44.サブイベ「失せ物探し」3
力を得た尻尾が、原住民を殺し回っているらしい。
何だろうか……。
もう何をやってもこの世界の住民は死ぬ宿命となっているのか。
知り合った人が死ぬのにすら慣れてきていた。
知らない人が殺されても、もはや思うところが何もない。
朝に話す天気の話に似ている。今日の降水確率は40%。傘はどうしよう?
これくらいのノリで、原住民たちの死者数と殺され方を話している気がしている。
死にならされていってるんじゃないかと木村は疑っている。
ただ今回は、前回のゲイルスコグルほど圧倒的かつ徹底的ではないので、逃げてくる原住民を見ることができた。
人を大きくしたようなオークとか、角の生えた鬼っぽいやつとか、それでも人に近い存在だ。
ときどき虫に近いのも出てきたりもするが、言葉を喋っているところを見るに、あれらも原住民なのだろう。
原住民はもっと人から大きくかけ離れた姿形をしていると木村は思っていた。
この程度なら外にいる魔物の方がよほどモンスターだ。
件の尾の方が立派な化物と言える。
「その尾ですが……、止められそうにありません。むしろ逃げた方が良いと思います」
遠くから尾を見ているが、もはや暴走状態である。
抵抗する勢力も弱くはないだろうが、尾があまりにも強すぎる。
「この持ち主にして、あの尾ありだな」
おっさんが床で意識を失っているアコニトを見下ろしながらこぼす。
クスリで頭がパーになっており、とてもうるさいのでおっさんの正拳突きが彼女を黙らせた。
今は、ブリッジの冷たい床で心地よさそうに寝ている。
本体がこんなでも関係ない。尻尾鎧は無双している。
“九尾の尻尾だった私が、本体から切り離されたのでやりたいことをやっていこうと思います。九本の尻尾には莫大な魔力が籠もっていました。えっ、他のヒトの力も手に入ってる? 知りません。私は普通に無双します。戻ってこい? そちらはそちらで勝手にがんばってください”
もう、完全になろうの主人公だなぁと木村は現実逃避し始めた。
まずゾルの鎧により力がマシマシだ。
倍近くの身長をもつ一眼巨人の棍棒を片手で止めている。
攻撃も受けているようだが、ペイラーフの回復魔法で回復していく。
ここまでなら昨日と変わらない。
「武器を使ってるな」
「神装具ですね」
今日は手に武器を出して使っている。
神装具とは魔法でつくり出した武器のようで、使い捨てなのだろうか、とっかえひっかえだ。
「いえ、効果時間は短いのですが使い捨てではありません。相手の弱点に合わせて的確に武器を創っています」
狂気は入っているのに相手をどう殺すかに関しては冷静な判断ができるらしい。
昨日のうちに無理をしてでも叩くべきだった。
今の主戦力はボローだけだ。完全に防御型なので、止めることはできそうにない。
昨日ならまだウィルの魔法で攻撃ができたし、尻尾鎧の攻撃も体当たりだけだった。
「しかし、妙ですね。他の神聖術も使っているようですが、どうやってあの揺れを生じさせたのでしょう」
言われてみればおかしい。
先ほどカクレガを大きく揺らした攻撃はこの尻尾鎧によるもののはずだ。
×印も大量に湧き上がらせた。それなのに今は武器を使ってちまちま攻撃するだけである。
間違いなく強いが、常軌を逸した強さとまでは見えない。もっと大きな攻撃手段を隠し持っているのだろう。
「攻撃手段は持っているのでしょうが、何をしたのかがわかりかねます。攻撃が起きた地点を覚えていますか?」
もちろん覚えている。
大量の金筺が転がっていた。喜ぶに喜べない光景だった。
「あれほどの揺れですと地属性と思われるのですが、地面にそのような痕跡はありませんでした。それでは爆発系統かと言えば、そちらでもありません。こちらも熱波の痕跡がなかったですからね」
ウィルは興味深そうに暴れる尻尾鎧を見ている。
魔法関連になると、やはり好奇心に勝てないようでそわそわしているのが木村にもわかる。
「ちょっかいを出そうにも、アレじゃあな」
ウィルが戦える状態なら、ボローや他と組ませて戦わせることもできただろう。
しかし、今や彼はほとんど魔法が撃てない状況で、ボローを尻尾鎧のサンドバッグにさせるのも気が引ける。
ちょうどそんなときだ。
東の空に暗雲が満ち、数体の巨大な存在が現れた。
「なんか強そうなのがきた」
数は三体。
一歩ごとに地面を揺らし、尻尾鎧へと近づいていく。
動き続けていた尻尾鎧も、三体の登場を足を止めて待ち構えていた。
周囲でまだ生きていた原住民たちが、神でも崇めるように現れた三体にひれ伏している。
「すごい神気量ですね。人ではここまで保持できません」
すごいと評価するウィルの声は穏やかである。
最近、すごすぎる神気量を見たせいか彼の反応も薄まってきた。
「神気量だけなら、一体一体が尻尾鎧に匹敵します」
正直、神気量がいまだに木村にはどんなものかはわかっていない。
とりあえず多い存在の方が強いくらいに考えている。
「ちなみに、屍竜とあの尻尾鎧だとどっちが強いんだ?」
神気量がよくわからないので、一つの基準として屍竜の水準を尋ねてみた。
戦って良いラインかどうかがそれでわかる。
「強いかどうかはわかりませんが、量で言えば同じくらいだと思われます」
「あの尻尾鎧、本当に強いんだな……」
さらに、尻尾鎧に立ち向かう悪魔のような三体は、一体一体が尻尾鎧に匹敵するという。
もしも普通に出会っていたら、アコニトが自爆するしかなかっただろう。
「いえ、神気量はあくまで存在の強度でして、強さとはまた違うといいますか……」
ウィルが木村の言を否定するが、その後で詰まってしまった。
どうやって説明すればわかるか考えているようである。
「ルルイエ教授の神気量は、どれほどだと思いますか?」
「そりゃ……、ゲイルスコグル並?」
どこかの地域をまるごと使い物にならなくしたとか話していた。
ゲイルスコグルでも似たようなことができそうだ。
それなら、と木村は推測を伝えた。
「教授の神気量は、当時の僕よりも少ないです」
「えっ、そうなの?」
素直に驚いた。
今は強化したためか神気量も増えたとウィルは話していた。
当時というのは出会った頃の話だろう。そのときからすでにウィルは教授の神気量よりも上という。
「教授は神気の扱いがデタラメに巧いんですよね」
良い刀を持っていても、使い方が悪ければ弱いみたいな話だろうか。
あるいは格闘技における身長と体重といったものが、神気に相当するのか。
身長や体重がなくても、体の使い方や攻撃の当て方が卓越しているから戦えるのか。
「僕の見立てですが、あの三体はパワーで押すタイプです。おそらくわかりやすく強い」
木村にもそう見える。
与えられたわかりやすい力を存分にわかりやすい形で振るうタイプだ。
「逆に、あの尻尾鎧は教授と同様に巧いタイプです。教授の本を理解したことからもそう判断できます。先ほどの戦いもそれでした。相手の弱点を的確に突いています」
神気量が同じくらいで、巧いタイプってどれだけ強いのかがわからない。
素人から見れば、巧いタイプは何が巧いのかがさっぱりだ。
三体のうち、中心にいた悪魔のような一体が動いた。
黒い翼を両側に大きく広げ、二本の角からは目に見える稲妻のようなものが走っている。
見た目だけなら完全に終盤のボスだ。
大きさだけで尻尾鎧の十倍近い体格がある。
腕だって六本もある。そんなにいるのかと木村は疑問だった。
しかも、それに付き従う二体も中心ほどではないが似たような大きさときている。
左の一体が魔法を詠唱し、右の一体は中心の一体を守るように前に出てくる。
右の悪魔は大きさに反して動きが俊敏だ。尻尾鎧との距離をあっという間に詰めて接近戦が始まる。
ほとんど見えないが速さだけなら、木村から見ても尻尾鎧の方がずっと速い。
少なくとも右の悪魔の動きはまだ見えている。
その悪魔の攻撃を難なく躱して尻尾鎧は攻撃をしている。
しかし、この右の悪魔は速いだけでなく硬い。攻撃されてもまったく動じない。
そもそもの重量差もあるだろうが、尻尾鎧の神装具による攻撃を受けても、うっすら傷がつく程度だ。
尻尾鎧が右の悪魔を無視しようにも、右の悪魔は体から出る粘膜の糸を周囲に出して、尻尾鎧の動きを制限している。
どうやら蜘蛛のような真似事ができる悪魔らしい。
眼も複眼となっていて、攻撃こそ当たらないが、尻尾鎧の動きはしっかりと追えている。
そもそも、攻撃役は彼ではないのだろう。彼は尻尾鎧の動きを止める役割に徹しているように思える。
木村たちのパーティーで言えば、ボローの役目を右の悪魔が担っているのだろう。
時間は十分に稼げたらしい。
左の悪魔が唱えていた魔法が完成したようだ。
「初めて見る神聖術ですね。拘束系でしょうか」
真っ黒な鎖が地面や空中から出てきた。
黒の鎖は意志を持っているかのように動き出し、逃げ回っていた尻尾鎧を捕らえる。
捕らえるも何も一つの鎖の厚さが、尻尾鎧よりもずっと大きいので、鎖がぐるぐる巻きになり毛玉のようになってしまった。
「あれは、出られませんね……。何重にも拘束術式を織り込んでいます。もはや封印と言っても良いでしょう」
空中でぐるぐる巻きになった毛玉を前にして、ようやく中心の一体が動いた。
毛玉へと近づき、六本の手を毛玉に添えた。
「……す、すごい」
「何が?」
木村には六本の手が毛玉を包んでいるようにしか見えない。
二本で十分では、としか思えなかった。
「加重制御を六重に行っています。加重系統は二重だけでも相克が起きるはずです。六重はありえません!」
なるほど、わからんというのが率直な木村の感想である。
百聞は一見にしかず、手に添えられていた鎖が徐々に小さくなっていく。
どうやら目に見えない力で圧し潰されているようだ。加重制御とは要するに重力系の魔法のことだと木村は理解した。
六重の力で圧し潰されているのか、中心に重量を持ってきているのかはわからないが、たしかに強いボスが使ってきそうな力だ。
光がねじ曲がるほどの力を受け、黒の鎖は完全に宙に消えた。
圧し潰されてしまい、後には何も残らなかった。
「ふぅー、すごいものを見ることができました」
あっけなく終わってしまった。
ウィルは満足げであるが、木村は物足りなさが残る。
パワーだ、巧みだと言ったが、やはりこの世は数と力が正義という結論だ。
三体の悪魔たちも羽を広げ、静かに勝利を宣言する。
周囲で見ていた原住民たちも、彼らを再び崇拝する姿勢を見せた。
「とりあえず倒してもらえて良かった。ほっとけば元に戻るのかな」
「倒せていないぞ。よく見るんだ」
黙っていたおっさんが口を開いた。
悪魔たちも何かに気づいたらしい。勝利の宣告をやめ、周囲を見ている。
中心の悪魔が見ていた先に小さな火が灯った。
何もない地面のすぐ上に、マッチで擦ったようなしょっぱい火が灯っている。
小さな火は一つではない。彼らを囲むようにいくつもの小さな火が灯っていった。
悪魔たちが火を攻撃すると、すぐに火は消えてなくなるものの、別のところに小さく灯る。
「……何が起きているんでしょう?」
ウィルもわかっていない様子だ。
木村も何が起こっているかは知らないが、この現象の名前は聞いたことがある。
火の気のないところに火が生じ、突然消えたり、別の場所に現れ、列のように並ぶことだってあるという。
そして、火の色は紫で、あの尻尾の持ち主が何かを考えれば、答えはおのずと出てくる。
その現象の名は――、
「狐火だ」
ウィルが「何ですかそれは?」と尋ねてくるが、木村もさほど詳しいわけではない。
本体に聞くのが手っ取り早いのだが、まだグースカと寝ている。
「元いた世界の怪異現象なんだ。こんなふうに火が出てくる」
これくらいの説明しかできない。
鬼火も似ているが、たしか違う現象だったはず。
「この火がいったいどうなるんでしょう?」
「……さあ」
無数の火が灯る中に、ようやく尻尾鎧が現れた。
不気味な存在だったが、幾十の炎の中にいるとさらに不気味に映る。
「やられるところだったよ! よくも使いたくもない力を使わせくれたわね! これはお返しよ!」
空に浮かんだ無数の薄紫の火が、赤に変わり始める。
最近、よく見た光の色だった。
「全障壁を降ろせ! 全速後退! 急ぐんだぞ!」
おっさんが叫んだ。
ブリッジに映し出されていた映像が消える。
「来るぞ! 全員伏せるんだ! 衝撃に備えろ!」
おっさんが叫び、木村の頭を抑えた。
ウィルやペイラーフも、おっさんに続いて行動に移る。
「なんだぁ! うるさいぞぉ! 人がせっかく気持ちよく寝取るのに!」
大バカが眼を覚ましたらしい。
不満を何か言っている。
「なんだぁ? なぜうぬらは寝てお――」
凄まじい揺れであった。
今までも何度か攻撃に巻き込まれて揺れたが、これほどの揺れは初めてだ。
おっさんに抑えてもらってなかったら、飛んでいたかも知れない。
実際、アコニトが壁か天井にぶつかっているようで悲鳴が聞こえてきた。
揺れが収まるとブリッジのものがあちらこちらに飛んでいる。
ウィルやペイラーフの位置もすっかり変わっていた。
壁にヒビすら入ってるではないか。
アコニトがいた。
首が変な方向に曲がり、今まさに光に消えるところだった。
揺れが収まったところで映像がまた映し出された。
尻尾鎧が金色の筺が散らばる中に立っている。
爆心地の中心で、本体と似たような高笑いをしていた。
「……何が起きたの?」
「意識放出だぞ」
「あれが意識放出なんですか!?」
おっさんは肯定した。
珍しく解説をしてくれる。
もともとアコニトの持っていたスキルらしい。
敵からの攻撃を、尻尾を身代わりにして無効化し、尻尾の爆破で攻撃もするという罠タイプの技だ。
これを尻尾本体が使うことで自己犠牲術式として判定された。
赤竜の金トロフィーと銅トロフィーの効果を受けて、異常に強い花火になったらしい。
……尻尾に身代わりまでさせていたのか。
蜥蜴の尻尾切りではなく、アコニトの尻尾切りだ。
そりゃ怒るだろう、と木村も改めて納得せざるをえない。
「意識放出の効果は消せると聞いたが、今もまだ消せるのか」
「やっとく」
こんな大爆発技を何度も使われてはかなわない。
木村はすぐにトロフィールームに駆け込んで、金トロフィーから効果をオフにした。
ウィルの予想は外れていた。
パワー型は尻尾の方で、技巧型が悪魔たちだった。
今となっては何の意味もない予想の反省である。
ブリッジに戻ったところで、今後の作戦会議を始めることにした。
話すことは明白。
しかし、話すまでもなく経験から言って結論はすでに出ている。
――様子見だ。




