39.サポートペット
待ち望んだ討滅クエストが始まる。
「キィムラァ。今回も連続か、まとめるかを選べるぞ」
「連続で」
「連続だな。あと一分で開始されるぞ。しっかり準備するんだ」
前回までの流れは変わっていない。
想定したとおりだ。
組まれた予定に従い、初日は連続で討滅クエストを開始する。
最初の五体が前回から強くなっているのか、行動パターンが変化しているかを確認していく。
さっそくカクレガの外に出る。
戦闘メンバーはアコニト、ゾル、ウィル、ボローのいつもの四人。
これに前回はなかった後方支援役としてセリーダを入れる。
この時点ですでに前回よりも有利に立ち回ることができるだろう。
ただし今日のアコニトは頭がイッているため戦力にならない。
ほぼ前線が三人、後方一人だがどうなるかだ。
「出ましたね」
最初は赤竜。
前回と同じなら、次は青、黄、緑、金と続く。
「神気は前回と大きな変化が感じられません」
ウィルの神気センサーは前回と同じくらいを示している。
プレイヤーたちのレベルに合わせて、竜の強さを底上げしてこなかったようだ。ありがたい。
「よし。それじゃあ予定どおり相手の行動パターンを試しつつ倒していこう。ボローも攻撃を受けてもらうことになるけど頼んだよ」
頼られたボローは頷くだけである。
ゾルも今日はフルアーマーなしで戦う。
前回よりもスキルテーブルは進めているし、結晶もセットしている。
ウィルやボローも目立った強化はしていないが、スキルテーブルを進めた。
新たなスキルを手に入れており、ウィルは別の魔法も練習していたのでさらに強くなっている。
「無知蒙昧な星屑の民よ! 聞くのだ、高貴なる星々の声を! そして届けよ、遙か銀河の彼方へ! 我らの知性の輝きはいまだ失われていないと!」
アコニトはまったくもって駄目である。
一番強くなったであろうキャラがまったく使い物にならない。
失われていない知性の輝きとやらを、銀河以前に竜と自分たちにまず示してもらいたい。
どうも今日はSFの世界に行っているらしい。
深くイッてるときはSFの世界へ行くことが多い。
実は不思議というか、怖い話がある。
聞けばカゲルギ=テイルズは宇宙という概念がない世界らしい。
それなのにアコニトはどうしてか、クスリでイッてるときに宇宙の話ができている。
知らない人が聞けばもちろん頭がおかしいと思うだけだが、木村のように宇宙を知っていると、比較的まともそうなことを言ってるときもある。もちろんときどきだが。
「やはり前回と強さも行動パターンも同じです」
ぼんやりとしていたが、ウィルの声で現実に戻る。
戦況は木村から見てもこちらがずっと優勢だ。
三人がかりでも、楽に赤竜の制圧ができてしまう。
試しに一人で挑ませてみても、楽勝と言わないまでも動きを操ることができる。
これは「まとめて」を選択して挑んだときに、ばらけてから竜を誘導することが可能ということだ。
前回も誘導はできていたが、今回の目的は第二回戦の勝利。
そのため第一目標は前回とやや異なる。
今回の第一目標は自爆無しでの初戦突破である。
それもできるだけ、五体の竜を集めてからの突破だ。
今日の戦闘で、敵の情報を可能な限り集めなければならない。
ウィルの炎魔法が緑竜を燃やした。
トドメになったようで、緑竜は光へと消えていく。
「良い調子だな」
おっさんも腕を組んで戦況を見守っている。
すでに緑竜まで倒した。問題はこの後の金竜だ。
こいつをどれだけ引き寄せられるかが重要になる。
金竜は空を飛んでいるため、ボローの挑発が届いたり届かなかったりで前回は安定しなかった。
対策として、ゾルがボローを空に投げるというのが前回の策だったが、大きな問題があったのだ。
大きく飛んだ後、地上に落下した際のダメージが防御力無視という謎仕様なのである。
下手すると、着地の際にボローが即死する。
全員可能な限り無事な状態で第二回戦に挑みたい。
そのため、安全かつ安定して金竜を挑発させる必要がある。
ボローを外しての全員攻撃布陣という選択肢もあったが、第二回戦を考慮しても彼を外すことはない。
なによりも木村にはボローを外したくないという思いがあった。
このメンバーで勝ちたいのだ。
仮に外すとしてもセリーダを変えるべきと考えている。
セリーダをペイラーフに交代する。相性や戦略を考慮したものなどではない。
獣人の郷の弔い合戦である。
屍竜を倒しても彼らが生き返るわけではない。
そんなことは木村だってわかっている。
木村の自己満足だ。
それでもやると彼は決めた。
過去の因縁と呪縛をここで断ち切る。
四体の竜が消え、最後の一体が空に現れる。
金色の体とともに黒雲がどこからか現れ、稲光が宙を走った。
前回と同様に距離を取りつつ、キャラたちに雷を落としてくる。
ときどき接近して爪で攻撃してくるので、これをボローの近くでやれれば成功だ。
「ゾル。あれを使ってみよう」
「わかった。来て、ゴーちゃん」
金色のクワガタことゴーちゃんが、地面からもぞもぞと現れる。
結晶合成装置の不良作動による配合事故で入手した、希少度8の最高レアというすごいクワガタだ。
このゴーちゃんはサポートペットとして、戦闘中に一定時間召喚することができるらしい。
おそらくクワガタがペットなのは異世界独自だろう。
ソシャゲ内ではもっと動物に寄っているか、ファンタジーな生物だと思われる。
課金要素の気配もプンプンと感じるシステムだ。
連れているだけで経験値アップとか、ドロップ率アップとかが絶対にあると考えている。
あるいは移動力のアップや、スタミナ回復速度のアップだろうか。ゲームでは戦闘まで参加してくれるとは思えない。
このゴーちゃんをゾルが両手でつかむと空を飛ぶことができる。
羽の音がもはや騒音レベルで飛び方も下手くそなのだが、防御力がずば抜けている。
一緒に飛んでいる最中は状態異常が効かなくなる。物理攻撃や魔法攻撃も弾くし、範囲は狭いが角で攻撃だってできる。
ゴーチャンはアコニトの天敵である。
彼女は怖がってこのクワガタに近づこうとしない。
尻尾を挟み千切られる光景が彼女には見えているようだ。木村にも見える。
ちなみに飛ぶことができるのは“クワガタの心”を持つゾルだけだ。
他のキャラがゴーちゃんをつかんでも地面をノソノソ歩くか、角で攻撃されるだけである。
餌をやると少しの間だけなら背中に乗せてくれる。テイが乗せてもらいとても喜んでいた。
しかも、ケージに入らないので放し飼いしているが大きな問題を起こさない。
一部キャラからはアコニトよりも良識があると評価を受けている。
「すごいですね」
「ああ……、ほんとにな」
ウィルが上空を見て呟いた。
木村も同意する。
暗雲へと飛ぶ金色のクワガタとそれを掴む黒騎士。
同じく雷を操る金色の竜が空にいる。
金竜 VS 金クワガタ & ゾル
夢にも思わなかったドリームマッチだ。
今後も夢には出ないで欲しい。
金竜が稲光を生じさせ、光と轟音が金クワガタを襲う。
雷は金クワガタの表皮で弾かれ、別の方向へ飛んでいってしまう。
すごすぎるコーティングだ。ゾルにも有効のようで、雷攻撃がまったく効いてない。
距離を詰めれば、金竜が爪で直接攻撃をしてくる。
これはやばいんじゃないかと思ったが、なぜか攻撃を仕掛けた金竜が逆にのけぞっている。
「何が起きたんでしょうか?」
「金竜の爪を、角でうまく弾いてみせたぞ」
おっさんがこともなげに解説をした。まさかのパリィ。
しかも空中でゾルを運びながらの角パリィをかましてみせた。四本の角は伊達じゃない。
ただ、さすがにクワガタ単体で今の芸当ができるとは思えない。ゾルの技術が共有されている可能性がある。
さらにクワガタは自慢の四本角で、金竜に突撃をかましている。
のけぞったところでゾルが、金竜に降り立ち、直接攻撃ができるようになった。
金竜が暴れたところで、またクワガタを手に空へ逃げ回る。ヒットアンドアウェイが悪質だ。
クワガタとゾルの猛攻に金竜が追いやられ、地上に近づいたところでボローの挑発が届いた。
これで竜たちを引き寄せることは可能と判断できる。実際は混戦なので、ここまでうまく出来るかはわからない。
残る問題は倒し方だろう。
五体を同時に倒す必要がある。
同時の判定は、すでに前回調べた。
多人数でのほぼ同タイミング撃破は駄目だった。
第二回戦に進むには、一キャラの一攻撃で五体の竜をまとめて屠らなければならない。
「まとめて倒せそう?」
「……まだ難しいでしょう」
悔しそうにウィルが答えた。
前回から彼も特訓をしていたし、スキルテーブルだって進めた。
それでもこの竜たちを一撃でまとめて倒すのは、難しいとウィルは判断した。
相手のHPを残り一撃まで削ればできるだろうが、HPゲージが見えるわけではないのでギリギリに削るのが難しい。
「そうなるとやっぱりこれかぁ」
木村とウィルが最終兵器を見る。
最終兵器は口から泡を吹いて、うっすら目を開いて動作停止中だ。
目の開き方が左右で違うのと、瞼が痙攣してピクピクと高速で動いているのがとても気持ち悪い。
五体の竜を引きつけ、ウィルやゾルが弱らせてからアコニトのスペシャルスキルを使う。
一番最初のバランス崩壊時は効かなかったが、二回目の竜たちに毒が通じることはすでに調査済みだ。
なおゾルのスペシャルスキルは単体攻撃に加えて、フルアーマーかつ瀕死状態という制限が付くので五竜相手には向いてない。
強いボスなどに使うこと以外を想定してない決戦専用スキルである。
つまるところ、今回の鍵はアコニトなのだ。
彼女がまともに働けば何とかなると木村は考えている。
まともに働けば……。
金竜もいろいろ試しつつ倒すことができた。
アイテムを回収して、カクレガに戻る。
「アコニトは喫煙室には入れないで」
アコニトを喫煙室に戻すと、またラリるのでそれ以外の部屋に入ってもらう。
明日の討滅クエスト時はまともな状態でいてもらわなければならない。
今のように白目を向いて、ヘラヘラ笑われていては困る。
「暴れるようなら縛りつけてもいいから」
「了解だ。拘束して蜜を塗り、クワガタの前に置いておく」
「そこまではしなくて良いかな」
おっさんは不承不承といった様子で「クワガタは良くないな」と頷く。
無事にわかってくれたようである。
昼も過ぎて、そろそろアコニトが正気に戻った頃と思い、木村は鑑賞室に赴いた。
ひときわ大きなケージの中に、これまた大きな芋虫がいる。
藁袋のようなものに包まれ、その上からぐるぐる巻きにされたアコニトだった。
頭と足だけが出ており、口には猿ぐつわをされてもごもご言っている。
胴体の上を青いカブト虫がのそのそ歩いていた。
たしかにクワガタではないが……。
木村としてはアコニトを助けてあげたいのだが、あの大きなカブト虫に近づきたくない。
ケージの前に立って、顔の高さだけアコニトに合わせるよう腰を屈ませた。
「アコニト。覚えてないと思うけど、討滅クエストが始まったんだ」
むぐむぐ動いていた口が止まった。
彼女の顔に汗が伝っている。
「今日はアコニト抜きの四人で竜を倒せたんだ。もしもアコニトがいたら、まとめて倒すこともできると思ってる。その後の屍竜だっていけるはずなんだ。だから、明日はアコニトも正気なままで戦って欲しい。一緒に竜を倒そう」
「そんなことを言う前に、まず縄を解いてここから出せよ」とアコニトはもがいている。
もちろん木村も彼女の心理に気づいているが、カブト虫が木村に気づいて近づいてきたのでますます助けることができなくなった。
カブト虫は表情がわからないし、言葉も発さない。
じわじわと近寄ってくるのが木村はどうも苦手であった。
「最初の頃からアコニトは前線に立ってもらってる。ひどい目やむごい仕打ち、言葉にできないやられ方……、とにかくやられてばかりの印象が目立ってる。でも、知ってるんだ。アコニトは強いって。明日はアコニトの強さを見せて欲しいんだ。討滅クエストで強さを示すことができれば、きっとこの悪い流れが変わっていくと思う。怖いのはわかるけど、一緒に打ち勝とう」
アコニトばかりを戦わせるわけにはいかない。
木村も勇気を出して、ケージに手を入れてアコニトの猿ぐつわを外そうとする。
カブト虫が木村の腕を角でツンツンつついてくるが、無視してアコニトの猿ぐつわの紐を解いた。
「カブト虫……怖かったけど、がんばってみた。アコニトもがんばってみようよ」
アコニトが口で大きく息を吸って、吐いて呼吸を整えている。
落ち着いてから彼女は木村を見た。
「坊やぁ。カブト虫のケージに手をつっこむ決意と、荒れ狂う竜に身を投じる決意を一緒にしてくれるなよ」
あまりにも的確な指摘だった。
このカブト虫はケージに入っているし、命を脅かさない。
見た目がごつい割に、かなり穏やかで人なつっこいのでテイもケージから出して遊んでいるくらいだ。
一方、竜は容赦なく殺しに来る。
特に最初の竜は、殺戮を楽しんでいたようにも見えた。
第二回目の屍竜どもも、執拗に生者を殺しつくそうと動いていた。
「……ごめん」
穏やかなカブト虫と、殺しにくる竜へ挑む勇気を一緒にするべきではなかっただろう。
木村も馬鹿なことを言っていたと気づき、恥ずかしくなってしまう。
「とにかく縄を外せぇ。この状態では話にならんぞぉ」
それもそのとおりである。
意識が戻ったらこの状態だったのだろう。
さらに、木村からの討滅クエスト宣言とその戦いへの誘いが続いた。
機嫌は見るからに良くない。
こめかみあたりがぴくぴくしている。
もしもおっさんがこの場にいても、後先考えず煙を吹きかけるレベルだろう。
近くからハサミとペンチが一体化した謎工具を手に取って、アコニトの縄を外した。
彼女はフンと鼻を鳴らし、鑑賞室から出て行ってしまう。
返事は聞いていないが、大丈夫だろうか。
……駄目かもしれない。
心配していてもしょうがないので、木村は部屋に戻った。
最悪、明日はアコニトなしでもかまわない。明後日に回してもいい。
その場合、明日はアコニトをバフキャラに変えて、ウィルの魔法をバフもりもりで一気に倒せないか試してみることにする。
準備もあらかた終わった。
そういえば、まだ今回の討滅クエストの案内をじっくり読んでいなかった。
おそらく変更がないと思うが、細かい変更が書かれているかもしれない。
頭から読んでいくがやはり変更はなさそうだ。
三回目で運営側も慣れて来ていたためか、内容も簡素である。
「あれ?」
最後のほうにおかしな文があった。
“最終日に、メインシナリオでも活躍する強力な助っ人がやってきます。
まだ竜をまとめて突破できていない人は、助っ人と一緒に竜たちの最期を見届けよう。”
初心者救済用だろう。最終日に助っ人がヘルプにくるらしい。
メインシナリオで活躍したと書いてあるが、異世界なのでそんな強力なメインシナリオキャラは出てない。
……本当に救済なのだろうか?
最初の竜を倒してくれるだけで、屍竜たちが出てきたら帰ってしまい、後は勝手に死ねとか言いそうだ。
ここの運営なら十分あり得ると木村は考えている。
ただ、フレンドから助っ人を借りるシステムはソシャゲならけっこう見られる。
もしかしたら、このカゲルギ=テイルズでもそういったシステムがあるのかもしれない。
メインシナリオでは使えても、討滅クエストでは使えない設定なので、特別にヘルプ枠で来てくれる。
やはり初心者救済用だなと納得させて木村は手紙を閉じた。
翌日になり、地図の前で討滅クエストの開始を待つ。
異世界の空白だらけの地図を見ているとなぜか心が落ち着く。
「ここがデモナスなんですか」
横からウィルが話しかけてきた。
木村が見ると、彼は地図を示している。
討滅クエストで場所を確認していなかったが、“デモナス”と書かれた領域の西端に現在地の印があった。
木村は聞いたことがもちろんない。ウィルは知っているらしい。
「有名なのか?」
「ヒトならざるモノが住まう地、と」
「人ならざるモノ? 獣人とかのことか?」
「いえ、人間や獣人とは完全に別物と教授からは聞いています。ヒトよりもずっと強く魔物に近いようです」
「ああ、なるほど。そっち系なんだ。その割には領土は狭そうだ」
北は別の地域だし、南や東もすでに判明しており限りがある。
ヒトよりもずっと強いというが、ヒトの領域よりもずっと狭い。
「神気が多い場所でないと生きられないことと、我が強く集団での行動が苦手で、国としての体裁になってないようです。小さな集まりが多いと聞きます」
喋るモンスターの支配区域だろうか。いまいち木村にはどんなものかわからない。
ひとまず討滅クエストを片付けてから実際に見てみれば良い。
目の前のことから片付けていくべきだ。
地図を眺めていると、奥の扉が開いた。
アコニトである。見た感じではまともに見える。
「なんだぁ。陰気くさい顔をしおって。儂が来たんだぞ。勝利は約束されたようなものだぁ。もっと喜べぇ」
どうやら彼女も戦う気になったらしい。
木村が見たところ、昨日までの恐怖は見えない。
「あと一分で開始だぞ」
全員が揃ったところでおっさんが討滅クエストの開始を知らせた。
「今日はまとめてで」
「わかった。まとめて、だな」
予定どおり、今日で決着を付ける。
「よし。じゃあ、みんな。今日は討滅クエストを突破しよう」
残念ながら言葉数の多いメンバーではない。
ペイラーフやテイといった声を出して盛り上げる役は少ない。
ウィルが「はい」で、アコニトが鼻息で返事をし、ゾルとボローは黙って頷くだけだ。
セリーダがブリッジに向かい、戦闘メンバーはカクレガを出て行く。
木村とおっさんも彼らとともに外に出た。
四方に四色の竜が現れ、上空には金色の竜が雷鳴とともに現れる。
出現と同時に、ウィルとセリーダが補助魔法を順々にかけていきこちらも準備を済ませる。
赤竜と緑竜はボローが斜めに突っ込んで挑発をかける。
この二体の攻撃なら、割と集中砲火を受けても生存ができることはすでに検証済みだ。
青竜はウィルが、黄竜はアコニトがそれぞれターゲットを取ってボローへ近づかせる。
金竜はすでにゾルがゴーちゃんを呼び、羽音を響かせ空へ上がった。
昨日のメンバーは慣れた動きで敵を引き寄せている。
アコニトは、口ではああ言っていてもやや精彩を欠いていた。
それでも各種の能力アップ及びバフがめざましく、黄竜の土魔法を避けている。
時間をかけつつも全竜のターゲットがボローに向かせることができた。
後は体力の多めの竜にアコニトが攻撃をかけることで、スペシャルスキルのゲージを溜める。
ゲージは攻撃をしかけたり、食らったり、避けたりすることで上がる仕様だ。
通常なら前回分を引き継ぐのだが、討滅クエストではリセットされている。
最初からスペシャルスキルゲージを溜めた状態で戦闘開始をさせないためだろう。
なお、スペシャルスキルゲージは各キャラで持つのではなく、パーティーで共通となっている。
あと少しだ。
もう少しでゲージが溜まる。
それまでどの竜にも死なれてはいけない。
「よし! 溜まった! アコニト、やるよ!」
「許す! 蜥蜴どもめが、調子にのりおって。今までの借りを返すぞ!」
木村はコマンドからスペシャルスキルを選択する。
時の流れが緩やかになり、アコニトとゾルが白く輝いている。
アコニトで決定する。
「儂の深淵を見せてやろう!」
彼女の体が紫色の霧となっていく。
ゾルとウィルが離脱し、挑発中のボローと五体の竜が霧に飲み込まれた。
アコニトのスペシャルスキルは強いのだが、仲間を巻き込むという欠点がある。
いちおう本人の意志で霧をある程度は動かせるようなのだが、広く拡散させると細かい操作ができないらしい。
ボローはなんとか堪えきれるだろうが、通常のゾルとウィルは堪えきれないのでさっさと離れてもらう。
霧に包まれている間に、金竜が墜落したであろう地響きがあり、他の竜の断末魔が聞こえた。
紫色の霧が晴れていけば、五体の竜が地に倒れている。
連戦のときのように消えてはいないので、前回と同様に隠し条件が達成されたとみるべきだ。
「神気が急激に増大! 来ます!」
ウィルが叫んだ。
やはり屍竜たちが出現するらしい。ここからだ。
作戦もすでに立てている。
ウィルとゾルが走り始めた。
実を言えば、作戦と呼べるほどのものでもない。
ウィルとも話したが屍竜たちの攻撃は、今の時点では防げないという結論に至った。
即死、出血、酸、病気、虫という屍竜らの特殊攻撃を防ぐ手立てがない。
かろうじて虫はいけるが、他の特殊攻撃は手持ちのキャラでは対策が打てなかった。
強さも前回と同様なら、まだ及ばない可能性が高い。攻撃をされたら太刀打ちができない。
そうなるともはやできることは一つだけだ。
やられる前にやるしかない。
初手――自爆だ。
「アコニト。ごめ――」
「謝るくらいならやるな。坊やにやれることを全力でやれぇ」
「わかった。自爆させるから。アコニトの力を見せてやって」
「当然だぁ。儂を誰だと思っておるか」
コマンドから自爆を選択した。
淀みない動きで、またしてもアコニトに決定する。
彼女の体がうっすらと赤く光り始めた。
屍竜たちが最初のイベントモーションを見せている。ここがチャンスだ。
ウィルやゾル、それにかろうじて生き残ったボローが、屍竜を挟んでアコニトの反対側に待機した。
もしも特殊な自爆で屍竜をたち倒しきれないなら、戦うためのメンバーが残っていなければならない。
屍竜を盾にすることで生き残るという寸法だ。
「見せてやるぞぉ。死に損ないの骸どもめぇ。儂の――東日向三大影神が一柱である菫狐の力をなぁ!」
「――むっ」
アコニトから出る赤い光が一瞬だけ強まった。
「離れた方がよさそうだぞ」
「えっ?」
隣で見ていたおっさんが、急に木村を担いで走り出す。
あっという間に屍竜が遠ざかっていく。
信じられない速さであった。
遠ざかる景色の中で、アコニトから出ていた赤の光が収まった。
一瞬だけ光景が停止し、赤紫の光が木村の世界を覆った。
まぶしさのあまり目を瞑り、再び開いたらアコニトが消えている。
他四体の竜は消滅していたが、屍竜はまだいた。
まだ生きているという思いを木村が抱く前に、屍竜は何らかの衝撃を受け粉々になって消えていく。
その反対側にいたボローやゾルたちも衝撃を食らって消し飛んだ。
衝撃波が円上に広がり、走り抜けるおっさんに近づいていく。
巻き込まれると思ったところで、木村は降ろされ、おっさんが盾になった。
木村の両脇を音と凄まじい衝撃が走り抜けた。
音や衝撃による恐怖はあったが、なぜか清々しい気持ちが木村を包んだ。
どうしてかこんな状況なのに楽しいと感じる。場違いな感情が通り過ぎていった。
「終わったぞ」
おっさんが口にして、木村の前から避けた。
離れた位置には誰も残っていないが、金色の筺が出現していることがわかる。
「勝った」
もっと喜ぶと思っていたのだが、口から出てきたのは安心感だ。
重荷が口から出ていってしまったようである。
あまりの安堵で木村は自分が立っている感覚を失ってしまった。
現実にいることの実感が薄れてしまっている。
「ギシンジさん。獣人の郷のみなさん。倒しました。屍竜たちはもういないんです」
獣人の郷はここにはない。地図のどこにもなくなってしまった。
木村の声は届かないし、彼らは帰ってこない。
すでに全員が死んでいる。
「素晴らしい宴を本当にありがとうございました」
木村は礼を言った。
もちろんただの自己満足だとわかっている。
それでも口から勝手に出てくる言葉を止めることができなかった。
「でも、もしも出会うことがなければ――、」
意味のない仮定が出て、謝罪の言葉が出そうになったので口を止める。
謝ったところで本当にどうしようもない。
「みなさんのことは忘れません」
木村はアコニトに教わった処世訓を思い出して、ただそれだけ告げた。
やっと、一つのけじめを付けられた気がした。




