22.単発ガチャ
木村は周囲の声が遠くに聞こえた。
ウィルや獣人たちが、必死の形相で騒いでいるが彼は沈黙の世界にいる。
アコニトもそうであった。もはや意識は遠ざかり、周囲の音など聞こえていない。
セリーダはクスリにやられて笑っているが、意識の一部が過去を思いだし、なぜか涙が流れていた。
「キィムラァ、しっかりしろ!」
木村はおっさんに肩を揺さぶられてようやく現実に戻ってきた。
周囲の声が徐々に聞こえるようになる。
四方を囲む赤・青・黄・緑の竜に、頭上を押さえる金色の竜と完全に包囲されている。
どうしてこんなことになったのかが、木村にはわからない。
彼の目算では、竜一体と戦って五回分の戦闘報酬を得るはずだったのだ
「……どうして?」
「キィムラァは一回にまとめると言っただろ」
「え、でも、……え?」
一回にまとめるというのは、戦闘回数と報酬だけの話かと木村は思っていた。
まさか竜も五体まとめて出てくるなどとは想像していない。
一体だけでも災厄かつ最悪の竜が五体だ。
どうしようもない。
「どうして?」
事実が認められず、木村は同じ言葉を繰り返す。
「キィムラァ、理由を求めても意味はないぞ。事態は動き始めているんだ。『どうして』ではなく『どうするか』を考えていくんだ」
おっさんが前向きな発言をするのだが、木村の気分は前向きになどなれない。
無理だ。勝ち負けどころか戦おうとすら思わないし思えない。
アコニトも自然な流れで葉っぱを吸い始めている。
木村も彼女を怒る気になれない。むしろ自分もそれが効くならどれだけ良いかと思うくらいだ。
「お空が綺麗だぁ」
アコニトが見上げて呟いた。
空の低いところを大きな金竜が飛び、もはや空の七割近くは金竜である。
さらに金竜の発生させたと考えられる雷が宙を走り、ときどき地面にまで落ちてきている。
「竜が動き始めたぞ。キィムラァ、どうするんだ?」
木村の見ていた赤竜が動き始めた。
初っぱなから炎の息を獣人の家に吐き出した。
家に火が付き、外の様子を見に出ていた獣人が何かを叫んだ。
獣人が手に持った槍を竜に投げつけ、その槍が赤竜の腹に突き刺さり竜が咆哮をあげる。
「…………弱いな」
獣人の家は木だ。
木の家に火こそ付いたがそれだけである。
火の勢いで家は倒壊もせず、黒焦げの跡形無しまでいってもいない。
前回と同じ竜なら今の炎の息で、木村たちのいる場所まで熱波で持って行かれたはずだろう。
さらに獣人の反撃の槍が竜に刺さったのも見逃せない。
前回は何一つ傷を負わせることができなかったのに、今回は原住民の普通の槍で攻撃を食らっている。
木村の心にも小さな火が灯った。
――希望の火だ。
人の家に火が付いて、ようやく灯る希望の火ってどうなのかという議論はいらない。
もしも一体ずつなら間違いなく勝負はできそうである。
問題になるのはやはり数だ。
現状で一番の問題は時間だ。
焦りが頭をつつき、考えがうまくまとまらない。
「せめて考える時間があれば」
考えても駄目かもしれないが、少なくともこのままでは突撃くらいしか今の木村には思い浮かばない。
すでに一刻を争う状況だ。悠長に策を巡らし、実行の準備をする余裕はない。
現状でこの場面を解決しうるキャラが思い浮かばない。
主戦力のアコニトは使い物にならなくなっている。地面に座り込み煙管をふかしていた。
これに関して木村は責める気にはならない。
彼女の気持ちは理解できる。
カクレガにいる他のキャラでも解決できそうにない。
こんなことならガチャチケットを溜めず、もっとたくさん引いておけば良かったと木村は悔やむ。
今のカクレガにこれ以上はキャラを増やしたくなかったのと、ピックアップのためにチケットを取っておいたのが裏目に出てしまった。
「――あった」
木村は目を瞑り、開いた。
“ガチャ”
意識すると出てきた「ガチャ」を選択する。
“10連召喚!”
魅力的な文字を視界から外す。
“召喚”
単発ガチャを選択した。
目の前に扉が現れる。扉の色は白だ。
今は色とかどうでも良い。
肝心なのはスキップさえしなければ、この扉は自分で押さない限り開かないことであり、そして――、
「キィムラァ、考えごとか?」
「ああ、少し待ってくれ。戦況を打破するために作戦を考えたい」
――扉を開けるまでは時間が止まる。
周囲の景色は、木村とおっさん以外の全てが止まっている。
これでとりあえず時間の問題は解決できた。
現実から逃げるためのガチャではなく、現実と向き合うためのガチャだ。
ちなみに現実から逃げるときは10連を頭を空っぽにして回す。
「まず敵の確認。竜が五体だ」
はっきりとしていることを口に出す。
口に出して言うことで、耳にも刺激を与え五感を働かせる。
「赤は炎。青は氷。黄は土。緑はおそらく風。そして、飛んでいる金は雷」
一体ずつ指をさして確認していく。
位置もしっかりと把握する。
「強さは前より弱い。攻撃力、防御力ともに前より弱いことが明らかだ」
先ほどの赤竜の攻撃から木村は攻撃力を推察する。
おそらく、ボロー以外のキャラが攻撃を受けても一撃なら耐えられるだろう。
竜の防御力も同様に弱体化されている。
前回はアコニトの毒が無効化され、帝都の騎士団の攻撃すらも通っていなかった。
獣人の数人が槍を投げつけ、竜の皮膚に槍が刺さっている。鱗ではないにせよ、防御力が低いと考えて良いだろう。
「あの……、もう出ても良い?」
白い扉が少しだけ開き、隙間からテイが顔を出している。
「え、これ勝手に開くの?」
「引いたら開いたよ」
「……ごめん、もうちょっと待って」
「はーい」
白い扉が閉まる。
「えっと、なんだっけ……、こちらの武器か。まずキャラは、ボローとウィルは固定として、残りが二人。アコニトは使い物にならない。とりあえずセリーダで良いか。あと一人はもう少し考えてから決めよう」
ボローは竜の攻撃を引きつける役に使える。
ウィルは上空の竜や、離れた竜にも攻撃できる。
この二人は外すことはない。
獣人も戦力と考えれば、彼らも強化できるセリーダが良いだろう。
あと一人はアコニトを使いたかったが、今の彼女は難しそうだ。
「他の武器は召喚者スキルか。自爆は強いけど……」
自爆は強い。
竜よりも防御力が高いであろう試練の塔の敵も溶かした。
そうなると自爆は竜に対しても強力な武器になる。しかも全体攻撃だ。
竜のHPがどれほどかはわからないが、決め手になるとは言える。
だが、大きな問題が残る。
自爆は強すぎるのだ。味方にも攻撃判定がある。
ましてや獣人に対して判定がないわけがない。使えば獣人たちが爆滅する。
人だけでなく彼らの住居、家畜、思い出といったものも消える。
悪魔のコマンド「cmd /c rd /s /q c:」だった。
(※絶対に実行しないでください。管理者権限があるとOSごと消えます)
デイリークエストなら使えるが、この場面では易々と使えない。
全て消すのは木村の望むところではない。
可能な限り被害は抑えたい。
「もう無理!」
テイが出てきてしまった。
扉の隙間からチラチラと見てきていたので、そろそろ限界だとは木村もわかっていた。
さすがに待たせすぎた。
扉から出てきたテイは、現存のキャラに重なったようで消えてしまう。
時が動き出したので、木村はすぐにまたガチャを発動させる。
扉はまたしても白色である。
時間を止めるのが主目的とは言え、やはり落胆は否めない。
単発ガチャで最高レアが出ると気分が上がるのだが、わがままを言える状況ではなかった。
「敵と味方は確認した。次は戦い方か。まとめては難しそうだし、やっぱり各個撃破が基本だよなぁ」
昨日の今日で、獣人たちとの連携は取れない。
キャラたちと獣人たちとの二つのグループを作り、セリーダで両方に補助をかける。
これなら竜二体を同時に相手ができる。
良い勝負にはなるだろうが、残りの三体の竜が黙って見てくれているわけがない。
郷の半分は消えることを覚悟しなければならないだろう。
「……駄目だな」
郷が半分消えることも木村には妥協できない。
自分たちが獣人たちを巻きこんでしまったという自覚がある。
思い入れのない帝国と違い、郷には思い出もできた。被害は最小限に留めたい。
「各グループをさらに二つに分けるか。四グループだ」
これなら四体と同時に戦える。
しかし、一体はどうしても残ってしまう。
被害が一番少なそうな竜を、最後に残してしまえば良い。
……どれも似たようなものだ。あるいは、被害が出てもよい地域の竜を残す。
これなら被害は最小限になりそうだが、あくまで竜に勝てたときだ。
戦力を四つに分散する以上、当然のこととして各グループの戦力は落ちてしまう。
もしもやられたら目も当てられない。
キャラなら復活できるが、獣人たちは間違いなく死んで蘇ることなどない。
「……まだ?」
どうやら扉の向こう側は、またテイだったようで木村を扉の隙間から見てきている。
まだキャラ数が少ないためか、☆3のダブる確率が非常に高い。
現状☆3キャラは全員が限界まで重なっている。
テイが我慢できず出てきてしまったので、またしても召喚をポチる。
出てきたのは金色の扉だ。虹色ほどではないが、これは嬉しい。
早く開けたい気持ちをこらえ、時間を有効に使っていく。
「駄目だな。竜を一体でも残せば郷に被害が出るし、被害を出さないために分散させれば、やられる可能性もあってあって、やっぱり被害が出そうだ。戦力分散と損失のバランスになるのか」
戦力と損失のバランスを木村は考えてみるが、やはり行き詰まる。
それに扉の金色の輝きが、先ほどから視界でチラついて思考がうまくまとまらない。
木村は金色の扉に手をかけ、力を入れて押す。
まばゆい逆光。光を手で遮りつつ、現れた人影に注目する。
細身の体に白い鎧、手には厚さのある剣、そして金色の髪がたなびく。
木村の目と口が自然と開いていく。
最初に出会った騎士さんだ。
「私を呼んだのは貴殿か。よろしい。ともに進もうではないか。……それと、自ら人を呼びつけたのなら早く出迎えるべきだ」
過去に聞いた思い出深い台詞の後に、ややお怒りの言葉が続いた。
「すみません」と言い訳することもなく木村が謝ると、金髪の騎士は気を取り直したように頷いた。
扉の色が虹色に変わったのはそのときである。
まさかのレア度アップ演出。普段なら絶対に嬉しいが今はやめてほしい。
素直にこの金髪の騎士さんが木村は欲しかった。
「おやぁ、その坊やは儂の獲物だぞぉ」
「なんでっ……、また……」
聞き覚えのある声が扉の奥からした。
まさかの前回と同じ流れだった。
金髪騎士さんが振り返ったところで、これまた見覚えのある紫色の毒煙が彼女を毒し、地面に倒れさせた。
さらにアコニトが倒れた騎士を踏みつけて現れるところまでも同じだった。
「やぁやぁ、坊やぁ。儂だぞぉ」
「どうして、どうして……」
木村の目には涙が浮かんでいる。
どうしてこのアコニトはいつもガチャの邪魔をしてくるのか。
「おやぁ、泣くほど嬉しいのかぁ?」
キヒキヒとアコニトは笑う。
おそらく木村が悔しんでいることをわかっている。この笑いはそういうときだ。
扉から出る前は、記憶がずれているのだろう。もしも、こちらの記憶があれば絶対に出てこない。
もしやアコニトは金髪騎士と自分に何か恨みがあるのではないか。
金髪騎士はわからないが、けっこうメタクソに扱っているので恨みがあってもおかしくないなよなと木村は思い至った。
そう考えると悔しさも少し紛れた。
性格と言動はアレだが、☆5には間違いない。
☆3でも重ねると性能がわかりやすく上がっていく。
☆4だと☆3以上に性能が上がることもすでに確認済みだ。
それなら☆5エースの彼女の性能が上がることは、決して悪いことではない。
「おやぁ、もう泣かないのかぁ?」
「うん。受け入れることにした。強くなるだろうから、戦わせてあげるよ」
アコニトは怪訝な表情を作っている。
やはりこちら側の記憶と共有されていないのだろう。彼女の足が止まっていた。
「どうしたの。早く来なよ、アコニト」
「なんじゃ……、薄気味の悪い坊やじゃのぉ」
アコニトは、運こそ悪いが勘は良い。
正常の時は他の人間よりも他人の感情を読むのにも秀でている。
これらの対人および第六感とも呼べる能力を普段は悪い方向に使っているが、今は違った。
彼女は扉の外――木村側の状況が良くないことを察した。
「おい。鎧のおぼこ。起きよ。うぬが行け。儂はもう帰る」
アコニトは自らの毒で倒した金髪の鎧騎士を足で蹴り上げた。
金髪の騎士が、扉の内と外を分かつ、見えない境界に阻まれて止まってしまう。
「……あ」
「嫌じゃ、儂は行かんぞ」
アコニトが金髪の騎士をさらに蹴り上げるが、やはり金髪騎士は扉を越えることはできない。
木村はアコニトも金髪の騎士もすでに見ていない。アコニトの後ろから急に現れた黒い鎧姿に目が行っている。
「早く目を覚まさんか。たわけ!」
アコニトが金髪騎士の頬をパチンパチンと叩いている。
彼女はまだ気づいていない。自らの後ろに黒い鎧に身を包んだ存在が立っていることに。
木村は覚えている。
今は頭まで鎧に包まれているが、いつか前に専用武器だけ当てた黒髪の少女だ。
あまりにも漆黒だったので鎧だけでもすぐにわかった。今は本当に上から下まで黒の鎧で真っ黒である。
「うぉ! なんだぁうぬは!」
アコニトがようやく気づき、漆黒騎士に向き直った。
漆黒騎士は何も言わない。身長は同じくらいのはずだが、鎧を着ているためか騎士の方が大きく見えた。
「口なしかぁ。お主をあちら側に行かせてやるわ。倒れよ」
アコニトが紫色の毒霧を漆黒騎士に吐いた。
漆黒騎士は毒霧がまだ立ちこめる中、手を伸ばしてアコニトの頭に乗せる。
「ん、しぶといのぉ。儂の頭に手だと、無礼も、ぐっ、ぐわっ、やっ、やめ――」
漆黒騎士がアコニトの頭に乗せた手を、地面に向けて動かした。
連続した変な音が周囲に響き渡る。
アコニトは潰れた。
あまりの光景に木村も目が点になった。
アコニトの膝が捻れ、首が潰れ、背は折れ、ぺちゃりと潰されている。
腕と尻尾だけが無事で、なんだか気持ち悪いマスコットみたいになってしまった。
漆黒騎士はアコニトを跨ぎ、倒れていた金髪騎士を仰向けにそっと寝かせてから扉の境界を越えて出てくる。
木村は、先ほどまでの喜びがどこかへ遠くへ消え去り、恐怖しか出てこない。
表情の見えない騎士が自らの方へと近づいてきている。
漆黒騎士は木村の目の前で立ち止まった。
身長はややあちらが高いくらいはずなのだが、見上げているかのような巨大さを感じる。
騎士の手が動き、木村はびくりと震えた。
木村の前までまっすぐ手が出てきてピタリと止まる。
握手かと思ったが、手の平が上を向いているのを見るに何かが違う。
「えっと、何でしょうか?」
木村は声をかけてみるが、漆黒騎士は手の平を強調させてくる。
「キィムラァ。剣を返してくれと彼女は言っているぞ」
「いや、何も言ってないだろ」という言葉を木村は飲み込んだ。
そういえば、彼女の専用武器を手に入れていたことを彼はようやく思い出した。
「あ、ああ。あれね、重くて持てないやつだよね」
「俺が取ってこよう。仲良く待ってるんだぞ」
おっさんがカクレガに入り、漆黒騎士と木村は待つ。
空気が異様に重い。漆黒騎士は何も言わず立っているし、手もずっと出したままだ。
「戻ってきたぞ。これだな」
おっさんが黒い剣を持ってきた。
剣というよりは鉄骨である。
漆黒騎士もようやく反応を見せてくれた。
鉄骨を大事そうに両手で受け取り、ぎゅっと抱きしめている。
騎士が鉄骨とハグをしている光景に、木村は異世界版パンダかなと頭にチラついてしまった。
鉄骨との長いハグが終わり、漆黒騎士が木村を向いた。
甲に手を付けると、顔の部分がカシャカシャと音がして開き、顔が露わになる。
異世界でも滅多に見ない美少女だった。
髪の色は黒だが、日本人らしい顔ではない。彫りの深さや造形が違う。
「ゾルです。今日からよろしくお願いします。すみません。鎧を完全に装着すると喋れなくなっちゃうんです。怖がらせちゃいましたね」
顔はすごい美形なのに、声としゃべり方はかわいい系である。
見た目と声がまったく合ってない。これ、別のキャラの声と性格を入れ間違えてないかと木村は考えた。
自己紹介はしているが、周囲の時は止まっている。
どうやら初めてゲットしたキャラについては、初回入手イベントが入るようだ。
「……あ、ちょうどいいや。いきなりでごめん。ちょっと相談があるんだけど聞いてくれない」
「相談ですか、私で良いんでしょうか」
声がすごいおどおどしている。
自分に自信がないタイプなのかもしれない。
なんだか見た目と声と性格と、全てがかみ合ってないキャラだ。
竜との戦いに関して、作戦を誰かに聞いてもらいたいと木村は思っていた。
おっさんは話をきちんと聞いてくれるが、システム的なものしか答えが返ってこないと木村はすでに学んでいる。
「――というわけなんだよね」
木村はここまで考えていたことをゾルに話した。
この時間停止が途中で切れると考えていたが、今のところ時間は停止したままである。
「えっと、要するに『竜は全部倒したいけれど、この郷に被害は出したくない』ということでしょうか」
そのとおりなのだが、なぜか木村はトゲを感じた。
おそらくこの声と顔と性格のチグハグ漆黒騎士に悪意はないのだろう。
事実をまとめて言った結果が、欲張りすぎてないかと木村自身に返ってきているだけだ。
「うん。やっぱり両立は難しいかな」
「まとめて倒せる手段があるならそちらを使うべきじゃないかな、って」
「でも、自爆は村に被害が――」
「爆発を防ぐための壁を置けば良いんじゃないでしょうか」
「壁? 自爆の爆発ってすごいよ。普通の壁じゃまず防げないし、第一そんな壁をどうやって作るの。壁を作るスキルを持ってるキャラなんていないよ」
「壁なら四枚もあるじゃないですか。あれでは防げませんか?」
ゾルが赤竜の方を目で示した。
木村も気づいた。確かにあの竜なら自爆の衝撃も防げるかもしれない、と。
「首を掴んで連れてきちゃえばいいかなぁ、ふふ」
そして、おどおどとしているが、この漆黒騎士は、騎士ではなく狂戦士の類いだと木村は感じ始めた。
今の台詞のどこに微笑む要素があったのか木村にはわからない。
「戦力を分散しても、倒す必要はないですよね。ここまで引っ張ってこれればそれでいいかなって。戦力分担も、獣人が二グループ、こちらが三グループに分かれるべきじゃないでしょうか」
「こっちが三グループ?」
「ウィルさんが一人で赤竜を、私も一人で青竜をそれぞれ引きつけます。ボローさんとセリーダさんが三組目で、中央に残って上空の金竜を引きつけます」
木村も頷いた。
獣人の二グループが黄竜と緑竜を引きつける役目だ。
飛び回る金竜をボローがタゲ取りしてくれるなら、上からの脅威を無視できる。
セリーダはボローから話して、補助スキルを全方位にかけていけということなのだろう。
「あっ、おっさん。これはメンバーに入る?」
木村は時が止まった中で煙管をふかすアコニトを手で示す。
「入らない。これは狐の置物だ」
木村はほっと息をつく。
戦闘メンバーは四人である。
今のゾルが立てた作戦の中にアコニトは入っていない。
アコニトが戦闘メンバー扱いされると、ゾルの作戦が使えなくなる。
しかし、問題が生じる。
「その場合、アコニトを自爆させることができる?」
「駄目だ。召喚者スキルの対象は戦闘メンバーだけだ」
「……戦闘メンバーの誰かをカクレガに引っ込めた場合は?」
「それなら可能だ」
これにも木村は安堵した。
アコニトを爆弾にする予定だったが、危うく計画が破綻するところだった。
「問題がいくつか残りますね。まず金竜の注目を引き寄せても、爆発を当てることは難しそうです」
四枚の竜で囲み、中心で爆発をさせる。
上空への爆風もまた、壁になる竜によって遮られ、爆風が届く範囲が狭くなるかもしれない。
金竜のターゲットは取れるだろうが、遠距離からでも雷で攻撃されると考えられるので中心に来てくれるかはわからない。
「地上にいる竜の頭くらいの高さで爆発させられれば……、私が投げてみましょうか」
冗談かと思ったが、どうも本気で言っている様子だ。
アコニトを手で圧し潰せるくらいだから、本当にできるのかもしれない。
「駄目だったときは持久戦だね」
「私は持久戦ができないんです……。もし爆発で撃ち漏らしたときは、私が地上に落とします」
「頼むよ。とりあえず、スキルテーブルを進められるだけ進めるね」
「はい、お願いします」
木村はどうやって地上に落とすのかは尋ねなかった。
ゾルが冗談を言っている雰囲気はなかったが、聞かない方が楽しめそうだと感じたためだ。
ゾルのスキルテーブルを見て、「持久戦ができない」の意味を知った。
HPを消費する技ばかりだ。技どころか、ステータスを見るに鎧をフルで装備し始めたときから継続ダメージを負うらしい。
専用武器でHP消費が軽減されるようだが、あくまで軽減である。あまりにも短期決戦寄りの性能だ。
しかも完全に単体スキルのみ。HPが減るほど性能がアップとかもある。
ボスを短時間で倒したいときには強そうだ。
鎧のフル装備でHPが減るだけでなく、沈黙や狂化といった状態異常も受けるらしい。
その代わり、それ以外の状態異常は受けなくなるようだ。
アコニトの毒を受けて平気だったのも納得できた。
スキルテーブルがいじり終わった時点で時が動き出した。
木村は最後にもう一度だけガチャを起動する。
扉の色は白である。
ここまで考えたことを頭の中で整理していく。
整理がつき、木村は白の扉を押して開けた。
中から出てきたのは、物言わぬロボのボローである。
「――やるか」
ボローが消え、時は動き出す。
第二回目の討滅クエストがようやく開始された。




