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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅷ章.レベル71~80
127/138

127.イベント「Happy unbirthday eve」4

 五日目が間もなく開始される。


 けっきょくリッチは一昼夜かけて貧困エリアに墓地を作っていたようだ。ブラック過ぎる。

 北エリアの黒ゲージが20%を超えており、貧困エリアに迫ろうとしていた。

 アンデッドの数はゲージの進行に併せて増えている。


「ひっさびさに徹夜しましたねぇ!」


 ウィルもブリッジに戻っているが、目がキマっていた。テンションもおかしい。

 リッチと一緒に墓石と縁石を作っていたようで無精髭も見えている。


「勝てそうなの?」

「無理ですよ。神気量の増加割合で概算したとして、帝都全てを墓地にしても、とうてい青竜には及びません」

「そうなんだ。でも、量で足りない分は使い方でカバーすれば何とかなるんじゃ」

「まず無理です。水銀の軍団と同じことをするにはやはり相応の神気量が必要になります。これは初めからわかっていたことです」


 どうやっても無理らしい。

 木村は最後の一言が気になった。


「最初からわかってたの?」

「はい。夜を徹して勝てるほどあの竜巻は甘くありません。マスティーヌ教授の試験じゃないんですから」

「……じゃあなんで墓石作りを手伝ったの?」


 疑問である。

 最初から無駄だとわかっていてなぜリッチを手伝ったのか。しかも徹夜で。


「リッチ氏の神聖術に興味があったので近くで見たかったのが一つです。それに死霊術は滅多にお目にかかれませんからね。実際にアンデッドが生まれ出るところを、目のあたりにすることができたのは徹夜した以上の価値があると言えます」


 ウィルはとても満足そうな表情である。

 彼の顔とは裏腹にリコリスはわかりやすく嫌そうな顔をしていた。


「すごいんですよ。僕はアンデッドを生み出しているのがリッチ氏によるものだと思っていたのですが、本当に氏の神聖術の痕跡もなくアンデッドが湧き出すんです。しかし、当然として自然に湧き出すことはあり得ません。彼そのものにそういった力が宿っているのだと仮説が立てられます。また、霊体やマミー、スケルトンに指示を出していたようですが……、そうだ、キィムラァもぜひ来てください。彼はアンデッドと会話をしているようなのですが、僕は聞き取ることができませんでした。あなたなら聞き取れるのではないでしょうか。さらにですね。スケルトンやスピリットの個体も生前の――」


 矢継ぎ早に言葉が湧き出てくる。

 完全に徹夜明けのナチュラルハイ状態だ。脳内麻薬がすごそうである。

 木村もゲームで経験がある。この状態は切れた後がつらいのだが、大丈夫なのだろうか。


「おい。あまり入れ込みすぎるんじゃないよ」

「大丈夫です。僕は知りたいだけですから、相手を知ることで対策も立てられるでしょう」

「そう言った奴から取り込まれていって、帰ってこなくなったんだ。もしもあんたが取り込まれたら、わっちが始末するからね」

「はい! その際は是非とも王城の方達に使った神聖術でお願いします。間近で見てみたかったんです!」


 ハイ状態が過ぎる。

 今のリコリスは木村から見ても剣呑な雰囲気だった。

 その彼女に対して満面の笑みで言い返せる状態が、今のウィルの実態を表している。


「あんたは、休んだ方がいいね」

「いえ、今は眠れそうにありません。次から次に知りたいことが浮かんできて、それに対する仮説と実証法が頭を絶え間なく巡っているんです。東の水銀にしても、発動者を近くで見ることはできないでしょうか。どうやってあの軍団を作っているのか大変気になります。どう見ても神聖術の範疇を超えていますよ。地下に乗り込むわけにはいきませんか?」

「すみません。ちょっとペイラーフを連れてきます」

「そうしな。こんな危なっかしいのは近くにおいておけないよ」


 とうとう木村は医者を呼ぶことにした。

 ウィルのこれはもう病気だ。強制的な休養が必要だろう。


「キィムラァ、待ってください! 僕は今ここで止まるわけにはいきません! 神聖術の最奥に近づけている気がします。今を逃せば僕はもう辿りつけないんです!」

「もういい。良い子は寝る時間だよ」


 リコリスがウィルの目の前に指を立てた。

 指先に小さな火がポゥと灯り、火はゆらゆらと揺れる。

 その火を見つめていたウィルの瞼がゆっくりと閉じて、体も倒れた。

 リコリスがウィルの体を器用に支えた。


「……そんなこともできたんですね」

「この若造は一つだけ良いことを言ってた。『相手のことを知る』のは大切だとね。わっちも以前、奴らの技を知ろうとしてね。そのときに覚えた技だよ」


 あまり嬉しそうな表情ではない。

 敵の催眠術を研究して、自らも使えるようになったということだ。

 木村はリコリスは派手な攻撃技しか使えないと考えていたが、どうやらそういうわけでもなかったようである。


「鳥頭、こいつを医局まで連れてってやんな」

「はーい」


 トリキルティスが嬉しそうにウィルを担いで出て行った。


 きっと彼女は連れていったきりもう戻ってこない。サボる口実を手に入れたのだ。




 五日目は水銀軍団と青竜の突撃で幕を開けた。


 流れは四日目と基本的に変わらない。

 場所が南エリアだったということくらいである。

 青竜がまたしても竜巻で水銀軍団を巻き上げ、上空からのカウンターで死んだ。


 今回は距離をおいて見ているので、木村も昨日いったい青竜がどうやられたのかの解像度が上がった。

 上空で水銀がよせ集まって巨大な槍の形態を取り、そこからスピードを付けて落ちる。

 天罰を形にすればこういう魔法なのかなと感じた程度である。


「シンプルだけど強力に仕上げているね。防ぐのは難しいよ」


 大きさもあり、重さもあり、速さもある。

 対ボス用の攻撃としてはゾルの必殺技と似たようなものだ。

 しかも、槍が刺さったあとに内側からの攻撃が付け加えられている。


 防ぐのは難しいが、当たらなければどうということはない。

 魔法の準備、発動から直撃までの時間と普通に避けるだけの時間はある。

 付け加えるなら、槍は大きいが方向は急激に変更ができないので、ある程度のスペースと速さがあれば避けられる。

 しかし、青竜自らが作り出した竜巻が壁となり、避けるだけの時間とスペースを奪っていた。


「昨日は完全な油断。今日は様子見。明日は何かしら対応をしてくるだろうね」


 正式な戦いであれば昨日の時点で終わりだった。

 今回はゲームが元のため明日になればリセットされる。

 二日連続で同じ手段にやられたのだから、三日目になれば当然対策される。

 なんなら今日からでも対策されたはずだが、青竜の自らの力への慢心からやられたところが大きい。


 水銀の軍団は青竜を倒した後はさっさと引き上げていく。

 フルゴウルは王城との間で何かしらの話があったと考えているが、話ができない限りわかることもない。

 何にせよ、この二日間は帝都で竜巻の被害がほぼないことになる。喜ばしいことだ。


「西エリアに行きましょう」


 帝都エリアの動きも気にはなるが、さほど大きな動きはないと考えられる。

 二日前に挨拶した宇宙生命体と軽く情報を交換しただけで別れてしまっていた。


 今日は西エリアも無事なので、ぜひとも話がしてみたいと木村は考えていたのである。


 久々に穏やかな一日になりそうだった。




 さっそく西エリアにやってきた。


 今日は竜巻が来ないため、魔物がうじゃうじゃしている。

 うじゃうじゃこそしているが、カクレガのモニターで見る限りは落ち着いている。

 パーンライゼ区域やハムポチョムキキ平野を思い出す。大型の魔物はいないのでかなり地味なエリアだ。

 とりわけ大きな混乱も変化も見られない。


 イベントも五日目にもなり、一日の流れがわかってくる。

 おそらく一日に何度か、どこかのエリアで何かしらのイベントが発生する。


 三日目は西エリアに隕石が落ちた。

 さらに北エリアにてタイムマシンが出現した。


 四日目は貧困街エリアから東エリアにかけてセリーダ似の女性が現れた。


 一日目はあるかどうかわからない。

 イベントの開始そのものが何かしらのイベントとも考えられる。


 二日目は見逃している可能性が高い。

 もちろんこれは一日目にもあり得る話だ。


 今回のイベントで各エリアに人員が配置できるのは、イベントを発生させるための条件だからではないかと木村は考えている。

 あるいは条件ではないにせよ、発生した場合には観測するためには誰かしらの存在がいる。

 異世界では単純に木村たちがいれば発生する場合もあるだろう。

 いなくても発生するなら見逃すだけだ。


 イベントの見逃しを防ぐためにも各エリアに誰かを配置することは重要である。

 そのため今日は配置できるエリアにそれぞれ人員をおいた。


 南にゾル、北にはテュッポ、貧困街はシエイ、広場はフルゴウルである。

 西エリアにはリコリスかトリキルティスをおく予定だった。


「どこに行ったんだろう」


 西エリアの配置を決める前に、宇宙生命体と会って話をしたかった。

 しかしながら、その宇宙生命体がなかなか見つからない。


 二足歩行の犬型なので、目立ってすぐ見つけられると思っていたが、それらしき姿はない。


「地下に潜ったのかな?」


 宿主を犬から別の魔物に変えた可能性がある。

 水銀エリアのように、地下に潜れば避難することもできる。

 犬の魔物からミミズのような魔物に切り替えれば地下に避難できるだろう。


 フルゴウルを広場においてきたのは失敗だった。見つけることができない。

 ウィルも寝ていていない。起こすのも気が引ける。


「モルモーさんに頼んでみよう」


 彼女は竜巻が負けたのを見届け、朝飯を食べに行ってしまった。

 今ならまだ食堂にいるかもしれない。


 ブリッジを出て、食堂にいけば「ちょうど食べて出たところ」とリン・リーは話す。

 木村も慌てて食堂を出て、彼女の部屋に向かう。階段を上がったところでちょうどモルモーに追いついた。


「モルモーさん」


 モルモーは木村に声をかけられ、振り返ることもなく早足で逃げた。

 木村は慌てて後を追う。


「モルモーさん。ちょっと、なんで逃げるんですか」

「嫌です」

「まだ何も言ってないです。聞いてください」

「私は宇宙生命体に興味はありませんし、地上のイベントにも関わる気はありません。ましてや派遣員には絶対なりません」


 モルモーは今回のイベントに興味がまったくない。

 基本的に怠惰で、上司からも参加無用と太鼓判もあり、人死にもない。彼女は一かゼロしかないのである。

 アコニトとも似ているが、彼女は一とゼロに加えてマイナス一があり、三種類ある点で違う。


「いや、派遣するつもりはないです。宇宙生命体を探してもらいたいんです。姿が見えないのでお手上げなんですよ。ほら、リラクゼーションチケットもありますから」

「不要です。いつもそれで何かがしてもらえると思ったら大間違いですよ」


 彼女も疲れている時はリラクゼーションに行きたがるが、そもそも最近は働いてないので疲れていない。

 この提案を拒否される可能性は木村も考えていた。


「いいですか。従来の方法に頼りきるのではなく、新しい手法を探し求めることも大切です。特にあなたは今後も未知の壁にぶつかることが多いでしょう。小さな試練からコツコツと達成することが大きな試練を乗り越える際には必要です。今後のためと思って、今日は新たな手法を模索することに励んでください。それでは」


 こういうときばかり含蓄がありそうな言葉を並べてくる。さすがカクレガ三大老の一角である。

 その彼女の背中に木村は声をかけた。


「そういえば、昨日、クロエさんからもらった新たなお菓子の試作品があるのですが、モルモーさんはお菓子が嫌いではありませんよね。今回は甘さを控えめにしたもののようです。食後のデザートにも良いかと。お茶にも合います」

「なるほど、それは新しい。今までとは違うアプローチです。成長していますね。私の期待した成長とは方向性が違いますが、まあ、良いでしょう。今回はそれで手を打ちましょう」


 その後もモルモーはぶつぶつと小言を吐いていたが、木村ははいはいと頷く。

 彼にすれば時間も労力も少なく、同じ結果が手に入るのであれば手段にさほどこだわりはない。

 既存のもので解決できるならそれにこしたことはないのである。



 お菓子を口にしたモルモーの横で木村は結果を待った。


「――西エリアにはいませんね」

「え?」

「どこかに行ってます」

「地面の中とかではなくて?」

「それくらいなら探せます。間違いなく西にはいません」

「では、どこに?」


 尋ねてはみたが、木村も理解しつつあった。

 今回のエリア破壊戦には、亡霊達に一定のルールが課されている。

 朝の6時に復活して各エリアに戻されるとか、木村たちの攻撃は受けないが亡霊同士の攻撃は受けるとかだ。

 そのルールの中でも七エリア内は移動できるがエリア外には移動できないというものがある。

 もっと言えば、亡霊の発動した魔法さえエリアの外にはたどりつくことはない。


 七エリアの外に移動できず、西エリアにいないのなら必然的に他のエリアとなる。

 北と南は何もなく、一番近いのは帝都の三エリア。

 そこには――


「まずい」


 木村にとっては話が通じる超レアな外来宇宙生物だ。

 しかし、ウィルやフルゴウルにとっては話の通じないクリーチャー。


 しかも、二日前に話した時は今の状況はかいつまんで説明しただけ。

 彼(あるいは彼女)は種の生存が目的で遙か星の彼方から、この名も知らぬ星にやってきたのだ。

 そこでいきなり竜巻に遭遇し、ぶっ殺されて翌日には復活する。


 まず間違いなく意味不明な状況の渦中に彼はいる。

 その混沌の状況の中で、彼は生き残るために何をしようとするか。

 知性はあった。それならまずは同じような知能生命体から情報を入手するだろう。


 彼の事情・視点を考慮すればその行為は妥当と言えよう。

 もちろんこれは彼の側に立った場合であり、彼の行為は積極的で勇気ある行動と評価される。

 入手する方法についての言及を無しとすればだが……。


 木村の中に嫌な予感がひしひしと湧き上がっている。

 同時にわずかな安心感が生まれた。最近はこの嫌な予感が外れることが多い。


「――見つけました」


 モルモーが閉じていた目を開いた。

 特に彼女の表情から感情は感じさせない。それが木村に安心感を生んだ。


「王城エリアにいますね」


 木村は久々に言葉を失った。

 最近外れっぱなしの嫌な予感がついに当たった。

 安心感があればあるほど、予感が当たった時のダメージは大きい。


 特定外来生物(宇宙)が王城エリアにいる。

 犬の魔物の姿のまま王城に入ることはまずできない。

 そうなると宿主は犬から別の生命体に乗り換えたと推測される。


 犬や猫なら可愛いものだ。微笑ましいと言える。

 飛龍でもまだ可愛いものだろう。微笑みは消えるだろうが。


 明らかな問題は人を宿主にした場合だ。

 情報量は獣より遙かに多く、人によっては魔法も使えるし、飛龍を駆れる。

 命令一つで多数の人を動かすことだって可能だ。

 なにより宿主はもう助からない。


 おそらく彼は昨日から学習をしていたのだろう。

 自らがどこに行けるか、どこに行けばより多くの情報が得られるか。

 そして彼は青竜と違い、学習の成果を朝一で行動に移した。果断な行動と言える。


 ただ、もしも彼の積極性を逆の立場から見たらどうなるか。

 木村も映画や漫画で見たことがある。一つのジャンルとも言える。



 人、それを侵略と呼ぶ。




 木村はブリッジに戻り、全速力で王城エリアに向かうよう指示を出した。


 同時にメッセからも王城エリアに対して通信を送ってもらう。

 内部にそういった存在が紛れ込んでいることを知っておくことが重要だ。


『返答ありません』


 木村は地団駄を踏む。

 せっかく情報を得て発信しても、聞く耳を持たれなければ意味がない。


「あー、もう!」


 このままだとどうなるだろうか。

 あの宇宙生命体は知性があった。すぐさま殺戮を行うとは考えづらい。

 だが、王城側からすれば侵略者というか侵入者である。乗っ取りだ。気づかれれば戦闘は免れない。


 木村は自らの気持ちが乱れていることに気づいた。

 マップのカクレガアイコンが王城に近づくのを見ながら、深呼吸を一つおこなう。


 今回のイベントの形がまた見えてきたと彼は感じた。

 ルールの一部にあるように、現時点では亡霊同士でしか攻撃は通らない。

 そのためエリア間での争いが求められる。わかっていたことだが青竜がいなくなってよく見えてきた。

 エリア間の攻防戦というよりも侵略戦の要素が大きい。少なくとも東西南北のエリアはその因子を色濃く持っている。


 南は言わずもがな性格も力も侵略そのものだ。

 西はただの生存活動がそのまま侵略行為としてみなされる。

 北は地味だが、他エリアに墓場を作るという点で侵略していると言える。

 東はあの水銀軍団を他エリアにけしかければ力は充分だ。侵略の意思が薄いのが救いである。


 帝都三エリアは侵略エリアには感じない。今は、だが。

 王城は戦力こそあれど中途半端な武力だ。広場や貧困街は力がないに等しい。


 元のイベントはどういったものなのか。

 三エリアを四エリアから防衛するのが目的だったのか。

 しかしながら、時空間の混在を元どおりにする趣旨なので守るのは違うと感じる。


 とりあえずまだ時間はさほど経っていない。

 いきなり城の中で激しい攻防がおこなわれているということはないだろう。


「キィムラァくん、映像を見て」

「……おぅ」


 王城に近づいてきて、ケルピィに声をかけられモニターを見る。

 城から煙が出ている。白煙だ。火が見えないのが唯一の救いだが、さほど救われた気持ちにならない。


「あれ? よく見ると王城からじゃないね」

「……ほんとですね」


 さらに近づいてわかってきた。

 城からではなく、城の周囲から煙が上がっている。

 ますます近づき、王城の丘に赤帽子を被った集団がおしかけていた。

 ほっとしていいのかどうか、木村もわからなかった。


『フルゴウルから連絡。「一部の暴徒と化した集団が城に迫っている」とのこと』

「見たまんまだね」


 いちおう兵士たちは一定のラインを引いた状態で防戦をしている。

 時代こそ違えど帝都市民ということで一方的な市民への攻撃はしない方針らしい。

 今はまだそんなぬるいことを言っているが、帝国旗を燃やす炎が城の一部を燃やせばどうなるかわからない。


 一触即発の状況だ。

 しかも、見えないだけで城の外側だけでなく、宇宙生命体により内側ですら危うい。


 木村に迷いが生まれている。

 王城エリアには刻一刻と近づいているが、王からは立入禁止を厳命されている。

 混乱が起きている今なら、カクレガで地下からこっそり侵入して城の内部を見ることもできそうである。

 できそうではあるが、仮に宇宙生命体を見つけてもカクレガに誘導はできない。こちらはシステム的に立入不可だ。

 宇宙生命体を見つけて、話をつけた後に外へと連れ出す必要がある。


 立入禁止とは言われたが、そんなことを言っている場合なのか。

 宇宙生命体が話し合いで物事を解決すれば良いが、すでに侵略は開始されていると見て良いだろう。

 城の外から警告を告げて、トップに届くまでにどれだけの時間がかかる。


 そもそもトップに届くのか。外側があの状況だ。

 届いたとして手遅れにならないか。そもそも聞いてもらえるかと様々な疑問が木村の頭を巡る。


「……質問があります」


 木村は声にして問いかけた。

 彼の中で答えを出す踏ん切りが付かなかったからだ。


「立ち入りを禁止した相手が、危険を伝えに力づくで入り込んできたらどうしますか?」


 木村は問いかけたが、ケルピィ、メッセ、リコリス、おっさんの誰に問いかけたのかがはっきりしない。

 もしもアコニトがいれば間違いなく彼女に尋ねたがここに彼女はいなかった。

 このメンバーから返ってくる答えは予想がついている。


「わっちは――」


 口を開いたのはリコリスだった。

 予想はしていた。おっさんは無言だろうし、ケルピィは一歩譲っただろう。


『その質問には、あなたの心根が表れています』


 リコリスの言葉を遮って、メッセが告げた。

 被せられたリコリスはメッセをちらりと見て、黙って発言を譲る。


『危険を告げにくることと、立入の禁止を破ったことは別の話でしょう。警告は聞く。しかし立ち入ったのなら当然として敵対あるのみです。第一に、立入禁止の厳令は『もう我々に関わるな』という彼らの意思表示と自分は考えています。実際に入り込むことだけでなく、今までにおこなっていた警告もすでに厳令に抵触しています。――あなたが欲しかったのは擁護の言葉でしょうか? 「危険を告げに来たのだから、入ってもきっと許してもらえるよ」といったような。甘えないでください』


 言葉だけでなく、メッセの視線も木村を非難している。

 木村も優しい言葉は期待していなかったが、ここまでばっさり言われるとかえって決心が付く。


「いや、このメンバーに擁護の言葉は期待してない。むしろはっきり言ってもらえてよかった。カンフル剤になった。ありがとう」

『カンフ……? どういたしまして』


 木村は息を吐いた。

 メッセは基本的に木村に当たりが強い。

 カクレガに関する仕事以外では木村に関わろうともしない。


 ある意味で出会った当初からの姿勢が一貫している。

 彼は彼女のぶれなさが嫌いではなかった。むしろ好ましさすら感じている。彼にはないものだ。


「王城に乗り込んで、宇宙生命体を王城から引き離すすればどういった戦法が考えられますか?」

「パッと思いつくのは外と内で分かれることだね。陽動と侵入だ。陽動は王城の外で派手に暴れて城内部の兵士を外におびき寄せる。侵入は宇宙生命体を見つけて、城の外部に連れ出す」


 ケルピィが即座に案を出した。

 リコリスも頷き、肉付けをしていく。


「わっちが外で暴れよう。前回の印象もあるからね。効果はある。内側はトリキルと若造に任せるんだね」


 外側のリコリスは適任だろう。

 ウィルがいるのは宇宙生命体を感知できる人員だからだ。

 それにトリキルティスは力と速さで宇宙生命体を外に飛んで連れ出す役目になる。


「立入を禁止されただろ。本当に入っていいのかい?」


 リコリスがジト目で木村を見る。これは試している目線だ。

 木村もその点に関しては悩んだところだ。


 彼ら自身で解決できる可能性がなくはない。

 なんなら宇宙生命体がうまく立ち回り、何事も起きない可能性だってある。


 それなら木村たちの介入は、完全に余計なお世話だ。


「かまいません。もう諦めました。セリーダを彼らにどうにかして欲しかったのですが、彼らには無理です。周囲の状況も悪すぎます」


 セリーダに王たちの格好良いところを見せて、納得して消えて欲しかった。

 しかし、あまりにも状況が悪い。竜巻、水銀、リッチ、宇宙生命体と取り巻く環境が前提を大幅に超えた。


「この状況を彼らだけで解決できるなら、そもそも彼らは死んでいません。討滅クエストの竜だってうまく捌けています。現状でいけばセリーダが帝都の崩壊を見ることは請け合いです。なんなら彼らと一緒に自殺もあり得ます。しかも、セリーダだけが死んでも復活する、そうだよね」

「生き返るぞ」


 そうなるくらいなら、と木村は続ける。


「もう静観はやめます。徹底的に介入する踏ん切りが付きました。僕たちの介入により彼らの立ち位置を良くします。そのためなら彼らに敵対されて憎まれてもかまいません。王達も、他の勢力も、まだ姿を見せない博士か助手だって利用できそうなら徹底的に利用します。セリーダが立ち直れるなら全て良し。今回のイベントの最終目標はこれのみです」


 リコリスが黙って木村を見つめている。

 言い切りはしたが、この沈黙の視線が木村は苦手だ。

 間違ったことを言ったかもしれない。何かをきついことを言われるかもしれない。

 不安は数多くある。それでも木村はリコリスの目から逃げずに見つめ返した。これはやると決めたのだ。引き返すつもりはない。


「言葉が多いのは良くないね。やりたいなら『やる』とだけ言って実行に移せばいいんだ。……でも、迷いがなかったのはあんたにしては良かったんじゃないか」


 気になる言い方だが、木村はほっと息を吐いた。


「ケルピィさんの先ほどの案を採用します。現地での行動に関しては陽動のリコリスさんと侵入のトリキルティスさんに任せます。リコリスさんはトリキルティスさんとウィルを起こしてきてもらえますか。ケルピィさんはより具体的なプランの詳細を練ってください。メッセはフルゴウルさんとリッチさんに作戦概要を伝えて」


 三者三様の返答があった。

 木村も彼らが動き出してからモニターを見た。



 白煙と黒煙が混ざりつつある王城がどうにも頼りなさそうであった。


 今にも崩れ落ちそうなほどに……。

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