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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅲ章.レベル21~30
35/138

35.トロフィールーム

 木村はカクレガの拡張をおこなっている。


 今回の拡張は、農園に、ブリッジとどちらも最上階施設をメインに据えたものだ。


 食べ物を栽培する農園と、外の魔物や食べ物の採取ポイントを発見しうるブリッジの索敵機能の増設が急務であった。


「キィムラァ。ブリッジの増強が一定段階を超えたことで、後方支援が可能になったぞ」


 おっさんがわざわざ報告しにきてくれた。

 筋トレ中だったようで汗だくである。


「後方支援?」

「戦闘中、前線メンバーの支援がブリッジからできるぞ」

「……わかったよ」

「それじゃあな。がんばるんだぞ」


 どうやら筋トレ中でも、チュートリアルが優先されるようで無理矢理呼ばれてしまった形だ。

 木村としてはもう少し後方支援の説明が欲しかったのだが、おっさんに遠慮してしまった。

 筋トレに戻りたいというおっさんの意志というか、体から出てくる湯気に負けた。


 説明は受けていないが、後方支援がどんなものかは想像がつく。

 戦闘メンバーの四人とは別に、一人がブリッジにいて攻撃か補助かができるのだろう。

 すぐさま交代ができるかどうかはわからないが、ノーリスクで攻撃か補助ができるぶん戦力はプラスだ。

 もしもそんな機能が追加されると知っていたら、前回の討滅クエストまでに優先的に取得していただろう。

 攻略情報がネットで共有されている現代の便利さがこういうときにわかる。


 間違いなく他にも開放されていない機能がある。

 どれかを集中的に強化するよりも、全体を強化していき、隠れた機能を開放させていく方が良いのかもしれない。



 ひとまずのカクレガ改修を終え自室に戻ると、見覚えのない扉が現れていた。

 扉の上には“トロフィールーム”と板が掲示されている。

 そういえば、そんな話があった。

 すでに忘れていた。


 木村が扉の前に立つと勝手に扉は開く。


「は?」


 木村はあまりの光景に立ちすくんだ。

 部屋に入らなかったためか扉が勝手に閉じてしまう。

 足をやや下げ、また近づける。扉が再び開いた。光景はやはり変わらない。


「……どうなってるんだ、これ?」


 部屋は奥に数十メートルはある。幅も十メートルではきかない。

 高さこそ低いが幅と奥行きが広すぎる。どこかの施設の資料室になってしまっている。


 問題は明らかに隣の部屋を侵食していることだ。

 隣の部屋は先ほど、実際に目で見て普通どおりだったのでこの部屋がおかしい。


 ゲームでたまに見られる謎空間を目にしてしまった。


 気を取り直してトロフィールームに足を踏み入れる。

 トロフィーを飾るための棚が何列も整列しているが、実際に飾られているトロフィーは少ない。


 一番近くにあったトロフィーを見てみる。

 おっさんが筋肉を主張する姿の像があった。

 トロフィーというか、もはや彫像と言って差し支えない。

 色が赤茶色っぽいところを見るに、銅ランクのトロフィーだろうか。


“カゲルギ=テイルズの世界にようこそ!”


 文字が浮かび上がってきた。どうやらこれがトロフィーのタイトルらしい。

 控えめに言っても、ボディービルの世界へようこその方がふさわしい。

 もっと言えば、カゲルギ=テイルズの世界ですらない。


“ここからあなたの物語が始まった”


 説明文は一行だけ。

 これに関しては間違っていない。

 異世界で目覚めて初っぱなでこのおっさんが出てきたのだから。


“効果:なし”


 効果がなし、と書かれているということは、効果があるものもあるという裏返しだ。

 木村はさっそく他のトロフィーも見て回ることにした。



 見て回って木村は早々に気づいた。

 似たようなトロフィーは同じ列の棚に並ぶようである。


 “壊滅の帝都”、“グランツ神聖国の終焉”、“ルーオ村の悲劇”などが同じ棚にあった。

 氷付けの城、穴だらけの校舎、腐敗臭がしそうな村と、トロフィーの造形は名前のとおりあまりにも暗い。

 この列だけはあまりトロフィーを増やしたくない。


 増やしたくないと思いつつも、これらには効果があった。

 帝国、グランツ神聖国、ルーオに属するキャラのステータスアップだ。

 特にグランツ神聖国は国単位のためか、増加幅も大きく、色も銀色で豪華である。

 国が滅ぼされてどうしてステータスが上がるのかは気にしないことにした。

 ウィルが☆2の割にかなり強いのはこの効果の恩恵があるのだろう。



 棚を移動すると今度はイベント関係やキャラ関連もあった。

 デザチューや見覚えのない鳥のボス、仲間キャラの彫られた像がちょこちょこと並んでいる。


 板にまん丸の穴が空いただけのトロフィーがあり、気になって意識を向けた。


 題名:“無竜との遭遇”

 説明:“あなたは無竜に遭遇し、無事に逃げることができた。”

 効果:“消失の効果が可視化され、部分消失作用が無効になる”


 竜と出会っただけで、銅のトロフィーがもらえるらしい。

 効果まで付いている。この効果がどれほど有用なのかはわからないが……。


 同じ棚を見ていくと、やはり赤竜のものもある。

 しかも二つもあった。


 一つは人間形態の姿なのでわかりやすい。

 色は銅である。


 題名:“赤竜との出会い”

 説明:“あなたは赤竜と出会い、ともに食事を楽しんだ。”

 効果:“意識放出とそれに伴う技の威力が上昇する”


 もう一つは、列車の上に花火が打ち上がっているものだ。

 こちらは金色のトロフィーである。


 題名:“赤竜の加護”

 説明:“あなたは赤竜の加護を得た。忘れてはならない。感情はヒトの証であることを。”

 効果:“赤竜の加護を持つキャラが自己・他者犠牲術式の対象となったとき効果が変更される”


 効果の下にチェックが入っている。

 どうやら効果のオン/オフができるようである。

 赤竜の加護とかいうものをいつの間にか手に入れていたようだ。


 加護が金色で、遭遇が銅色なら、銀色は討伐だろうか。

 それはそれで気になるが、現時点ではあまり倒そうとは思いたくない存在だ。


 歩き回っていると、もう一つだけ金色のトロフィーがあった。

 四角い箱に小さな玉が二つ入っている彫像である。


 小さな玉はなんだろうとよく見ると、一つの玉に金色の円が二つ並んでいた。。

 見覚えがある。フルゴウルの目だ。この二つの小さな玉は彼女の眼球だったらしい。


 題名:“黄金君主の終わり”

 説明:“あなたは黄金の筺の主を倒した。世界から、一つの輝きが失われた。”

 効果:“ドロップの宝箱が筺に変更される。”


 下にチェックボックスがある。

 こちらも効果のオン/オフができるようだ。


「黄金の筺?」


 筺が何かよくわからないが、黄金の筺の主とはフルゴウルのことだろう。

 これはこの時点で手に入れてよいトロフィーではない気がする。

 ストーリー終盤とかで手に入るモノではないか。


 そもそも倒したのは赤竜だ。

 いや、戦闘メンバーだったから問題ないのか。


 同じ棚には銀色のトロフィーもある。

 もしかしてと見れば、やはりフルゴウルの付き人だったダズマ討伐の証だった。

 こちらにも効果があり、影属性への直接攻撃が有効になるとかであり、効果の善し悪しがいまいちわからない。


 この二人は戦う姿もまともに見ることなく、トロフィーになってしまった。

 効果が手に入ったから良しとして、細かいことは気にしないことにした。


 かなり長い時間、トロフィーの観賞に費やしてしまったかもしれない。


 そろそろ久々のデイリー消化へ行くことにする。



 トロフィールームから出るとアコニトがいた。

 背中を見せて、尻尾がふらふらとしている。


「どうしたの?」

「ひょっ! なんじゃっ! どこにおった!」


 アコニトの尻尾がピンと立ち、その場でジャンプと、非常に驚かれた。

 猫の足下に胡瓜を置く動画がこんなだった。


「どこって、トロフィールームだけど……」


 木村がトロフィールームを指で示す。

 アコニトが扉を怪訝な目で扉を見て、木村も同じ目で見てくる。


「おぉい、坊やぁ。昼間からキメすぎておらんかぁ?」

「いや、何もキメてないから。トロフィールームだって」


 ほら、とトロフィールームの扉を開けて中に入ってみせる。

 アコニトを見ると、すごい気持ち悪そうな顔で木村を見てきていた。


「……今日はまだ、本ギメしてないんだがなぁ。幻覚が見えるぞぉ」

「アコニトにはどう見えてるの? あと本ギメって何?」

「坊やが壁に埋まっておる」


 アコニトがトロフィールームに近づくが、見えない壁に阻まれトロフィールームに入れない。

 木村もアコニトの動きが演技でないと感じ、キャラには見えず入れない部屋なのだと理解が追いついた。


「アコニトや他のキャラには見えないし、入れないかもしれない」

「そうかぁ。それなら儂は安心して本ギメして来ようかぁ」

「うん。いや、……うん? ん? …………待って。何しに来てたの?」


 アコニトが自室の扉を潜り直前で、彼女がなぜ自分の部屋にいたのか木村は気になり尋ねた。

 なお、二個目の「うん?」は「安心して本ギメ」なる謎ワードに対する疑問だ。


 彼女も思い出したようで、「おお、おお」と木村を振り返る。


「中年が『デイリーに行くから、坊やを連れてこい』と我が城に乗り込んで来たんだぁ。無作法者めがぁ、調子に乗りおってぇ。そろそろ儂の力を見せるべく一発殴っておくかぁ」

「返り討ち……。デイリー行くなら本ギメしちゃ駄目じゃん。一緒に行こう」


 すごい嫌そうな顔をするアコニトを連れて、地図のある部屋に行く。

 部屋にはおっさんはもちろんとして、ウィルやボロー、ゾル、セリーダもいた。


「遅いぞ、女狐」


 他三人と一機の気持ちをおっさんが口にする。


「儂のせいじゃないわぁ。坊やが壁の中から奇想天外と現れたんだぁ」

「葉っぱキメてんじゃないぞ」


 おっさんがアコニトの頬をベチィと叩く。

 今のはきれいに入ったなぁと木村もわかるようになった。


「しかも、その幻覚を人のせいにするんじゃない」


 さらにもう一撃が反対側からアコニトを襲う。

 アコニトはその場でダウンした。


 一撃目のクスリについて、木村は何も言えない。

 二撃目については、アコニトのなけなしの名誉を守ることにした。


「今のアコニトの話は本当なんだ。トロフィールームとその扉が他の人には見えなくて、壁から出てきたように見えたって話」

「なんだ。それならそうと先に言うんだぞ。悪かったな、女狐。――よし、気を取り直してデイリーに行くぞ」


 アコニトはダウンして何も聞こえていない。

 おっさんが彼女の尻尾を、心なしか優しくつかみ引きずっていく。


 木村たちも二人の後を追いかけた。

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