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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅱ章.レベル11~20
26/138

26.資金不足

 カクレガの休憩室でソファに腰かけ、木村はため息を吐いた。


「はぁ……」


 テーブルの机の上に置かれた金色の物体を見るが、見たところでどうしようもない。

 多くのソシャゲにおいて、強くなり始めたあたりで必ずといってぶつかる問題に彼もまた直面していた。


「お金がない」


 ずばり金欠である。

 開始時は、運営がサービス記念で馬鹿みたいにばらまく。

 プレイ開始当初は、諸々の費用が安いため、お金に困ることが滅多にない。


 しかし、プレイを続け、徐々に強くなってくるといつの間にかお金がないことに気づく。

 実はだいたいの強化や改造には、素材と一緒にお金が消費されているのだが、微々たるものとして木村は気に留めていなかった。

 ところが強化が進むにつれ一回のお金の消費も増えて、気づけばお金がテーブルにチョロチョロと転がるくらいしか残っていない。

 特に討滅クエストで、メインキャラを最大まで強化したのがまずかったと見える。


 しかも悪いことに、カクレガにいるキャラも飯を食う。

 カクレガでも一番上のフロアで食べ物を作っているが微々たるものだ。

 遠征枠も一つ増えたので、余ったキャラを遠征に行かせて減らしたが、それでも食料の消費に生産が追いつかない。

 アイテムだけでは賄いきれず、外でも採取をする必要が出てくる。

 外で買うことを視野に入れる必要があった。


 ここでさらにまずいことに、テーブルのお金はあくまでソシャゲ内の通貨だということだ。

 異世界での通貨とはまた別物である。


 異世界の村や町で食料やその他物資を調達するためのお金もない。

 木村も現代の知識を利用して、何か発明しようと思ったが、木村に生産職的な知恵は何もなかった。


「――という訳で、今日はカクレガの軍資金について話し合うぞ」


 お金の転がるテーブルを囲むように、五人が腰をかける。

 おっさんが議長となって、第一回カクレガ軍資金調達会議が始まった。


 会議メンバーは五人

 一人目が、異世界人代表かつ魔法にも詳しい、最近は製造室が自室――ウィル。

 二人目が、カクレガの常識人、医療なら彼女に任せろ――ペイラーフ。

 三人目が、いつでもどこでもすぐそばに――おっさん。

 四人目が、何の力にもなれない木村。

 五人目は、おまけのテイ。


 始まる前から駄目そうだ、と木村は思っている。

 まず彼自身が会議になれていない。ごくまれに会議に呼ばれるが終始無言を通していた。

 最後の「賛成の方は挙手をお願いします」で、手を挙げるのが木村の役割だ。


「まず僕から言わせてもらいます。これは製作室で、僕が作った武器です」


 前にも見た、ウィル謹製の水晶玉と木の棒をヒモで留めただけの棒である。


「立派な杖だな!」

「そうでしょう。これなら十分にお金になります」


 ウィルもおっさんに褒められ、鼻高々である。

 話は以前にも聞いている。見た目こそ子供の遊びだが、性能はすごいようだ。

 確かにアイテム表示で確認すると、杖として認識されているし、魔法攻撃にプラスの数値が付いている。


「問題は、この杖の価値をわかる人がいないことです。この付近は魔法をメインで使う人があまりいないんです」


 ここはまだ獣人の闊歩する領域だ。

 彼らは魔法ではなく、戦技だか術技だかという技で戦っている。

 木村にとっては似たようなものに見えるのだが、ウィルは違うと話す。

 とにかく獣人たちは剣や弓、拳と、飛び道具はせいぜい矢や投石と魔法にさほど縁がない。


「仮にわかる人がいても、この杖に見合ったお金は出せないでしょう。少し大きな街に出ればまた別でしょうが……」


 今のところ、獣人たちの集落は何度か見たが、どこの集落もお金があるようには見えない。

 杖に価値を見出してくれても、払えるほどのお金はないだろう。

 製作室で別のモノが作ることはありかもしれない。

 こうしてウィルのターンは終了した。


「あたしができるのは診ることと、苗を渡すことだけだね!」


 カクレガの外部収入はほぼペイラーフである。

 彼女は医療スキルがあるので、だいたいどこの集落にいっても腐ることがない。

 加えて、花を育てることが趣味なので、医療用の材料になる苗を渡すこともしている。

 治癒と苗により、お金と食料を稼いでいた。カクレガの財布は彼女が握っているといっても過言ではない。


「あたしもずっといられるわけじゃないからね。あまり過度な治癒を施すのは気が引けるよ!」


 彼女の治癒スキルは、この異世界においてレベルが高すぎる扱いのようだ。

 どこかの集落では神としてまつりあげられ、危うく残るハメになりそうなこともあった。

 権力者などに目を付けられればたまったものじゃない。

 苗はまだ可能性があるとして候補に残した。

 ペイラーフの話は終わった。


「やはり魔物退治だろうな。一番手っ取り早く、一番わかりやすい」


 脳筋的な発言は議長のおっさんから発された。

 ただ、端的でわかりやすいし、上手くいけば早く済む。


 ブリッジに設置したアンテナのおかげで、魔物を探すのは割と簡単だ。

 討伐の依頼が出て、倒すことができれば報酬が出る。


 問題は討伐の依頼が、こんなわけのわからない木村たちに出るかということ。

 ついでに倒した時の証拠が見せづらい点だ。


 仮に依頼が出たとして、木村たちが魔物を倒して出てくるのはアイテム箱だ。

 確かにアイテムは手に入るのだが、異世界の人たちが倒した時のように死体が残らない。

 倒した証拠を提示するのが難しくなる。アイテムがそのまま証拠になればいいが、牙とかならまだしも肉とか臓器を見せられても相手は困るだろう。


「倒した時にアイテム箱じゃなくて、中身が見える小さい容れ物ならいいのになぁ」

「どういうことだ?」

「今って魔物を倒した時にアイテム箱が出るでしょ。アイテム箱を持っていって、依頼してきた人に見せても、そもそもこの世界の人じゃアイテム箱が理解できないし、中身も該当の魔物を倒したものか理解してもらえるかわからない。アイテム名も出てきて、中身が見える小さな器とかだと、持ち運びも楽になるし、そのまま見せれば討伐の証になるからさ」

「なるほど。――おもしろい意見だな」


 おもしろいかどうか木村にはわからないが、そうなったら討伐の話は楽になる。

 今だとドロップアイテムが、討伐の証になるものじゃないと難しい。

 もちろん倒すところまで一緒に行けば話は別だろうが……。


「テイはね。服や手袋、マフラーを作るのが得意だよ!」


 ペイラーフのおまけで来ていたテイが手を挙げて発言した。

 意見が出尽くし、場が少し膠着していたので、テイの健気な発言にみんなの頬が緩んだ。


「テイにも作ってもらうかもしれないね」

「うん、任せてよ!」


 テイは元気よく頷き、席を離れて廊下に出て行った。

 テイと入れ替わりにアコニトがやってくる。


「ん~? なんだぁ雁首揃えてぇ」

「資金稼ぎの会議してる。アコニトは何か良い案がある?」

「駄目だぞ。キィムラァ、聞く相手を考えるんだ。働かざる者食うべからずの代表格だぞ」


 ボロクソだったが、アコニトはちゃんと戦闘で働いている。

 彼女は一応ただ飯を食ってるわけではない。なんなら彼女よりも何もしていないキャラもいるのでその発言はかなり危ない。


「金というのはなぁ。人間があくせく稼ぎ、それを形あるものに変え、儂らに貢ぐものだろぉ。なぁぜ神たる儂が考えねばならんのだぁ?」


 ボロクソに言われた方も相当な思考の持ち主であった。

 そういやこれでも神だったなと木村も思い出す。しかも邪神の位置だ。


「だがなぁ。今日の儂は機嫌が良い。下々の民草に案を授けようぞぉ。おい、杏林。うぬの土に儂がやった種を植えただろぉ。そろそろ芽は出たかぁ? あれは乾燥させれば良い値で売れるぞぉ」

「は? あれ、まさか……」


 ペイラーフが何かに気づき、席を立って唖然としてアコニトを見る。

 見られたアコニトはにんまりとペイラーフを見返した。


「クソッ! あんた、あたしの園に汚いもんをッ!」


 珍しくペイラーフが本気で怒っている。

 アコニトはその反応を見てニタニタと非常に楽しそうだ。


「冗談だぁ。あれはただのタバコ。汚くないぞぉ。坊やぁ、この前吸っただろぉ。あれさぁ。育てやすい割に、良い香りを――」

「抜いてくる!」

「……えっ、ま、待てっ」


 ペイラーフがアコニトの言葉を最後まで聞くこともなく廊下に出て行った。

 アコニトも焦ったように、ペイラーフの後を追う。


 木村としてはペイラーフの反応は当然だと思うものの、あの葉巻は思い出深いので残しておいて欲しいという微妙なところだ。

 介入するのも面倒なので当事者たちの判断に任せることにした。

 十中八九、抜かれることになるだろう。


 会議の参加者が三人になったところで会議は自然と解散である。

 とりあえず、できることをやっていくというどうしようもない結論で会議は終わった。

 何の解決にもならないジャパニーズ無駄会議が、異世界にまで入り込んだ記念すべき瞬間である。




 翌朝のことである。


 休憩室で木村とウィルが話をしているとテイとおっさんがやってきた。


「見て見て! 上手にできたよ! これなら売れそうでしょ!」


 彼女の手には帽子ができていた。

 暖かそうな毛で出来ており、柔らかくしなやかである。


「すごい。これほんとにテイが作ったの?」

「うん! すごいでしょ! おじさんにも手伝ってもらったよ!」

「うむ。手伝ったぞ」


 本当にすごかった。

 サイズはやや小さめだが、店で売っていてもおかしくない。

 おっさんも絶賛しているし、ウィルも手放しで帽子を賞賛している。

 木村はおっさんがいったい何を手伝ったのか気になったが、今は尋ねないことにした。


「ああああああああああ!」


 木村たちが帽子についてわいわいと話していると、遠くで叫び声が聞こえた。

 だいたいこういう声は100パーセントアコニトだ。

 こちらから行く必要なんかない。

 ほっとけば来る。


「大変だぁぁぁ! 大変なんだぁああああああ!」


 案の定、アコニトがやってきた。

 扉を蹴破って、顔を真っ青にしている。

 本当に大変な様子だが、何かが足りないと木村は思った。


「儂の! 儂の尾が! 起きたらこんなことに!」


 アコニトが横を向いた。

 木村も何がおかしいのかようやくわかった。


「尾の毛が! ないんだぁああああ!」


 彼女を象徴する九本の尻尾。

 正面からでも溢れてかえっていたもふもふの毛がなくなり、禿げ散らかしている。


 木村はなんとなく毛がお尻から直接生えていると錯覚していたがそんなことはない。

 細めの尻尾が九本あり、それぞれから大量の毛が生えていたのだとわかる。


 お尻から細い尻尾がにょろにょろ生えているのはなんだか気持ちが悪い。

 玉葱のひげ根がこんな感じだった。本数が少ないぶん、余計に寂寞の感が抱かれる。


 なんというかゲームでも見たことがあった。

 玉葱頭に、顎から髭が数本生えた気持ち悪い敵がいたはずだ。


 コズミックホラーとかに出てくる奴だった。

 アコニトの尻がコズミックホラーである。SAN値が下がりそうだ。


「なぜだぁああ! なぜこんなことになっておるんだあああ! 儂の! 儂の自慢の尻尾がぁ! ああああぁぁぁ!」


 アコニトは全力で泣いていた。

 寂しげな尾を大事に抱きかかえて、床に崩れ落ちる。

 彼女が尻尾を大切にしていることは木村も知っている。ちゃんと毛繕いもしていた。

 笑ってはいけない場面だろうが、木村は笑いが抑えられそうにない。

 ごまかすように隣を見ると、ウィルの顔は固まっている。


「おねえちゃん、元気出して! ほらこれ!」


 テイが彼女の力作の帽子をアコニトにかぶせる。

 サイズも小さく、耳もあるのでうまくはまらないが、彼女の耳が帽子で隠れた。

 ふと――帽子の色と、彼女の毛の色がよく似ていることに木村は気づいてしまった。


「あの……、テイ。もしかしてなんだけど、その帽子って」

「うん! おねえちゃんの毛から編んだんだよ。おじさんも刈るのを手伝ってもらった! ね!」

「量が多くて大変だったな」

「だね! 大変だったけど楽しかったよ!」

「ああ。また刈ろう」

「うん!」


 テイとおっさんはにこやかだ。

 邪気などない。


 なんというか、これまでで一番ひどい仕打ちじゃなかろうか。

 彼女の大事にしている尻尾を刈り、帽子にしたあげく、本人にかぶせる。しかもサイズがあってないし、耳の穴もない。


「こ、このガキぃ! なんと、なんということをしてくれたんだああああ! あああああぁぁっ、あ――」


 アコニトがテイに襲いかかるが、おっさんに一撃で意識を飛ばされた。

 意識が飛ばされている間、カクレガは村につき、それぞれが金策に走った。


 アコニトの尻尾から出来た帽子も無事に売れたのだ。

 彼女の夜ご飯分にも満たない金額で安く買いたたかれてしまったが……。


 ペイラーフはアコニトの尾と、彼女のひどく落ち込む様を見て、タバコの葉を園に残してくれた。


「大きく、大きく育つんだぞぉ……」


 残されたタバコの芽の前で、毛のない尾を抱えたアコニトが静かに佇んでいる。


 彼女に声をかけられるものは誰もいなかった。


 弱い風で芽が揺れた。尾も揺れる。


 だが――、


 揺れる毛はもうない。

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