁ」
アコニトがにっこりと微笑んで、尻尾鎧を見つめた。
早くやれと言わんばかりに、次のターゲットであろう原住民を示している。
「わ、わたしは――」
戸惑う鎧を無視して、ペイラーフがアコニトに近づいた。
「杏林。うぬも言ってやれ。おぉっと、今、うぬは声が出、んぐぅっ!」
背の低い彼女が全力で腕を振ってアコニトの脇腹を殴りつける。
その後も、コンビネーションで右フック、左ボディアッパー、ストレートと決めた。
「ごっ、やめっ、止め」
アコニトが倒れてもマウントを取って殴りつけるので、さすがにウィルが止めた。
ペイラーフに代わり、おっさんが殴り始める。
「おっ、ま、しゃ、や」
アコニトの歯が折れても容赦なく殴り続ける。
見ていてあまりにもひどいので、木村がおっさんの猛攻を止めた。
ゾルが鎧に付き添い、カクレガの中に入っていく。
ウィルとペイラーフもカクレガに入った。
「キィムラァ。そんなやつはほうっておけ」
おっさんも怒りを隠さずにカクレガへと入っていった。
彼にしては珍しいことだ。
こうして木村とアコニトが取り残される。
「尻尾が帰りやすいように、悪役を買って出たの?」
なんとなくそうじゃないかと思ったことを木村は言ってみた。
九割方は本人の楽しみも混ざっていただろうが、一割は尻尾を気遣っていたようにも見える。
ペイラーフを怒らせて、この流れに持ち込もうとしたようにも感じた。
ゾルはなんとなく察しているような気がする。尻尾鎧のカクレガへの誘導が綺麗すぎる。
おっさんは察しつつも怒っていた。
いまいち怒るポイントがわからない。
「儂の尻尾のくせに、センチメンタルな奴だぁ、つぁ……」
アコニトは否定しない。
腫れた顔と、切れた口の中がとても痛そうだ。
木村としても、あまりにも顔が痛々しすぎて見ていられない。
「葉巻を、取ってくれぇ。右の袖だぁ」
右の袖から葉巻を取って、彼女の口に運ぶ。
火の付け方がわからないので、アコニトの背を支えて起こし自分で付けさせた。
「あやつらも、甘いわぁ、やるなら、きっちり殺るべきだぁ、いっ……」
死ねば楽ということを知ってる存在の言葉は重みがあった。
最近は一日に一回は死んでいるので、死に癖がつき始めている。大丈夫かな?
入口のすぐ側まで木村がアコニトを支えたが、彼女は直前で支えを外し、一人で歩いてカクレガに入る。
すぐにカクレガの喫煙者排出機構によって空を飛ぶ。
頂点までたどり着き、一瞬だけ止まり、加速しつつ落ちてきて地面に叩きつけられる。
すぐさま光になって消える。ゲームなら“she dead”とでも表示されているだろう。
彼女が持っていた葉巻の煙だけが軌跡として残っていた。
翌日になって、失ったモノがそれぞれに戻った。
「やっぱり喋れるのは良いね!」
ペイラーフも絶好調だ。
いちおう木村からアコニトの思惑をペイラーフにも話した。
「ふーん」と一言だけである。木村が気づいたくらいだ。彼女も気づいていたのかもしれない。
ウィルも後から気づいたと話す。
ゾルは金クワガタと遊んでいてどうでもよさそうだ。
知らないのはおそらく尻尾だけだが、わざわざ尻尾に向かって話すのも阿呆らしい。
アコニトもヤニ部屋で尻尾と一緒に煙を楽しんでいる。
尻尾は楽しんでいるかわからないが、アコニトは愛おしそうに尻尾を毛繕いしていた。
ひとまずカクレガには日常が戻った。
戻ってこないのはデモナス地域の住民とその暮らしである。
西部はゲイルスコグルに壊滅させられ、中部は尻尾鎧に荒らされた。
そして、明日からはコラボイベントが行われる。
今のところ、カクレガは動きを見せない。
周囲に扉もないので、大きなことにはならないと木村は考える。
そう考える一方で、東部がまだ残っているからコラボイベントがトドメを刺すのではないかとも思っている。
相反する思いを抱きつつ、カクレガでの一日が過ぎていく。
けっきょくのところ、誰かが言ったように「なるようにしかならない」のだろう。
それをどう受け入れるかが力なき自分には重要なのだ。
ただ、疑問を感じることはある。
本当にそうなのか、と。




