42.サブイベ「失せ物探し」1
アコニトの尻尾がなくなった。
朝起きたら、すでに尻尾が消えていたらしい。
サブイベ「失せ物探し」の一環だと思うが、前回のようにおっさんやテイの仕業の可能性もある。
ひとまずカクレガ内で情報を集めることにした、が……。
「尻尾に愛想を尽かされたんじゃないかな!」
「俺がお前の尻尾なんぞ知るわけがないだろう」
「尻尾がないほうがシュッとしてますね」
誰も真面目に話を聞いてくれない。
日頃の行いがどれほどなのか、嫌でもわかってしまう。
木村としても、別に尻尾がなくてもいいんじゃないかという気がしてきた。
「尻尾は……、ないと駄目なの?」
「無論だぁ」
アコニトが半ギレで答える。
なぜ当たり前なのか木村にはよくわからない。
彼には邪魔にしか見えなかった。
「とりあえずカクレガの中を探してみよう」
木村は尻尾が邪魔だと思っているが、アコニトが大切にしていたのは知っている。
カクレガの中をまずはひととおり確認することにした。
アコニトとあちらこちらを移動するが、尻尾はどこにもない。
もう諦めようかと思っていた、まさにそのときである。
木村はついに尻尾の痕跡を見つけた。
「あ! あった!」
「本当か! どこじゃ!」
「あそこ」
部屋の壁にかかった地図の中、その上に尻尾マークが出ている。
カクレガより北東方向に位置していた。まさか外に出るとは思わなかった。
そうなるとやはりサブイベントによって、尻尾はどこかに失せてしまったのだろう。
「そもそも尻尾が取れるなんてことあるの?」
「儂だって初めてだぁ。どうにも尻尾がないと力が入らんぞぉ」
そんなものなのだろうか。
木村には尻尾がないからよくわからない。
とりあえず尻尾を求めてカクレガを移動させることにした。
尻尾マークの地点までたどり着き、戦闘メンバーとともに外に出る。
戦闘メンバーを連れているのは、サブイベの説明で敵と戦闘と書かれていたからだ。
尻尾を守っているであろう魔物と戦って、尻尾を取り返すことになるだろう。
地図に尻尾マークは出ていたが、尻尾マークを中心に広めの円があった。
円の中のどこかに尻尾があるのだろう。
「……あれじゃないですか?」
外を歩いていると、ウィルが見つけたらしい。
彼はある一点を指で示している。
「いたぞ。良かったな、女狐」
おっさんが変な表現を使った。
「あった」ではなく「いた」である。
「……なに、あれ?」
木村もおっさんの言葉に違和感は覚えたが、つっこむことはできない。
見えているものを理解するのに、時間がかかってしまった。
尻尾が歩いている。
九本の尻尾の先端が足で、付け根部分がくっつき、頭となってタコのように地面を移動していた。
薄紫のもふもふ尻尾が、意志を持っているかのようにうねうねと動いている。
「気持ちわる!」
ペイラーフの発言は木村の思いそのままである。
本当に気持ち悪い。そこらへんの魔物より魔物らしい。
意味がわからない。アコニトの尻尾が未確認生物になっている。
「おお! 儂の尻尾だぁ!」
アコニトが歩く尻尾に嬉々として走って行く。
歩いていることに疑問を持たないのは、やっぱり神だからだろうか。
「おお。……おお? おぉ! なぜ逃げるか?!」
アコニトが近づくと、尻尾がアコニトから距離を取るように逃げ始める。
しかも速い。アコニトも全力で走っているようだが、それよりも尻尾は地面を音もなく颯爽と駆けている。
むしろアコニトの方が遅く見える。
「やっぱり尻尾に愛想を尽かされたんだね!」
ペイラーフがとても楽しそうだ。
おっさんも心なしか笑っているように見える。
木村も笑っているので人のことは言えない。
ウィルが真面目なのが気になった。
「今日のアコニトさんから神気を感じなかったんですが……」
木村の視線にウィルも気づいたようで、戸惑いながらも口を開いた。
「あの尻尾の方から普段並の神気が出ています」
「……それはつまり、アコニトの本体は尻尾ってこと?」
ウィルがブフォと噴き出した。
笑いを抑えつつも木村の言を肯定する。
「このまま見ていても仕方ありません。動きを止めましょう」
アコニトと、彼女の尻尾の鬼ごっこを見ているのも飽きてきた。
ウィルが魔法を発動する。
走り回る尻尾の、逃げている方向の地面が盛り上がった。
どうやら土の壁を作って追い詰める作戦だ。
アコニトが逃げ場を失った尻尾に近づく。
「観念せよ。儂は汝、汝は儂。今一度、一つとなるんだぁ!」
走り回って息切れしつつ、意味がわからないことを言い始めた。
アコニトが距離を詰めると、尻尾が飛んだ。
それぞれの尻尾を外側に広げ、ぐるぐると回転する。
尾の集める付け根部分を中心として、クルクルと回り、宙に飛び始めたではないか。
アコニトが必死に跳ねて手を伸ばすが、その手は飛ぶ尻尾に届かない。
天井からバナナを吊り下げ、猿の知能を試す実験のようだ。
「本当に尻尾の方が本体じゃないのかな」
ペイラーフとウィルが声を出して笑い始める。ゾルも笑いをかみ殺していた。
笑ってもいられないので、ウィルが風魔法で尻尾の飛行を遮った。
地面に落ちた尻尾は、またしても九本の足となって逃げてしまう。
これではいたちごっこだ。
「アコニト。もう攻撃するよ」
「許す! 手荒にはせんでくれよ!」
このままでは埒があかない。
ダメージを与えて弱らせることにした。
「わかりました」
「いきます」
ゾルがフルアーマーモードになり、ウィルも炎の上位魔法を使い始める。
セリーダは彼らに補助をかけ火力を増させる。
容赦がまったくない。
炎を浴び、ゾルの鉄骨に殴られ、さすがの尻尾も動きが鈍った。
毛がチリチリになり、尻尾が変な方向に曲がっている。
「あぁぁああ! 儂のッ! 儂の尻尾がぁ! 何をするかぁ!」
アコニトは泣き叫びながら逃げる尻尾を追いかける。
走りながらもウィルたちを責めており、なかなか忙しそうだ。
一方の尻尾はボロボロになり、ふらつきながらも主から逃げ続ける。
「どれだけ戻りたくないんだろう」
もはや尻尾に同情してしまう。
もしも尻尾が擬人化したら完全にこちらが悪役だろう。
敵役からボロボロになっても逃げ続ける、主人公かヒロインのポジションが今の尻尾だ。
ペイラーフも尻尾に回復をかけてしまった。
せっかくのウィルやゾルによるダメージがなくなり、ペイラーフに注目が集まる。
「ごめん! ついね、やっちゃったよ!」
これにはペイラーフも悪いと感じたようですぐに謝った。
木村も気持ちはわかるし、おっさんも責めてやるなとペイラーフを庇った。
ウィルやゾルもやりすぎたと感じたのか、攻撃の手を緩めてしまう。
尻尾は回復により活力を取り戻し、パーティー内部のいざこざをつき、猛烈な速さでどこかへ走り去った。
姿が小さくなってしまったのでカクレガで追うことにした。
尻尾のマークはすごい勢いで東へと逃げている。
「さすがは儂の尻尾だぁ! 見事に逃げおおせたわぁ!」
アコニトは怒りつつも笑みを浮かべて一同を見た。
ここにいるメンバーを責めつつも、自分(の尾)を上げるうまい言い方である。
もしも、「尻尾すら捕まえられんとは使えん奴らだ」などと言った日には、その尻尾に逃げられた愚か者と物理的にも精神的にもフルぼっこにされただろう。
「本当にさすがだね!」
「そうであろう! そうであろうとも!」
「私たちには捕まえられそうにない! 諦めて花の世話をすることにするよ!」
ペイラーフが席を立って、部屋から出て行った。
怒らせてしまったらしい。
「俺も筋トレの時間だ」
「ゴーちゃんがお腹空かせてる」
「僕も新しい杖を作らないといけないので」
アコニトと木村を除く、全員が部屋から出てしまう。
自業自得だろうと木村も席を立つ。
「待て! 良いのか! 儂がこんな様になって!」
「尻尾がなくても、アコニトはアコニトだよ」
「そんな話ではない!」
もちろん木村にもわかっている。
今のままではアコニトが戦えなくなってしまう。
力の大半が尻尾に付いて出て行った。今のアコニトは薬中の戦力外ゴミ狐だ。
「そうだね。そんな話じゃないよね。アコニトもアコニトなりに、自分を省みたらどうかな。どうして尻尾がアコニト自身から逃げるのか、どうしてみんなが尻尾を探すのに協力してくれないのかを」
「なぜ逃げるか……? そうか! 儂の姿を認識できていないのだろぉ。急に寄ってきたから怖くて逃げたんだぁ。次はゆっくり寄って抱きしめてやるとしよう! まったく世話のかかるやつだぁ!」
めでたい頭だ。
これぐらいじゃないと神とかなれないのかもしれない。
「じゃあ、どうしてみんなは探してくれないと思うの?」
「儂の尻尾だぞぉ! あやつらに捕まえられるはずがない! 奴らも無理と気づき逃げ追ったんだなぁ。なぁに! こちらから追わずとも、すぐに儂が恋しくなって戻ってくるであろうよ!」
アコニトは笑って出て行った。
もう、尻尾は戻ってこないかもしれない。
けっきょく主たる戦闘メンバーのやる気が皆無となり、この日の追跡は中止となった。
そして翌朝である。
木村は揺さぶられて起こされた。
またアコニトか、と目を開けるが彼女のいるべき位置に顔や姿はない。
気のせいかだったかと目を閉じる。
またしても揺さぶられた。
慌てて目を開き、視線を下げると低い位置に顔があった。
ペイラーフである。彼女は身長が低いので物陰に入るとたまに見えないことがある。
「おはよう。どうしたの?」
ペイラーフが口を開いて、自分の喉を指さす。
木村もまだ寝ぼけているので、彼女が何を言いたいのかさっぱりわからない。
「喉? 痛いの? 風邪でもひいた?」
医者の不養生ってやつだろうか?
いや、そんなわけがないと木村も気づいた。
戦闘以外でキャラたちはステータス異常にはならないらしい。
口で説明してくれればいいのに。
普段のように大きな声で話してくれたら一発で目が覚める。
その大きな声こそが彼女の――。
「……まさか、声を失ったの?」
ペイラーフが口をパクパクと動かしつつ、首を縦に振った。
事態は深刻さを増している。
アコニトの尻尾はいまだ帰ってきていない。
さらに、主治医の声もどこかへ消え、静かな朝を迎えた。
サブイベント二日目のことである。




