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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅲ章.レベル21~30
36/138

36.後方支援

 木村は久々に試練の塔へ挑んでいた。


 試練の塔でも後方支援が使えるようだ。

 セリーダを戦闘メンバーに入れなくても、カクレガのブリッジから補助魔法をかけてくれる。

 効果は全体ではなく単体と効果は落ちているが、これは何度かかければいいだけの話だ。


 戦闘メンバーが実質プラス一となり恩恵が大きい。

 このためか強化をあまりしていないはずだが、自爆無しでクリアできてしまった。


 後方支援とメンバープラス一以上の強さを感じた。

 召喚者レベルが上がったことで、キャラの強さにも影響があるのだろうか。

 特にアコニトが強くなっている気がする。相手が強いほど毒の効果は弱くなる気がしていたが、今回は顕著に活躍が見られた。

 ……クスリをさほどキメてないからかもしれない。


 倒したところで問題が一つ。


 ドロップのアイテム箱が変わっている。

 今までは漫画であるような、いかにもの宝箱だったのだが、金色の四角い立方体になってしまっている。

 立方体は手の平に乗るサイズで、重さも持っているのかわからないくらいに軽い。

 風船のようなサイコロだな、と木村は感じた。


“硬機体の骸片 小”


 立方体を見るとアイテム名が出てくる。

 名前が出てくるのは良いが、中のものはどうやって取り出すのかがわからない。


「見たことのない神聖術ですね。どういう仕組みなんでしょうか」


 ウィルも興味津々で立方体を見てくる。

 何か魔法をかけているようだが、立方体に変化は見られない。

 手の上にあるのに、魔法をかけるのはやめてもらいたいと思ったが、立方体に夢中で気が回らないようである。


「結界の一種でしょう。外側からの干渉を受けつけません。投げつけてみてください」


 言われたとおり、床に投げつけてみる。

 質量もほとんどないので、軽い音を立てて転がるだけだ。中身は出てこない。

 さらに、ゾルが剣で叩きつけてもびくともしない。アコニトの毒も効果はさっぱりだった。


「恐ろしい強度ですね。しかし、素材の容れ物が変わった原因はいったい?」

「実は――」


 木村はウィルたちにトロフィールームのことを話した。

 この立方体が筺とやらであり、フルゴウルという人物の討伐結果であるも説明する。


「……意味がわかりませんね」

「そうかもしれない」


 重要人物を倒したから宝箱の性質が変わりました、と言われてもそりゃわからないだろう。

 ゲームを知ってたら「そういうのもあるよね」で済む話だが、知らない人なら当然の反応かもしれない。

 木村も、説明中にウィルがまったく理解できてない様子を見て、自らの話している内容の異常性に気づいた。


 ウィルからすれば、そもそも宝箱が何なのかもわからないし、このデイリーの建造物や祠もなぜ出てきているのかもわからないだろう。

 もちろん木村にもわからない。ただ、そういう事象がゲームではあると知っているから受け入れることができている。


 さらに言えば、カクレガだって何をエネルギーとして走っているのかわからない。

 今さらながらカクレガも、泡列車みたいなやばい機関が積まれているんじゃないか不安になった。


「気にしてもしょうがありません。次の階層に進みましょう」

「そうだな」


 ほんとそれである。

 いちいち気にしていたらやっていけない。

 とりあえずそんなものだと受け入れて、楽しんだ方が体も心も健康だ。

 なるようになるだろう。


「お、出てきたぞぉ」


 気持ちを新田にした矢先、アコニトが声を出した。

 彼女の足下に、アイテムが転がっている。

 筺はどこかに消え去ったようだ。


「すごい。ほんとに出てる。どうやったの?」

「ふふん。聞いて驚け、『愚かなる筺よ。儂の崇高さにひれ伏し、かたく閉ざした岩戸を開くがよい。黄金に輝く外面の、暗き内面をさらし出せい。せやぁ!』と念ずれば、恐れおののき自ら出てきおったわぁ」


 アコニトは愉快そうに高笑いしている。

 木村はウィルを見た。ウィルは首を横に振った。

 ゾルも同様であり、おっさんはすでにアコニトの頭を両手でつかんでいる。


「また、煙管にクスリを混ぜたな。『戦闘中はやめような』と言ったはずだぞ」

「混ぜてない! 儂はまともだぁ! 嘘じゃないぞぉ! 降ろせ! ほんとだぁ! もげる! 首がもげるぅ!」


 両手で頭をつかまれ宙に浮いたアコニトが、足を必死にばたつかせていた。

 クスリで言動がイカれていると思ったが、本人曰くまともらしい。


 頭がおかしいやつはみんなそう言う。

 まともな奴だって言うから、この世にまともな奴なんていないまである。


「ん? 女狐、お前……」

「開けと念じたら開いたんだぁ! 頭がッ! 割れるっ」


 ミシミシとアコニトの頭からよろしくない音が聞こえてきている。

 おっさんは彼女の頭を覗き込むようにジッと見ている。

 頭が潰れる瞬間を目に焼き付けるつもりだろうか。


 木村は話を整理する。

 要するに、あの筺は「開け」と思うだけで開くらしい。


「降ろしてあげて。つぶれちゃう」

「ぐのっ……、頭がぐゎんぐゎんするぞぅ」


 アコニトがちょっと可愛くなっている。

 どうやら本当にまともな状態だったようである。

 まともの状態であんな発言が出ることを、まともと呼んで良いかはわからない。


 実際に筺が開くか検証してみようと思ったが、すでに開けられてもうない。


 おとなしく次のフロアに進むことにした。



 試練の塔は一つ階層が上がるだけで、敵の硬さが異常なほど上がる。

 バランスがおかしいと木村は思っている。


 戦闘の形になっているのは、後方支援によるところが大きいだろう。

 戦力がプラス一されているのも大きい。

 それに――


「なんか……、強いぞ」


 機械のゴーレムはゾルやウィルの攻撃がさほど効いていない。

 一方で、アコニトの毒はダメージが見られる。

 今までになかったことである。


 だいたいゾルやウィルの攻撃は効くけど、アコニトの毒は通らないしデバフも雀の涙というのが多かった。

 正直、そろそろガチャでより強いキャラを狙い、アコニトは戦闘メンバーから外すべき頃合いかと思っていた。

 雑魚の大群を一掃するには向いているのだが、強敵相手にはまるで歯が立たない。


 それがどうだ。

 デバフは効くし、毒も強くなっている。

 初期の、雑魚相手に無双していたアコニトが帰ってきているようである。


「やっぱりクスリをキメてないから?」

「違うぞ。あの女狐をよく見るんだ」


 おっさんが隣から口を出してきた。

 さすがにこの状況でただ見るだけのわけがない。

 ステータスを確認しろ、ということだということだろう。


 アコニトのステータス詳細には見覚えのないバフが乗っていた。


“赤竜の加護”


「あ、トロフィーで見たやつだ」

「加護によりステータスに補正がかかっているぞ」


 元のステータスを詳しく覚えていないが、間違いなく補正はかかっているだろう。

 バフの詳細は、他のものと違って見ることができないのでステータスだけなのかはわからない。


「戦力が増強されたな」


 喜ばしいことだ、と話す一方で小さく舌打ちのようなものが聞こえた。

 戦闘メンバーからアコニトを排除したい気配を、以前よりおっさんから感じていた。

 気持ちはよくわかる。戦闘中は頭がトンでまともに働かないし、戦闘後に生きていてもやはりまともに機能せず、おっさんが連れて帰る羽目になる。

 時には毒煙を顔に向かって吐いてくるし、意識がおかしいとゲロまで吐く。泡だって吹く。

 木村ですら蹴り飛ばしたいときがあるほどだ。


 ここで木村はふと思い出した。

 赤竜の金トロフィーには加護による効果が付いていたはずだ。


「自己、犠牲魔法? そんなのってあるんだっけ?」

「自己犠牲術式か。ゾルが使っているものだぞ。自らへの自傷や負荷により、効果を得るものの総称だな。女狐は持っていないぞ」

「駄目かぁ」


 自己犠牲術式の他にもう一つあったはずだが、それもアコニトはもっていないだろう。

 金トロフィーの効果は反映されないことになる。せっかくの金トロフィーなのにもったいないことだ。

 それでも加護のステータスアップだけでも十分価値がある。


「あと二十秒だな」

「この階層はまだ倒しきれないか。仕方ない。自爆させて倒せるかどうか試してみよう。でも、クスリをキメてないとちょっと可哀相だな」

「そんなことはないぞ。木っ端微塵にしてやるんだ」

「……敵をだよね?」


 返答はないが、確認する余裕もないのでコマンドを開いた。

 慣れた手つきで自爆を選択し、緩やかに流れる時の中でアコニトを選ぶ。


「ん? なんだぁ?」

「ごめん、アコニト。自爆させるから。みんなはいつもどおりで」

「は? おい、うぬら。何をしておる?」


 アコニトは唖然としているが、彼女以外は慣れたものだ。

 ボローがウィルを守り、ゾルは大剣を盾にして衝撃に備え、おっさんは木村へ――、


「あれ?」


 おっさんが木村の方へ来ない。

 アコニトを凝視している。


「なんだぁ、光っておるぞぉ」


 木村もアコニトを見る。

 普段の自爆と様子が違っていた。

 いつもならすでに体が膨らみ始め、弾ける寸前だ。

 しかし、今回は彼女の体がぼんやりと赤紫に発光するだけである。


「キィムラァ。トロフィー効果は、他者犠牲術式も対象だったか?」

「あ、そうそう。そんなのも対象だった」

「そうか。それなら自爆も対象だぞ。見ておくんだ」

「そうなんだ。見てても大丈夫なの」

「眩しいぞ」


 どうやら自爆は他者犠牲術式とやらだったようだ。

 アコニトの体から出ている赤紫色の光がぴたりと収まった。


 木村は覚えがある。

 あのときもこうやって光がいったん消えたのだ。


「う……」


 うめき声が聞こえたと思ったら、ウィルが膝をついている。

 またアコニトに視線を戻すと、彼女の体が発光し、一瞬で赤紫の光が周囲に弾けた。


 光と音と衝撃が、時間差もなく一瞬で体を通り抜けていく。

 予想していたものよりも、ずっと光も音も小さい。

 衝撃すらちょっと揺れた程度だ。


 すぐに目を開けると、アコニトが消えてしまっていた。

 アコニトだけでなくモンスターも消滅している。


 さらにはモンスターどころか、ゾルやボロー、ウィルまでもが消えてしまった。

 木村とおっさん、それに黄金の筺だけが部屋には残る。


「倒した……?」

「ああ、撃破したぞ」


 自爆のような焦げ痕もないので本当に同じ部屋か疑ってしまった。

 実は下の階層にワープしたと言われても納得してしまう。

 筺がなかったら同じ部屋とわからない。


 いつもなら出るはずの上への階段は出てこない。

 ここが最上階とは考えづらい。まだまだ上があるはずだ。

 モンスターは倒したからアイテムは出るが、味方がいないからクリアとみなされず上階への挑戦権はなくなったと推測できる。


「けっきょく何が起きたの? 消滅?」

「意識放出だな。意識はほぼ混ざっていないから、魔力爆発と考えていいぞ」


 魔力爆発は知らないが、意識放出は聞き覚えがあるし、見たこともある。

 しかし、木村がウィルに見せてもらった意識放出はもっとしょぼかったはずだ。


「効果も上がっているな。通常の意識放出であの威力は出ないぞ。たとえ自爆が変更されるとしてもだ」

「あ、銅トロフィーの影響かもしれない」


 赤竜の銅トロフィーが意識放出の効果が上がるとかだった。

 金トロフィーで自爆が意識放出に変更され、銅トロフィーで意識放出の効果がさらに上がり、この結果になったということだろう。


 強いのは間違いないだろうが、あまりにも強すぎる。

 尖ったスキルがさらに尖ってしまった。

 今度は仲間すら残っていない。

 もはや全滅だ。


 いちおうアイテムは出るようだからギリギリ勝利に判定されるらしい。

 勝利ではあるが、クリアとは判定されない微妙な結果だ。

 アイテムが手に入るからまだ良いところか。


“硬機体の骸片 中”


 黄金の筺を見れば、アイテム名が出た。

 あとはアコニトが言ったように、念じてアイテムが出てくるかどうかである。


 ここで念じてみても良いが、回収が面倒である。


 カクレガに持って帰って、ウィルやおっさんと検証することにした。

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