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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅲ章.レベル21~30
43/138

43.サブイベ「失せ物探し」2

 木村は地図部屋で戦闘メンバーの招集をかける。


 アコニトが、ペイラーフの声がなくなったことを笑った。

 見咎めたおっさんの突きで、喉を潰され彼女も声が出なくなった。

 喉を潰されたアコニト(尻尾なし)は無視して、今後の進み方を検討する。


「声のマークが地図に出ていませんね」


 地図の前でウィルが疑問を呈した。

 アコニトの尻尾マークはあるのに、ペイラーフの声マークは出ていない。

 そもそも声マークがどんなものなのかはわからない。


「順序があるのかもしれない。先に昨日のなくし物――尻尾を戻さないと声のマークが出てこないとか」


 ウィルもなるほどと理解を示す。

 すなわち、やることは昨日と同じだ。


 アコニトの尻尾を、まず彼女に戻すことが必要となる。



 尻尾マークの近くまで移動し、カクレガを出ると今回はすぐに見つかった。

 昨日と同じように九本の足でぬるぬると歩いている。


 木村は自らの間違いに気づいた。

 ペイラーフの声は、アコニトの尻尾を戻してから出るわけではなさそうだ。


「ふるさーとを、とおくにーおもえーば」


 尻尾が歌っている。口もないのに……。

 しかも地味にうまい。


 最初は間違いかと思ったが、近づけばその声は徐々に大きくなる。

 発声源は尻尾で間違いなさそうだ。そして、その声はペイラーフの声である。

 アコニトの尻尾に、なくした声が付いてしまった。マークが重なっているから見えないだけだった。


「また来たの!」


 尻尾が木村たちに気づいたようで、歌を止めて声を出した。

 ペイラーフの声そのままなので、木村たちは思わずペイラーフを見てしまう。

 見られたペイラーフは、尻尾を見ろと指を示す。


「尻尾よ。儂だぁ。昨日は怖がらせてしまったなぁ。さあ、帰ってくるがよいぞぉ」

「嫌!」


 明確な拒絶の意志が言葉となって生じた。

 言われた方は笑っている。


「照れんでも良いのだぁ。素直じゃないのぉ」

「来ないで!」


 昨日、嫌われてるなぁと木村は思ったが、本当に嫌われていた。

 近寄るアコニトから、彼女の尻尾が逃げている。昨日と同じ光景が繰り広げられている。

 尻尾だけなら見ていても良いのだが、ペイラーフの声までくっついているとなれば無視はできない。


 声が出るのは戻す手段が増えたと考えることもできる。対話による説得だ。

 ウィルやゾルはすでに攻撃態勢に入っているが、少し待ってもらうことにした。


「どうしてそんなに戻るのが嫌なの?」


 木村は尻尾との会話を試みた。

 もしかしたら今、一番異世界らしいことをしてるかもしれない。

 口をきく尻尾と話すことなど、今後の人生ではおそらくないし、今後もないで欲しい。


「あなたならこいつの尻尾になりたいの!」

「……絶対になりたくない」

「なりたくないですね」

「なりたくない」

「なりたくないぞ」


 四人の声が重なった。

 ペイラーフも頷いて賛同する。

 ゾルやウィルの構えていた武器が徐々におりていく。

 最初の一言で論破されてしまうとは思ってもみなかった。


「少しは尻尾の気持ちも考えてよ!」

「尻尾の気持ち」

「そうよ! あなたたちは尻尾になって、こいつとずっと一緒にいられるの!」


 木村たちは沈黙した。

 他の誰かならともかく、尻尾本体に言われると説得力が違う。

 そして、答えは間違いなく「No!」だ。もしも自分に意志があり、ずっと一緒にいるとしたら嫌だ。


「私だって自由に歩き回りたい! 空も飛んでみたい! 歌だって歌いたい! 誰かと一緒におしゃべりがしたい!」


 尻尾に戻れば動くことや喋ることもできない。

 拷問だろう。


「あなたたちなら普通に全部出来ること! でも、私にはできないの! 私、尻尾だから!」


 空は飛べないと木村は思ったが、それ以外はそのとおりなので黙って聞く。

 その後も尻尾は声高に主張をしていった。


 黙って聞いていると辛くなってくる。

 今まで大変だったんだろうなぁと同情してしまう。


「同情なんていらない! 私が欲しいのは自由! もう放っておいてよ!」


 尻尾は走り去る。

 アコニトが必死に追うが、他の誰一人として尻尾を追う者はいなかった。


 尻尾もアコニトも帰ってこないまま二日目が終わった。




 サブイベントも三日目である。


 木村は早くから起きている。今日は誰の何がなくなるのかわからない。

 早めに寝て、早めに起きて待機することにしたのだ。


「ゾルです」


 控えめな声と、異常に強いノックが響いた。

 どうやら今日はゾルらしい。


「どうぞ」


 ゾルが部屋に入ってきた。

 非常に珍しいことに鎧を着ず、下にはもこもこした地味な服を着ている。

 彼女が鎧を着ていないところを木村は初めて見た。地味な服だが体型はスタイリッシュだ。

 この体のどこからあの馬鹿力が出ているのかわからない。ゲームキャラだからそんなことを言いだしたらキリがない。


「……もしかして、鎧?」

「はい。なくなっていました」


 今日はゾルの鎧がなくなったらしい。



 地図部屋で地図を確認するが、鎧マークはない。


「尻尾が鎧を着てるとか?」


 ウィルが顔を緩ませたが、すぐに引き締め直した。

 声だって尻尾に付いた。鎧だって尻尾に付くのではなかろうか。


 確認のため、尻尾マークへと移動する。


「やっぱり」


 ブリッジから外の様子を見ると一発だった。

 ゾルのフルアーマー鎧と魔物とが戦っている。武器はないので体当たりがメインだが十分に強い。


 ゾルの鎧の各所から薄紫色の毛が出ているのはもはやホラーだ。

 ホラーではあるが強さは本物である。


「戦うことってこんなに楽しかったのね!」


 尻尾もご満悦だ。

 驚くことにフルアーマー状態で喋ることができていた。


「おそらくアコニトさんの毒や沈黙無効の性質を受け継いでいますね」


 それだけではない。

 ペイラーフの魔力も手に入れたせいか回復魔法すら使える。

 HPを犠牲術式で削り、力を高め、やばくなったら回復するという自己完結型の見本だ。


 地味にこちらがやばい状態になりつつある。

 モノを失った者は魔力も一緒になくなってしまうらしい。

 すなわち、アコニト、ペイラーフ、ゾルという主力が戦力外になってしまった。


 さらにあの尻尾は、三人分の魔力を備えている。

 そんじょそこらの相手には負けない状態だとウィルも話す。

 話したウィルですら勝てないと自らの力を評価した。


 ちょっとしたサブイベだと考えていたが、かつてないピンチだった。

 このままではせっかく育てた主力が全滅しかねない。

 しかも狂気は入るらしく話が通じそうにない。


 魔物の残骸と一緒に昨日から行方不明だったアコニトが倒れていた。

 おそらく体当たりをまともに受け、瀕死になった思われる。


 何も手立てがないまま三日目を終えた。



 四日目になり木村は自室待機を辞め、地図部屋で睡眠を取った。

 その他の主力戦力も一緒にいる。


 状況は非常にまずい。

 すでに木村たちだけの問題ではなくなっている。

 アコニトの尻尾はゲイルスコグルが壊滅させた西部を抜け、中部に進出している。


 地図に×印がぽつりぽつりと現れた。

 尻尾は狂気に支配され、三人分の魔力とその力で侵略を始めたようだ。


 有効な攻撃手段を持つのがすでにウィルしかいない。

 力づくで止めようにも火力が足りない。今回は教授や赤竜という強力な助っ人もなしだ。

 尻尾を後ろから、距離を開けて追っているが止める方法が思いつかない。


「まずいですね。今、僕の神気も持って行かれました」


 どうやら今日の対象はウィルらしい。いよいよ対抗手段がなくなってしまった。

 魔力を持って行かれたようだが、他に何かなくなった様子はない。


「何かなくしてない?」

「神気以外では、とりわけ何も……」


 話している途中でウィルの顔面が青白くなっていく。

 彼は慌てた様子で部屋から出て行った。


「やられました」


 青い顔で戻ってきた。

 大切なものを失ったらしい。


「止めるどころの話ではないかもしれません」

「何をなくしたんだ? 杖か?」

「いえ、杖はあります。本ですね。突っ返されたまま僕が持っていたのですが、それがなくなりました」

「……本?」


 木村はわずかに安堵した。

 本くらいなら別に大したことはない。


「どんな本なんだ」

「言葉で説明するのは難しいのですが……、教授の書かれた本です」


 木村に悪寒が走った。

 ウィルの顔が青ざめている理由がようやくわかった。


「その本は、その、なんだ……あの教授が書いたくらいだから、やばい本と思っていいのか?」

「はい――、とは言っても研究室の教材ですからね。常軌を逸している程度です」


 木村もほっと息をついたが、言葉を反芻しウィルを見返した。

 聞き間違えただろうか。


「常軌を逸して」

「る、です。常軌は逸していますが、読み解けたからといって教授のようになれるというわけではありませんよ。しょせん教材ですからね」


 教材というのは教科書みたいなものだろう。

 びっくりしたが、あまり大きなことにはなりそうにない。


「ただ、僕もまだ最後まで読めていないんです。いえ、ページを捲ることはできるのですが、中身を完全に理解できていないと言いますか。……読み通すためには、教授の仰った『魔法』を理解する必要があり、あと一歩踏み出せないと言いますか。ああ、なんでしょうね」


 ウィルは煮え切らない態度である。

 頭をくしゃくしゃと掻いて、何か葛藤しているようにも見えた。


「もしもあの本を読み通し、書かれていることを理解したのなら――」


 地面が大きく揺れた。

 木村たちも腰をかがめ、揺れが収まるのを待つ。


「何だろう?」


 地震だろうか。

 木村はふと地図を見た。

 先ほどまでなかった×印が浮かんでいる。

 増えた×の数は一つや二つではない。


「……理解してしまったようですね」

「何を理解したんだ?」

「神気とその法則――すなわち、この世界です」


 教材のレベルを超えている。

 あの教授はいったい何を教えようとしていたのか。


 世界を理解した尻尾鎧が東へと進んでいく。


 今の尻尾に世界はどう見えているのだろうか?

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