40.討滅クエスト 第3回目
ソシャゲだけでなく、広く現実世界でも見られる現象がある。
「破られることはない」、「倒すことはできない」と思われていた記録や敵が、一度破られたり、倒せてしまうと次々に新たな記録や勝利が達成される。
何が言いたいかといえば、討滅クエストの三日目以降は決意もなく、作業的に五竜や屍竜らが倒せるようになった。
しかも、自爆前にアコニトから離れることで、撃破したが全滅したという状況を防ぐこともできている。
大量の素材が手に入ったのでキャラも強化して、戦闘が楽になっている感は否めないが、それよりも楽になった印象があった。
二日目でアコニトの自爆は意識放出ができていたようだ。
おっさんが離れたのはそういった理由があったらしい。しかし三日目からは出なくなった。
それでも意識放出なしの魔力爆発だけで、屍竜が倒せるというのは十分ありがたい話であり、やや疑問が残った。
もしかして、と木村はトロフィールームに足を向けた。
第三回目の討滅クエストも明日を最終日に控え、ようやくこの可能性に思い至ったのは遅すぎるというものだ。
「やっぱり」
討滅戦のトロフィーが二つ追加されている。
色は銅と銀の二種類だ。前回までは間違いなくなかった。
まず銅色のトロフィーを見る。
五体の竜が彫られていた。
題名:“やるかやられるか”
説明:“あなたは五体の竜を一人たりとも欠くことなくまとめて倒した。”
効果:“カゲルギ=テイルズにおける竜との戦闘で与ダメージ増加、被ダメージ減少”
なるほど、と木村は思った。
五竜との戦いが楽になった気がしていたが、ダメージが減少していたようだ。
具体的な数値は書かれていないが、体感できるほどの割合値であることには間違いない。
しかも与ダメージ増加によって、自爆のダメージも上がっていたのが二回戦目の安定突破を担っているともわかる。
第二回目開催の時にこのトロフィーが手に入らなかったのは、アコニトが一回戦で自爆して全員生存の条件を達成できなかったためだろう。
続いて、銀色のトロフィーを見る。
デザイン構成は銅のトロフィーと同じである。五体の竜が並ぶ。
ただし、竜の姿は戦ったものと同様、醜い姿に変えられてしまってしまっていた。
題名:“生きるか死ぬか”
説明:“あなたは屍竜を倒した。屍竜は冥府の灯と成り果ててなお、生者を憎み探し求める。生者なき世界で――”
効果:“確定即死を除く、全ての即死効果が50%の確率で無効化される”
確定即死を除くというのがよくわからない。
とりあえず即死系の攻撃を食らっても50%の確率で生き残ると考えておく。
銀色のトロフィーで手に入るくらいなので、ウィルが即死ブレスの対策は難しいと話していたのも納得できるものだ。
木村には気になることが一つある。
金色のトロフィーがない。もしかしたらこのシリーズは銀色までなのかもしれない。
しかし、なんとなくこの続きでいけば金色もありそうな気がする。あって欲しいと願っている。
金色があるなら隠し条件がまだ何かあるのかもしれない。
異世界ならでは条件があることも考えられる。もしくは今回の開催では入手できず、次の開催以降で手に入るものか。
討滅クエストも明日が最終日である。
助っ人が来ると運営からの手紙には書いてあった。
メインシナリオにも出ている助っ人とやらが、金トロフィーの鍵を握っているのかもしれない。
そもそも金トロフィーがない可能性だって十分ありえるのだ。
とりあえず、明日の様子を見ようと木村はトロフィールームから出た。
そして、第三回目の討滅クエストは最終日を迎えた。
すでにトロフィーの話と、助っ人の話はキャラたちにしている。
助っ人が来るからパーティーメンバーが三人になるかと思ったがそんなことはない。
おっさんに止められることもなく、いつもの四人で出ることができた。
「始まるぞ」
五体の竜が現れ始める。
この光景も慣れてしまった。
「さぁて、今日も蜥蜴どもに儂の力を見せつけるとしようかのぉ」
アコニトも緊張や恐怖がなくなり、余裕の言葉が出ている。
木村は嫌な予感がした。
これはフラグではないだろうか。
彼女がこんなことを言うときは何かが起きる。しかも彼女自身に。
「助っ人がやってきたぞ」
おっさんがにこやかに告げる。
このにこやかな顔もフラグではないか。
帝国が滅んだときもこの顔で手紙を渡してきたはずだ。
戦闘モードに入っていたウィルがすごい勢いで振り返った。
木村は自分が見られたかと思ったが、その目線は木村からややズレている。
やはりこれもフラグに見える。
気にしすぎていると思ったが、気にしてもしょうがない。
起きることは木村があがいたところでどうやっても起きる。どう受け入れるかが肝要だ。
諦め半分に木村も振り返り、ウィルの見ている方角を見た。
ちょうど緑竜のやや横の後方から、馬のようなものが砂埃をあげて駆けてきている。
全身があまりにも白く、赤褐色の土と対比されよく目立つ。
馬の上に誰かが乗っているようで、白い十字槍と同じく白の盾を持っている。
「……凄まじい。まるでそびえ立つ柱のような驚異的な神気です」
ウィルが戦々恐々と漏らした。
「あの姿、あの槍、ゲイルスコグル様?」
ゾルが金のクワガタを両手に持ったまま告げた。
珍しく驚いた表情で彼女は馬の方を見ている。
全員の視線を浴びたゾルが答える。
「私たちワルキューレが崇める戦女神の一柱です」
なんだか聞いた単語がある。
ワルキューレというのは木村も知っている。
ゾルが属していた組織ということらしい。ゲームでもよく見る名前だ。
「じゃあ、知り合いなの?」
「お目にかかるのは初めてです。世界が揺らぐとき、大神オーディンに遣わされるとしか聞いていません。聞いていた姿と一致しています」
「おお、オーディンなら儂も知っとるぞぉ。遙か西方の神だなぁ」
そういえば、このアコニトも神だった。
しかし、知名度が違いすぎる。先方は有名神話の神の中の神である。
一ソシャゲの初期☆5で、人を誑かして遊ぶのが趣味のアコニト神とは木村から見ても格が違う。
近づいてくると、その大きさがわかる。
竜よりは小さいが、木村たちの倍はあるだろう。
しかも馬の上に人が乗っているように見えたが、馬と人が一体化している。
馬の首から上の部分が人の上半身になっており、人どころか馬部分まで鎧に包まれていた。
騎士版のケンタウロスがいたらこんなのになるのだろう。
竜たちの直前でゲイルスコグルは止まった。
前脚をあげて槍と盾をかかげる。
雄叫びがあがった。
あまりの大音声に木村たちだけでなく竜までもが体をびくつかせた。
〈ヒリィ! セコォメッラシー! リューゲッド。エッド、ゼッ!〉
すごい声で叫んだ。
声が高いので女性のようだが、何を言ってるのか木村にはさっぱり聞き取れなかった。
「す、すごい……」
「何が?」
ウィルは感動しているが、木村は何に感動しているのかさっぱりわからない。
返答はないが、ウィルが空を見ているので木村も倣って空を見る。
金竜の呼び寄せていた黒雲に穴が開いた。五カ所だ。
開いた穴から光の柱が五本落ちた。
柱の下にいた竜に光が直撃する。
竜たちの断末魔も聞こえないうちに彼らが滅せられた。
何が起きているのかはさっぱりわからない。
しかし、あのゲイルスコグルとやらがこれをやったとは木村も理解できる。
五竜たちが撃破され、いつものイベントエフェクトを行い始めた。
どうやらこのまま屍竜戦に移るようである。
この位置は困る。
完全に五竜に囲まれてしまっている。
普段はこうならないように固めてから倒すのに、このまま自爆を使っていいか木村は迷った。
〈ヒリィ! セコォメッラシー! リューゲッド。エッド、ゼッ! ケリィガッド、スィーヲッ! アッハ!〉
またしてもゲイルスコグルが何かを叫んだ。
彼女は手にした槍を空に投げつけた。
空を見上げると、彼女の十字槍と同じ形の光槍が大量に空にぶら下がっている。
〈ウーラァー! ゲッド! オゥラーーハァ!〉
ゲイルスコグルが叫んで手を降ろすと、空にぶら下がった大量の光槍が地上に落ちてくる。
「動くんじゃないぞ」
おっさんの言葉どおり、木村たちは動きを止めていた。
言葉に従ったというよりも、単純に動くことができなかっただけである。
光の槍は木村たちを避け、屍竜らだけに降りかかっていく。
大量の光槍が体中に刺さり、彼らはその痛みに激しくもがいている。
アンデッドみたいな外見だ。光属性はとても効果がありそうだと木村は感じていた。
〈ジョラィ! ハッダーン! アーラァ!〉
ゲイルスコグルがさらに叫ぶ。まるでカウントダウンだ。
彼らに刺さっていた光の槍が輝きと大きさを増し、体を貫く杭となった。
地面に落ちていた光の槍も、まるで十字架のように乱立し、彼らの墓標と言わんばかりである。
攻撃に耐えられず屍竜たちは光の砂となって消え去ってしまった。
光の砂が空中に消え去り、黄金の筺が現れる。
ゲイルスコグルは勝利の雄叫びを空に向かってあげている。
完全に「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」状態であった。
とりあえず筺だけはさっさと回収する。
気づけばゲイルスコグルが近づいてきていた。
遠くで見えていたときよりもずっと大きい。胴体部分ですら木村たちの頭より高い位置にある。
大きくて、表情がまったく見えず、無言でじわじわ近づく。
木村の恐怖三項目を見事に達成している。
あんなに叫んでたのに、普通には喋れないのだろうか。
「よっ」と気軽に話しかけてくれればどれだけ気が楽になるか。
ゾルが膝をつき頭を垂れ、彼女なりの敬意を表してゲイルスコグルを迎える。
木村もぎこちなくも彼女の真似をした。ウィルも真似る。
「サイラ。ネイ――ゾル」
ゲイルスコグルもいつの間にか手に戻っていた槍を両手に持ち、彼女に対して何かを告げた。
普通に喋ることができたらしい。叫んでいるときとは打って変わって、澄んだ美しい声だった。
その後は木村やウィルを見て、すぐに目を移した。
視線の先にいるのはアコニトである。
「おぉー、やるのぉ。さすがはオーディンの使いっ走りだぁ」
アコニトがゲイルスコグルに笑いかけている。
よくこの状況で話しかけられるものだと木村は感心した。
彼女は気さくな様子で片手を挙げ、木村の横を通り過ぎゲイルスコグルに近寄る。
アコニトの挨拶への返答を、ゲイルスコグルは槍でおこなった。
小気味良い音が聞こえ、木村が見ていたアコニトの背中から槍の穂先が貫通して出てきている。
「は?」
アコニトの口から間抜けな声が出た。
ついでに口から血の代わりに煙があふれ出てくる。
どう見ても致命傷だ。
「ぐ、あぁぁ!」
ゲイルスコグルが槍を持ち上げると、アコニトの体が突き刺された状態で浮き上がる。
そのままゲイルスコグルは槍を空に向けた。
〈ヒリィ! セコォメッラ! ハァアアアイ!〉
「あぁああ! あああああ!」
ゲイルスコグルがまた叫ぶ。叫びすぎだ。
アコニトも負けじと叫んでいる。
槍が光り始め、アコニトの体が光で溢れた。
光が収まるとアコニトの姿が完全に消えてしまった。
アコニトは、――光になった。
「えぇ……」
木村やウィルも目を点にしている。
ゲイルスコグルはまた槍を降ろした。
ゲイルスコグルが視線をおっさんに移し、十秒近く見つめていた。
その後、何もせず目を移し、最後にボローを見た。
ゲイルスコグルが槍をかまえて、戻して、またかまえて戻してを繰り返している。
木村やウィルも何をしているのかわからず、何も言わないし言えない。
「スコグル様。ボロー殿は奇怪な見た目ではありますが私たちの仲間です。屍竜との戦闘でも戦列に加わり、身を挺してワルキューレを守ってくれています」
ゲイルスコグルはゾルの話を聞き、槍を降ろした。
敵か味方かの判定をしていたらしい。
おっさんはセーフで、アコニトはアウトのようだ。
ボローはグレーだったのか判定にかなり迷いが生じていた。
「この子は金クワガタのゴーちゃんです。とっても可愛いです」
ゾルが金クワガタを両手で掲げてみせると、ゲイルスコグルがわずかに固まった。
戦女神をしても、金クワガタの可愛さは理解が及ばないらしい。
とりあえず槍で刺されることはない。黙認された。
「ゾル。ラッセー、ガッハ。――ヘイヒャー! ラァアアア!」
ゲイルスコグルはゾルに何かを言うと、どこかへ走り去ってしまう。
その後ろ姿を木村たちは呆然と眺めるだけであった。
訳がわからなすぎて変な笑いがでてくる。
「『東に魔の気配があるから討伐に行く。貴方も後ろからついてきなさい』って」
乗せてあげればいいのに、と木村は思った。
こうして討滅クエストの第三回目の最終日は終わりを迎えた。
カクレガに戻るとアコニトも時間差で復活した。
「あれは照れ屋だぁ。東日向の大神に直接まみえて、恥ずかしくなってあの行為に及んだだろぉ。若いもんにはあるんだぁ、敬意がそのまま武に繋がることがなぁ。許してやるのが年配者の余裕ってやつだぁ。ただ、まぁ、次に会うことがあれば注意はせんとなぁ」
怒ってるだろうなと思ったが、まさかの許す発言である。困った奴だと笑っている。
絶対に魔物と同列にしか思われてないが、刺された本人がこう言っているので木村も放っておいた。
アコニトに問題はないようだが、ゲイルスコグルは大問題だ。
彼女が東に消えたことはわかっている。カクレガの進行方向も東だ。
しかし、討滅クエストの第三回目も今日で終わりだ。
助っ人のゲイルスコグルもじきに消えるだろう。
――そんなことはなかった。
翌日になり、地図の東側で×マークが次々と浮かび上がる。
何が起こっているかは明らかだ。
ゲイルスコグルによる異世界人の虐殺が行われている。




