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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅱ章.レベル11~20
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19.拠点の拡張

 試練の塔からカクレガに戻り、次の目的地をどうするかの話になった。


 ウィルがグランツ神聖国の状況を知りたいと話し、木村も同意見であったのでグランツ神聖国を目指して移動することにした。


 ただ、地図で見ても遠いので、軽く一ヶ月はかかりそうである。

 途中で別のイベントが挟まれば、さらに遅くなるだろうし、別の場所にカクレガが向かうかもしれない。

 デイリーをこなしつつ、途中の街や都市で情報を集めつつ気長に向かうことになった。


「ルルイエ教授が心配だね」

「ええ、本当に」


 木村が今さらながらに、自分を逃がしてくれた教授を心配した。


「無事に生き延びてくれれば良いんだけど」


 ウィルはぽかんとして木村を見てくる。

 また、この顔だと木村は思った。


「何かおかしい?」

「教授が無事かの心配なら無用ですよ」

「どうして? あの化物にやられてるかもしれないでしょ」

「教授が? あの穴に?」


 ウィルは笑い声をあげた。

 木村は何がおかしいのかわからない。


「教授はあの穴にはやられないでしょう」

「なぜ?」

「教授は、あの穴が周囲の魔力を吸わないと生きていられないと話していました。現に魔力を遮る結界で、長期にわたって活動を停止させられていましたよね。僕でもわかるくらいに弱点が明確です」


 魔力だの、消滅がどうのこうのと話していた。

 木村には理解できていなかったが、それがなぜ負けないことになるのかわからない。


「教授は、魔力を遮る結界が作れます。魔力を操作する関係は教授の得意分野ですから。倒そうと思えば、おそらくあっという間に片付けていたはずなんです」

「そうなの? どうして倒さなかったんだろう」

「興味を持たれていました。試したいことがあるとも話されていましたので、いろいろと実験をするつもりなんでしょう」


 木村はますますわからない。

 倒せるのに倒さず、自分たちを逃がしたというのはどういうことか。


「グランツ神聖国の南東には、五年ほど前まで魔法の実験場が並んでいたんです。しかし、教授の新しく考えられた実験魔法で全て塗りつぶされました。今は立ち入りすらできません。実験されることがまずいんです」


 木村はようやく話が見えてきた。

 たびたびウィルがルルイエを気にかけていたが、あれはルルイエがやられることを気にかけていたのではなく、ルルイエが周囲に害を及ぼさないか気にかけていたのだと。


「じゃあ、これって」


 木村がグランツ神聖国の×を示す。

 これはおっさんが竜と呼ぶ化物がやったと考えていた。


「……教授かもしれません。あなたを転移させたのも、魔法の実験に巻き込まないための可能性が高いです」


 ウィルがすごく申し訳なさそうに口にした。

 もちろん木村ではなく、実験の近くにいた人たちに向かってだろう。


「この扉の×も? 竜が倒されると扉はどうなるの?」

「基本的には機能が停止するな」


 おっさんは当然のように話す。

 そもそも扉にどんな機能があるのかすら木村は知らない。


「えっ、教授があの化物を倒して、国もこうした?」

「……僕としてはあの穴が神聖国を壊滅させて、その後で教授が穴を倒したと考えたいところなんですが――とにかく何が起きたのかを知りたいんです。家族や友人もいますから」


 喋っているうちにどんどんウィルのトーンが下がっていく。

 彼も被害者の一人に違いない。せめて学園の人が無事であることを木村は祈った。




 カクレガは部屋こそ増えたが、まだまだ一人が一部屋とはいかず問題が起こっていた。


「どうして儂が部屋に入っちゃいかんのだぁ!」

「入るだけなら良いですよ。部屋の中でタバコを吸わないでって言ってるんです」


 煙管をくわえ、部屋の真ん中で声を荒げるのは、カクレガ問題の九割を担うアコニトである。

 室内での喫煙を注意した☆4のプーシャンが彼女と向き合っていた。


 どう見てもアコニトが悪い。

 そもそもカクレガ内は全面禁煙である。


 ただ危ない葉っぱは論外だが、香りを楽しむだけのものもあり、今はそれを吸っているらしい。

 木村が安全だと判断したのは周囲に影響がなく、アコニト本人もいたってまともだからだ。

 まともでコレだから良くないというのもある。ヤニカスの悪い見本である。


「外で吸ってください」

「なんだなんだぁ! なぜだぁ。なぜ儂ばっかりこんな目にあうんだぁ!」


 周囲の目が厳しくなり、おっさんもアコニトに歩を進めたため逃げるようにして彼女は部屋から出て行った。

 木村も彼女を自爆させたので、やや申し訳なさを感じている。

 でも、この部屋での喫煙は認めない。


 よくない、と木村は思っている。

 作ったときはその場のノリでゴミ捨て場をアコニトの居室にしたが、彼女の臭いや、隠れて吸っての失火問題も出てきた。

 ゴミと一緒にアコニトもカクレガの外に排出され、そのたびにカクレガの移動が止まるのも問題だ。


 言い争いは日に日に増えてきて、木村の気を重くしていたのである。

 みんな仲良くというのが理想だが、そこまでは求めていない。

 せめてあからさまな喧嘩は避けて欲しい。


「そういえばキィムラァ。イベントをクリアしたことでカクレガの拡張が可能になったぞ」


 故に、おっさんのこの言葉は渡りに船であった。

 木村はさっそくおっさんと一緒に設備変更のマシン前へ移動する。


 モニターを呼び出し、部屋の拡張ができることを確認した。


「拡張にあたり、リストを仲間に回してある。書いてもらった要望を言っていくぞ」


 おっさんがタンクトップの中からメモを取り出した。

 なんでそこに入れたんだと木村は突っ込みたかったが、笑ってごまかされるなと感じスルーする。


「料理ができる厨房部屋を作って欲しいとのことだ」

「リン・リーだね」


 ☆3のカクレガ専用スキルで料理ができるキャラだ。

 厨房と食堂は木村も必要だと思っていた。アイテムによる異世界版缶詰食は飽き飽きだ。

 さっそくカクレガ用資材を投入し、厨房と食堂を併設するように作っていく。


「他には、地上に近い部屋で作物を育てたいという意見もあるな」

「ゴードンと、……いや、ペイラーフかな」

「両方だな。テイも手伝うと手伝うと言っているぞ」


 こちらも必要性は理解できる。

 地下ではあるが、どうやってか採光もできるので、雨水さえ取り込めれば作物も育てられるだろう。

 食料の入手が難しくなったときには役に立つだろう。

 花に関して、門外漢なのでなんとも言えないが、まとめてできるならそれで良いという認識だ。


「部屋の配置変換は必要だけど作ろう」


 既存の部屋の移動と、作物部屋の配置を済ませ、他にも小さな家具の要望を聞いていく。

 音楽部屋や賭博場といった娯楽部屋は、まだポイントが足りずにできなかったが、小物については可能な限り配置していくようにする。


「……けっこう増やしたな。もう終わり?」


 おっさんの言葉が途切れたので、これで終了かを木村は尋ねた。


「あと一つある。いや、二つだな。まず一つ。ボローに潤滑液を与えてやってくれ。一番良いやつを頼む。製作室に配置すれば良い」

「それくらいならもちろん」


 キィムラァは快諾する。おっさんも「うむ」と一言で頷いた。

 ボローは主力メンバーだ。いつも文句一つ言わず前線で攻撃を引き受けてくれている。

 潤滑液程度で彼の働きをねぎらえるなら、木村としてもそれに越したことはない。


「あと一つはキィムラァ。お前に任せよう。俺は要らないと思っているがな」


 おっさんが木村にメモを渡し、部屋の出口へ向かう。


「俺は先に行って仲間たちを新しい部屋に案内してくるぞ」


 木村はメモを見ていく。仲間の書いた文字がそれぞれ違う。

 すぐには読めなかったが、意識を集中すれば日本語の訳がうっすらと現れる。


 誰がどんな字を書くのかがわかってなかなかおもしろい。

 すごい達筆で“香を焚く部屋”とあり、書いたであろう本人とのギャップに困惑する。

 他の仲間たちが横線でその文字を潰していた。おっさんも読む必要がないと判断して飛ばしていたのだろう。



 上から順に見ていき、最後の一文が目にとまった。

 外宇宙の文明が使うような、カクカクの記号が書かれている。

 誰が書いたのかもわかる。いかにもロボット的な字だ。ボローに違いない。


 おっさんが最後に言った「油が欲しい」がこれだろうと木村は考えた。

 そのため、書いてある文字の翻訳に、わずかな時間だけ意識を止めてしまう。


 木村は「ふぅ」と一息吐いた。


 息を吐き終え、モニターを静かに操作していく。



 木村がゴミ捨て場に行くと、アコニトがゴミの山に埋もれている。

 ゴミの臭いと、彼女の焚く比較的マイルドな香が混ざり、もはや地獄だった。

 臭いでは臭いを消すことはできないを示す最悪な手本だ。


「アコニト」

「あぁ? 坊やか。ここはうぬが来るところではないぞぉ。儂の城だぁ、立ち去れぇ!」


 どうも自爆をさせたのが悪かったのか、好感度が下がっていると木村は感じていた。

 信頼度ゲージではさほども変わっていないので、ただアコニトがやさぐれているだけである。


「喫煙室を作ったからそっちに移動して。この階層の一番奥ね。今日からそこがアコニトの管理部屋になるから」


 アコニトが耳をピンと立てた。

 ゴミの山からヒタヒタと化物のように出てくる。


「おぉおぉ、坊やはまっこと良い子だなぁ。ほぅれ、スリスリしてやろう」


 間違いなく好感度がワンランクは上がったと木村は感じた。

 ただ、ゴミと香の臭いをブレンドし、ノミ・ダニ・シラミの混じった体ですり寄ってくるのはやめて欲しい。


「先に体を洗ってから行ってよ!」

「わかっておる。わかっておるよ。どうじゃ坊や、一緒に水浴びをするか?」


 木村はその言葉にドキリとした。

 アコニトが目ざとくも木村の緊張に気づく。


「儂はかまわんぞぉ。ん~?」


 アコニトがまたしても体を近寄らせてくる。

 やたら胸元を強調し、木村はそこから目が離せない。


「ふひひぃ、体は素直なようだなぁ」


 アコニトの言葉よりも、寄せられた谷間に意識が行ってしまう。男子高校生のサガだ。

 魅惑の隙間から、黒い生き物がカサカサッと出てきた。


「おっと、不埒な奴だぁ。深淵たる儂に這い寄りおって」


 アコニトがゴキ○リを手で掴んでゴミ山に捨てる。

 木村は一気に冷静さを取り戻す。下半身も急転直下で萎えた。


「綺麗にしてから行ってね。喫煙室でも危ない葉っぱは駄目だよ」

「無論だぁ。おい、坊やぁ。――礼を言うぞ」


 アコニトがようやく居城たるゴミ捨て場から出て行った。

 そして、ここは廃城になる。


「お礼なら、ボローに言うべきだよ」


 滅多にないアコニトの礼に、木村は言葉を返すのが遅れてしまった。すでに彼女には聞こえていない。

 アコニトが出て行き、木村は手に握っていたメモを捨てようとする。


“アコニトに喫煙室を作ってあげて欲しい”


 メモの最後の行には、機械的な文字でそう書かれていた。


 木村は、メモを捨てられなかった。


 皺を伸ばし、四つ折りにしてポケットにしまう。



 遠くで喧噪の声が聞こえた。


 廊下を歩いていたアコニトと他の仲間たちが出会い、問題を起こしたようだ。


 木村もゴミ捨て場から出て彼女たちのところへ向かう。


 彼の気持ちは先ほどよりも軽やかだった。

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