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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅷ章.レベル71~80
126/138

126.イベント「Happy unbirthday eve」3

 水銀の軍団が西へと向かっている。


 木村たちもカクレガに入って追うが、軍団の動きは見た目よりもずっと速い。

 何らかの移動速度上昇魔法がかかっていることは確実だった。


「実際のところ、あの人たちは強いの?」


 普通に強いのは木村でもわかる。カクレガの位置も見破っていた。

 しかし、今回の場合は普通に強いだけでは駄目だ。それならリコリスで良い。

 リコリスでも破れない青竜の巨大竜巻を打ち破れるほど、あの水銀軍団が強いかどうかが肝要である。

 勇んで西進していったが、これであっさり竜巻に負けたら、今後の異世界生活で笑い話の鉄板になることは疑いない。


 水銀の兵士一人一人が元の人間であった人格と力を保持しているということは木村も聞いた。

 ついでに、素材である水銀の特性も受け継いでいるとも聞いた。つまるところそれだけ。

 元になった人間たちがそこそこ強いだけでは意味がない。

 なるほど水銀で兵士を作り出す力はレアに違いない。

 されど彼らが強いかどうかは微妙ではないか。


「何とも言えないね」


 リコリスの返答は素っ気ない。

 戦力判断については慎重なタチなのだ。

 彼女もさほど彼女自身が強いとは考えていない。

 自身に何ができて、何ができないかを他者よりよく知っている。

 自身にできないことをどう術でカバーしていくかを長年考え、実践してきたのが今の彼女の姿である。


 こういう場面で一番口が動くウィルは、そのリコリスに腹パンを決められて悶絶している。

 地上での軽率な行動に対するお叱りという名のしごきであった。魔力量で判断するなと言われたのに、あの緊迫した場面で、あの緊張感を欠いた発言はあまりにも愚かすぎてリコリスも口で叱る気も失せていた。


「私は戦いになると思うね」


 ウィルの代わりにフルゴウルが水銀軍団を支持した。


「その心は?」

「彼女たちが竜巻に負けることがないからだよ」


 木村はフルゴウルの言う意味がいまいちわからない。

 勝てるかどうかではなく、負けがあるかどうかの話になってしまった。


「先にも触れたが、彼女たちは水銀から作られ、水銀の特徴を受け継いでいる。君も見たように姿を自由自在に変えていたね」


 木村もさすがに覚えている。

 地面から出た時は液体で、地上に出ても鳥や人、武器と自由に姿を変えていた。


「見たところ各個体に一定の体積を与えていたようだが、彼女たちは統合や分離もできるようだった。仮に竜巻でちりぢりにされたとしても彼女たちは死なない。水銀自体が消えない限りはまた集まって個体に戻る」


 木村も理解できてきた。

 規模こそ恐ろしいが、巨大竜巻はあくまで巻き上げて落とすだけ。

 巻き上げも自由落下も水銀をばらばらにするだけで、存在そのものに対するダメージはないということだ。

 もちろんバラバラにされるはずなので再生に時間はかかるだろうが、負けはないということになる。


「そうか。水銀軍団の作成者は地下にいるわけで、本体が無事だから駒の軍団はコンテニューし放題」


 自律軍団がずっと戦い続ける。

 竜巻が地下を脅かさない限り負けはない。

 しかし、巨大竜巻でちりぢりにされるので勝ちもない。


「竜巻で巻き上げられた後は空に出る。意識は曖昧だが見た気がする。綺麗だったよ」


 リコリスも同じことを言っていた。

 竜巻の頂上まで巻き上げられて、空を飛び、遙か先の地上に落とされる。

 巻き上げられた時点で風速と遠心力、巻き込まれた他の物との衝突で意識がほぼ飛ぶようだ。


「あの竜巻は普通の生命体には脅威だ。巻き込まれた時点で上下左右の感覚を奪われる。気づけば遙か空の上。落下に抵抗をする力すらも残されていない。しかし、今回は水銀という流動的な生命体だ。さらに彼女たちの兵士は飛んでいたね」

「あっ、たしかに」


 木村も思い出す。

 水銀で比重が重いのに、すごい軽快に飛ぶと感じた。

 遙か上空まで竜巻の背はあるが、宇宙までは到底届かない。もしもその上空から攻撃が可能だとすれば――。


「始まるね。見ておこう」


 水銀の軍団は王城の丘を横切り、竜巻へと迫っていた。



 竜巻が近づき、王城を守る騎竜兵が今日も無駄な特攻を見せる。


 城付きの魔法師達が竜巻にいくつも魔法を放つが焼け石に水ですらない。

 土埃のベールを剥がすことすらできず、魔法はかき消されていく。


 すでにイベントも四日目。

 三度も王や城を守ることができない自らの力に彼らは絶望していた。

 さらに言及するなら、生前は討滅クエストの竜からも王都を守ることはできていない。


 そんな彼らの絶望など露知らず、銀色の軍団が丘の麓を進軍する。

 銀色の軍団は丘の上を一顧することもなく、竜巻へと迷いなく突き進んでいく。


 眼前に迫った巨大竜巻――もはや壁に銀色の軍団はぶつかった。

 軍団と言えど、竜巻と比べれば規模などささやかなものだ。


 木村もあっけなく感じた。

 まるでテレビショッピングに出てくる掃除機の宣伝だ。

 「ほら見て! うっかり床にこぼしてしまった水銀もこのとおり!」と男の声が聞こえてくるようである。

 ついでに「わぁ、すごーい!」と演技めいた女の合いの手だって聞こえる。


 水銀はあっという間に竜巻に巻き取られた。

 地上には何一つ残らない。竜巻の外面にすら銀色の痕跡はまるで見えない。

 あの竜巻の風の層はいったいどれだけ厚いのかと木村も怖くなる。フルゴウルの話を事前に聞いてはいたが、本当にどうにかできるのか不安になってきた。


「少し近づきすぎたね」


 フルゴウルが見上げている。その方角は竜巻の上方だ。

 ときどきフルゴウルはカクレガの壁の先すらも見通して、天井を見るのだが木村はその仕草が割と好きである。

 猫も何もないはずの天井を見つめることがあると聞いている。きっとこんな感じなのだろうと考えていた。


 果たして竜巻は、カクレガのモニターからは完全に壁のような状態になっている。

 仰角が足りていない。竜巻の上がどうなってるかわからない。仮に見えていても、雲が邪魔をしているのでモニターでは様子が確認できなかった。


「巻き上げられた水銀が上空で集まっている」


 彼女の視線の先では水銀が集まっていた。

 竜巻の上のさらに雲の上に水銀は結集している。


 木村たちの前に現れた女性が浮かぶ水銀の端に立ち、眼下に広がる雲海を見下ろしていた。

 全ての水銀が巻き上げられ、上空に集い、その位置は青竜の真上にあった。


「蜥蜴は地を這うものです。落としなさい」


 足で踏んでいた水銀が形を変える。

 初めは雫のようだった。余談だが、ときどき雨のイメージ絵で綺麗な雫型が見られる。!の上部分をひっくり返したものだ。

 あれは間違っている。雨の雫の下部分は空気の抵抗で平べったくなっている。まんじゅう型とか言われる。


 形を変える水銀の先端はイメージの雫でも、雨粒のまんじゅう型でもない。

 槍の先端のように尖鋭としていた。下向きの鏃となり、刺さったら抜けないよう逆鉤すら付いている。

 槍にも属性の付与がされている。貫通力を高めるべく、幾十にも張り巡らされていた。


 水銀の女が指を上から下に振る。

 足下にあった水銀は落下を始めた。自由落下ではなく初速も付いている。


 水銀の槍はまず雲を貫いた。

 上方向への風を槍の周囲に展開した風魔法が相殺し、勢いを落とすことなく、むしろいや増して鉛直下向きに突き進む。


「――あ?」


 上空からの飛来に気づき、見上げた青竜の最期の言葉はこれだけだった。

 次の瞬間には槍が青竜の頭を貫き、胴体まで達した。


 続いて水銀の槍は青竜の体内で形を変える。

 無数の槍となって内部から外側へと貫く、さらに内側の開いたスペースから魔法を発動し、内部を破壊する。



 木村たちも竜巻に変化が起きたのを確認した。

 周囲の竜巻が外側に広がるように霧散していき、青竜本体のいる竜巻も砂埃が上空へと広がっていった。


 黒茶色のスクリーンが徐々に薄れ、とうとう内部にいた青竜が現れる。

 大きさは思っていたよりも小さい。討滅クエストの竜よりもやや大きいくらいだ。

 木村の外形は一般的に考える竜のフォルムに一番近い。ゲームでもいそうだ。

 六本の青く光る翼に、手や足には鋭く太い爪が付いている。


「わぁ……」


 蜥蜴らしき頭部には縦長の穴があき、胴体からは銀色の細い棒が無数に突き出ていた。

 羽に灯っていた青い光が明滅して一枚ずつ消えていく。

 青竜はまさに今、死にゆくところだった。


 空を飛ぶこともできず、地に落ちていき、地に達するまでにその体は光へと消えていく。

 地上には水銀の軍団が降り立ち、青竜を見ることなく歩を東に進める。


「いやぁ、強いねぇ。同じ時代に生まれなくて良かったよ」

「強すぎませんか」


 ケルピィの声に木村も反応する。

 戦いになるかどうかを議論していたが戦いにならなかった。

 一部始終を直視していたわけではないが、水銀軍団の圧勝と言って良いだろう。


「使っている術で特殊なものはなかった。せいぜい浮遊くらいかね。基本に忠実に、連携を第一に、集団として良く訓練されてるよ」


 リコリスは感心した様子で頷いている。

 彼女のいた国では、神として個の強さを求められていた。

 しかし水銀の軍団の戦い方は個の強さとは方向性が違った。集団としての強さである。


「わっちらにはない戦い方だ。参考になるね。特訓のメニューに入れようか」


 トリキルティスが大きな目をさらに見開いてリコリスを見た。

 どうやって特訓から逃げるか、師の考えを変えさせようか考えているに違いないと木村は見ている。


「城に向かってる」


 水銀の軍団の次なる矛先は王城だった。

 西進と比べればややゆったりとした速度で丘を登っていく。


「嫌な予感が……」


 セリーダ関係だ。

 指揮官の女性が執着していた。絶対にただならぬ関係がある。

 木村も行って様子を見たいのだが、立入禁止を告げられているので二の足を踏んでしまう。


「入っていったね」


 軍団が案内されて入っていく。


 迷ってうだうだとしているうちに水銀の女性たちが外に出てきた。

 外見から判断するに特に大きな変化はない。セリーダも連れ出されているわけではない。

 木村の嫌な予感は外れた。最近は良く外れるのであまり当てにしていない。


 王城のゲージに変化は見えない。

 ミリで変わったと言われればそうかもしれない。

 むしろ東エリアのゲージがはっきりとわかるほど減っている。

 ケルピィが言うには水銀軍団が動いたところでゲージが減ったようだ。

 前回も水銀が竜巻に巻き込まれたとき、もしくは竜巻が来て地下に避難した時に減っていた。

 水銀軍団の作成者が軍団を動かすことで、ダメージを負っていると推測ができる。自己犠牲型の魔法なのかもしれないと木村は考えた。


 ゲージの減少で言えば、貧困街エリアが一番大きい。

 四日目の開始時にすでに40%で今は25%くらいだ。やはりエリアボスはあの特殊能力者で間違いなさそうだ。

 20%にならず25%と残っているのは貧困街エリアが彼以外は無事に残っているからだろうか。

 西エリアは竜巻に蹂躙され20%まるごと減っている。


 けっきょく水銀軍団は城を出た後は丘を下り、そのまま東へと消え去っていった。

 途中で女性がカクレガをチラリと見たので気づいてはいたが、すでに興味は失われているようである。


「リッチくんに話はしておくべきかな」

「……あ、そうですね」


 木村も忘れていた。

 貧困街でセリーダ似の人物を追い始めてから、一気に状況が進展したのでリッチが置き去りになっている。


 説明もかねて貧困街エリアへ行くことになった。



 イベントが始まってから昼に帝都エリアが無事なのは今日が初めてだ。


 広場エリア付近では赤帽子の謎集団が活動しているが、普通に他の市民も生活していた。

 もちろん市民は亡霊で、昨日までの記憶はあるようだが、特に何かができることはない。謎の活動で不安を紛らわしているようにも見える。


 貧困街エリアは特殊能力者の男を失ったが、他が消えることもなく相変わらず生きているのか死んでいるのかわからない。

 広場エリアのような活発な活動はなく、途中ですれ違う人たちは木村たちに目もくれない。


 その中にリッチはいた。

 彼も木村たちに気づき声をかけてくる。


「見ていた。事情は知らないが倒したようだな」

「はい」


 木村も見たことと聞いたことを説明した。

 リッチも黙って聞いている。


「よくわからんな」


 けっきょくのところ、なぜかわからないけど東の軍団は手伝ってくれたということだ。

 明日も竜巻を止めるために手を貸してくれるかは不明である。

 今は東に戻って地中に消え去った。


「あの水銀の軍勢が恐ろしく強いことはよくわかった。まったく、この地は魔窟か」


 南も化物、東も化物、西には宇宙生命体、地下には暴力鬼婆と魔窟に間違いない。

 怖れを感じさせる言葉とは裏腹にリッチの顔は不敵である。


「魔窟と言う割りに楽しそうですが」

「楽しいな」

「楽しい? この状況がですか?」

「ああ。ともに戦ってきた仲間はおらず、頼りになる助言者もいない。周囲には戦うことすら憚られるほどの難敵ばかり。なるほど、これは久々の逆境だ。――俺達はな。元の時代では頂点間近だったのだ。ただ、その近くて遠い頂に至る道のりがわからなかったが、ようやくその過程が見えた気がする。この局面を乗り切ることができれば俺は……、俺達はさらなる高みに達することができる。試練の時だ。きつい、が、心は躍るな」

「はぁ、そんなものですか」


 木村とはまったく思考が違う。

 楽してそこそこにやれれば良いと思ってるのが彼だ。

 わざわざきつい思いをして上に行く気はない。今をときめくZ世代の賜物だ。


「それより何をしているんです?」

「見てわかるだろ。霊園を作っている」


 リッチが魔法で作った石を、近くにいた骸骨が器用に並べていた。

 墓を作っているのはわかるが、なぜ墓を作っているのかが木村の知りたいところだ。

 墓地を増やすなら北エリアに増やせばいい。どうしてわざわざ貧困街エリアに作るのか。お前ら早く死ねという無言のメッセージか。


「北エリアでは駄目なんですか。こちらは転移用だけにとどめて……」

「北よりもこちらの方が馴染みやすいのだ。ここは半年ほど前まで都で、滅亡の際に多くの人が亡くなったのだろう。すでに墓地の素地ができている。見ろ。ここだけで骸骨がこれだけ湧いたのだぞ。霊体もだ。みな安穏な寝所を求めているのだろう」


 嫌な話を聞いたと木村は感じた。

 ある種の専門家が、帝都自体が墓地として認識されやすいと言う。

 実際に骸骨が北エリアよりもたくさん湧いている。それどころかふわふわと霊体までいる。

 霊体は冥府のランパスと似ているが、フルゴウルが言うにはまったく別物のようだ。

 こちらは本当に浮いているだけで実体になって襲いかかってこない。


「今日はどうにかなったが明日もどうにかなるかはわからん。戦力は増やすに越したことはない。どうせ増やすなら効率よく増やせるところで増やすべきだ」


 木村も効率という言葉には弱い。

 その上、リッチの言葉はそのとおりである。

 水銀の軍団が明日も動く確証はない。戦力は多い方が良い。

 青竜の倒し方の例は見せてもらった。まったく同じ事ができなくても似たようなことができれば倒しうる。

 その際にキーマンとなるのはこのリッチだろう。前回は竜巻内部だったが、上空へと転移し、そこから迅速に直下の青竜へと攻撃を加える。


「何か手伝うことはありますか?」

「男の理屈っぽい優秀な魔法使いがいただろう。あいつでなくても良いのだが、土魔法が使える奴を貸してくれ。労力は骸骨で足りているのだが、墓石と縁石がまるで足りていない。俺も石を整えるのは得意だが、大量に作製するのは得意ではないからな」


 北の霊園も縁石代わりに骨を刺していた。

 木村としてもアレをここでやられるのは心理的にとてつもなく嫌だ。

 それと石を整えるのが得意とリッチは言うが、魔法でつくり出された墓石は形が歪で得意にはまったく見えない。

 何にせよ、手を貸す必要があるのは間違いない。ウィルを派遣することにする。


「それと、都の他のエリアにも霊園を築かせてもらうよう話をしてみてくれ」

「……はあ。それはまあ、やってみます」


 本格的に帝都に墓地を築くようだ。

 木村としてもリッチが戦力を増すことは望むところである。

 それに広場エリアのこともフルゴウルから聞いているので見に行ってみたい気持ちもあった。


「広場エリアの方に行ってみます。あ、王城エリアは無理ですよ。僕たちは立入禁止を食らっていますので」


 東の水銀軍団の件もあるので、破って訪問してみても良いのだが結果が良くなるはずもない。

 藪をつつくこともなく、まずは広場エリアの方で話をしてみることにする。


 一つずつ着実に物事を進めていくことも重要だ。




 そんなわけで広場エリアにやってきた。


 広場エリアといっても王城エリアと貧困エリアは帝都のごく一部なので、ほぼほぼ帝都エリア一帯を占めている。

 特に広場で活動していることが多いので広場エリアと呼んでいるにすぎない。


 その中でフルゴウルが以前に接触を図ったのがギャンダーという男性だ。

 赤帽子を被る謎の活動のリーダーだと聞いている。


「先に言っておくが、キィムラァ君とは間違いなく相性が悪いよ。私は嫌いではないがね」


 そんなわけで活動団体のアジトにつれてもらってきた。

 実際にはアジトはいくつもあるようで、その中の一つに何度も回り道をしながらたどりついたというのが実状だ。

 こちらも目立ちすぎるといけないということで木村に、フルゴウルとおっさんだけだ。

 木村はともかくフルゴウルとおっさんだけで十分目立つ。


「やあ! 会いたかった! 君たちがフルゴウル氏の友人だね! 聞いてはいるだろうが改めて、私はギャンダー。赤帽子運動のリーダーをしているものだ」


 背が高くがっしりした体格の西洋系男性はそれだけで迫力がある。

 おっさんとは違う威圧感が全身から出ている。


 出された右手を木村が握ると、ギャンダーもガシッと掴んでくる。

 しかもその手がなかなか離れない。木村が何だろうとギャンダーの顔を見れば彼は涙ぐんでいた。


「感動した!」


 声がでかい。ペイラーフもかくやだ。

 しかもギャンダーのツバが木村の顔にかかってくる。


「あの巨大竜巻を倒したのは君たちの活躍によるものなんだろう!」

「いや、あれは、」

「私にはわかる。君たちの力の素晴らしさ、それは団結の力だ! 団結があの竜巻を討ち破った!」

「いや、」

「みなまで言うことはない。私たちも勇気づけられたんだ! 活動を再開することができる! これは天啓だ!」

「あの」

「みんな、彼らの成果に盛大な感謝を!」


 周囲にいた亡霊達の拍手が木村たちを包む。

 木村はもう帰りたくなってきた。


「君たちが一緒に活動してくれれば、私たちの正義もより広く伝わり結束も強まるだろう」

「僕」

「さあ、今日も活動にいそしもう! 待っているからね! 行くぞ!」


 オー! というかけ声で彼らは外に出て行った。

 部屋には木村たちだけが残る。


「話が通じませんね」

「だろうね」


 フルゴウルはにこやかである。

 会話の成り行きを楽しんでいたようだ。


「けっきょく赤帽子活動についても聞けませんでした」


 木村は、フルゴウルにリーダーから直接聞いてみれば良いと言われていた。

 今ので木村も何となくわかった。


「実はフルゴウルさんも聞けていないのでは?」

「そうだよ」


 やっぱりと木村も頷く。


「言っておくけれど、他の人物からすでに活動の目的は聞いている」

「そうだったんですか。それで目的はどうなんです?」

「知らなくても良いことだね。空虚で薄っぺらい目的だったよ」


 それってどうなの、と木村も首をかしげる。

 とにかくギャンダーは気持ちと主張が前に出すぎている。


「ギャンダーさんは、リッチさんとは話が合いそうですね」


 体育会系と体育会系だ。

 深く考えず勢いでどうにかなると思っていそうな人種同士だ。


「合わないね」

「え、ポジティブなところが似てませんか?」

「目的を持っていて、活発な行動をして、強固な意志を持ち、苦境を楽しみ、自らの力に対する曖昧な理解――確かに似ているね」


 木村が言おうとした項目をフルゴウルが倍以上にして言ってくれた。

 彼が言おうとしたのは目的と活動くらいだ。


「同族嫌悪ということですか?」

「別物だよ。同族ではない。一つ相違を挙げるとして、リッチ君は人の話に耳を傾ける点で大きく違う」

「それは、まあ、たしかに」


 あのリッチは人の話をかなり聞く。

 きちんと聞いた上で是非や賛否を述べる。


「リッチ君は自己主張が激しいのだが、押しつけがましくはない。彼だけで完結している印象がある」

「そうですね。『お前たちがどう考えているかは知らんが、俺はこう思っている。だから俺はこうする』ってのが多いです」

「そう。一方で彼らは『私たちはこう思っている。だから、あなたたちも同じ事を思い、同じ行動をすべき』だ。これが根底にあるため、彼らは人の話をまったく聞かない」


 フルゴウルの言うとおり木村はギャンダーが苦手だった。

 思っていることを押しつけ。人の話を聞かない。


「まるで宗教だ」

「それは宗教をあまりにも広く捉えすぎているね。キィムラァ君の言いたいところはカルトだろう」

「そう、なのかも?」


 無宗教の人間からすると、カルトと宗教者はほぼほぼ同義である。

 どちらも「何かを深く信じている人たちの集団」で言い表されてしまうからだ。


「フルゴウルさんは彼らのような人たちは、その、嫌いではないんですよね」

「そうだね。扱いやすくて便利だ。彼らのような人たちを扇動したことがあるから知っているのだが、彼らは目的を手段で正当化するから派手にパフォーマンスをしてもらいたいときには使い勝手が良い。立場上都合の悪い人物に当てる時の片道切符としても使い捨てることができる」

「あぁ、そっち側の」


 そういえばこういう人だったと木村も思い出す。

 道具扱いだ、と考えたところで木村もこの話がどこに向かっているのか感づいた。


「……あの、もしかして、これって彼らを利用している人がいるって話ですか?」

「ようやくわかってくれたね。ギャンダーはリーダーだが黒幕ではない。操るにはちょうど良い駒だろう。彼らに空っぽな目的を植え付け、何事かを為そうとしている人物がどこかにいる」


 他の人が言えば、そうかもしれないねと思う程度だっただろう。

 しかし、今回は過去に同じことをしでかした人物が言うので説得力がある。あくまで説得力のレベルだ。


「その……、説得力はすごいあるんですが、本当に黒幕なんているんですか?」

「証明は簡単だ。このエリアは赤帽子活動が主というのは君も認めるところだろう」

「はい。それはそうでしょう」

「それならこのエリアの、君が言うボスにあたる存在は誰になるかな?」

「それはギャンダー……、あのもしかしてですけれど」

「ああ。倒してみると良い。きっとゲージは減らないよ」


 亡霊なので倒しづらいが、あの程度の亡霊であれば空に打ち上げて落下ダメージで倒せる。

 しかし、これは極めて非人道的な証明方法と言わざるを得ない。

 フルゴウルはわかって言っている。


「倒すのはちょっと。得意の魔眼で判断はできないんですか?」

「今のところできない。ギャンダー氏に魔法的な光はない。見える範囲で観察してもおかしな人物はいない。ここのボスは魔法を使わないのではないだろうか」


 魔法を使わないからフルゴウルもウィルもわからない。

 頭脳と言葉でギャンダーらを操る奴がいる。ある意味ですごい人物ではある。


「モルモーさんに頼んでみますか」

「それが良いだろうね」


 読心はモルモーの得意技だ。

 あっという間に誰が黒幕かを当ててみせるだろう。

 しかし、亡霊には魔法が通じづらいので読心も通じるかは怪しいところである。


「ところで黒幕を見つけてどうするのかな?」

「え、それは……あれ?」


 フルゴウルから唐突に疑問を突きつけられた。

 あまりにもシンプルな疑問だというのに、木村は答えが出てこない。


 広場エリアには姿を見せない黒幕がおそらくいる。

 その黒幕を見つけてどうするか? 特定できて満足するだけである。


「うん。今回の目的から逸れているよ」


 そもそも木村がここに来た目的は別にあった。

 墓場を作って良いか尋ねに来たのだ。


 どうしてこんな話にしてしまったのかフルゴウルを責めかけたが、そもそもギャンダーがリッチと似ているなんて脇道に逸らしたのが自分だと木村も気づいた。

 回り道をしつつ本来の目的を思いだし、木村はギャンダーたちを追う。



 ギャンダーに追いつき、墓場を作る意図を説明すると、情熱を持って感心され、あっさりと彼の許可を得た。

 対価として謎の活動に参加して注目を浴びることになったが、それも一瞬なので大したことはない。


 けっきょく黒幕がいようがいまいが、今はどうでも良いということで広場エリアから去った。




 その後も大きな動きはない。


 木村は四日目のゲージの変化を振り返る。


★四日目のゲージ変化と概要

王城:40%⇒39% 青竜の竜巻により兵士が一部死亡。

広場:40%⇒39% 青竜の竜巻による飛来物で住居が一部倒壊

貧困:40%⇒25% 水銀女性の攻撃により特殊能力者が死亡

北墓:3%⇒15% 墓場の拡大。マミーと霊魂が増えた

東銀:95%⇒90% 水銀を消費して部隊を移動

南竜:100%⇒80% あっさりやられる

西緑:80%⇒60% 青竜の竜巻により壊滅



 ようやく帝都エリアの減少が止まった。

 貧困は減っているが、あそこは最悪なくなってもかまわない。

 明日――五日目の注目はやはり東の水銀軍団が南の竜巻に対処するかどうかだろう。


 北エリアのゲージが増えていることも注目だ。

 本当に墓場が増えれば増えるほどゲージが増している。

 100%になるといったいどうなるのか不安にもなってしまうくらいである。



 明日は西エリアの宇宙生命体と話をしてみたいと思いつつ四日目を終えた。

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